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バチンッ!!
「あぁぁ!!良い加減に離しておくれ!私はおかしくなんてないよ!離して!あの子にそんな話が出るなんておかしいって言ってるんだ!おかしいのは私じゃ無い!あの子だよ!なんで私じゃなくてあの子にそんなことが起きるんだ!おかしいじゃないか!あぁぁぁぁ!!」
「落ち着いてください!誰か守衛を呼んで!」
「落ち着いてください!」
「守衛を呼んで!!」
「リアーナ様、大丈夫ですか!?」
あの日から私のそばで、私のお世話をしてくれる様になった侍女のオリビアは、実の母親に殴り飛ばされた私の元へ慌てて駆けつける。
暴れる母を看護師さんたちが必死に留め置いてくれているが、女性三人に押さえつけられてもジリジリとこちらへ迫ってくる。
物凄い力、物凄い執着。
「あんたみたいな?不細工が?見初められたぁ?婚約したぁ?しかも相手がお貴族様だって!?どんな夢を見たらそんな妄想に辿り着くってんだい!?私は許可なんて出さないよ!!この、身の程知らずがっ!」
「誰か!縄と布を!」
「良いかい?あんたなんて誰にも好かれないし愛されない!あんたのその恐ろしいスキルがある限りね!お貴族様との婚約なんて、夢なんだよ!夢夢夢ーー!!早く夢から醒めな!」
慌てて私と母の間に入った看護師さんは母を抱きしめるようにして私から引き離してくれた。
両側から肩や腕を押さえ付けるように他の看護師さんも加わり、更に物理的な距離が生まれたが、新たな暴言を叩きつける度に、飛び付かんばかりの勢いで私の顔ギリギリまでその顔を寄せる母。
「ああそうだ!あんたの気味の悪いスキルが珍しいってんで、使い潰されるのかもね!それ以外何の価値もないんだから!」
あぁ、そういえば。
殴られるとは、こんな痛みを伴うものだったな。とぼんやり思う。
「それになんだい!そんな綺麗な格好が出来るなら、それを売って私にその金を寄越しな!金を調達してきな!私はこんなところにいるような人間じゃ無いんだよ!!」
「くそ!やめろ!リアーナ様から離れろ!」
必要無いと断ったが、何かあっては大変だと、リカードに付けられた護衛が、
「まさか自分の娘に対してこんなことをする人間がいるなんてっ!すみませんリアーナ様!リカード様!自分の落ち度です!」
と謝罪を口にしながら、母の首の後ろの襟をグイと引っ張り、私から完璧な物理的な距離を取ってくれた。
この護衛は幸せな時間の中で生きてきた人なんだなと感じて、自分が惨めに感じられた。
母が入院してからそろそろ一年半。
大分大人しくなった、治療がうまくいってるようだと報告され、それならば母に自分に起きた目まぐるしい一年半を報告したくてやってきてしまった。
「出ていけ出ていけ出ていけー!!!訂正しろ!訂正しろ!!あぁぁぁ!!」
「守衛はまだなの!?」
蓋を開けてみれば、私の顔を見た瞬間悲鳴をあげて飛びかかり、それでも話せば理解し合えると思って笑顔を絶やさず言葉を選びながら話したが、この様だ。
「私は成長していませんね。どんな相手でも言葉を尽くして話せば分かり合えると、親なのだから、娘なのだから、喜びあえると、そんな夢の様な想像をしてしまいました。」
「あぁ、リアーナ様…。」
オリビアが私を抱きしめ背中を優しくさする。
「この状況のどこが大人しくなっただ?治療がうまくいってる?医者を呼べ!」
護衛が声を張り上げる。
「はーなしなっ!!あの子が悪いんだよ!あの子が見初められるなんておかしいんだ!私じゃなきゃおかしいんだよ!」
ぎゃーぎゃーと騒ぐ母を引き倒した護衛と、慌ててやってきた病院の守衛が母に布を噛ませる。
騒ぐ声がくぐもった声に取って代わった後、母は後ろ手で縛り上げられていた。
パタパタと走ってきた母の主治医という人は、顔を腫らした私を見て縮みあがり、慌てて診察室へ連れ込んだ。
「申し訳ありません。この精神病の人は両極端でして。本当に落ち着く方と、きっかけ一つで突然悪化する方がいらっしゃるのです。」
治療を終えた私に医師は教えてくれた。
そのきっかけが母の場合、私、と、言うことなのだろう。
それならそうと、先に知らせてもらいたかったな。と思ってしまった。
そうしたらオリビアに心配をかけずに済んだし、護衛と守衛に迷惑をかけることはなかった。
「そうしたら来なかったのにな。」
「すみません…。」
頭を下げ続ける医師。しかし医師が悪いわけでは無い。悪いのは母、いや、病か。
それとも思わず来なければ良かったと口に出してしまった私か。
今回に限って“心の底から言った母の言葉“にリアーナの心は悲しみに染まった。
医師は、最近この精神病に効果があるという薬が隣の王国で開発され輸入が開始されましたが、使用してみますか?と提案してくれたので、治験に参加しますと一筆書いて病院を出た。
馬車の中で、オリビアと護衛の男性が頭を下げて謝罪を繰り返す。
私としては、二人はなんら悪くは無いので、頭を上げてというのだが、聞いてもらえない。
「あの。大丈夫です。誰もあれは予知できなかったでしょうし、お二人は私をちゃんと守ってくださいました。」
実際、この二人がいなければ、今回の母の“嘘偽りのない言葉“によって一年半前の自分に精神が戻ってしまっただろう。
自分なんかを大切にしてくれる“他人“がいる事に、ほんのちょっぴりだが喜びを感じられる様になったし、“他人“を信用しても良さそうだ、と思えるようにもなった。
まだ視線を合わせての会話は難しいけれど、少し顔を上げて話もできるように変わったのは、こういった人たちとの触れ合いのおかげだ。
祖母が死んで実母に虐げられたニ年間は決して無くなりはしないけれど。
安心して眠れる場所、美味しいご飯、綺麗な洋服は人間が生きる基盤には重大な事なのだと知ることができた。
無駄だったと思う経験は、今のところ見つけられない。人間性を上げるために必要だったとさえ、今は思える。
二人はこれ以上謝っても仕方がないと思ったのか、泣きそうな顔をしたまま口を閉ざしてしまった。
「本当に大丈夫なのに…。」
リアーナはため息をつく。
馬車の中から流れる景色を見ながら、母が言った言葉を思い出す。
「身の程知らずか。確かにね。私もリカード様と婚約の予約だなんて考えたこともなかったもの。」
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一年半前のあの日から、私の生活は真逆に進み始めたと思う。
学校へ行き始めた。
周囲の人よりも二年近く遅れての入学だったので、放課後や早朝に暇そうな先生を見つけては質問をし、見つからなければ自習に当てて過ごした。
人との付き合いに不安があったが、人当たりの良いリカードに誘われて、生徒会の手伝いをするようになると、自然と人が集まるようになり、初めて女友達のような方が出来た。
スキルを使った仕事をしていたので、スキルの勉強の時間は、発動させるために時間を使わず魔力操作に集中することができて、学校で一番の魔力操作だと先生が褒めてくれる事があった。
この先生は褒めて伸ばすタイプなのだろう。気を遣った言葉だと分かっているのに、ついつい嬉しくなって、更に魔力操作に磨きをかけた。
学校に選民意識を持つ人は特におらず、嫌な思いをすることもない。
もしかすると周囲に守られていて、そういう思いをせずに済んでいるのかもしれない。
やりたいと思う事をやって、知りたい事をどんどん吸収し、楽しく過ごしていたら、半年で遅れた二年間の勉強を終わらせ、半年で一年飛び級していた。
リカードとの学年差は二年となったのだ。
嬉々として勉強に励む私を見たリカードの家にいる青年が、
「そんなに勉強が好きなら、王妃が学ぶ勉強も一緒にしてみないか?王妃教育を終わらせられたら、宮廷の仕事も選びたい放題になるぞ?」
と教えてくれた。
宮廷の仕事と言えば、誰もが憧れる職業である。
「君の魔力操作であれば、宮廷魔導士も夢では無い。リカードと一緒に国を盛り立てる仕事にも就ける。どうかな?」
リカードが宮廷魔導士になりたかったというのは初耳だけれど、リカードと共に、王国の力になれる仕事に就けると思えば、気分が高揚した。
「是非ともお願い致します!リカード様と一緒に国を盛り立ててられるなら喜んで!」
と快諾した。
その翌日から放課後は宮廷での勉強が始まった。
王妃教育は語学に歴史、立ち居振る舞い、考え方にまで至り、知らないことをぐんぐん吸収していく。
それが終われば、リカードと楽しくお茶を飲み一日が終わってしまう。
「寮を行き来する時間が勿体無いだろう?」
青年はそう言うと、すぐに宮廷に部屋が準備された。寮の部屋は他の者が使うと言うので、荷物は全て宮廷に運び込まれた。
ここまできても、世間知らずな私は囲い込まれているなんて思いもしなかったのだ。
そんな生活も半年過ぎた頃、学校を卒業したリカードに求婚された。
「一目惚れです。ずっと好きです。リアーナとなら頑張れます!」
実直でとても優しく、心も見た目も美しいリカードに求婚されて嫌だと断る人間がいるだろうか。
私なんかが見初められる?
母ではなくて?
多分高位貴族のリカード様が私に一目惚れ?
何かの間違いなんじゃ…。
初めて会った頃の自分であれば、
“出来損ないの自分“
であり、
“見窄らしく愛嬌もない自分“
であり、
“こんなグズな自分“
であるからと、母親に刷り込まれた間違いだらけの自分だからと信じられなかっただろう。
この一年半、みんなに大切にされ、褒めて伸ばしてもらい、美味しいものを楽しく食べる環境が整ったおかげで、本来持ち合わせていた美しさには磨きが掛かったし、笑顔が増えた自分がいる事に気がついている。
母に殴られて出来た身体中の傷はもう一つも残っていない。
傷薬で治るような傷では無いものもあったはずだが、どこにも残っていないのだ。
母に言われた言葉が時々ジワリと浮かんで心の傷口を広げるが、リカードをはじめとして出会った人はみんな自分に“嘘“はつかなかった。
嘘を見抜く、このスキルが無ければ、母の暴言を真実であると信じ込み、命を絶っていただろう。
「あ、あの。わ、わたしで宜しいのでしょうか…?」
「リアーナが良いのです!リアーナじゃなきゃダメなんです!」
大変熱烈な告白だが、リアーナの自信のなさは折り紙つきだ。
「大丈夫です!自分はリアーナに嘘はつきません!愛しています!結婚前提でお付き合いしてください!」
こんな熱烈に愛の言葉を向けられて、絆されない女性はいないだろう。
冷えていた心にジワジワと熱が帯びる。
「はい!よろしくお願いします!」
そうして喜んだ翌日、美しい青年から、
「リカードの婚約は、婚約の予約としてもらうね?他にも君と婚約したいと言っている身内がいるから。」
と言われて腰を抜かすというオチが付いたのだけど。
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「リアーナ様?到着致しました。」
「あぁ、どうもありがとう。」
護衛が先に馬車を降りて手を貸してくれるので、ゆっくりと馬車を降りて、借りている部屋へと向かおうとしたが、オリビアが
「宮廷医師に見せるのか先ですっ!」
と譲らないので、そちらへ向かう。
一歩下がった両脇に護衛が付き従うので、なんとなく居心地は良く無い。
リカードの求婚から数日経った昨日の夜、母の様子が報告されて、いろんな話をしたくなったのだ。
母は私を罵倒するし殴ったり大切なお金を全て使ってしまったりしたが、どの言葉にも“嘘“と“悲しみ“が紛れ込んでいた。
「だから嫌いになれなかったのだけど。」
「何かおっしゃられましたか?」
「いいえ。こちらの話です。」
ついつい声に出てしまったらしい。オリビア相手じゃなければ、追求されていただろう。
オリビアが戸を叩いて部屋の中の医師へ声をかける。
「オリビアです。リアーナ様をお連れしました。」
「はい。どうぞお入りください。」
すでに治療されていた左の頬だったが、『診断』のスキルによると、精神的苦痛により疲労困憊、右の肩の打撲と診断されて驚いた。
殴り飛ばされた時に右肩を壁にぶつけはしたが、打撲と診断されるほどだったとは。
「リアーナ様はご自分の痛みに鈍感ですからね。周囲がきちんとしていただきませんとね。」
やんわり苦言を呈されたオリビアと護衛はますます涙目になってしまった。
ここの人たちはみんな優しく涙もろい。
それはリカード様も同じで…
「リアーナが怪我をして帰ってきたって!?護衛は何をしていたんだ!!」
大騒ぎしながら扉を開けたリカードは、リアーナを見つけて走り寄ってきた。
「大丈夫?どこを怪我したの?誰にやられたの?まさか、また母親に!?」
「え…リカード様、知ってらしたんですか?」
「あ…。」
どうやら、自分が保護された当時、母から虐待されていたことをリカードは知っていたらしい。
知っていることをずっと黙って見守っていてくださったのね。
そう思うと、愛おしさが胸に湧いてくるのを感じた。この人は本当に自分を大切に思ってくださっている。
ごめんね。と小さな声で呟くと、リカードは医師に向き合って、診断結果と気をつけることなどを聞き出していた。
母も生まれたころは自分を大切にしてくれていたようだと周囲の人の声から聞き取った事がある。
生まれたばかりの私は玉のような可愛さだったらしい。それは見栄っ張りの母の気持ちを満足させるに足りたのだろう。
成長するにつけなんとなく嫌われるようになったのに気がついて、可愛がってくれる祖母に懐いていったのも、さらに嫌われる要因だったのかもしれない。
何故あれほど嫌われてしまったのだろう。
嘘と悲しみを交えた言葉で罵り続ける母の気持ちが解らない。
母の気持ちを汲み取れない、それを申し訳なく思う。
「解りました。ありがとうございます。」
というリカードの声で我に返った。
大きな体を縮めて叱られ待ちの護衛をチラリと見たリカードだが、何も言わずにリアーナを部屋までエスコートをしてくれる。
後で叱られてしまうのだろうか。
本当に彼らは悪くないのだ。
部屋に言ったらリカード様にきちんと説明しなければ。
結果として、オリビアは注意のみ、護衛は注意と交代(即日配置換え)が言い渡された。
何があるか解らないから護衛を頼んだのに、自分の勝手な想像によって護衛対象に怪我をさせたのだから当たり前だとの判断らしい。
あの護衛は幸せな世界で生きてきた人なのだ、肉親は優しく接してくれたのだろうし、慈しみ育てられたのなら、“親は子供をたいせつにする“ものだと思っても仕方がないと思うのだけど、護衛とはそう言ったものではないのだそうだ。
今ひとつ納得はできないが、そう言うものだと理解は出来た。
いつ何時でも、最悪を考えて先んじる先見の明と根性がないと護衛という職業は全うできないと言うことなのだろう。
護衛とは大変なのだ。
今後もできるだけお世話にならないよう、私自信も気をつけようと思った。
「あの、リカード様。先程のお話なのですが。」
侍女が入れてくれたハーブティーを一口飲んでから、保護された当時、私が母から暴行を加えられていたことを知っていた件について尋ねてみる。
「そうだよね。話してなかったもんね。」
少し言いにくそうにリカードは話し出した。
「君のスキルは珍しいものだと言われた日のことを覚えているかい?」
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スキルが生えたな。と感じたあの日、私は祖母と二人で支援所へスキルの確認へ向かった。
人物鑑定ができる人材は王国でも数人いるかいないかという稀少なスキルらしく、支援所では知られているスキル名が書かれた紙を見せられて、同じだと感じるものを指し示す。という方法でしかスキルの確認が出来ないと言われた。
渡された紙ではピンとくるスキルが見つからず、二枚目、三枚目と書かれたスキルを確認するが、やはり納得できるスキルを見つけることができなかった。
そうなると、宮廷にいるお抱えの人物鑑定士にお願いする他なく、そのまま馬車で宮廷まで移動することになった。
そんな場所へ足を踏み入れたことのない私は不安で祖母に抱きついていたのを覚えている。
紹介された人物鑑定士はかなりの老齢で、いつ死んでしまってもおかしくないように見えた。
「ふうむ。何と珍しいスキルか。初めて目にするなぁ。君のスキルは『虚偽認識』という名前だね。」
「きょぎに…?」
ポカンとする私に、言葉が難し過ぎたねぇ。と笑うその鑑定士は、もっと砕いた言葉で言うなら、と言葉を選びつつ教えてくれた。
「嘘を発見出来るスキルだねぇ。相手の言葉や声、表情などから、その人が嘘をついたのか、本気の言葉なのかが見抜けるようだ。ふむ。大変珍しく、貴重なスキルだね。しっかり使いこなせるように宮廷の仕事の補助をすると良いでしょう。紹介状を書きますが、それで宜しいかな?」
「ええ。お願いします。」
一緒に来てくれた祖母が、ここでようやく笑顔を見せたことで、安心感から眠たくなってしまった。
「出来れば周囲に漏れないように出来ますか?宮廷仕事だなんて知られたら、“周囲の人“に“刺激“をもたらしますでしょう?」
「そうですな。嫉妬されると面倒ですしな。バレないようにするのが賢明です。内密にことを運びましょう。」
祖母と鑑定士はボソボソと話し合い、ウトウトしている間に祖母が全てを終わらせていた。
この時の話し合いに参加しなかったことを、この後すぐに私は後悔することになる。
珍しいスキルが生えたことを出来る限り内緒にするのは、家族に対しても同じだと言うことに、子供だった私は思いもしなかったのだ。
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「で、思い出せたかな?」
リカードの声で、昔の記憶にダイブしていた意識が現在に戻る。
「あ、すみません。あの、はい。鑑定士の方に、その、教えていただきました。」
あの後、幼かった私は生えたスキルは珍しいものだったのだと、褒めてもらいたくて母に言ってしまった。
祖母はそんな私に心底驚いた顔をしていたから、帰りの馬車で「周囲の人にもスキルのことは内緒にしておきなさいね?」というセリフにあった、“周囲の人“に“母親“が含まれていたことにその時ようやく気が付いたのだ。
そう言えば、あの時の母はどんな顔をしていたっけ…。
「その時、鑑定士の補助役がいたの覚えていない?」
「補助、役?」
言われてみれば、うっすらそんな人が居たような、居なかったような…。
「その補助役、自分だったんだ。珍しいスキルを持った子が来るかもしれないって聞いて、あの場に立ち会いたくてあの場に行ったんだよ。結果見事に貴重なスキルだった!素晴らしいよね!」
あぁ、リカード様。
それは一目惚れなのではなく、大変珍しいスキルに出会えた喜びだったのではありませんか?
そう言葉にしたら、その言葉に対しての表情や声を聞いてしまったら…
結婚して欲しいなんて言葉自体が、私ではなくスキルに向いていると知ったら?嘘だったと気がついてしまったら…?
私の虚偽認識のスキルは自動発動型。
私の意思や気持ちを汲んではくれない。
今の幸せを逃したくなくて、私は言葉を飲み込み、リカードの声が聞こえないように静かに耳を塞ぐ。
貴方はこのスキルに惚れたのね?
貴重なスキルを手放したくないだけなのね?