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無双がフタリ  作者: 片喰
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無双がフタリ⑨

<続6 天使の本当は何処だ>

「藤ノ舞成。藤は、愉愉のこと嫌?」

 居間に布団を敷いて寝ている食百を、彼女の部屋に移動させ、任せろと言ってくれた頭兜に食百を任せ、夏牙達は居間に座っていた。

 藤ノ舞成は帰って来てからほとんど口を開いていない。顔はいつも通りだが香路島との距離がいつも以上に近い。香路島も、全てを理解していると言わんばかりに…確かに実際藤ノ舞成の考える全てを理解しているのだが、香路島は藤ノ舞成の側から動かない。

「嫌、では無いけど。あの子、かなりおかしいよ。」

 塗り潰した様な目。それを真っ向から夏牙は受け止める。今の藤ノ舞成に向けるには嫌味な程、彼の目は澄んでいた。この女郎花色が淀むことなど過去にも未来にも無いのだろうな、と藤ノ舞成は思った。きっと、アレを見ても、澄んだままなんだろな、と。

「ぼく等だけが感じてるのかなと思ったけど、その顔だと曙と鵺破もでしょ?もなももだって通常運転とは言えなかったんじゃないの?」

 動揺する曙と無視を決め込む鵺破。もなももは夏牙に助けを求めた。

「待て待て。藤ノ舞成、なんの話だ?」

「あの子と目があったとき、人殺しの感覚がした。」

「は?」

 丸くなった夏牙の目に染み込ませる様に、藤ノ舞成はゆっくり説明する。

「人を殺したときの感覚だよ。あの感覚があればね、多分誰でも人殺しが出来る。天邪鬼が自害したのだって、あの子の為なら殺せるって思ったからだよ。矛先が自分に向いただけ。」

「いや、は?何か?じゃあ愉愉と目が合ったら人殺しが出来ちまうって?おかしなこと言うな。何度も愉愉と目ぇ合っただろ。」

「いつものあの子ならなんとも無いけど、何かあの子の中で抑えが外れると、力を持つんだよ。見た人が、あの子の為ならなんでも出来るって思う様な、ね。」

 夏牙は俯いて、畳縁を見詰めていた。だが、畳など見えていないのは誰の目にも明らかである。

 憂いと信念が、瞳の中で巡っている。それでも女郎花色の目には、欠片も曇りが無かった。この人は綺麗な世界を見たいのだと言うけれどだったら鏡を見続けりゃいいのに、と香路島は、愉愉に対する困惑と驚きで、ほぼ投げ遣りに思った。

 夏牙が、顔を上げる。

「俺は、愉愉に、住んで欲しい。」

 彼は、引き取るとか預かるとか、そういった言葉を使わない。

「何も無いよう、俺が命を懸けて防ぐ。」

 他の人が言ったら枯れ葉みたいに軽く嘘臭くなるだろう台詞も、この人が言うと信じられるから流石だな、と曙は思った。

 彼女のときも、彼は己の身を躊躇無く使ったから。

「愉愉のこと、ちゃんと知る。だから、許してくれ。」

「夏牙がそう考えるのならば私は賛成だ。」

 曙に迷いは無かった。馬鹿馬鹿しそうに香路島は手を振る。

「出たよ、追随阿呆め。」

「やめろ香路島。だが確かに曙、俺も曙自身の考えが聞きたい。」

「私は愉愉が住んで良い。」

 夏牙は困った様に少しの間曙を見詰めていたが、結局は彼女が本心で賛成していると判断して、鵺破ともなももの方を見やる。

「鵺破ともなももは最初かラ賛成だってバ。」

「なあまあ。」

「ありがとう。…藤。香路。」

 二人は互いに顔を見合わせた。そしてどちらからとも無く肩を竦める。

「…まあ、俺が藤以外の為に人殺すとか有り得ないし。」

「まあね、ぼくだって香路以外の為に手ぇ汚さないもん。」

 夏牙はふと、二人は愉愉と言うよりは自分が怖かったのかも知れない、と思った。二人にとってお互いは特別で、代替不可能で、代替したくなくて、相手もそうであることを願う相手。その二人の前に、愉愉が現れたら。愉愉の為なら何でも出来ると思わせたら。

 自分達の関係が、壊れる気がしたのかも知れない。夏牙に確信は無い。違うかも知れない。彼にとってはどちらでも良かった。二人の間で消化出来るのなら自分が出しゃばる必要無いだろう、と夏牙は考えた。予想が当たってようと外れてようと自分は二人を全力で守る、と彼は決めていた。

 彼等がここを居場所に選んでくれたときから、ずっとそうしていた。


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