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SF作家のアキバ事件簿204 ザ・ガールズ

作者: ヘンリィ

ある日、聖都アキバに発生した"リアルの裂け目"!

異次元人、時空海賊、科学ギャングの侵略が始まる!


秋葉原の危機に立ち上がる美アラサーのスーパーヒロイン。

ヲタクの聖地、秋葉原を逝くスーパーヒロイン達の叙事詩。


ヲトナのジュブナイル第204話「ザ・ガール」。さて、今回はゴスロリのスーパーヒロイン殲滅テロリストが出没。秋葉原のヒロイン達に戦慄が走ります。


ネオナチブームで高値のついた絵が消え、殺人も起き、背後に異次元人スーパーヒロインの影がチラつき…


お楽しみいただければ幸いです。

第1章 囚人強奪

万世橋(アキバポリス)の捜査本部。


「ねぇみんな!ちょっと手を止めてくれ!」


一斉に腕をグルグル回し出すヲタッキーズw


「はいはい、笑える。せっかく僕の新作コミックにサインしてあげようと思ったのに」

「テリィたんがコミックを描いたの?」

「違うょ。僕のSF小説のキャラクターがコミック化されたんだ。コミックと言えば、日本のアニメではセーラームーンがコミック化されたけど、もう古い。そこで"将軍"のマミー賞受賞を記念して、日本SFから新しいコミックヒロインを誕生させたワケさ。彼女達の名は"令和戦隊セーラー地下鉄ジャー5"だ!」


刷りたてのコミックをみんなに見せる。


「コミック第1巻"死の地下鉄戦隊"が発売されるコトになりました。パチパチパチ」

「すごーい」

「やるじゃない」

「だろ。だから、ラギィにも見せたいんだけど」

「警部は、今週もまたクウドに会いに蔵前橋(刑務所)に行ってるわ」

「そっか」


僕は、パルプ雑誌をマネたペラペラのコミック本をパタンと伏せて、ラギィのデスクに腰を下ろす。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


蔵前橋にあるスーパーヒロイン専用重刑務所の正面ゲート。ラギィ警部を陽気?な刑務官が出迎える。


「ようこそ。いや、お帰りなさいかな?」

「ライカ刑務官。こんにちわ」

「今日もサイコパスに会いに?」

「いいえ、違うわ」

「タトゥだらけのテレパスも入荷した。オススメだよ。未だに身の潔白を主張してる」

「やっぱり、いつものハルロ・クウドにするわ」

「さすがお目が高い。呼んでくるよ」

「ありがとう」


刑務官は、今どき珍しい所内用の黒電話の受話器を取り上げる。


「刑務官のライカだ。隔離房64317、ハルロ・クウドに面会だ…何?どーゆーコトだ?ラギィ警部、ハルロ・クウドは隔離房を出たと言っているが」


受話器を押さえてラギィに伝える刑務官。


「今、どこ?」

「1時間前に一般房に移送されてる」

「何てコト?!」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


蔵前橋刑務所の囚人服は、オレンジ色のツナギだ。上半身はハダけて黒ブラやTシャツ姿も多数いる。

隔離房から一般房に生還した者は英雄扱い。囚人達は手を叩き歓声で迎える。その中を歩く無口な女。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


「彼女は隔離していないとダメなの。すぐ独房に連れ戻して!今すぐ!」

「わ、わかったが、慌てる必要はナイ」

「慌てて!ハルロ・クウドは、一般房にいるゲイマ・カリスの命を狙ってる。彼女が危ないわ」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


一般房。簡易ベッドに腰掛けてるゲイマ・カリス。


「遅かったじゃないの。いつか貴女が来るとわかってたわ」

「少しだけ、時間をあげる」

「ありがたいわ」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


緊急ブザーが鳴り響く中を、ヘルメット姿に防弾チョッキで完全武装した特殊部隊が突入スル!

慌ててホールドアップし道を譲る囚人達。特殊部隊の最後尾にラギィ警部。階段を駆け上がる。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


「ちゃちゃっと終わらせて」

「任せて」

「横にならせてもらうわ」


聖書を胸に簡易ベッドに横たわるゲイマ・カリス。その顔に布を被せナイフを抜く女。目を瞑る囚人。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


特殊部隊が踏み込むと、血染めのナイフを手に立っている女。ポトリとナイフを落とし手を挙げ投降。


「捕まえて!」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


万世橋(アキバポリス)捜査本部が立ち上がる。


「一体どういう経緯で一般房に移ったんだ」

「ソレが…何かの手違いではなさそうよ」

「とても残念だ」


僕は溜め息。ラギィは首を傾げる。


「テリィたん、何が?」

「ハルロ・クウドは女ゴルゴ、凄腕の暗殺者(スナイパー)でラング・リーンとゲイマ・カリスを殺した。2人とも元ロリィタで、ラギィのお母さんの事件に関係している。コレで捜査は行き詰まりだ」

「いいえ。違うわ。コレは新たな手がかりよ。ハルロ・クウドは4ヶ月間、黙り込んでいたのに、ココでようやく動きを見せた。私は、この動きをずっと待っていたの」


割り込むヲタッキーズのエアリ。あ、因みに彼女はメイド服だ。何たってココは秋葉原だからね。


「ハルロ・クウドの移送を許可したサインは偽造だったわ。因みに、蔵前橋でサインを偽造が出来るのは刑務官だけ」

「賄賂か脅迫ね。刑務所の全職員の経済状況を調べて。ローンの返済や養育費の支払いが滞ってる人はいない?ハルロ・クウドに手を貸すとは、かなりヤケクソになってるハズょ」

「ROG」


調べに走るヲタッキーズのエアリ&マリレ。あ、因みにマリレもメイド服だ。だって、ココは(以下略)


「ほらね、進展したでしょ」

「おい。ラギィは何処へ行くんだ」

「ハルロ・クウドの罪状認否があるの。少し挑発してみるわ」

「彼女には効かないさ」

「挑発するのは彼女じゃなく彼女の依頼人ょ」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


夕暮れ。蔵前橋の面会室。金網の向こうにクウド。


「ラング・リーンの次は、ゲイマ・カリス?ゴスロリ達を全員殺すつもりなの?それとも、蔵前橋で殺人を起こせば私がビビるとでも思った?状況は何も変わらない。貴女の依頼主は"分水嶺"を越えた。ずっと隠れてはいられないわ」


鼻で笑うハルロ。


「いいえ、お嬢ちゃん。ずっと隠れていられないのは貴女。お嬢ちゃんの方ょ」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


秋葉原地裁。


「全員起立。審理を始めます」


凛とした声が飛ぶ。裁判長が着席スル。


「ご着席ください」


警吏がオレンジ色の囚人服の女を連れて来る。


「番号27。秋葉原特別区(D.A.)対被告。身元不明。自称ハルロ・クウド。罪状認否から始めます。記録のため、代理人は名前をお願いします」

「エイブ・ザスマ。ハルロ・クウドの代理人です」

「秋葉原特別区(D.A.)刑事裁判、事件番号2061-2488…」


判事補の読み上げと同時に、傍聴席に女が2人入って来る。被告席のハルロ・クウドが振り向く。


「ラギィ、どうした?」

「わからないわ。でも、あの2人、何か変」

「だな。あと法廷警官のカラーピンがクロムだ。リアルは真鍮なのに」


だが、公判はチャカチャカと進む。


「ハルロ・クウドさん。起訴状の朗読は省略しますか?」

「はい」

「では、貴女は無実を主張しますか?」


裁判長の問いに答えズ、振り向くハルロ。


「今ょ」


傍聴席の2人の女が前後に何か投げる…音響閃光手榴弾(スタングレネード)だ!


「テリィたん、伏せて!」


光の大爆発。続いて200dBの大音響。ラギィが僕に覆い被さる。遠くで音波銃の甲高い乱射音。不用意に立ち上がった傍聴者がキリキリ舞いして倒れる。


「テリィたん、大丈夫?」

「何だ?ラギィ、聞こえないょ!」

「キャー!」


廊下から悲鳴。僕を放り出し廊下に飛び出たラギィは平衡感覚を喪失、廊下に崩れ落ちる。床には…


「手錠?犯人はどこ?」

「あっち。逃げたわ。追って!」

「ヘリボーン?」


何と裁判所の中庭にヘリコプターがホバリングしている。爆音がスゴいハズだが、何も聞こえないw


「足を止めるな!急げ!」


オレンジ色の囚人服の女がシートに転がり込むやヘリは離陸、摩天楼の谷間を縫うようにして飛び去る。


第2章 ラギィはご機嫌斜め


捜査本部でヲタッキーズ(メイド達)とヒソヒソ話。


「ラギィの様子は?」

「自分の目の前で重要参考人が逃亡した。当然落ち込んでるわ」

「裁判所にいたニセ警官は何者だ?顔認証にかけたんだろ?」

「ヒット無し」

「じゃヘリは?」

「レーダーを避け1000フィート以下をNOE(地形追随飛行)


腕の良いパイロットだ。


「でも、ヘリは乗り捨てたハズだ」

「高層タワー屋上のヘリポートを片っ端から調べてる。でも、今のトコロ何も見つかってないわ」

「今、メールを転送したけど、刑務所での通話は録音されていて、コレクトコールしかかけられない。どうやらハルロ・クウドは、毎週同じ番号にかけてたみたい。相手は毎回コレクトコールを拒否してたけど、4日前にようやく出た。会話を聞く?」


モチロンだ。


"家族は元気?"

"えぇ。ケーンとマリィは?"

"元気ょ"


「何コレ?相手の電話番号は?」

「プリペイドだった」

「ケーンとマリィは誰かを至急調べて」


ラギィが口を挟むw


「あのな、ラギィ。ケーンとマリィは人の名前じゃナイ。SATO用語で"任務続行"の意味だ」

「任務って…ゲイマ・カリス殺害のコトじゃないの?でも、ただ殺すだけなら一般房にいる奴を雇えば良いのに」

「うーんゲイマ・カリスの殺害は、ハルロ・クウドが脱獄するための手段だったんだじゃナイか?」


腕を組んで唸るラギィ。


「他の誰かを狙わせるために、誰かがハルロ・クウドを脱獄させたと言うの?」

「カモな。でも、ターゲットは誰だ?」

「…私ょ」


え。想定外の答えw


「違う。ターゲットがラギィなら裁判所で殺せたハズだ。ソレに…ラギィのお母さんは、マフィアの上訴を請け負って殺された。その彼は、潜入捜査官(アンダーカバー)殺しの罪を着せられてたンだょな?でも、真犯人は、人類主義者でスーパーヒロインを拉致しては、身代金をとって独自に制裁を加えてたロリィタ達だった。そして、そのロリィタ達の、さらにその上に黒幕がいる」


ホワイトボードを指差す。


「黒幕は、驚くべき慎重さで、あらゆる手段を使って自分の身を守ってる」

「正体を知ってる人はいないの?」

「いる。3人目のロリィタだ。潜入捜査官が殺された夜、ラング・リーンとゲイマ・カリスといたロリィタ。この3人目のロリィタは黒幕を知っている」

「そして、脱獄したハルロ・クウドのターゲットは、そのロリィタね」


who dose ハルロ・クウド work for?


「ロックウッドの雇い主?警察の報告書は調べたけど、そんなコト、何も書いてないわ」

「もう万世橋(アキバポリス)の報告書に描いてあるコトは当てにならナイ」

「どーゆーコト?」


ココでラギィのスマホが鳴動。席を外すラギィ。捜査本部のモニターにSATOのレイカ司令官が映る。

あ、南秋葉原条約機構(SATO)は"リアルの裂け目"由来の脅威に対抗スル人類の防衛組織。レイカは司令官。


「ラギィ警部に警護をつけるわ」

「ラギィは嫌がるな」

「じゃ本人には黙ってて。ハロル・クウドがどんな奴かわかったでしょ?それからハロル・クウドを見つけたら躊躇せずに撃って。あんなクソ野郎に裁判は必要ナイわ。OK?」


ラギィが戻って来る。


「乙女ロード署からよ。ヘリが見つかった」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


乙女ロードの…お世辞にも高層タワーとは呼べないビルの屋上ヘリポート。ヘリの弾痕を見るラギィ。


「この匂いは何だ?」

「漂白剤ょテリィたん。指紋とかの証拠隠滅に使われてる」

「ヘリはオーナーの知らない内に使われていたそうょ」


ヲタッキーズのマリレの報告。


「ラギィの撃った弾痕がなかったら、脱獄に使われたとは、誰も気づかなかったカモな。誰のヘリ?」

「外資系のヘッジファンドマネージャー。今は小笠原沖でセーリング中」

「身元調査をして。ヘリポートで働く人も全員」

「ROG」


文字通り飛び去るヲタッキーズ。


「なんで今なの?ハルロ・クウドは何ヶ月も蔵前橋にいたのに、なんで今になって…」

「そもそも、何かしようと思えば、計画を立てて、人を集めるための時間がいる」

「そういえば、建物の外に防犯カメラがあったわ。運が良ければ何か写ってるカモ」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


その夜の"潜り酒場(スピークイージー)"。僕は推しのミユリさんにラギィからもらった画像を見せる。


「ラギィのママの画像ですか?ラギィは、他の事件は解決してるのに、自分は苦しみから解放されないなんて」

「僕のSF小説なら、正義が勝ち、悪は罰せられるのにな。残念ながら現実はそうもいかないんだ」

「あら。おかえりなさいませ、ご主人様」


潜り酒場(スピークイージー)"のメイド長でもあるミユリさんが声をかける。上品な初老の男が立っている。


「こんにちわ。私はラギィの父親だ」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


ソファ席へ移動。


「"テリィたん君"の良い噂は、娘からいつも聞かされている。初めて会った気がしない」

「マジ…ですか?」

「リアルだ。それで娘の様子は?」

「ラギィは、感情は表に出さない人だから」

「そうだな。子供の頃も明かりを全部消して寝ていた。ホントは暗闇が怖いくせに、プライドが高くて、恐怖に打ち勝つ訓練だとか言ってたな」


枯れた笑い声が上がる。


「娘が今、追っている相手は危険な連中か?」

「YES。殺しのプロです」

「そいつを見つけたらどうなる?私は、この件で既に妻を亡くしている。何年もかけて、妻の死をようやく乗り越えた。だが、娘は違った。私の言うコトは聞かず、自分の命よりも事件の解決を優先している」


立ち上がるラギィのパパ。


「娘は、君に惹かれている。ソレは、誰の目にも明らかだ。もし、君も娘に引かれているなら…娘を死なせないでくれ」


惹かれてるって…元カノだけどな。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


捜査本部。デスクワーク中のラギィにスタボ(スターボックス珈琲)のグランデカップを差し出す。顔を上げるラギィ。


「眠れた?」

「全然」

「僕もさ。聞いてくれ…」


話の途中でマリレが駆け込む。こら!


「刑務所関係者の経済状況を全員調べたわ。ライカって奴には借金があって、家賃も払えてナイ。クレジットカードも止められてる」

「え。ライカなら知ってるけど」

「裏の顔があった。ハルロ・クウドが一般房に移送される前日に、誰かから電信送金で500万円を受け取ってる。しかも、今日は欠勤」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


ドアを蹴破る!ライトと拳銃を手に突入するラギィ警部率いる万世橋(アキバポリス)の警官隊。


万世橋警察署(アキバP.D.)万世橋警察署(アキバP.D.)!」

「動かないで!手を挙げなさい!」

「ライカ、早く!」


ロッキングチェアに後ろ向きに座っているライカ。


「行って」


警官隊が前に回ると…額を1発で撃ち抜かれているw


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


殺人現場に急行。念のため僕は対サイキック用のヘッドギア着用。サイドにSF作家と大描きしてアルw


「ライカの後頭部を撃った弾丸は、頭蓋を貫通して向かいの戸棚に着弾してたわ。恐らく死亡時刻は昨夜の9時頃」


僕のタブレットをハッキングして、ラボからリモート鑑識してくれてる超天才のルイナ。助かるょ。


「ハルロ・クウドが蔵前橋から電話した相手とライカ刑務官も通話してるわ」

「きっと報酬の交渉だわ。危ない橋を渡ったわね」

「司法省に聞いてみた。ライカが受け取った500万円は、スイス銀行の秘密口座から上海のヲフショア口座を経由して入金されてる」


スイス銀行?上海のヲフショア?


「一体何者なんだ?」

「常に捜査の先手を撃って来てる」

「路地裏でスーパーヒロインを暴行しては身代金を稼いでたロリィタ達の罪を隠蔽スルにしちゃ大掛かりだな」

「もっと大きな何かが隠されてる。先ず事件の黒幕が誰かを突き止めないと。ライカの家族や同僚に最近親しくなった人はいないか調べて」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


万世橋(アキバポリス)の会議室。ライカの同僚から事情聴取。


「貴方がライカ刑務官と出会ったのは?」

「そうだな。彼が刑務所に配属になる10年ほど前だ」

「職場で誰かとトラブルは?」

「いや、全くなかった。同僚からは好かれていたし、対応が丁寧だから受刑者達にもウケが良かったょ」

「最近親しくなった人はいなかった?恋人とか?」

「いなかった。実は、ラギィ警部。奴は貴女をデートに誘おうと狙ってたのさ」


何だソレ?モテモテだなw


「ライカが金に困ってたって知ってた?」

「いいや。そんなコトは言ってなかった。私は彼とは1番親しかったハズだが」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


万世橋(アキバポリス)の捜査本部。


「誰に聞いてもライカは評判が良いわ。金に困ってたコトは誰も知らなかった」

「例のプリペイドのスマホにかけた以外、新しい知り合いと通話した履歴もナイ」

「ヘリポートの防犯カメラも手がかりナシ」

「つまり、手がかりは何もナシってコトね。何を調べても、どこへ行っても行き止まりじゃない!」


ヒステリックなラギィの声。みんな後退りw


「でもさ。脱獄犯達は、なぜ評判の良いライカに手助けを依頼したんだろう?」

「金に困ってるから何でもヤルと思ったんでしょ」

「金に困ってると、どうやって知ったんだ?」

「私達と同じ方法で調べた?」

「ソレが出来るのは誰だ?」

「警官か、元警官だわ」

「とゆーコトは、3人目のロリィタは狙われてるんじゃない。そいつがハルロ・クウドを雇ってる。3人目のロリィタこそが黒幕なのょ!」


ホワイトボードの前で声を張り上げるラギィ。


「ラング・リーンとゲイマ・カリスの名前が書かれている書類を全て調べて!」

「もう調べたわ」

「何もなかったの」


口を揃えるヲタッキーズ。ソレを遮ってラギィw


「違うわ!逮捕の時の報告書だけじゃなくて、勤務評価とか…」

「だから、全部見たって。その中に3人目のロリィタはいなかった」

「もう一度調べるの。何か見つかるまで調べて」


呆れるヲタッキーズ。


「ねぇラギィ。犯人を捕まえたいと思うのは、私達も全員同じ…」

「いいえ。私ほど必死に捕まえたいとは思っていないわ。黙ってもう1度調べてょ!」


肩を怒らせ歩き去るラギィw


第3章 3人目のロリィタ


捜査本部の会議室。書類が山積みだ。


「どうなの?」


モニターからSATO司令部のレイカ司令官が催促スルと、書類を放り出し大きく背伸びをするエアリ。


「3人目のロリィタなんているんですかね」

「殺し屋を雇ったり、スイス銀行の秘密口座から送金したり…こんな計画、ロリィタに出来るハズがナイわ」

「彼女達は、長年スーパーヒロインを拉致しては暴行を加え、身代金を受け取っていたんだょな。金はあったハズだ」

「その通りょテリィたん。つまり3人目のロリィタは、女ゴルゴ級のハルロ・クウドみたいな凄腕の殺し屋を雇える財力が十分にアルってコト。エアリ、捜査を続けて」


モニターから発破をかけられてるとマリレが帰って来る。手には輸入ビールの紙ケースとコーヒー(僕用w)。


「あ、あら?レイカ司令官、いたの?マズかった?まだ勤務時間中だっけ?」


慌ててビールを隠す。


「許可スルわ。じゃ私はコレで…」

「では、夕食代わりってコトで。わ!冷たい。キンキンに冷えてるわ」

「死体安置室で冷やしておいたの」


思わずビール瓶をじっと見る。


「エアリ、気にするな。ラギィは?」

「着信を無視された。何か資料をつかんで飛び出してったきりよ」

「自分を見失いそうになってる。コレで収穫がなかったら…」


僕は、大好きなパーコレーターで淹れたコーヒーを飲みながら、ボンヤリ書類を目を落とし…気づく。


「よく書類に名前が出て来る、このナポリ・ターノって誰だ?」

「彼女は、3人目のロリィタじゃナイわ。アンダーカバー殺害の夜は娘の結婚式だったし」

「今はどうだ?」

「昭和の終わりに心不全で亡くなってる。どうして?」

「逮捕したのは彼とナポリ・ターノになってるけど、明らかに書類が改竄されてルンだ」

「改竄?」


ラッパ飲みしてた小瓶を口から離すエアリ。


「僕は、昭和のワープロには詳しいんだ。古いワープロのインクリボンだと活字に線が見える。でもフィルムのインクリボンにはソレがナイ。誰かがもともとココに描いてあった名前を消し、コピーしてからナポリ・ターノの名前を入れて改竄してる。つまり、この報告書は改竄されてるのさ」

「マジ?」

「僕は昭和の頃、何度も稟議書を改竄したプロだ。ココにある書類もいつ改竄されるかわからない。でも、こうしておけば証拠は残せる」


投影画像をパシャリ。


「レイカ司令官に見せよう」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


レイカ司令官は呆れる。


「ロリィタ達は、こんな隠蔽までしてスーパーヒロイン誘拐の証拠を消してたと言うの?しかし、警察の資料管理ってズサンなのね」

「他にもナポリ・ターノの名前が2枚アル。2枚ともデジタル化以前のペーパーだ」

「…何千人もの警官が出入りしてるのね。でも、資料室に入った警官に絞って調べた?当時の資料室の担当を洗って…何?」


僕の視線に気づくレイカ。


「レイカ。任務続行ってハルロ・クウドは誰を狙ってるのかな?」

「ラギィなら優秀な警護をつけたわ」

「相手は女ゴルゴだぞ。次にラギィを見かけたら、彼女は必ずラギィを殺す。良くて相打ちだ。なぁラギィを担当から外せょ。万世橋(アキバポリス)を捜査から外して、SATOの単独捜査に切り替えたらどうだ?スーパーヒロイン殺しはSATOの管轄だろ?」


レイカは暫し沈黙、そして語り出す。


「私とラギィとの出会いを知ってる?」

「まさか、レイカの元カノじゃナイだろうな」

「私は、用があって、桜田門(けいしちょう)の資料庫に行った。すると彼女がいたの。懐中電灯を片手にスーパーヒロイン殲滅組織"ザ・ガールズ"を調べてた。当時は、未だアンチ超能力者の過激派だったけど」


"ザ・ガールズ"は人類主義のテロリスト集団だ。スーパーヒロインを人類の進化を妨げるミュータントと見做して敵視、誘拐・暴行を繰り返している。


「彼女は、一介の巡査だったから明らかに規則違反だった。問い質すと母親の事件で不審な点がアルと話してたわ」

「ラギィの母親はスーパーヒロインだったのか?」

「まさか。未だ秋葉原に"リアルの裂け目"が開く遥か前の話ょ。よくて超能力者(エスパー)でしょ」

「なぜラギィを止めなかった」

「止めても無駄だからよ。目を見てわかった。この執念深さは、良い刑事になると直感したわ。今じゃ警部でしょ?」

「その執念に彼女自身が殺されようとしてる」

「私にラギィを止めるコトは出来ナイ。今のラギィを止められるのは1人だけ。ソレはテリィたん、貴方ょ」


言い捨てて歩き去るレイカ。SATO司令部の全員が僕を見てる。おいおい。いったい僕に何をしろと?


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


スチームパンク風のお洒落なドアをノックする。


「入るぞ」


何と鍵は開いてる。勝手に入ってマクしたてる。


「ラング・リーンとゲイマ・カリスを調べてみたら、君が言った通り発見があったよ。3人目のロリィタがいたんだ。だが、万世橋(アキバポリス)の報告書は、別の名前に改竄されていた。今、ヲタッキーズが書類管理の元警官を探している」

「テリィたん。そんな話ならスマホしてくれれば済むけど」

「そうだ。だが、ただ僕は…」


言葉に詰まるw


「テリィたん。言いたいコトがアルなら、早く言ってょ」

「ラギィ。この事件に関係した者は全員死んでる。全員だ。ラギィのお母さんにロリィタ達。次は君が危ない」

「SATOは、私に黙って警護をつけたでしょ?まさか、テリィたんの差し金?」


力強く否定スル。


「SATOの追跡チームは精鋭だけど、多分ハルロ・クウドは止められない。ラギィも知ってるだろ?相手は女ゴルゴ。プロの殺し屋だ。3年も一緒に捜査してルンだからワカルはずだ。いかに楽観的な僕でも、今回は悲観的にならざるを得ない」

「奴等は母を殺したのよ。私にどうしろと?」

「諦めろ」


絶句するラギィ。目を見開く。


「さもないと"黒幕"に殺されちまう。もしラギィが死んだら、ラギィを愛する者達がどうなるかを考えろ」

「…じゃ、じゃテリィたんはどうなの?」

「モチロン悲しいさ。ラギィは、1番大事な元カノで、パートナーで、ヲタ友だぜ?」


露骨にガッカリするラギィ。


「私達、そういう関係なの?」

「どういう関係かなんて僕にはわからない。キスをしても、冷凍庫に閉じ込められて死にそうになっても、そのコトについて一切触れない。僕とラギィがどんな関係かなんてわかるハズがナイ。だけど、ラギィの人生が…」

「YES!私の人生でしょ?テリィたんの遊び道具じゃないの。ねぇ面白がって私に関わり合うのは、もうヤメて。テリィたんと3年も一緒にいるけど、母の事件は全然解決してない。テリィたんは、いつもふざけているだけ」


マズいと思いつつ1線を超える僕。


「ラギィは、お母さんの事件が心の拠り所なんだ。解決が目的じゃない。事件自体がラギィの人生の一部になってる」

「何ソレ?私のコト、何も知らないクセに。貴方は私を知ってると思ってるだけ。元カノだからってナメないで」

「いや。ラギィは、お母さんの事件に逃げてる。ロクに愛してもいない男とダラダラ付き合ってるのもラギィの逃げだ。自分で不幸を選んでる。幸せになれるのに、君は怖がってルンだ」


逝い過ぎたとは思ったが、もう遅いw


「顔も見たくない。もう終わりよ。出てって」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


その夜の"潜り酒場(スピークイージー)"。イーゼルに載ったコミック本に向けてグラスを投げつける。


「テリィ様!一体どうしたの?何があったの?」

「ミユリさん、悪かった。僕が片付ける」

「そのイライラの原因は…ラギィ?」


お見通しだw


「ミユリさん。このママじゃ彼女は殺される」

「ラギィは大人の女で殺人課の警部です。どうぞ、彼女に任せて」

「もし彼女に何かあれば…」


慌てて口を塞ぐ僕。


「続けて、テリィ様。SF作家は妄想のプロでしょ?肝心な時に妄想に詰まるなんて。聞いて」


カウンター上の僕の手に手を重ねるミユリさん。


「推しから一言アドバイスです。テリィ様は残りの時間を1分たりとも無駄にしちゃダメ」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


同時刻。SATO司令部でレイカ最高司令官に食ってかかる万世橋(アキバポリス)の敏腕警部ラギィ。


「レイカ司令官。ヲタッキーズ、就中、テリィたんには耐えられません。限界です」

「そうするわ。わかりました」

「え。何?」


慌てるラギィ。


「ヲタッキーズ、就中、テリィたんを事件から外す」

「で、でも。ヲタッキーズ、就中、テリィたんは、秋葉原特別区(D.A.)の署への配置は、大統領命令じゃないんですか?」

「YES。官邸から命令は出てる。でも、現場運用の決定権は私にある。わかってるでしょ?」


ラギィにスキレットを渡すレイカ。1口煽るラギィ。


民間軍事会社(PMC)は、ヲタッキーズ以外にいくらでもアル。スーパーヒロインが立ち上げたPMCも多いわ。テリィたんのコトは、何年も前に追い出せたけど、貴女との相性が良いからヤメたの。履き慣れた靴は足にピッタリ」


スキレットをもう1口煽るラギィ。


「ラギィ。貴女は、私が出会った中で最高の警部ょ。でも、テリィたんと出逢うまでは楽しそうじゃなかった。ねぇラギィ。私達は"リアルの裂け目"に落ちた人達の代わりに捜査をする。殺され、声を奪われた人達の声を代弁するのが私達の義務なの。でも、だからと言って、命まで賭ける必要はナイわ」

「テリィたんが、諦めろと私に言ったの!」

「私が言えと言ったの。私は、長年SATOの司令官をやってるけど、毎日が勝ち負けのない戦いょ。勝つコトは目的ではなく、自分の立場を示すコト。ソレが大事なの。私は、貴女の立場を知った。ソレを私も支持スルわ」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


「ホントに犯人はロリィタなの?こんなコトをスルお金があるの?」

「ねぇコレを見て。マクヤ・ナビチ。2015年から2018年。万世橋(アキバポリス)の記録室に配属されてる…ソレにラング・リーンとゲイマ・カリスと同じロリィタだった」

「3人目のロリィタ?今は何やってるの?」

「引退した後、お台場ビーチに引っ越してるわ」


PCに古い身分証明証の画像が出る。


「明日お台場警察に聞いてみるわ。必要なら現地に行っても良いわ」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


ハルロ・クウドの声だ。


「彼女が非常に残念がってるわ」


スマホを握りしめる…レイカ司令官。


「私達、みんな彼女と契約を交わしたわょね。その約束を忘れた?貴女が見張ってると言う約束だから、ラギィ警部を生かしているの。ところが、貴女は、もう彼女をコントロール出来ていない。残念なコトに、ココで手を打たざるを得ないの」

「私にどーしろと?」

「あのね、貴女はこーするの。明日の夜、彼女の警護を解除する。そして、私達がヘリを乗り捨てた乙女ロードのヘリポートに彼女を誘き出して。どんな手を使っても構わない。後は私達が何とかスルから」

「くたばれ」

「選択肢は2つ。ラギィを生かすか、貴女が契約を守るか。あ、両方は無理ょ。だって、自業自得でしょ?ラング・リーンとゲイマ・カリスと貴女は、過去に"原罪"を犯した。私は、"原罪"を犯した貴女を罰するために、神から遣わされた使徒」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


テリィたん着信23件。溜め息をつくラギィ。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


音波銃にカートリッジを装填する…レイカ。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


「結局マクヤ・ナビチは、お台場ビーチに1年しかいなかった。その後、東秋葉原でバーを買い取ってる」

「え。年金暮らしでしょ?バーを買い取ったの?やたらリッチなんですけど」

「話を聞きに行きましょう」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


「はい、ラギィ…レイカ司令官?どうしました?」

「警部。進展があったわ。ヘリが乗り捨てられてた乙女ロードのヘリポートに来て。そこで説明スルわ」

「直ちに参ります」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


夕暮れ。東秋葉原が黄昏に染まる頃。


「貴女がナビチさん?私達、ヲタッキーズのエアリとマリレ。話せる?」

「え。マジ?リアルヲタッキーズなの?モチ、話せるけど1ドリンク入れて」

「お水」


マクヤ・ナビチは…大人ロリィタだ。


「ココは貴女のお店?年金暮らしでしょ。よく買えたわね?」

「職務中に音波銃で撃たれたの。傷害年金をもらってるわ」

万世橋(アキバポリス)で記録室の司書もしてたわね?」


マクヤ・ナビチは、怪訝な顔をスル。


「10年も前のコトょ。ソレがどうかした?」

「その間に警察の記録が色々と改竄されてるの」

「あり得る。当時は、今とは違って細かいコトを騒ぎにしたりはしなかったから」

「貴女は、ラング・リーンやゲイマ・カリスと同じロリィタ好きだったわね?」

「YES。でも、他にロリィタ仲間は40人もいたわ。ねぇ私だって2人が何をしたかは新聞で読んでる。でも、私は無関係。ただ、私がココを買う前、連中は、よく飲みに来てた。世間話ぐらいはスルけど」


エアリとマリレは顔を見合わせ、慎重に問い質す。


「誰か2人とつるんでた?」

「うーん新人のロリィタをよく連れてたわ。えっと確か写真がどっかにあった気がするけど」


壁に貼られた無数の写真を振り返る。中から、かなり古びれた1枚の写真をヲタッキーズに示す。


「確かコレだわ。名前は忘れたけど…そう、レイカ?確かレイカと名乗ってた」


セピア色の写真に写っているのは、仲の良さそうなロリィタ3人組だ。右端は…若かりし日のレイカ?


「レイカ司令官は、ロリィタ達を知らないと言っていたハズ…」

「でも、3人目のロリィタは…レイカ司令官だったの?まさか!」

「ねぇ!何てコトをスルの?ねぇ!」


エアリは写真を破り捨てる。怒るマクヤ・ナビチ。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


マクヤ・ナビチの店を飛び出すヲタッキーズ。ソコは地下アイドル通り裏の路地だ。


「ねぇ!ねぇエアリ、待って!」

「あの写真見たでしょ?3人目のロリィタはレイカ司令官だった。ロリィタ達を殺したり、書類を改竄したりした"黒幕"はレイカだったのょ!」

「ヤメて!よくそんなコト言えるわね。今まで散々世話になって来たのに」

「考えて。ハルロ・クウドを見つけたら撃ち殺せと命令したのは誰?レイカでしょ?ソレは自分の関与がバレるのを恐れたからょ。レイカは、ずっと私達をダマしてた。ラギィもテリィたんも、全員をダマしてた!」

「嫌ょ信じない!そんな話!」


去ろうとするマリレの肩に手をかけるw


「な、何?殴るなら殴って。早く殴ってょ!」


肩で荒い息をして、路地裏で睨み合う2人。


第4章 戦慄の神田明神


同時刻。乙女ロードのヘリポートに(たたず)むラギィ。今もヘリは駐機したママだ。


「レイカ司令官?」

「ココょ」

「え。何?」


黒い影法師が近づく。ラギィがスマホをチラ見。


"第3のロリィタはレイカ"


エアリからだ。戦慄するラギィ。レイカは、手にした軍用拳銃(ケロッグ19)を示す。フト背中に差した拳銃(シールド)に手を伸ばすラギィ。


「銃をしまってください、司令官」

「私は刑務所に行くワケにはいかないの」

「どうして?」


拳銃を手にしたママ語るレイカ。


「あの頃、私は未だロリィタ初心者で、ラング・リーンとゲイマ・カリスのコトを尊敬してた。あの夜、潜入捜査官(アンダーカバー)がいたのは想定外だった。彼女が私の銃をつかむと銃が暴発して、気づくと、彼女は倒れていた。私はラング・リーンとゲイマ・カリスから心配するなと諭された。東秋葉原ではよくあるコトだと。そして、彼女達は、その1件を酒で忘れようとした。でも、私は違ったの。仕事に打ち込んで忘れようとした。そんな中に貴女が現れた。神田明神の導きだと思ったわ」


両手を広げてみせるレイカ。


「だから、全力で貴女を守ろうと思った。貴女の母親を守れなかった代わりに」

「レイカ。貴女が私の母を殺したの?」

「違う。でも、私達の行いのせいで彼女は死んだ」

「じゃ誰が殺したの?」

「秋葉原の地下世界を知り尽くした存在。どういうワケか、その存在は私達ロリィタが犯した罪を知っていた。知っていたばかりか、スーパーヒロインを拉致して私達が手に入れた身代金を使って地位を築いて行った。ソレが私が犯した"原罪"であり、後悔なの」

「その"存在"の名前を言って。貴女には、その義務がアル」

「ダメょ。言ったら、貴女は復讐を試みるでしょ?そして、貴女は、いとも簡単に殺される」

「どうせ私を殺すつもりだったンでしょ?だから、私をココに呼び出したンでしょ?」


背中に回したホルスターの拳銃の感触を確かめながらレイカに近づくラギィ。しかし、意外な展開が…


「いいえ。貴女を呼び出したのは、連中を誘き出すためょ。貴女は、貴女の役目を果たした」

「え。奴等をハメるの?」

「YES。来たわ」


眼下の路地裏に車が止まる。人影が降車。


「ラギィ。貴女は逃げて。貴女を死なせるワケにはいかない。私が決着をつけます」

「私は、どこにも行かないわ」

「早く行くの。もう直ぐ奴等がココに姿を現す。テリィたん、ラギィを連れ出して」


闇に紛れた僕は、ラギィの背後に立っている。


「そのために、テリィたんを呼んだのょ。ラギィを連れて行くの。早く!」


僕は、黙ってラギィの肩に手を置く。


「レイカ!こんなコトをスル必要は無いわ!貴女が犠牲になる必要は無いの!」

「ラギィ警部。お願いょ」

「私は貴女を許すから!私は貴女を許します!」


瞬間、目をつむるレイカ。ラギィを抱き締める。


「レイカ!お願い。考え直して!なぜこんなコトを?」

「…テリィたん。早く連れ出して。ソレが出来るのは貴方だけ」

「レイカ、お願い!テリィたん、下ろして!だめ!放してょ!」


僕は、ラギィを抱き上げてエレベーターに消える。入れ違いに開いたエレベーターから人影が降りる。


「レイカ。彼女は何処?」

「遅かったわね、ハルロ。貴女には渡さない」

「あら。そーゆーコト?ねぇ馬鹿なコトはヤメて。冷静になって。どの道、ラギィは私達から隠れてはいられない」

「隠れていられないのは貴女達」


いきなり拳銃を発砲し影法師を次々撃ち倒すが、瞬間早く身を隠すハルロ・クウド。

レイカは拳銃を構えヘリコプターの中を見る。誰もいない。その時、背後に人影が…


銃声。さらに数発。


血塗れになり倒れたレイカは虫の息だ。マウントを取り、レイカの額にピタリと拳銃を当てるハルロ。


「SATO司令官の悲しい最後ね。貴女の生死に関わらず、彼女が死ぬコトに変わりはナイのに」

「…殺させない。手配は済んだ。お前も、私も、終わりょ。やっと…」

「何?」


銃声。さらに数発。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


神田明神の大鳥居を下り、墓地へと向かう葬列。ドラムマーチ。降馬した騎馬警官が先導する霊柩車。


「この夜のコトについて、誰も知る必要はないわ。私達以外は誰も知る必要がない。レイカはヒロインとして記憶される。それが、私達の義務」


正装に身を包んだラギィの言葉に僕達はうなずく。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


「…人類主義テロリストに襲われたレイカは、私の拳銃で最後の1人を撃ち倒した後、凶弾に倒れました」


見事な秋晴れの日。墓地でラギィの弔辞。


「私に人生の意味を教えてくれたのがレイカでした。ソレは警官としての、あるべき姿を教えてくれたコトに他なりません」


棺を包む国旗が折りたたまれ、遺族に渡される。


「レイカのおかげで、私は選択するコトの重要性を知り、失敗を恐れるコトもなくなりました。レイカは、私に話してくれた。人生とは、勝ち負けのない戦いだと」


ラギィは、僕をチラ見する。


「人生に勝ち負けはナイ。彼女は、そう言っていました。勝つコトではなく、自分の立場さえ示せれば、ソレが大事なのだと。そして、その立場を支持してくれる人がいれば、ソレがとても幸運なコトなのだと」


僕は、ラギィの向こうに何かがキラリと光るのを目にスル。何だろう…


「私達が戦い続けるコトをレイカは望むでしょう。もしそこに…」


その時、弔辞を読むラギィは照準スコープの赤い十字の真ん中にいる。


「ラギィ!」


銃声。胸を射抜かれるラギィ。白い警察正装がみるみる鮮血で染まって逝く。狙撃だ!


「何?どーしたの?」

「狙撃された!ラギィ警部、被弾!」

「伏せろ!危ない!」


大混乱の現場。僕は制止の手を振り解き、無惨に転がり、ピクつくラギィに駆け寄る。


「ラギィ!大丈夫か!死ぬな!」


ラギィの瞳から、みるみる光が失せて逝く。


「ラギィ、しっかりしろ!僕を置いて逝かないでくれ!しっかりしろ!」


瞳を閉じるラギィ。



おしまい

今回は、海外ドラマによく登場する"アンチヒロイン"をテーマに、スーパーヒロイン殲滅を誓うゴスロリテロリストを登場させました。そして、シーズン最終話的に新たなラスボス登場の予感、メインキャストの1人が姿を消す展開を描いてみました。


さらに、新たなラスボスは人類の進化を司る神的プレゼンスとして描いてみました。


海外ドラマでよく舞台となるニューヨークの街並みを、夏休み気分が消え、通年型の国際観光都市の輪郭を見せ始めた秋葉原に当てはめて展開してみました。


秋葉原を訪れる全ての人類が幸せになりますように。

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