表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

踊らされる心

作者: 苑城 佑紀

嬉しいのに幸せとも思うのに…

そうぼーっとホテルの窓のカーテンの隙間からギラギラと光るネオンを見つめる。

最近気づいた朋一ともかずの配偶者の影。いつも結婚指輪なんてしてない。なのに気づいたのは、先週会った時に不意に来た朋一の携帯。仕事かと思ったら聞くつもりも無かったはるかに女性の声が耳に入った。しかも帰りに買い物頼まれてるような会話。それからずっと頭から離れない。

「…はるか」

ベッドの方から聞こえてきた卑怯なくらい甘い声で呼ぶ朋一に無意識に涙が出る。きっとわからない…朋一の事どれだけ好きか。

ゆっくりと視線を朋一の方に向けると、手を差し出してる。おいでと言う声に体は勝手に動きベッドに登った。

「どうした?」

親指で拭う涙に遥はなんでもないと朋一に抱きついた…



会社の同期で中学から一緒の隣の席の正吉は椅子ごと近づいてきた。朝礼終わった後のざわつきはこれからのする仕事やらで準備している。

「なぁなぁ」

その言葉から始まった話は、昨日夜お前ホテル街歩いてたか?だった。そのまま通り過ぎれば飲食ロードなる場所があるが、地元民はそんな所を通らなくても別な道がある。正吉だけは遥の恋愛関係を知ってる仲。まあ、深夜だったしなとそこ通れば近かったしと言えば相変わらずだなぁと返ってきた。いやさ、と長引きそうな話に、昨日の事もあって場所変えないか?と。

会社の通りのオープンカフェの店外。注文したカフェオレを目の前に、遥は口に出した。同性好きなのを知ってるのは正吉と今の彼氏である朋一だけ。

今の彼氏…もしかしたら結婚してるかもしれない…

そう言っただけで段々悔しくなってくる。言ってくれなかった朋一、気づいてしまった自分に。

とうとうかと聞こえてきた声に遥は俯く。でもよ、考えたら昔からそうじゃないか?と。

中学校の男教師が好きだの、帰宅途中のコンビニの年上男性が好きだの、高校入ればまた別の男教師が好きだのと。どうしても年上の方が好きと言う遥はどこか安らぎを求めてるのかもしれない。

「遥さ、ハッキリさせたらどうよ」

怖い、居たから別れるなんて言ってくるのが。

「それに…何か事情があるかもしれないし」

「だったら先に言わないか?」

「……うん」

ストローを口にして吸い込んだ時に鳴った携帯に見た。それは朋一の名前。黙って携帯をテーブルの上に置く遥に正吉は見た。出ないのか?と聞いても黙ったまま。すると切れたと同時に聞こえてきた声に見開いた。

「…遥」

ストローを口から離す。向かいに座っていた正吉は交互に移す視線の後、立ち上がった。

「キミは」

「中学時代からの同級生で同じ会社に居る、森田正吉と言います」

同級生なのか…と呟いた朋一は何かほっとしたような声色で。

「俺は…」

何かを渋るような少し開いた間に遥は小さく唇噛み締める。

「…遥の事知ってるから別に」

なら、とその後に言ったのは遥の恋人の田山朋一だと。すると近寄り遥の隣に来るとしゃがんだ。

「遥、話がある…今夜会えるか?」

小声で言った朋一に黙っていた遥は聞こえるか聞こえないかの声で連絡すると。わかったと立ち上がるとその大きな優しい手で頭を撫で去っていった。正吉は座ると遥に大丈夫か?と。嫌な感じはしない、優しい感じと印象持った正吉。

「…大丈夫」

なんかありがとうと顔を上げると苦笑いした。残りのカフェオレを飲みきると席を立つ。思わず掴まれた正吉の手に視線を移す。会社には戻らないそう言って手を振り払うと会社とは反対方向に姿を消した…


初めて会ったのは会社の飲み会。会社は別だがお互い同じ店で、休憩と店外の喫煙所を見つけたのは良いがポケットをまさぐると電子ライターしか出てこなかった。そう言えば飲み会に来る前最後の一本と吸ってきてた。そんな遥に無いの?と声を掛けたのは朋一。

何気に喫煙所で二人きりで何を話そうにも出てこない。会社のネックダクを見ると自分の営業とは違う会社。ここで仕事の話するのもなとふと見たのは顔。

本当につくづく思う。自分はどうしてすぐに言ってしまうんだろうと。それで何回も引かれてるのに。だが朋一は小さく笑う。

「いいの?俺で」

予想外の返しに見開いた。

「嫌な気持ち…」

「まあ、一瞬驚いたけど俺でよければ」

「じゃ…」

連絡先交換しようか…

それからお互い時間が合う度会って一緒にどこかに行き、体を重ねたのは約一年たってからだった。それから朋一は遥を大事にするように。

会社に戻らないと行って逃げた場所は結局自分の家だった。今夜会えるか?と言われて嬉しい。話があると言われて辛い。どうにも落ち着かない心に泣きたくなる。

今まで付き合えたのは確かに年上。ただ本当に独身だった。だから朋一もそうだと思っていたのは無い左手の指輪。今思えば自分勝手に勘違いしていたのかもしれない。



「田山ー、電話なってんぞ」

離れた場所で自分の携帯が先程から鳴ってる。それを横目で見ると小さくため息ついた。

「…言ったんだけどな」

そう呟いて、ちょっとごめんと離れると自分の席へ。未だ鳴ってる携帯を掴み出た。

「もしもし…」

電話の向こうから聞こえるのは何故か弱々しい声。わかってる、ただ今夜は予定があると言った朋一は母さんに連絡しておくからと電話を切った。

「いつものか?」

まあと苦笑いする朋一。大変だなと言った同僚は今夜予定あるってもしや?なんて聞いてきた。少し黙った朋一は先週から何かおかしい遥の事を話し出した。

「…それは悪い方に察してるだろうな」

「だろ…」

だから、今夜会って話す。隠してるつもりじゃなかった。気にもしないなんて言うのは自分勝手のエゴ。

夕方近くに電話すると出た遥にホッとする。今どこに居ると聞けば家だと。その言葉で朋一は遥に辛い思いさせたと思う。すると遥は俺の家に来てもいいよと。

1度だけ行った事はある。二人で飲みに出て泥酔した遥を連れ。自分の家とは反対方向だなと思ったのは未だに覚えてる。それから会うのは時にちょうど真ん中のラブホだったり。

「覚えてる、今から向かうから」

『うん…』

切った電話に朋一は早々に会社から出た。



既にスーツから部屋着に着替えしていた遥は会社から近いマンションのベランダから街並みを見ていた。なんで俺産まれてきたんだろ…時に思うことが未だにある。

ふと下を向くと走ってきた朋一の姿。歩道からマンションに入っていくのを見ると遥はベランダから出て玄関に向かった。

鍵は開けてる、三階まですぐに来る。突っ立ってる遥にインターホンが鳴った。ゆっくり手を差し出しドアノブに手をやり回すと急に開きそのままの勢いで朋一に抱きしめられる。

「………おつかれ」

痛い程抱きしめられその分胸も痛い。何を話してくるのか…

ソファに座った朋一の隣に座った遥。無意識に俯く遥は、ジーンズの上で手を握る。

「遥、今までちゃんと話してなくて悪かった」

その出だしに遥は唇を噛む。

「…最近の遥の様子が気がかりで」

あのな…と続いた言葉に遥は見開いた後顔を上げた。

「…違う」

そう、遥が勘違いしてると思う俺に嫁が居るのは違うと。

「電話してくるのは…大体実は入院中の年の離れた妹なんだ」

でも、だって買い物っ…それ以上言わせないように朋一は唇を塞いだ。少し離れた朋一に拭う涙。

「あの時は母さん、俺の家族父さんが亡くなってから俺に頼りっぱなしでさ」

苦笑いした朋一に今度は遥から唇塞いだ。

勘違いしてごめん…朋一に心配かけてごめん…


携帯を薄暗い部屋でつけると眩しそうな顔で見た。時間は深夜十一時。そろそろ帰らないとなと隣で寝てる遥を起こさないように体を起こした。ふと寝顔の遥を見つめる。

「初めてだよ…こんな俺に」

いつも何か近寄り難いと言われる。それはきっといつもどこかで家族の事があるからで。遥と出会ってから違った。家族の事を少しでも離れる時間は貴重だった。だからこそ、朋一は遥を大事にする事を決めた。

おやすみと愛しげに顔を撫でた朋一はスーツを着ると鞄から小さな箱を出した。ベッドヘッドに置くと寝室から出ていく。

うっすら開けた遥の目には朋一の姿は無い。ベッドから降りて寝室から出ても薄暗い部屋に誰も居ない。気がついたように寝室に戻ると携帯を掴んで付けた。一件のメールに開く。

―これからも、こんな俺をよろしくな

遥にプレゼントと書いてあるのに、寝室の明かりを付けた。ベッドヘッドに置いてあった小さな箱に気づき掴むと開け。ベルベットの蓋を開くと中にあったのは左手の薬指にしては何か小さいサイズ。その隙間にあったメモを取り広げた。

結婚……なんて正直ちょっと色々考えてしまうけど、その代わり小指に付けてくれたなら嬉しい。

裏にも書いてあるのを見ると。

その時が来たら遥にちゃんと言うから…

既に寝てるかもしれない、なのに嬉しさで電話掛けた遥に思ったより早く電話が繋がった。

起きたのかとの声は優しく。

『見た、か?』

「見た……待ってる…俺、朋一からちゃんと言ってくるの待ってるから」

『自信今はないんだ…だからいつかな』

「うん…あとありがとう」



夜の水族館、ナイト営業してると聞いた朋一は遥に連絡し。

どちらもスーツ姿で何かおかしいと小さく笑った遥。そんな遥にこんなにハマるなんてなと。

うん?と見た遥に朋一は口元緩め頭を撫でる。スーツだろうがそんな事する朋一に微かに顔を赤らめた。

「大丈夫、皆周りしか見てないし」

薄暗い中に光る小さな展示から少し離れ見つめる遥の後を追うように動く。朋一から常に先に行くような事はしない。いつも遥を見て遥が一番良い行動を考えてる。

本当に会社帰りに約束するんじゃなかったなと思うのはやっぱりスーツ姿。デートにしても何となく微妙な気もする。

進んで行くにつれ外に。夜になった空に電気の明るさで大型の動物が大きな水槽の中で泳いで。いいな、一緒に居れるのと小さく呟いた遥の声は朋一には聞こえた。

家族がああだからなかなか家から出れないとも言った朋一。出来るなら遥と一緒住みたいのはある。そうすると連絡の頻度が増えそうで。昔母親に言った。再婚しないのか?と。

少し黙ったのはまだ母親の中で父親が居るんだろうとは思っていたが、入院してる妹の事も考えるとそれだけの話じゃないんだろうと。一応に再婚するなら俺の事は気にしなくていいからと。

恋人が出来た…そう先日朋一は言った。驚かれたがその次に言った朋一の言葉で母親は黙ってしまった。

女性じゃなくて男性…

「朋一」

不意に呼ばれ気がついた様に遥を見た。

「どうした?」

「夜ご飯」

腹減ったと苦笑いしたその顔に食いに行くかと。

何が食いたい?と聞いてきた声に、三人のサラリーマンが居酒屋に入っていくのが見えた。あそこでもと指した遥。

中に入るとそれ程客は居なく、奥のテーブル席に案内された。ここは初めて来ると壁に貼ってあるメニューを見る。いらっしゃいませと持ってきた水に置くとメニュー表を置いていく。

広げたメニュー表に、不意に朋一は腕時計をチラリと見る。それに気づいた遥は帰らなきゃならない?と聞いてきた。つられて遥も腕時計を見ると既に九時は過ぎていた。

「大丈夫?朋一」

「大丈夫だよ、ただ今日はご飯食べたら帰るよ」

うん、と言った遥に好きなの選んでいいから。

どうしてもその…遥って男性じゃなきゃダメなの?と聞かれた時は迷いは全く無かった。そのせいか母親は再び塞ぎ込むように。そんな姿を見てしまった為に朋一はせめて出れる時ぐらいは電話に出、家の事をやると。その延長がいつの間にか何でもかんでも朋一に頼るように。

名前を呼ばれ気づいて向かいの遥を見た。大丈夫?やっぱり帰った方が、と心配される。

「…悪い」

「ううん、気をつけて帰って」

また連絡すると自分が注文分の金をテーブルに出し置いた。

「絶対飲みすぎるなよ、な?」

「うん」

朋一の背中を見つめ出ていくと目の前に置かれた手のつけられてないおにぎりやらを見た。そもそも今日は飲むつもりじゃなかった。遥はすいませんと手を上げ店員を呼んだ。

「持ち帰りたいんですけど…」

ここには朋一が居ない。どうせ居ないなら家に帰って食べた方がいい。

 朋一の彼女でも奥さんでもない事で全然違う気持ち。だが母親に取られてる事は事実で。遥の親はどちらとも健在。だからこそ何か複雑な気持ちは朋一が今傍に居ないから。マンションの部屋のドアを開ければ静かな部屋に灯りをつけ持ってきた夕食をテーブルに置いた。


 名前を呼ばれ遥は顔を上げる。

 右隣には朋一。うつ向けば左手の薬指には朋一から貰った指輪。

 そのテーブルを挟んで向かいには朋一の母親。

 何とも言えない表情に言おうと思っていた言葉は全く出てこない。

 すると朋一は遥を見て小さく口元緩めた。

 〖俺…遥と一緒住むことにする、この家から出ていく〗

 その言葉に母親は遥を見て睨んだ。

 〖今すぐこの家から出ていって!私にその顔を見せないで!〗

 見開いた遥は小さく唇噛む。

 ここで逃げたら…朋一と離れてしまう、二度と会えない。

 俺は…と、その先も聞かない内に母親は突然立ち上がると部屋から出ていき直ぐ戻ってきたと思いきや遥に塩を振り撒いた。

 止めた朋一だが遥は結局出て言った。

 背後から聞こえたのは…

 私の朋一を取らないで!


「……るか、遥」

見開いた目に入ってきたのは天井。その真っ白い天井に少し視線をずらすとよくある見覚えあるカーテンにここが病院だと気づく。それと同時に頭痛と吐き気に体を横にして口元に手をやるも間に合わなく指の隙間から出る液体に朋一は急いで嘔吐用の容器を差し出し遥の背中をさする。

 ゲホゲホとの後落ち着いてきた遥にタオルで拭きながら何故病院に居るか朋一は話し出した。

 一人帰ってきた遥。そのまま持って帰ってきた夕食を取るにもそんな気になれずふと目に入ったテーブルの片隅にあった手がつけられてない缶ビール。無意識に開けた缶ビールを開け飲み始めた。普段それ程飲まない上に昨日はある分開けてしまった遥。途中で調子が悪くなり苦しくなり電話したのは病院じゃなく、朋一だった。

 それで病院に連れてきた朋一はそのまま遥が居る病室に。

「洗ってくるからな、後起きたと言ってくる」

 相変わらず優しい顔で見る朋一に遥は片手伸ばして服を掴んだ。その視界に入った点滴のチューブ。

「……やだ」

 朋一が居なくなるのが、そう言った遥に床に置くと座った。

「俺は、遥から離れない、言っただろ?」

「でも!」

 確かに母親があーだからと言った朋一に遥は夢でもリアルな夢を見た内容を話しした。黙って聞いていた朋一は、一瞬目を伏せた。それを見た遥は唇噛み締める。

「…確かに母さんの本当の気持ちはそうかもしれない」

「……朋一」

 俺は嫌だから!誰がなんと言おうと朋一と離れたくない!

 そう暴れる遥を朋一は抱きしめた。

「けど…そこまでするような母さんじゃない、じゃなかったら…遥から電話来て俺に行かないでなんて言ってこないそれどころか心配して行きなさいよと言ってくれた」

 塞ぎこんだ理由はなと朋一は遥の背中を優しく撫でながら話続けた。未だに忘れられない父さんの事なんだよ。いつも仲良くて誰が見ても羨ましい父さんと母さんだったらしくてさ。きっと遥から電話きた時、思い出したんだと思う。父さんが仕事中緊急入院した日を。

「…まだ完全には認めてくれてないかもしれないけど…俺は遥とはずっと付き合って行きたい」

 微かに動いた遥に腕を緩めると離れ。顔を上げた遥に心配そうに流れていた涙を親指で拭いた。

「ちゃんと治そうな、言っただろ?余り飲みすぎるなよって」

 遥をベッドに横にさせると容器を持って出て行った。

 顔に腕をやり唇噛み締める。

 ごめん…と言うのはどこかでまだ不安があるから。


 朝の体温に来たナースに目が覚める。それと同時に姿が見えない朋一に思わず呟いた遥。

「一緒に来てくれた男性?」

「あ……はい」

 数時間前にナースセンターに来て、一度家に戻ります、起きたらまた朝になったら来ると伝えてくれればって。

「だから、きっともう少しすれば来ると思うわよ」

 具合はどう?と聞いてるのも遥は上の空で返事していた。

 静かになった個室。黙って天井を眺めていれば本当に何で生まれてきたんだろと再び思う。

「…居ない方が」

 そんな呟くとノックの後に入ってきたのはスーツ姿の朋一。おはよう遥と近寄って来れば椅子に座り鞄を床に置いた。

「具合は?」

 そう手を差し出した朋一は遥の手を握る。

「…朋一」

「うん?」

「俺と居て幸せ?」

 何言ってんだよ、もちろんそうだろとの後に遥に嬉しい報告があると。

「本当に?俺、必要?」

「…遥」

 強く握った朋一の手にありがと…と小さく呟いた。

「…嬉しい報告って?」

 母さんが、許してくれた…今度家に連れてきて一緒にご飯食べようって。

「実は遥が言った夢、それと父さんの話したら、やっぱり父さんが居ないから寂しいって、そんな気持ちもし遥が居なくなって俺にも同じ思いさせたくないって…」

 遥が退院したら、一度俺の家に来て話しようか

「……塩」

 小さく苦笑いしてそんな事しないからと片方の手は遥の顔を撫でた。

「……朋一」

「なんだ?」

「大好き…」

「ん、俺も遥が大好きだから、な」



 朋一の母親に頭を下げる遥の両親。本当ならばご迷惑と顔向け出来ないと一度は拒否したが、遥の三歳下の妹が愛なんて色んな形があるんだって、相手側が良いって言うんだから逆に会わないなんて失礼だと思うよと。

 身内婚でホテルの小さな場所での簡単な結婚パーティーは特別に遥の同級生の正吉と朋一の同僚も。

 遥の小指には前に朋一がくれたピンキーリング。流石に遥の会社は普段つけられない為に今日ぐらいと大事にしまっていた小さな箱は、朋一が荷物を遥のマンションに持ってきた時に再び思い出させた。

 もう大丈夫?と未だに不安そうな顔を見せた遥に大丈夫、言ったよな、母さんが先に私も進まないとってと式の終わりに取った部屋の鍵を開けながら言う。

「ある意味…遥が入院したおかげかもな…」

 ありがとうと言うのも変だしと遥を先に部屋に入らせ朋一は入るとバックを床に置きしゃがむとバックの中をゴソゴソする。

 遥はベッドに座ると式の前に携帯で撮った写真を見ながら今までの事を思い出していた。

 初めて会った飲み会での喫煙所。予想外にいい返事からの付き合い始めた。そんな中朋一の既婚者疑惑。もう駄目かと思った時に朋一から話してくれた。なのにどこか信じれなく不安が余り飲めもしない酒で緊急入院。それが功を奏したのか母親は朋一に余り電話しなくなった。

 不意に遥の横が沈み顔を上げると唇塞がれる。そのままベッドに倒された。

「…とも」

 お互い体を横向きに見れば朋一は遥の左手を握り顔の前へ。

「二度と遥に不安な思いさせないから」

 小さく口元緩めると朋一の手から出たのは光るシルバーのピンキーリングは以前貰ったより高そうで。突然の事に見開いた遥は顔を上げた。

「朋一っ」

「今まで遥にちゃんと話せなかった…」

「そうじゃない!違う!……」

 ごめんな…初めて遥と会った時、俺も初めてだからどうすればいいのか分からなくて。それでも遥は守りたいとは思っていても家の事もあるしで。遥と日々付き合っていくにつれ、どうしても遥は手放したらいけないと思ってきた。家の事を本当にどうにかしたいと思ってもうまくいかない時に遥が入院したのがきっかけで。

 そう話する朋一の顔を黙って見つめる。

「遥、俺に言っただろ…俺、必要?って…それで決心ついた」

 本当にありがとなと付けっぱなしだった前のピンキーリングを外し朋一は真新しい方を付けて。次第に潤んできた遥の目に朋一は抱きしめた。

「もう離さない…から」


 社内で正吉がいつもの様に椅子ごと寄ってくる。

「ありがとなー普通の式しか知らないからよ」

 あんな事も今は出来るんだと。

「こちらこそありがと、そう言えば朋一の同僚?」

「あー、大川さんな、連絡交換してこの間飲みに行ってきた」

「へー」

「二人でな、遥と田山さんに何かあったら俺たちで守って行こうぜって、いやー本当大川さん良い人だわ」

「正吉」

「ん?」

 ありがと…

 微笑み気味に呟いた遥に正吉は頭を軽く叩いた、気にすんなってと…。


 起きて朋一が居る日常。一緒に朝食を作り、出勤するも会社は違う為にマンションから出たら直ぐ信号で別れる。

 そんな朋一に遥はマンションの出る前で朋一のスーツを掴んだ。顔を見ると小さく微笑み、出勤前の小さなキス。

 行ってらっしゃいとお互いに言い今日も一日始まる。

 今は幸せと確信出来る。

 生きて良かったと…


 End

お久しぶりの投稿でした。

若干病みっぽい話ですが、最後はハッピーエンドに持っていけてひとまず安心しました。

読んでくださってありがとうございました。

また、次作にて。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ