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「リアーナ様じゃありせんか!?」


「ひ、人違いではありませんか!?」


国境まで歩いて一週間と馬車で二日。

やっと到着した国境で、配置換えされたあの護衛に声をかけられ、別室に押し込められた。


「私はあなたを存じません。」


などと嘘をついてみたが、胡乱な瞳で見られるだけ。他人の空似であると伝えてみたが無駄なようだ。


---


保存食片手に国境向けて歩き続けて一週間。その間に誰と会う事もなく、動物に遭遇する事もなく、地割れが起きる事もなく、なんとも平和に進んでくる事が出来た。


人攫いが出る事があると聞いていたのだが、そんな方達は一人も見かけなかったのは、運が良かったのかもしれない。


この先は草も生えないような荒地が続くようで、この靴では時間がかかりそうだなと思っていたところ、旅商人の馬車に遭遇した。


「お嬢さん、こんなところでお一人ですか?何かの事件に巻き込まれたとか?」


そう声をかけられて振り向くと、御者台にはフワフワとした髪の男性と小柄で少し痩せ気味な女性の二人座る馬車があった。

女性は首からメジャーをぶら下げている。声をかけてきてくれたのはこっちの女性だ。


馬車がここまで近づいてきたことにも気が付かないほど、ぼうっとしていたのかと恥ずかしくなったが、話かけられていたんだったと思い直し、言葉を選ぶ。


「あ、はい。その、ホーネスト王国との国境に…行く途中で…。」


と呟くと、二人は目を見開いた。


「へ?ここまでお一人で?危ない目には合わなかった?」

「ほんとほんと!」


少し呆れた感じで言われたが、心配してくれたようだ。こんな見知らぬ子供なんかを。


「ここから国境まで行くには馬車でも二日はかかるよ?それに、その靴ではこの先の道は歩きにくいはずよ?」

「ほんとほんと!!」


少し大きめの靴は母の靴だ。旅商人から見たら自分の靴ではないのなんて簡単にわかるのだろう。


「見たところ、荷物も背負ってるちっちゃな袋だけのようだし、靴のサイズも合ってないし。国境まで行くのは無理なんじゃないかしら?」


確かに。

既に保存食は食べ尽くしてしまい、まだ馬車で二日もある距離は無理そうだ。しかもこの荒地、この靴で歩いて行くのは現実的ではない気がした。

しかし、保存食がなくなっているのだ、ここまで一週間かけた道のりを引き返すほうが現実的ではないのではなかろうか。


どう返事をするべきか逡巡していると、幌馬車の荷台から少しぽっちゃりした体の大きな男性が顔を出した。


「母さん。その子はどう見たって訳ありだよ。とりあえず、馬車に乗ってもらって、国境まで行く間に話を聞いたらどうかな?日差しも強いし、このままではその子が倒れてしまうんじゃない?」


と、視線の定まらない男性は私を気遣ってくれた。

御者台の二人は、そうだった!と言う表情をすると、さあさあ乗って!大丈夫、私たちはホーネスト王国の旅商人だよ。と商人を示す札を見せつつ荷台に乗せてくれたのだ。


私が女の子であることをぽっちゃりさんは気にしてくれたようで、見知らぬ男と二人で荷台にいるのは怖いでしょう?と、御者台にいた女性と場所を交換してくれた。


その間もぽっちゃりさんは私を一瞥もする事はない。私を警戒しているのかもしれない。


「全く…。ごめんねぇ。あの子は色々あってね。人見知りなだけで悪い子じゃないから安心してね?」


警戒もしているだろうが、人見知りなのか。


「人見知り…あの、私も似たような感じで…なので、大丈夫です。」


「あらあら。優しいのねぇ。」


そう言って女性は飲み物を分けてくれた。

一週間ぶりの綺麗な水だ。喉に突っかかる感じもない。有り難くいただいた。


女性はバーネットと名乗り、昔はサロンでオーダーメイドの服を作っていたのだと教えてくれた。当時は靴なんかも作っていたんだよと、私の履いている母の靴を、調整をしてくれた。


「これで靴擦れも起こしにくなるし、歩きやすくなったんじゃないかしら。」


なんと足の手当てもしてくれた!

何もお返しすることは出来なくて申し訳ないと伝えると、子供が何言ってるのよ。と笑われた。


久しぶりの人との会話、美味しい食事、強烈な日差しから守られた馬車の中で、気が緩んだのかいつのまにかすっかり寝てしまったのだった。




ふと気がつくと、バーネットさんが顔を覗き込んでいた。


「あ、すみません!私ったら寝てしまっていたようで…。」


「気にしなくて良いのよ?疲れが出たのよね。うなされていたようだったから気になって顔を見てたのよ。これ以上酷くなりそうなら起こそうと思ってね。不躾にごめんなさいね。」


と謝られたが、勝手に寝てしまって、肌掛けまで貸していただいて文句なんかあるわけがない。


「夕食にしようか。たっぷり食べてしっかり寝るんだよ?子供は寝て育つんだからね?」


と、ふわふわの髪の男性が言ってくれた。羊のようなふわふわの髪はふるりと揺れて、何故か安心感があり、すっかり甘えさせてもらっている。

バーネットさんは祖母に似た雰囲気があり、すっかり心を許してしまい、話しているうちに身の上話なんかをポツポツと、こぼしてしまっていた。


「なんてこと!なんなの!その母親は!!」

「ほんとっ!ほんとっ!!」


このご夫婦は大変憤ってくださったが、母をそんなふうにしたのは多分私だ。

卑怯な私は、私のために怒ってくれている二人に告げる事ができなかった。


「それで亡命を?その母親から助け出してくれた男性は君に求婚してくれたのだろう?もしかして、その男性からも嫌がらせをされたのかい?」


「え?あの、いいえ。リカード様は私の嫌がることは、した事がありません。」


ぽっちゃりさんが言うようなことは一度だってない。

ただ今私のスキルの話は出来ない。

彼は私が好きなのではなく、大切なスキルを手放したくないだけなのだ。

そう言われたわけではないけれど、それ以外、私が彼に必要とされるものは持っていないのだ。


「それでも亡命…。君にとって信じるに足る人物ではないと言うことか…。」


ぽっちゃりさんは、私と目を合わすことなく、そう結論づけた。


リカード様は…私にとって信用に足る人物ではなかった?果たしてそうだろうか。スキルの話が出るまでは、知るまでは…どうだったろう。


「自分もそうだから、こんなことを言うのは恥ずかしいのだけど。」


と、ぽっちゃりさんは前置きして話を続ける。


「人を信用すると、裏切られた時に信用した分、期待した分落胆が大きいよね。だから、自分はこれ以上落胆したくなくて、傷つきたくなくて、自分が悪いのだと結論つけて、誰にも期待しなくなったし、誰とも交流なんてしたくなくて、今こうやって両親におんぶに抱っこの状態なんだ。情けないだろう?君から見たら大人だろうし、頼る親がいるんだもんな。」


大人としても男としても恥ずかしいな。と続けて呟く。


彼は“嘘偽りなく“、見知らぬ子供の私に真実を告げてくれた。それがどれほど勇気が必要なのか、今の私には痛いほど解った。


「あぁ、話したかったのはこんなことじゃないんだ。こんな自分でも、信じたい人が出来たらその人をとことん信じてついていきたいなって、旅をしてやっと思うようになってきたって話をしたかったんだよ。」


「信じたい人…。」


「あぁ、信じられる人じゃなくて信じたいと思た人だよ?今はまだ無理でも、いつかそう思えたら幸せでしょう?」


なんと言葉を返して良いのか分からず、口を噤むしかなかった。


そうしてたっぷり休ませてもらいつつ、楽しくお話をさせてもらう。


「ホーネスト王国に亡命…いや、移住するならそう言った施設があるよ?年齢的にスキルが生えてくる頃だろうし。スキルが生えてるなら、その勉強をしつつ一年間支援所で暮らしながら就職先を探せるし、スキルがまだなら王国に保護してもらえるから。」


その話を聞いて、微妙な顔をしてしまったのだろう。バーネットさんはもしどちらも嫌ならと前置きをして


「嫌じゃなければ一緒に旅でもする?リアーナさえよければ、後ろ盾になってあげるよ。」

「ほんと、ほんと!」


「へ?」


「リアーナは、ボビーと同じように辛い時間を過ごしたのだし、あちこち旅をしていたら気持ちが癒されるかもしれないし。」


と提案してくれた。

世界中に旅をする。そんなことを考えた事もなかった私は、いきなりの大きな道が開けてしまい、少し不安になった。


少し考えさせて欲しいと伝えると、当然だよ。いっぱい考えると良いよ。と頭を撫でてもらった。

そうこうして三人と仲良くなった頃、国境に到着して…


「リアーナ様じゃありませんか!?」


と、元護衛の彼に見つかってしまったのだった。


「ひ、人違いではありませんか!?」


そう伝えても別室へ連れ込まれる。

一緒に国境まで連れてきてくださった旅商人の三人は唖然と私を見送っていた。



「私はあなたを存じません。」


別室に移されそう告げるが、胡乱げな目で見られるだけだ。


「リアーナ様。何故こんなところへ?」


尋ねられるが、なんとなく。と言う他ない。

冒険してみたくなったのだが、明確な何かがあったわけでもなく、衝動的にここまできてしまったのだ。


「リアーナ様?」


下から覗き込まれるように元護衛に見つめられる。

私を守らなかったと判断されたあの日、護衛の彼は即日配置換えがされたはず。

まさか国境まで飛ばされていたとは思わなかった。


「あなたはいつからここに?」


彼の質問になんと答えて良いかわからなかった私はそう尋ねるしかない。


「自分を思い出してくださったのですね?三日前からです。リカード様に言われて、あの日あのままこちらへ連れてこられました。で、今日自分の荷物が届くと言うので、正面でその馬車を待ってたんですよ。」


と一旦言葉を切って、こちらを見た後


「そうしましたら、リアーナ様が他国の旅商人と一緒に国境越えをなさろうとしていたのを見つけたと言うわけです。」


「そ、そうですか。」


「ええ。そうです。めちゃくちゃ驚きました。」


それは…申し訳ありません。と謝罪を口にする。


「謝って欲しいのではありません。ここにいる事、リカード様はご存知ないですよね?護衛はどうされました?撒いてきたのですか?」


開いたノートにペンでトントン音を立てながら尋ねられるが、


「護衛?」


「そうです。護衛です。私が配置換えになり、護衛は三人に増えたはずですけど…え?ご存知ない?」


驚きに目を見張る元護衛の彼の話を聞いて、こちらの方が驚いてしまう。

宮廷内を歩く際は護衛が二人ついて回っていたが、さらに増えたとは。


「あちゃー。リカード様、ポンコツすぎ〜。」


と小声で呟いているが、耳に届いてしまった。え?ポンコツとは?


大体、ただの平民の、しかも没落した商会の娘に護衛など必要ないのでは?と思っている。

いくら有用なスキル持ちであるにしても、過保護が過ぎるのだ。

人物の鑑定ができるあのおじいさんの鑑定士さんにだって、かなり珍しいスキルなので、めちゃくちゃ大切にされているが護衛など付いていなかったのだ。


「まー、大体のことは想像が付きますが、あくまで自分勝手な想像ですので、細かな報告書を書くのに質問させていただきますね?」


と、ペンを握り直して聴取をする体勢になる元護衛の彼。話すことはやぶさかではない、見つかってしまったのだから冒険は終了なのだろう。

元護衛の彼があの時間にあの場所に居なければ、ホーネスト王国へ行く事が出来ただろうが、そうは問屋が卸さなかった。

つまり、この王国で頑張りなさいよ。と精霊様のお導きなのだろう。


「お話は構いませんが、一緒にいた旅商人のお三方には、大変お世話になったのです。お礼くらい伝えさせてくださいますよね?」


「…では、状況を確認してまいります。が、逃げないでくださいよ?」


何を言うのか。逃げたつもりなど毛頭ない。

ただ思ったまま行動しただけなのだ。


うんうんと頷くが、信用されていないのか、国境騎士の制服を着た男性が二人を扉の両脇に立たせて出て行った。


しばらく椅子に座ったまま待っていると、元護衛の彼が一通の手紙を持って帰ってきた。

その手紙をスッと目の前のテーブルに置かれ


「旅商人の女性の方からです。あとで読んで欲しいそうです。申し訳ありませんが、こちらで検閲させてもらいました。」


「検閲…彼らはホーネスト王国の旅商人の証である札をお持ちでした。そんな三人を怪しいと言われるのですか?」


検閲は、友好国同士であれば、スパイ容疑がかかる人物にしか行なわれないと王妃教育で学んだ。あの正直者の三人がスパイであるはずがない。


気持ちが昂ってしまい、声が震える。

あの三人は信用に足る人たちであると私のスキルは判断したのに…。


「いいえ。照会したところあの三人は疑いようのない素晴らしい旅商人です。ブライアンさんはホーネスト王国の元王宮御用達美容師ですし、バーネットさんは、ホーネスト王国の元王宮御用達サロン職人ですからね。引退して旅商人をしていらっしゃいますが、友好国全てに伝手がある、やり手の旅商人ですよ疑う余地もなければ、疑ってかかったらこちらの首が飛んじゃうくらいのね?」


「は?」


そんな話は聞いていない。

ホーネスト王国の旅商人さんだとしか…。


いや、そうではない。

私は積極的に、彼らの事を尋ねなかったのだ。


そんな自分にがっかりした。

あんなによくしてくれた三人に不義理だったと気が付いたからだ。


彼らに対してだけではない。

自分の気持ちを詳らかにしたくて、そっちを優先しすぎた結果、他人に興味が湧かないのは、私の欠点なのだ。


旅商人の三人、食堂の女将さんと大将、鑑定士さん、この目の前にいる元護衛の彼も、オリビアにも、興味を持って何か聞いたなんてことが無かったのだ。


愕然とする私の前で、元護衛の彼が小さくため息をついた。


「リカード様は大切にするばっかりで、積極的に話し合いをしてなかったんだなー。やっぱりポンコツだよなー。でもそこが可愛らしいから誰も注意できないんだよなー。」


と呟いていたが、やはり私の耳には届かなかった。



「リアーナさん?」


「あ、はい。」


「旅商人の三人ですが、今回積荷に食べ物が多いそうで、早めにホーネスト王国へ到着したいとのことでした。

それでもリアーナさんを心配されているようでしたので、リアーナさんはこの王国の要人なので、ご安心くださいお伝えしたところ、ホッとされたようで、そのまま出発されました。」


「そ、そうですか…。」


最後にもう一度お会いしたかったな。ありがとうと伝えたかったな、と残念に思った。


「さ、では、話を聞かせていただきますよ?」


元護衛の彼がニコリと笑ったが、目が笑っていないように感じられて、一つ身震いをしてしまった。



そうして、休憩をとりながら元護衛の彼との話は続く。


大した話はないはずだが、宮廷を出てきて十日間の話は、そこそこのボリュームとなり、翌日も続いた。


当然この国境には侍女など居るはずもなく、周囲の騎士たちにぺこぺこと頭を下げられたが、平民の私は自分で自分のことを全て出来るし、残飯も漁れば泥水だって必要なら啜るのだ。

侍女さんなんて不必要だと伝えると、ますます頭を下げられた。


何で?


着替えを持たずに出てきてしまったが、バーネットさんが一着服を作って譲ってくれたのでそれをお風呂の後に着ていたのだ。平民の子供が着るとても可愛いデザインで脱ぎ着しやすいものだ。それを見た騎士さんたちは、びっくりしたのか石化したように動かなくなった。


な、何でぇ?


保存食と共に湧き水を見つけて飲んでいたと話したら、非常にびっくりされて医師を呼ばれて受診する羽目になった。


えぇ?何でぇぇー??



何だろう。ジェネレーションギャップ的な?

選民意識的な何かかしら?

でも差別的な視線は感じないのだけど…。


私の何がそんなに周囲を驚かせているのかは知らないが、とにかくやることなすこと選ぶ際も、誰かしらが驚くのだ。


「一体なんなのかしら…。」


全く心当たりがないのだが。

でもそれを尋ねるほどの興味も沸かないので、淡々と話を続けた。

あらかた話し終えると、元護衛の彼は、はぁぁ。と長いため息を吐きながら机に突っ伏した。


あらあら、疲れてしまったのね。と眺めていると、ガバッと起き上がって姿勢を正したあと、額をテーブルに擦り付けながら謝罪された。


「リアーナ様!本当に大変申し訳ございませんでした!」


「え?は?」


「リアーナ様の生い立ちを知る者は宮廷にはほとんどおりません。知っているのはおそらくリカード様とおー…えっと、へー…いやいや、リカード様のお父上とオリビアさん、くらいだと思います。」


「おー?へー?」


何か言いかけていたけれど、何かしら?


「いえいえ!そちらはお気になさらず!!」


「そうですか?」


「ええ、えぇ!その話はいつかリカード様から聞いてくださいね。自分からは何も言えません!」


「はぁ。わかりました。」


必死に念を押してきたので、気にしないことにする。元々それほど気になったわけではないので問題ない。私はきっとこの話をした事も忘れてしまうだろう。


それよりも気になるのは、リカード様のお父様の話だ。学校と宮廷でお世話になり始めて一年半。リカード様のお父様の話は一切出てきていない。

あまりに出てこないので、ご両親はすでに他界されているのかと思っていたくらいなのだ。


リカード様は気がつくと宮廷にいらっしゃるし、私と同じく宮廷に部屋を準備してもらっている高位貴族なのだと理解している。


他の貴族の方々は、王都に家を持っていればそこから通われているし、王都外の領地からいらっしゃってる方々は、寮生活をされていると聞いていたのだ。


その中でリカード様は宮廷に部屋を準備されているようなので、私と同じく有用なスキルをお持ちなのだろう。佇まいや言葉の選び方から高位貴族であることは間違いがない。


「あ、あの。リカード様のお父様は、どちらの領地を治める方なのですか?」


と全て口に出して言ったか言わないタイミングで、元護衛の彼は


「あー!!!はいはいはい!!その話もリカード様にお尋ねくださいね!自分たち下っぱは存じ上げませんのでっ!!知っててもお知らせできませんのでっ!!」


大きめの声で遮られたので、聞いてはいけない事だったのだと理解した。それは、彼の言葉に混ざった少しの嘘が、その後の言葉で打ち消されていたからだ。



---


国境で二日目を迎えた私は、三日目を迎えるにあたって考えを新たにしていた。


ここ国境は沢山の旅商人、商団の一行などが審査を受けて通過していく。

このままここに止まる理由はないし、居たところで騎士さんたちに何故か肩身の狭い思いをさせてしまうのだ。

それならさっさと宮廷に戻ったほうが良いだろう。


学校も王妃教育もずっと無断欠席してしまっているので、おそらく既に居場所は無いだろう。

良くしてくれたみなさんに誠心誠意謝ってから、出て行こうと思う。


おそらく学校は六年通えるように手続きを終えているはずなので、宮廷役員さんに相談すれば、寮を準備してもらえるだろう。

とりあえず学校を卒業することを目標にすると、目の前が開けた気持ちになったのだ。


そうと決まれば、こんな国境にいる必要は無い。

王都に帰るにしても、馬車も馬も騎士さんたちの物のはずなので、借りるわけには行かないだろう。

騎士さんの仕事の邪魔になったら良くないのだ。


そうなると、外国から帰ってきた商人さんや王都に仕入れに来た外国の商人さんたちの馬車に乗せてもらうのが正解だろう。


王都から一番近いこの国境までほとんど歩いて来たので地理はそこそこ解るし、野営するのに良い場所も教えられそうだ。バーネットさんたちと一緒に過ごした事で、旅の食事の準備の流れは学べている。

これは、自分の売りになるのではなかろうか。


そう思うといてもたってもいられず、国境での入国審査を終えた商人さんたちを、陰からこっそり見て回る。

私のスキルが良い方に反応する商人さんであれば、優しくされることはなくとも、邪険にされたり売られたりすることは無いだろう。


暗闇に溶け込みじっくり見ていると、ご夫婦と思われる老齢の二人組の商人さんが審査を終え、ニコニコと笑いながら出てきた。

目の前をこちらに気がつくことなく楽しげに通過していく。

顔をじっくり見て、声に耳を傾ける。


私のスキルは“あの人たちは安全だよ。大丈夫だよ。“と告げるまでに成長していた。

ブライアン、バーネット、ボビー家族が登場しました。

どんな人?と気になった素敵な方がいらっしゃったら、本筋の『帰還者はスローライフな日常を満喫したい』の77話大きな羊は恍惚の表情を浮かべるにてご確認くださいませ。

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