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無双がフタリ  作者: 片喰
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無双がフタリ②

<2 天使は邪物に愛される>

「それで、俺が居候している家に来るか聞いた。愉愉の反応が遠慮しているようだったから、無理矢理引っ張って来た。」

「説明が足りねえ。」

 立ったまま壁に寄りかかった新月に合わせてか、夏牙(げが)は机に腰掛けている。

「ソウダッタカー。」

「わざとらしいぞ、新月。俺はなんであの子を連れて来たのかを詳しく聞きたいんだ。」

「ナルホドー。」

 夏牙のだみ声に棒読みを返す。

 夏牙の言う"あの子"とは愉愉のことだと容易に分かるし、連れて来た理由を夏牙が知りたがっているのも分かった。だが、新月は正直説明が面倒だと思う。新月自身、なぜ連れて来たのか、深くは分からないから。

「十五、六だろうな。頭おかしくなってんのか、あの子。異世界、とか言ったんだろ?」

 "言ったんだろ"と言うのは、夏牙はその言葉を愉愉からは聞いていないからだ。

 新月が住んでいる神社の隅の家に連れて来た途端、愉愉は花に気付いて庭へ飛び出したのだ。慌ただしいながらも、夏牙に庭へ出る許可を取っていたのは可笑しかった。

 風世飲帝国(かざよいんていこく)の神社は、悪環境下の子供の中でも訳ありの子供を保護するのが役割の一つで、新月も元はこの神社に保護された子供だ。両親に捨てられた新月を、流れ者の邪物殺しの女が拾った。しかし、数年世話になった頃に女が自分を闇市で売ろうとしていることを知り、女の下を出た。女から教わった邪物殺しの仕事でその日しのぎの金を稼いでいるところに現れたのが、夏牙である。彼は神主として、新月を拾いに来たのだ。他の神主ならば近くの子供しか拾わぬのに、夏牙は新月の噂を聞いてわざわざ会いに来たのだ。野次馬精神でも、損得勘定でもなく、幸せにしてやりたいという考えで。呆れる。

 そのように拾われた子供の内、九割は成人後無事社会に巣立つのだが、一割はそうでない。一割の中でも、神社の敷地の隅にあるここに留まり続ける奴は数人だった。一割の中の大体の奴は、ここに近い家でここ経由で仕事をすることで生活している。

 ここ経由で出来る仕事は一つ。邪物(じゃぶつ)殺しだ。

 国が危険種に指定している種、もしくは国に危険だと判断された個人が邪物。種自体が指定されているものは毎年危険種対策ノ会で議決されるのだが、指定される種が変わることは稀で、儀式的なものだ。一方、個人が指定される場合は、貴族一人か平民十人の願い書が必要となる。

 その邪物を処理するのが邪物殺しの仕事だ。本来らなば殺さずとも、人間に仇なせない程度に痛めれば良いとされるが、通称は昔から邪物殺しである。まあ実際殺すことがほとんどだからな、と新月は思う。彼も邪物殺しであるため、実態は重々承知していた。

 彼の恩人たる夏牙が、正式名の邪物駆除ではなく邪物殺しと呼ぶことも。それが彼の贖罪意識から来ることも。

「と言うか!なんだアレはあ!」

「何、とは言わずとも分かるだろ。邪物だ。」

 白雪の岡から付いて来た邪物が、花を描く愉愉を囲んでいた。

「んなこた知ってる!俺はなんで邪物もぞろぞろ連れて来たのか聞いてるんだあ!」

「それは置いておくとして夏牙、」

「置かない!」

「あの邪物達、大人しいと思わないか?」

「いつあの子を喰らおうか、嵐の前の静けさってやつだろ。」

「俺には満ち足りているように見える。」

 障子が開けたままのため見える愉愉たちから新月の方へ、夏牙の目が移る。

「愉愉自身に、もしくは愉愉の絵に、邪物が惹かれているように思う。」

「ほう…。」

 夏牙が目を眇める。

 もし彼の右目が潰れておらず、眼帯をする必要がなかったら、流石に神経が図太い自分でも目を逸らすだろう、と新月は内心苦笑していた。女郎花色の彼の目は、恐ろしく鋭いときがあれば、ぽわーっとしているときもある。性格のせいだろう。

「俺もあの子と話すかなあ。」

 机から降り、縁側から庭に行く夏牙。新月は追わずに壁に寄りかかったままでいた。そこからでも、愉愉と夏牙と邪物の様子は十分見える。

 愉愉は律儀に手を止めて話を聞いている。何を言っているかは聞こえないが、口が動いたので答えたと分かった。

「…?」

 段々、夏牙の微笑みが凍っていく。やがて彼は単身で家に入った。子猫から猫パンチを受けた猫好き力士、といった風情だった。

「どうだ?愉愉は。」

 内心面白がっている新月を睨みつけながら、

「第一印象は無害そう、第二印象は有害そう、第三印象は有害ではないが無害とは思わない方良さそう。」

 成程言い得ている、と新月は頷いた。

「くそっ、俺のいい人雰囲気は世界中の子供に効くはずなのに…!!」

「愉愉はこの世界の者ではないから道理だ。」

「本気であの子が異世界人だと思ってんのか?なんか新月、やけにあの子の肩持つなあ。」

 確かに、連れて来たことと言い信用し過ぎな気もする、と新月は考える。が、すぐに答えを見つけた。逆に、もう少し早く気付いても良かった、というのが新月の感想だった。

「俺も邪物だからだ。だから愉愉に、それか愉愉の絵に惹かれる。」

「邪物ならあの子は新月が見えないだろ。あの子は周りの邪物にすら気付いてない。」

「愉愉が見えないのは、邪物全てではなく危険種だけのようだ。まあ、俺は曖昧なところだが。」

「君は邪物じゃあない。」

 新月は苦笑した。自他共に認める邪物なのに、何故か夏牙だけは昔から人だと言い張り続けるのだ。

「冷静に考えろ。貴族が票を入れる前から、俺はもう邪物だ。」

「黙れ。」

 全く、この人は時々精神年齢が著しく下がるから困る、と新月はまた苦笑する。

「今まで俺が食

「新月さあああんっ!!」

 愉愉の絶叫にぎょっとする。庭を見るとそこには、

「見て下さい!紙が宙に浮いてます!!」

「家に入れ!」

 そこには、二階建ての建物以上の邪物がいた。口に咥えているのは薄い一枚の紙。裏に描かれた絵がうっすらと見えた。この邪物は危険種だから、確かに愉愉には紙が浮いて見えるだろう。

 困惑しつつも愉愉が家へ入る。夏牙が新月を見た。新月は彼に目もやらずに言った。

「殺して良いな。」

「平気か?」

「ああ。」

「殺す?ねえ一体どうゆうことなんですか?」

「邪物が君の絵え咥えてそこにいる。邪物の説明は新月から聞いたなあ?」

 背中で二人の声を聞きながら、新月は庭に出た。

 その邪物は白銀の龍だった。龍の内、ひげが四本の亜羽(あわ)型が危険種に指定されている。この龍は、亜羽型だ。

 常時背負っている仕事道具に手を伸ばした。 

 のだが、

「ボクの絵、気に入ってくれました?」

 新月が気付いたときには、龍のすぐ目の前に愉愉が立っていた。

「あ…。」

 夏牙が何か言っている、とは新月も分かったが、何を言っているか考える余裕はなかった。

 ただ、見惚れていた。

 何処までも真っ直ぐな、漆黒に。

「なら、あげます。どうぞ。」

 途端に、白雪の岡から付いて来た邪物達が騒ぎ出す。新月は思わず、

「他の邪物が、羨んでいる。」

「え?そうなんですか?やっぱり見えないって困りますね。」

 愉愉は、くるりと周りを見渡す。

「ごめんなさい、みんなのこと見えないんです。ボクの絵で良ければ、あげます。描いて欲しいもの、言ってください。」

 その笑顔に、釘付けになる。

「全員分の絵、描きますよ。」

 邪物達の目がぱっと輝いた。祭りに来た子供の様に。

「邪物の言葉、分かるのかあ?」

 夏牙が呆れた声で尋ねる。分からないどころか聞こえもしない愉愉は、硬直した。

「…ど、どなたか教えて頂けると…。」

「お人好しと言うか変人と言うか…チッ、んだよ。くれぐれも悪さするなよ!」

 うーうー唸る邪物に対抗してガーガー叫ぶ夏牙を、見事なまでに無視する愉愉。必然的に邪物達の意識も、五月蝿いオッサンから鉛筆を構える愉愉へ移る。必然的に五月蝿いオッサンはもっと五月蝿くなった。

「無視すんなー!!」

「新月さん、聞いてもらっていいですか?」

「ああ。」

「止めだあ止め。」

 諦めたオッサンは退場。邪物達は微塵も気にせず、愉愉の周りに集まる。

 愉愉自身もしくは愉愉の絵に惹かれている、とは我ながら馬鹿な予想だったな、と新月は思った。ここにいる邪物は自分を含め、愉愉の全てに、惹かれているのだから。

          ○

 変なところに来たな、というのが愉愉の正直な感想であった。ジャブツ、と言うのがいて、でも自分には見えない。彼等は殺されるらしい。ならば、隣にいる青年も人間ではないのかも。

 静かに輝く様な金髪を一つに結い、右肩に垂らしている。髪に頓着しない性格なのか数束の髪は結び切れずに背を流れていた。前髪も雑で片目が隠れている。金髪碧眼の彼が人間でないというのは、なかなかしっくりきて面白い。吸血鬼とか?わくわくする。名前が新月だから、人狼ではなさそう。いや、そう思わせといて実は…?愉愉は口元を密かに綻ばせた。

 変、というのはいい、と愉愉は思う。

 安心するから。

「愉愉が一番好きな生物を描いて欲しいそうだ。」

「難しいですね〜。」

 そう言いつつも描くものは早々に決まった。これで十一人目だが、一人も被っていない。これは結構喜ばしいことである。こちらの世界の物をほとんど描けないのは悔しいが。

「花、に見えるが。」

「藤の花ですから。」

「そちらの世では植物も生物なのか。」

「一応生物ではあるよね、みたいな感じ?じゃないですかね。はいっ、どうぞ!」

「美しい、ありがとう、と。」

「自分の納得いった絵が褒められるって嬉しいです。」

「最後、十二番目。海の動物が良いそうだ。」

 なら鮪にしよう、と愉愉が決めたのは、単に愉愉の好きな寿司ネタが鮪だったからに他ならない。

 完成した鮪を十二人目に渡す。

「家宝にする、と。」

「照れちゃいますね。」

「照れることはない。それだけの価値は確かにある。」

「おわあー、さらっと言いますね〜。」

 きょとん、とした顔で新月は愉愉を見た。

 丁度そのとき、声が聞こえた。

「おい新月!隣の奴は誰だあ?」

 初めて聞く声に少々驚きつつ、愉愉は声のした方を見る。

 縁側。そこに立つのは背の高い女性だった。勿忘草色の瞳にワインレッドのポニーテール。威風堂々という言葉がこの上なく似合う。

「どうも。愉愉といいます。」

「変な名だな。それに服も変だ。」

 新月に会ったときから気付いていたが、この世界は江戸の日本という感じで、服も着物に近い。ウインドブレーカーにズボンの自分はとても浮いている、と愉愉は感じていた。

「そう言えば、不思議な服だ。」

 今更愉愉の服を見る新月を、背の高い女性は睨みつけた。

「簡単にここに人を入れるな。」

「愉愉、こいつは(あけぼの)と言う。俺と同じく、ここの住人だ。」

「私の名を勝手に言うな!それで何故この何処の馬の骨とも知れない奴を入れたんだあ?」

「夏牙の許可は取った。」

 その言葉を聞いた瞬間、曙は吊り上げた目を下げた。

「本当か?」

「入れては良い。他はこれから、と。」

「ならば良い。」

 曙はくるりと踵を返し、去っていった。愉愉は少し気になって、

「夏牙さんって最初に会った眼帯の人でしたよね?確かに入る許可は貰いましたけど、あの人、人望あるんですねー。」

「曙が特別好いているだけだ。後、子預りの(りょう)と言う女も夏牙を良く思っている。」

「へえ、そうなんですね〜。新月さんは?」

「…恩は感じている。が、人間を好く嫌うと言う感情が、俺はあまりよく分からない。」

 すっ、と、愉愉の目に何かが走ったのを新月は確かに見た。愉愉の口元に、いたずらめいた笑みが浮かぶ。

「ふうん。」

「…愉愉。」

「たっだ今戻りましテ参上!可愛い鵺破(ぬぱ)ちゃんのお帰りだヨお!」

「…騒がしいのが帰って来た。愉愉、会うか?」

「会います会います!楽しそうな人です。」

「どうだろう…。」

「新月満月う、もなももが不思議な匂いガするって!どこー新月う!え?お庭?」

 賑やかな声が移動する。そうして愉愉と新月が声の主のところへ行くまでもなく、縁側で三人は対面となった。

「シャデイ!君誰?」

 現れたのは、愉愉と同じく一五歳くらいの、少女だ。赤みがかった黒髪をツインテールしている、と愉愉は思ったが、すぐに間違いに気づく。彼女のツインテールの片方は黒いが、明らかに髪の束ではない。髪にしては、つるんとしているし先が丸い。

「ぽぽなあ!」

 …そして真ん丸の目と口があって喋る、と愉愉は情報を追加した。

「もなももがこんな言うなンテ!君何者?」

「愉愉って言います。そのワンピ凄い可愛いですね。」

「 わんぴ…?え?服?ありがとう!愉愉って名前も可愛いヨ!」

「わー嬉しいです。新月さんも曙さんも何その名前…?って顔だったんですよー。」

 バレていた、と新月はそっぽを向く。

「鵺破はね、鵺破って言ウの。うん?自己紹介テ難しイ!」

「一人称が名だからややこしくなるのだ。」

「鵺破は鵺破ダモん。」

「鵺破さんって、いや違ったら申し訳ないんですけど、母国語他にあったりします?」

璃沙模朝(りしゃもちょう)の出身デネ、発音変なノ。」

「発音って言うか、最初のシャデイってなんだろうって思って。」

 鵺破は八十度くらい首を傾げて、

「シャデイはネ…びっくりしたときとか、凄いときに使うヨ。」

「そうなんですね。」

 ならば彼女の着る服もそこの国のものかも、と愉愉は考える。

 彼女の茜色のワンピースは萌え袖だが丈は膝上という季節不明の型だった。そして肩出し。チャイナドレスを目一杯加工したらこうなる、と愉愉は思った。服よりもやや明るい赤の目が、楽しそうに愉愉を見る。

「ぽぽなももの〜。」

 その隣の、鵺破の頭に体の片側をくっつけた黒い生物も、何か言いながら愉愉を見る。

「もなももテ言うの、この子。もなもも、愉愉が気に入ったみたイ!」

「そうか、もなももも邪物だったな。」

「邪物だと何かなるんですか?」

「愉愉は、邪物に好かれるのだと思う。」

「シャデイ!面白いネ!」

 どうも自分もここだと変らしい、と愉愉は笑った。

 と、新月が急に部屋の中に目をやった。

「二人が来た。愉愉、会うか?」

 どうやら住人はまだいて、丁度二人の人物が今家に来るらしい。

「お、勿論会います。」

「相変わらず五感がいいネ、新月ハ。」

 愉愉とは初対面となるその二人は、鵺破のように大きな声を出すことも、走って縁側まで来ることも無く、普通に玄関前の廊下で合うこととなった。

「うわっ。」

 びくりと肩を震わせたのは、肩に付きかけの白群色の髪をハーフアップにした黄緑の目の青年だった。ハーフアップの一部の編み込みや、側頭部の髪留めが可愛い。だぼっとしつつも足首と手首とウエストで縛った服や、彼自身の大人な雰囲気とはチグハグだった。

 まるで、編み込みと髪留めだけ他の人が決めた様に。例えば、彼の隣の少年とか。

 彼の隣にいるのは、薄紫の三つ編みを右肩に垂らした、可愛らしい少年だった。先の青年と同じ髪留めをしている。目の色も彼と同じだった。しかし彼より少し幼く、同色の目にも可憐なあどけなさが残っていた。

「何何。鵺破が連れて来た子?」

 驚いた顔から一転、面白がる様な表情で、ハーフアップの方が言った。

「鵺破じゃないヨ。新月満月が連れて来たンだヨ。」

「新月が?ホントに?」

 素っ気なく新月は頷く。代わりと言う訳でもないが、愉愉はにっこり自己紹介をした。

「どうもお邪魔してます。愉愉と言います。」

「ゆゆ?不思議な名だね。夏牙には会った?夏牙って眼帯の怖いおじちゃん。」

「怖い感じではなかったですけど、会いましたよ。」

「入室許可は貰っている。不満か?」

 ハーフアップの青年は、不満と言う言葉にいたく驚いた、と言う様な顔で、

「なんでそーなんの。一応あの人が家主だから聞いてみただけだって。にしても新月が連れて来るなんて。君、この堅物をどう口説いたの?」

 明るい笑顔。チャラ男だ、と愉愉は思った。

「いい名前ですねって口説きました。ええっとお二人はどなたですか?」

「俺達は夏牙に引き取られてたんだけど、大人なって引っ越したんだよ。今はここの近くに住んでる。夏牙から仕事斡旋してもらったりしてね。」

「なるほどー。…。」

「…?」

「…。」

「…?」

 予想していたものが来ず、愉愉は自分から聞くことにした。

「お二人のお名前は?」

「ああ、そういうことか。ごめんね、気ぃ利かなくて。香路島(かじしま)って言うんだ。」

 ハーフアップの青年は快活に笑う。すぐに、隣の三つ編みの少年が、続いた。

「ぼくは藤ノ舞成(ふじのまな)。」

「ふじ?藤?藤の花の藤ですか?紫の?へえ!いい名前ですね!確かに髪が藤色ですしね。にしてもこっちにも藤の花あるんですねー。ボク藤の花好きなんですよ。」

「そうなの?ぼくも好きなの。いいでしょ、この名前。」

「羨ましいです本当。ああでもボクがその名前じゃ名前負けしそうだな。あなただから似合う名前ですね。」

「えへへ、そうかな?」

 そうは言うものの、彼の口元が嬉しそうなのは誰の目にも明らかだった。めちゃばり可愛い過ぎて沁みる、と愉愉は心の中で言った。

「めちゃばり可愛い過ぎて沁みる。」

 成功はせず、見事な程声に出ていた。

「頭おかしいの君…。いや藤は確かに可愛いけどさあ。」

 戸惑った香路島の顔を見、愉愉はおやと思う。そして、さっき行ったチャラ男認定を取り消した。明るい笑顔より、ちょっと警戒心の強そうな、それでいて急所が確実に存在するのが丸見えな、今の顔の方しっくりくる、と愉愉は感じた。同時に、自分が彼の急所を無意識に捉えたことも感じた。彼の急所は藤ノ舞成だな、と笑む愉愉。可愛いペアで素晴らしい、という意味での笑みであり、企みは一切無かったのだが、香路島はにわかに笑顔に戻った。

「さっき"こっちにも"って言ったよね。どこから来たの?」

「日本です。」

「…それって…風飲世帝国?」

「ああ、すいません日本国って言った方良かったですかね。多分こことは違う世界です。」

 藤ノ舞成は目を見開いたが、香路島は反対に片目を眇める。彼はそのまま愉愉を見詰めていたが、しばらくして囁く様に問うた。

「それ、本気で言ってる?」

 彼の眼光をものともせず、愉愉は笑った。

「それ、本気で言ってます?」

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