戦況が変化して来た
「薬液は、いかに魔人から元の生体に戻せるかの実験であった」
「やっぱり・・そうか。この鞭を振り回した赤魔人・つまり、その巍然族を食ったからか?」
「そうだ・・肉食に変化した赤魔人は、やはり魔虫に侵されていた巍然族の武将を食った。形態こそ、赤魔人のままだったが、安良と向かっていたのは巍然族の・・これも言わねば納得するまい。巍然族もまた上原族を食っている。その上原族にも幾つかの階級があり、上級の武将にあたる鞭を使う集団が居た。その者を食ったのだろう」
「ややこしいな・・巍然族が上原族の一人を食い、そして、何でこっちに進出して来る?赤魔洞の湯気によって来られないんじゃないのか?今言った事と齟齬が生じるぞ」
備前はそこも矛盾点を感じた・
「ふう・・その者は我が一族の者だったのだ。どうにかして救いたいが為に、薬湯を試したのだ。巍然族に食われたその一族の者は、何故か上原族の思念を失っていなかった。こんな事があるのかと我も驚いたのだ。これは創作の話では無いぞ?閲呉」
「むう・・食われてしまったものの、元の者の意識が残る・・そんな馬鹿な」
奇怪な話になった。そんな起こり得ない事には、備前がこう言った。
「それ、逆でしょう?その一族の者が巍然族を食ったのでしょう。しかし、十分に煮えておらず、いや焼き残っていたのかも知れない。なので、巍然族の姿・と言うか、今我々が見ている巍然族とは、全く形態が違うんですよね?元の姿っていうのは」
流石に備前も良く聞いていた。
「ああ・・違う。我が知っているのは、硬い鱗に覆われたトカゲ風の」
「おい!待て・・それが魔人達の原型では無いか」
閲呉が突っ込んだ。
「分かったか・・我は巍然族と言うか、本来は土中の虫を食う種であり、このような闘争型の種族では無い。と言うか、本来文化すらも持たない生体なのだ」
「では、その巍然族と今我々が見ている者達こそ、上原族なんですね?」
「左様だ。魔虫によって侵された上原族は、巍然族・・いや巍然種と言う本来砂トカゲだ。それを貪り食ったのだ」