確率の問題
高校2年生の亮と武は、男に生まれたことに怯えていた。武がふと、こんなことを言い出した。
「統計的に見ても、女100人に対して男は115人生まれるらしいよ。この15人は結局予備なんだよ。男は女より生命力が弱いから、成人するまでにはちょうどいいバランスになってるってことだよ。」
「その15人。可哀そうだね。」亮は不満げに言った。
「ホントだよね。僕たちって15人の方なのかな。それとも100人の方なのかな。」
「それはわかりようがないね。」
翌日、5時限目は数学であった。
「赤玉が200個、白玉が15個あります。」
そういって気弱そうな白髪の鳥井先生が、中略しながら左に赤玉200個、右に白玉15個を黒板に描いた。
「合計215個の玉を袋に入れます。その袋からランダムに2個玉を取り出した時、赤玉と白玉を一つずつとる確率は?」
放課後、自転車置き場で亮はふと、自分が今日の日直だったことを思い出した。三階まで戻り、渡り廊下を歩いていると、グラウンドでサッカー部がゴールを運んでいる様子が見える。自転車置き場では、帰宅部らしき生徒3人が大声で叫びながら追いかけ合っている。空は綺麗な、そして悲しい夕暮れだった。
教室に入ると、窓際で坪内さんと奥田君が、互いの腰に手をまわし、キスしそうなくらいに顔を近づけていた。二人は亮の方を見ると、楽しそうな表情のまま教室を出た。
黒板に描かれた赤玉と白玉を消している途中、加藤君が教室に入ってきた。
「おお、加藤君。忘れ物?」
「うん。国語の教科書忘れてしまった。」
「加藤君も帰宅部だよね?家でいつも何してるん?」
「え、まあずっとアニメ見てるかな。」
「僕も一緒。アニメグッズとか買ったりする?」
「一度だけ中野にまでフィギュア買いに行ったことはあるよ。」
「この街にもそういうお店出来たらいいのにな。家電量販店ばっかりだしなぁ。」
「そうだね。ホントはフィギュアより生身の女の子と仲良くなりたいんだけどな。」
「僕も一緒。生身の女の子と仲良くなりたい。ま、僕は気楽に生きていこうと思う。」
「そっか。」加藤君はそう言って、下を向きながら唸った。
「じゃあまた明日。」彼は亮に挨拶し、教室を去った。