北方より来る魔の影
ようやく小競り合いがまだ残っていたものの、残存上原族が広大な大地のあちこちに居て、ここを本来の彼らの大地として取り戻したのだった。その分、火山のガスによる危険個所も多く、噴火によって肥沃な大地は荒れ果てていたし、今で言う大きな噴石があちこちを寸断していた。魔物と言うが、これはバツエツ師が言っていたように、ある実験によって生み出された草食性の動物である事も分かった。
エツゴはあちこちに集落を移転しながら、いよいよ黒魔人との全面対決に備えていた。彼らは、上原族が編み出した飛翔出来る羽を生み出していたのだ。そして、体が小さく軽い黒魔人達の飛翔力は、上原族を遥かに上回り、又空爆と言う手段も彼らに攻撃手段を与える事になった。
「奴ら黒魔人の石爆はどんどんその威力を増している。あちこちでその効果を実証しているようだ」
エツゴが苦り切っていた。苦戦しているのである。
「こちらも石爆はやっているし、かなりの黒魔人達の盆地の把握もしているものの、奴らは、かなり地下に住んでいるようだな。盆地には殆ど住居らしいものは見えないんだよ」
ガリの言葉である。
「それも複数の斥候から報告がある。ガリ、もっと詳細を聞かせろ」
エツゴは、もう10歳程に育ったエンビとの第一子で、非常に聡明でもう陣内に顔を出しているユウゴと、エンビがまだ手を繋いでいる第二子の女の子、エバの前にガリを呼んだ。キランとビゼンがそこに居た。ここが、王と言う組織形態は無いものの、実質上の上原族のトップである。しかし、上下関係はエツゴが嫌っている。そんな組織は、指揮系統の便宜上のものはあっても、不要だと言う考えである。故に誰もが面と向かってエツゴに不満も言うし、タメ口なのだ。以前と何ら変わらない間柄を維持している。ただ、あれからそれだけ経ったと言うのに、エツゴは他のメンバーは老いたような気配は無く、益々若返ったような印象でもある。それについてはおいおい説明が入るが、食の変化が大きいとだけ言っておこう。
「今回、我は飛翔隊を3つに分け、黒魔人の恐らく本陣である、北の奥地の狭隘な岩体に黒い岩がある。彼等の正体は常に周囲の霧によって見えずらいのだが、これは人為的にそれを発しているのでは無く、彼等は体から絶えず汗が常に出ていて、その汗が空気に触れると靄のようになるらしいんだ。それはキラン、そうなんだな?」
報告しているガリが、逆にキランに尋ねていた。




