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窓際の少女は消える前に  作者: 有野実
帝都
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第34話 シュレーゲムジーク



第34話 シュレーゲムジーク


 「ユーリア、一人で周りのナトゥア食い止められそう?」


 イーナは戦闘を続けながら隣のユーリアに問う。



 「すごく疲弊するし……持って1分くらいだけど。そのあとの身の安全も保証しない、それでもいいならできるよ」



 「お願いするよ。……ヘレナ、例の……そうだ、『シュレーゲムジーク』、できそうかな」


 イーナはヴルカーンハウゼンでヘレナが名付けた戦術名を口にする。


 あまりイーナの好みのセンスではないが、ヘレナのいう戦闘時の意思疎通の円滑化も重要ではあるので、その名前を採用している。


 


 「今一瞬名前忘れかけてましたね……?できますよ、20秒で十分です、前方のナトゥアの殲滅も狙えると思います」


 


 「了解、早速行こうと思うけど、準備は大丈夫?」


 イーナは二人に確認を取る。


 二人はしっかりとうなずいて答えた。



 「それでは、作戦開始!」


 イーナの掛け声とともに、各々が行動を始める。



 「これ、疲れるんだよなあ」


 そう愚痴をこぼしながら、ユーリアは額縁を片手で高く掲げ、短い光線をいくつも放ち始める。


 短い光線は高い精度でナトゥアを狙撃し、的確に無力化していく。


 光線の貫通力は凄まじく、一体程度なら貫通して、さらに地面に焦げ跡を作るほどだ。


 これを連射することによって、ナトゥアを次々に制圧していく。



 イーナは周りの瓦礫を一気に砂状化させ、ヘレナがそれらを浮かせ始めると、先の尖った円錐形に成形を始める。



 「素晴らしいよ。エドラーとヴルカーンハウゼンの能力の合わせ技……複合攻撃とでもいうべきか。だが、手の内がわかっていてわざわざ食らいにいく者などいないよ」


 マンフレッドは自らの周りにナトゥアを新たに呼び出して、自らを盾のように囲む。


 ナトゥアがナトゥアの上に乗って数段となり、マンフレッドの姿が見えなくなる。


 


 「どうします?このままいきますか?」


 ヘレナが困惑しながらイーナに確認する。


 


 「ナトゥアごと貫通すれば問題ない。この攻撃の貫通力を信じるよ。これで終わらせる」


 ヴルカーンハウゼンでは、イーナが成形した弾はナトゥアを貫いても地面に突き刺さるほど威力があった。


 ナトゥアで盾を作ろうと、盾を貫通して攻撃できるはずだ。



 「円錐形弾の成形完了、発射!」


 イーナの声とともに、円錐は凄まじい勢いで空を切り、三人の前方へ放たれる。



 しかし、円錐が地面にぶつかる、不規則に金属が弾かれるような音はしなかった。


 それどころか、前方のナトゥアも一体として倒れていない。


 それぞれのナトゥアが、「切り口」を目一杯開けて立っている。



 「え……」


 ヘレナは明らかに動揺した様子で立ち尽くしている。


 


 「だから言っただろう。手の内がわかっていて、わざわざ攻撃を食らいにいく者などいないと」


 マンフレッドがナトゥアの壁の中で笑う。


 


 イーナは歯を食いしばりながらナトゥアの壁に向かって猛烈に棘を突き上げる。


 ナトゥアは串刺しになって、棘を砂状化させると、ぼとぼとと地面に崩れ落ちる。


 崩れ落ちたナトゥアの死骸の向こうにマンフレッドが見えた。



 「ヘレナ!」


 イーナがヘレナに呼びかけると、ヘレナはすぐにマンフレッドを押さえつけようとする。


 マンフレッドは余裕の表情で、その場を動こうともしない。



 「身の回りが疎かになっていないだろうか」


 マンフレッドが自分達から視点をずらしたように見えた。


 その瞬間、左右上方からナトゥアがこちらの方に飛びかかってくる。


 ヘレナもイーナもマンフレッドへの直接攻撃を諦め、至近の敵に対応せざるを得なくなる。


 既にユーリアの攻撃は止んでいた。



 「……ごめん。軽く限界、ちょっとだけ頑張って」


 一人でナトゥアを食い止めていたユーリアが膝を地面につき、息を切らしている。


 ヘレナとイーナのみでナトゥアを迎撃せざるを得ない状況に追い込まれる。



 大量のナトゥアをギリギリで退けるなか、イーナは無理やり攻撃をしたことを後悔した。


 ユーリアの光線が大量のナトゥアによって防がれた時点で、この選択をすべきではなかった。


 ナトゥアを盾ができて、叔父の姿が見えなくなったとき、安堵した自分がいた。


 これで、叔父が死ぬ姿を直接見なくて済むと。


 だから、攻撃が防がれる恐れを否定し切れなくとも、楽に決着をつけられるという可能性にすがってしまった。


 結果、三人ともの危険を招くことになってしまったのである。


 手段を選んではいられない。


 そのことをもっとしっかり意識すべきだった。



 「……これじゃキリがないですよ」


 ヘレナはナトゥアを能力で押さえつけている。



 「窓持ち」は能力を使って戦う。


 一般的な兵と比べれば動きも少ない分体力の消費も少ないが、額縁の操作には集中力が必要だ。


 負荷の高い能力を使い続ければ、集中力が切れて疲弊し、力の強さも大きく低下する。


 それに対し、マンフレッドはナトゥアを無尽蔵に近い数を呼び出せるうえ、ナトゥアは勝手に三人を攻撃してくれるので操作の必要がない。


 継戦能力でいえばマンフレッドの方が明らかに優れている。


 短期決戦に持ち込まなければどんどんこちらが勝てる可能性は低くなるのだ。



 ユーリアの光線、シュレーゲムジークどちらの攻撃もマンフレッドは防いだ。


 大量のナトゥアを盾にする戦法を取るマンフレッドには距離をとった攻撃が効かない。



 「となると……肉弾戦しかないのかな」


 イーナは肉弾戦が得意ではない。


 イーナのみならず、ほとんどの「窓持ち」が接近戦を得意としない。


 大きな額縁を片手で持ちながら、もう片方の手で武器を持って戦うのは不利だ。


 額縁を背中のケースから少し出した状態で収納することで両手を空ける方法もあるが、額縁を落とす可能性があるなど、短所も多い。


 そもそも、額縁の能力を使えば、ナトゥアの脅威の少ない、距離のある場所から攻撃できるのだから、接近戦を好んで選択する「窓持ち」などいないのだ。



 イーナの父、ただ一人を除いては。


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