無双がフタリ⑦
<続5 天使のヤサシサ>
「やめろ。」
○
しょーがない。あーんな珍しい人、死なせたく無いし?
○
純黒の双眸には、ありとあらゆる色が混在していた。光と闇が、混沌とあった。
天邪鬼が愉愉の目を見る。愉愉には、天邪鬼が見えない。
やがて天邪鬼の丸い目に、悲しみと諦めが滲む。
「ほどぉがまぁやぁああ。」
「動くな。」
「りぃまあいうえるあぁまあ。」
ゆっくりと、噺に幕を下ろす様に、天邪鬼は地に頭を付けた。愉愉へ。そして天邪鬼は、自分で自分の頭を捻りもぎ取った。
地面に大量の血が流れて行く。
沈黙が続いた。その後で、新月が口を開く。
「……おわった、愉愉。仕事は終わった。」
「…ああ、そうですか。」
愉愉はふっ、と息に吐いた。
「じゃあ、今度こそ帰りますか。あ、新月さん怪我は大丈夫です?って、大丈夫じゃないですよね。」
「大丈夫だ。もう治った。」
愉愉は新月の足やら腕やらを見、
「本当だ、凄いですね。」
「ただの体質だ。」
「皆さんは?大丈夫ですか?」
すぅと、愉愉が香路島達に目をやる。
途端、香路島達は煮えたぎる様な強い感情に困惑した。畏怖。敬愛。独占欲求。凄い。恐い。愛してる。美しい。見て欲しい。
この方が喜んでくれるなら、何でも出来る。
「…。」
僅かに眉を歪め、愉愉は目を逸らす。呪縛が解けた様に感情が自分のものに戻った。
香路島は無理矢理肺に空気を詰め込んだ。
こいつは、本当に何者なんだ?と、愉愉を見るが、答えは、見つからない。
「愉愉?どうした?」
きょとんと新月が愉愉を見た。愉愉は新月だけを視界に入れて答えた。にっこりと。
「え?なんでも無いですよ。」
空にはいつの間にか、鈍色の曇が拡がっていた。
愉愉は、紫のヒヤシンスが描かれた紙を地面に置いた。紙はすぐに邪物の血に染まった。