改名を発表する?
「ガリ・・ひょっとしてバツリン殿が耳を潰したあの笛の音が聞こえるのか?あれは、耳を潰す程の高温と、普通の耳には聞こえない音を出すんだぞ?どこまで聞こえるんだ?それは」
「高い音は、我も駄目だ。むしろ、低い音っつうのかな。それで、小人が吹いている。その音には、チチチと、チッチッチとかジ・ジジ・・チとかの複数の組み合わせがある。知っているだろ?それは」
手をぶんぶん振りながら、4人は否定した。
「知らん、知らん・・おい、ガリ、お前も今日から陣幕に入れ。それでその音階を、覚えた文字で文書化する。今からすぐにでもやれ」
「お・・了解した。合点と言えば良いのか?」
「それは、俺が言う言葉じゃねえよ。ど阿保・・あ?肝心な事がまた抜けていた。じゃあ、今もこの黒魔洞の先に小人が見えるか?」
「いや、あれ以来ここには見えていない」
「じゃあ・・あっち側に居たのか、そいつが」
こくんと頷くガリに、またエツゴは怒りを爆発させようとしたが、流石にエンビが止めたのだった。そうなのだ、そこに小人が居る事がこうして分かったのである。これはもう別の種であり、魔物使い=新たな上原・耳洞族合同軍の敵なのだ。ようやくその正体が掴めて来ると、戦いのやり方は当然変化して来る。最初から操っていたのでは無いのだろうし、その笛を上原族から学び、使い出したと言う論理がここで成り立つのであった。
とにかく、こんな会話から始まったギゼン族とは、この小人の存在を解く事から始まりそうだ。不明な相手には戦略も描けない。当然である。分からぬ敵に無策で戦うなど愚の骨頂、自ら死にに行くようなものだ。いや、まさしく自殺行為に他ならない。無謀を持って、それが勝利したとしても、エツゴがずっと言っているように、たまたま勝ったのは、偶然であった程度のものでしかない。彼等には勇気もあるし、力量、才能もあるのだろうが、怪物、魔物を見て体が硬直する、震えると言う感覚がある限りは、それは救いようがあるとビゼンは言っている。軍を差配する軍師としての位置を、彼は今確保しようとしている。そして訓示した。少なくても、既に教育と言う基盤が生まれて来た所だ。これから組織としてのしっかりとした各自の位置づけや、個々の才能も、このガリ一人でも隠れていたとんでも無いものを持つ者が居るのである。こうして、エツゴは陣内に次々と有能な人材を確保して行った。彼等の才能を壊すのも、伸ばすのもトップの力量なのである。エツゴは俗語を多用するようになった。それは、ともすれば職制によって、どちらかと言えばきっちりした階級を構築したいビゼンとは真逆の上下の関係の考えだが、出来るだけ平坦にし、互いのコミュニケーションを大事にしたいエツゴのここは人間性だとしておこう。そうする事によって、むしろ彼らは自発的に動ける環境を与えられながら、一方では組織としてのしっかりした指揮系統を確立したいビゼンとのこれも、人徳と位置付けよう。絶妙なバランスの中に、3人の女将、軍師的な補助役目に徹するエンビ、キラン、エルがそのつなぎ役を自然と構築しつつあった。
そして、いよいよ、魔物使いの小人の存在の謎を解く事より、やっとこの集団には攻める事こそ最大の防御と言う戦略が生まれて行くのである。彼らは既に集団と言うよりは軍団と言う形成に傾き始めたのだった。




