台頭する若い武将
この暗通路が何を意味しているものなのか、彼らは知る必要があった。とても自分達が置かれている現状は、不可解なのだ。抜論が言う所のその謎を解く鍵こそ、この黒魔が出現して来た黒魔通路と勝手に名付けたのだが、この探索の目的である。
何故か、この黒い魔物を食ったほぼ全員が、今までとは違う体からふつふつと沸き上がるエネルギーのようなものを感じた。彼らは確かに魔人に食われ、食って来ていた。その度に自分達の身体能力が上がっている事に、何か気づきながらもその意味が分かる筈も無いものの、漲るのは気力も共にであった。強敵を倒したと言う征服欲、達成感もあるのだと思う。それを自信と言う。燕尾はだが、こう言った。
「閲呉、抜燐師から、言われていたんだけど、勝った事は自信になる。けど、そう言う時こそ油断を怠るなと」
「お・・う。俺もそう皆に言おうと思っていた所だ。流石に燕尾、お前はこれから常に俺の傍に居ろ、良いな?」
「う・・ん」
燕尾は猪突猛進型の猛将でもある閲呉だが、少し頼もしさも感じた瞬間だった。と・・言うよりも、恋?この集団では一夫一婦制がずっと貫かれていた。添い遂げたからには片方が死ぬまで一緒なのだ。離縁などと言うものは無い。まあ・・そんな複雑な生活集団の掟も無いし、そこに縛られる諍いなども皆無に近かったので、自分が選んだ相手とOKサインが出た瞬間に、それはもう夫婦なのだ。つまり、この行軍の中で、閲呉は燕尾にプロポーズを行った訳であり、彼女は受け入れたのである。もう誰もが燕尾にはアタック出来なくなったと言う事でもあった。結構今で言う美形で、賢い燕尾はモテ女であった訳だ。しかし、閲呉程の男に適う者も居なかった。ここは横恋慕を、シャットアウトした形になった。
そして、進んだ。恐ろしくこの通路?洞窟?は長く、暗かった。
「もう、予備の燃やす桧葉が無い。今回は引き返そう」
饗場は、そう告げた。確かに先は見えないし、まだあの黒魔物が居るかも知れない。それにあの卵を見ても、この通路内にはまだどこかに潜んでいるのかも知れないし。
「饗場!お前が殿を勤めろ。今回はここで断念しよう。次はもっと桧葉も用意しなきゃなあ」
そして、閲呉は決断も早かった。明かりが無ければ、暗闇で襲われればどうしようもない。やはりこの閲呉は優秀な司令官にもなれる男であった。




