無双がフタリ㊳
<23 天使は何処>
結局、龍達は巻き込みたくないというのと、もなももは体力温存が必要ということで、全員徒歩だった。家並みの高さで棘付きの塀は、陶真薬の救出の際に曙と攻略済みだ。夏牙は手際良く縄を投げ棘に引っ掛けて、それで登り始める。
「オっ先〜。」
「よっと。」
そのすぐ横をもなももに乗った鵺破と、翼を出した新月が高速で通り過ぎる。
「おい中には入るなよ。見回りの人達がいる。」
藤ノ舞成、香路島、曙、夏牙の四人が棘を避けて塀から下りたときには、彼等は見回りを五人程気絶させていた。
隣国風の煉瓦の館は、夜ということもあり重々しい雰囲気がある。が、鵺破ともなももはそんなことお構い無しの笑顔だった。
「ぽくとまあ。」
「大丈夫ダヨ、夏牙は甘チャンだカラ、これぐらいジャ怒れないヨ。」
「聞こえてるぞ〜。」
とは言え緊急事態。夏牙とて、見回りの人達には打撲や骨折の一つ二つ我慢して貰うつもりである。
「地下だ。行こう。」
陶真薬はボロボロの倉庫の中にいたため楽だったが、愉愉はそうはいかない。何故捕らえられたのかは分からないが並みの神降ろしの力しか無い陶真薬と、人技とは思えないことをする愉愉とでは、扱いが変わるのは目に見えている。
「これは新月を捕まる為の罠だ。俺等は腹が立つから乗ってやったが、危険なことには変わんねぇ。…気ぃ引き締めろよ。」
香路島の言葉通り、きっと悪路に
「…来レちゃッたヨ…。」
悪路にはならなかった。
一行はそう時間をかけずに書斎に入っていた。華読の話では、ここに地下の入り口がある。
「夏牙、本棚の後ろに扉がある。神降ろしの力の気配もあるぞ。」
「俺が最初に入る。」
止める曙を退けて、細く開いた戸の間に身を滑らせる。今まで何も無いならば、ここに華普達は全てを掛けたとは、全員が理解していた。だから、残された全員が間髪入れずに夏牙に続いた。
夏牙は部屋の隅を睨み付けていた。
「一助、だったかなあ。」
「あれ、早いな。」
がらんとした地下室には、壺が一つと、男が一人。
砂色のひとつ結び。紫檀色の瞳。白昼夢でも視ている様な曖昧な微笑。
「やあ、新月。久し振り。大きくなったね。」
「どうでも良い。愉愉は何処だ。」
新月の元、父親である。




