戦況が変化して来た
閲呉が抜燐師を凝視すると、何時もの穏やかな顔では無かった。かなり厳しい表情である。気藍がはっとした。返答如何によっては、この場で斬るぞとでも言うが如くの気迫を感じたからだ。
「何が言いたい?散々我には詰問調で様々な情報を聞き出して来たでは無いか」
「言わないっすからですわ。この戦闘真近である状況の中で、あらゆる想定をするのは当然であるし、俺は総大将なんすよ?悠長な議論をすると思うんすか?」
「我が耳洞族の者であるとは告げている。その耳洞族が使用した武具の一つだ、それは」
「耳洞族?赤魔人と巍然族が同じ武具を持つと言うこの関連は」
「赤魔人は、魔虫に侵された耳洞族の一人だ」
「何言っている・・赤魔人は草食系の生体じゃないっすか。何でそれが耳洞族になる。こら・・今すぐにでも幾らこの上原族の重鎮と言っても、この場で叩き切るぞ!抜燐!」
「ああっつ!駄目っつ!駄目っす」
初めて見る閲呉の激しい怒りに、燕尾、備前は止めるのだった。
「言う・・言わねばなるまい。確かに耳洞族では草食系の生体を何種かこちらと同じように飼育し、それを食としていた。しかし、ある時突如、耳洞族の奥深くにある微連湖が決壊して、そこから熱湯が沸く平真湖に注ぐ川の一つが溢れて、その微連湖に棲息していた魔虫が進出したのだ。耳洞族でも生水は飲む事は無かった。故に魔虫はその平真湖では死滅し、耳洞族に進出して来る事は無かったのだ。そして、もう一つ、その決壊は、巍然族の住む、砂漠地帯である場所にも流れた。決壊は収まったものの、全ては魔虫の繁殖のよって大きく変わったのだ。当然、飼育していた数種の生体は生水を与えていたので、それが凶暴になり、ある種は魔人ともなった」
「それが、黒魔洞を通り、上原族の所まで押し寄せて来たと?」
「我も逃げて来たのだ。しかし、かろうじて赤魔洞の湯水と、その臭気によって大方は食い止められた。我は、複数の草食系の生体をこちらにも交流があったので、黒魔洞を通じて交易があったので、当時は飼育もしていたのだ」
「ふん・・そんな事はもう良い。だがな、魔人を作ったのがあんたである事も既に聞いている。魔虫じゃない方法で魔人が出来るのか?おかしいだろ、そこも」
成程・・備前も閲呉の怒りがその辺にある事を悟った。なら、抜燐が詰問されている理由がしっかりそこにあるのだ。