台頭する若い武将
自分の体に火がつき、慌てて後退し始めた怪物に、閲呉は火の横の壁をまるで水平に横走りするように単独で大刀を持ち追いかけたのである。誰もそんな芸当など出来る者も居ないし、火は勢いを増して、そんな火を超える事等出来ない筈だ。そんな中で
「どりゃあああああっつ!バシーーーーーッン!バシ、バシン・・」
凄まじい音が断続的に聞こえた。燕尾が、
「消化して!砂子を振りかけるのよ。残った芝草は回収して!」
燕尾がようやく残り火となったその先に向かうと、その怪物の10本の脚は全て切り落とされていた。黒い団子がそこに転がっているのであった。
「ふいい・・硬かったぜ・・この大刀はな、室蘭大将から貰ったんだが、それでもとんでもなく硬かったぜ、こいつは」
饗場が、
「殺ったのか、この魔物を」
「まだ息をしているけどさ、脚をちぎれば、反撃も出来ねえだろ。おい、燕尾、俺はお前を認めるぜ。お前の作戦と惔倹の別動隊の連携のおかげだよ。一瞬でも気を抜いていたら、こいつに俺達は全員殺られていた・・」
肩で大息をする閲呉も、恐らく全力を出し切ったのだろうし、その逃走する一瞬の機会も見逃す事も無かったのだろう。全員がやはり閲呉をこの大将にふさわしい男だと認めた瞬間だった。
燕尾が、
「お腹に多分、自分の子ね?抱えているから、焼き殺しましょう」
すぐ、後顧の憂いを断つべき、その魔物は焼かれて行く。
「おい、良い匂いがするじゃねえかよ」
饗場が言うと、それは確かに香ばしく、甘美な匂いだった。こうして全員が頬張ると残った魔物の胴体、脚は残りの食糧として補充され、彼らは少しの休憩を取り、仮眠するとまた先へと向かうのだった。




