台頭する若い武将
「く・・」
饗場が小声で苦笑しながら、
「閲呉・・燕尾の言う通りにしろ。相手は身構えているようだし、相当でかいぞ、ありゃあ」
「でかいって?黒号程度か?」
「うん、その位はあるようだし、鼻息が荒えわ。もう攻撃態勢むんむんのようだ」
「やる気ならこっちの鼻息も荒いぜ、饗場」
「だからあ、黙ってって言ってるじゃん、閲呉」
燕尾が、ぶち切れ寸前のヒステリックな声を上げた。
「あ!馬鹿っ、お前の声が一番でけえわっつ!」
その閲呉の更にでかい声と共に、どどどーーー。その相手は向かって来た。
「ほらああっつ!」
燕尾の甲高い声が響き、前方でもうもうと燃やした芝草の前で、その相手は急停止。その姿が浮かび上がった。
「うお!何だ・・この異様な姿は・・」
流石の閲呉も驚いた。形容するならば、それは巨大な蜘蛛に近かった。この暗闇の中で生きて来た化け物であるし、黒号と同じ大きさであり、足は10本あり、黒光りするその体には、赤紫の斑模様の硬そうな皮膜をしていた。
「ぐぐるるう・・」
火を燕尾が指示したお陰で急停止したものの、そのまま襲われていたら、呆気なく全滅させられたかも知れないとんでもなく禍々しい姿であり、危険な匂いは戦士ならば体で感じるだろう。この怪物?には、通常の攻撃等では歯が立たないと思っているのだ。
「どうやら、火が効果を示しているようだけど、残り半分を費やしても一日しか持たないわよ。それに、そんな事をすれば我々は帰れなくなってしまう」
「おい、惔倹、地伝達は勿論しているんだろうな?」
「え・・閲呉」
燕尾は、閲呉がただ無鉄砲だけの男では無い事をこの時知った。