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進撃! 馬鹿娘! (2)

 馬鹿娘と遭遇した少年たちから詳しい話を聞いた後、大介たちは再び神社に戻った。四人で顔を突き合わせ、作戦会議を開く。


「ところで、その馬鹿娘だがな……いったい、どんな時に出てくるんだ?」


 大介が尋ねると、猫耳小僧が顔をしかめながら答える。


「あいつは、道路に出てくるニャ。でも、歩いてる人間の前には出てこないみたいだニャ。襲われてるのはみんな、バイクに乗ってる人間ばかりだニャ」


「ほう、バイクか。じゃあ、車は襲われていないのかよ?」


「今のところ、車は襲われていないみたいですね。今まで馬鹿娘と遭遇したのは、バイクに乗った人ばかりですよ。暴走族みたいな」


 答えたのは真太郎だ。彼は困ったような表情で、大介と妖怪たちとを交互に見ている。


「なるほどな。それならば、投げ捨て魔人の時と同じ作戦で行こう」


 そう言うと、大介は真太郎の方を向き笑みを浮かべる。真太郎は、とてつもなく不吉な予感がしていた──




 それから、一時間後。


「くそう、出てこないな。馬鹿娘の奴、違う場所にいるのか?」


 言いながら、周囲をキョロキョロ見回す大介。辺りは静かなものである。車も全く通っていない。


 彼は今、愛車であるママチャリの後部座席に乗っていた。言うまでもなく、馬鹿娘を誘き寄せるためのおとりになる……というバカ丸出しの作戦のためである。

 ちなみに、ママチャリのペダルをこいでいるのは真太郎だ。汗だくになりながら、峠の道路を走っている。


「だ、大介さん……ま、まだですか?」


 尋ねる真太郎は、息も絶え絶えだ。しかし、それも当然だろう。百キロを超えるガタイの大介を後ろに乗せて走っているのだから。そのスピードは遅く、ジョギング中のランナーに追い越されてしまうくらいだ。


「つーか大介、何でお前が後ろに乗っているのかニャ?」


 猫耳小僧が、呆れたような表情で聞いた。彼は、送り犬におぶさった状態で同行している。

 すると大介は自転車を降り、胸を張って答える。


「決まってるだろうが。俺が自転車を運転していては、馬鹿娘を発見しても捕らえられない。だから、俺は後ろにいるのだ。奴が出てきたら、俺が取っ捕まえてやる」


「でも、これじゃ遅すぎるワン──」


 送り犬が言いかけた直後、背後から凄いスピードで駆けて来た者がいる。頭からは鹿の角を生やし、お尻からは馬の尻尾を生やした少女だ。すらりとした体に体操服を着て、いかにも勝ち気そうな表情でこちらを見ている。


「お前が、噂の馬鹿娘か!?」


 鋭い口調で尋ねる大介に、馬鹿娘は胸を張って答える。


「ヒヒン、そうだシカ。私は、ガセの谷の馬鹿(ウマシカ)娘だシカ。で、私に何か用シカ?」


「くぉら馬鹿娘! ここいらで走り回るんじゃねえ! 人間が事故って怪我するじゃねえか! 今すぐ暴走をやめろ!」


 怒鳴りつける大介だったが、馬鹿娘は怯まない。


「フン、怪我する方が悪いシカ。あんなに遅いくせに、威張って道路を走るなんておかしいシカ」


 言いながら、馬鹿娘は軽蔑したような眼差しを向ける。これには大介も怒り、思わず拳を振り上げた。

 だが、いくら妖怪とはえ、相手は少女である。暴力を振るうわけにはいかないのだ。

 大介は仕方なく、振り上げた拳で自分の胸を思い切り殴る。当然ながら痛い。その痛みが、大介の怒りを増幅させた。


「ふざけるな! これ以上、世間を騒がすなら俺が許さん!」


 激怒する大介の周囲を、馬鹿娘は挑発するかのようにぐるぐる走り回る。あまりの速さゆえ、大介は目が回りそうになった。


「ほらほら、捕まえてみろシカ!」


 叫んだ直後、馬鹿娘は凄まじい勢いで走り出した──


「逃がすな! 真太郎、後を追え!」


 大介が指示を出すが、真太郎は首を振った。


「む、無理ですよう……」


 荒い息を吐きながら、真太郎は答える。その顔からは、疲労困憊しているのがありありと見てとれた。

 だが、それも当然だ。何せ、百キロを超える体格の大介を後ろに乗せているのだ。

 ふたりがそんなやり取りをしている間に、馬鹿娘はあっという間に走り去っていく。気がつくと、既に見えなくなっていた。


「うーむ、お前に運転させていては追い付けんな。では、どうするか」


 大介は考えてみた。

 下手の考え休むに似たり、という言葉がある。バカの考えもまた同じだ。バカがいくら考えても、名案など思い浮かぶはずがない。しかし、大介は並のバカではない。彼はバカではあるが、同時に不屈の魂を持った番長である。

 やがて大介の小さく愚かな脳は、実にしょうもない作戦を捻り出した。


「ならば、この手でいこう!」


 次の日。

 いつも通りにバイトを終え、神社のベンチに座っている大介。すると突然、凄まじい轟音が響き渡った。


「ヘイ! 俺を呼んだのは、お前かい!?」


 腹に響き渡るエンジン音とともに現れたのは、真っ黒いハーレー・ダビットソンに乗った男だ。全身これ黒一色であり、しかも彼には首がない。

 そう、彼は首なしライダーだ。かつて大介とスピードで勝負し、あっさりと勝利してのけた妖怪である。

 しかし、大介のあまりの熱血野郎な敗北ぶりに心を打たれ、彼と友人兼ライバルになったのだった。


「首なしライダー、お前にひとつ頼みがある」


「おう、何だ? 俺に出来ることなら、何でもするぞ」


 即答する首なしライダーの手を取り、大介は熱い口調で語る。


「最近、このあたりを馬鹿娘とかいう妖怪が荒らしているんだ。そいつを捕まえるため、俺に力を貸してくれ」


「そうか……お前の頼みとあれば断れんな。いいだろう、スピードなら俺に任せとけ」




 その翌日──

 峠をひた走る、一台のハーレーダビッドソンがあった。漆黒の悪魔ですら怯ませるかのかのような黒に塗りつぶされた車体……言うまでもなく、首なしライダーの愛車『モンスーン号』である。当然ながら制限速度を遥かにオーバーするスピードで走っていた。

 その後ろの座席では、大介が必死の形相でしがみついている。着ているものは首なしライダーと同じく、革のジャケットとパンツだ。さらにヘルメットを被り手袋をはめ、膝と肘にはサポーターを付けている。万全の体勢だ。

 首なしライダーは、さらに加速させる。バイクは速度を増し、弾丸のようなスピードで道路を疾走していく。

 その時、後ろからつむじ風のごとき勢いで走って来る者がいた。言うまでもなく馬鹿娘だ。


「ヒヒーン! お前、なかなか速いシカ! でも、私ほどではないシカ!」


 言った直後、馬鹿娘は恐ろしい速さで追い抜いていく。その二本の足の動きは、もはや肉眼では捉えきれない。あまりにも速すぎ、逆にスローに見えるほどだ。

 すると、首なしライダーが不敵に笑う。いや、顔がないから笑顔かどうかは判断が難しいが……フッ、というニヒルな息づかいが大介の耳に聞こえたのだ。


「フッ、上等じゃねえか。俺にレースを挑むとは、いい度胸だよ」


 そう言うと同時に、首なしライダーの体が暗く光った──


「なんびとたりとも、俺の前は走らせねえ!」


 怒鳴った直後、凄まじい勢いで首なしライダーは加速していく。その速さは、バイクの出せるスピードではない。

 だが、馬鹿娘も負けてはいない。全身の筋肉か躍動し、恐ろしい勢いで動き出す。


「ヒヒーン! お前なんかには、絶対に捕まらないシカ! 悔しかったら、追い付いてみるシカ!」


 叫ぶと同時に、馬鹿娘はさらに加速した。その二本の足は、とてつもない勢いで動いている。もはや、肉眼では動きを捉えられない──

 それを見た首なしライダーもまた、さらに加速させていく。


「ざけんじゃねえ!? てめえみてえなヒヨッコ妖怪に、この俺さまが負けるとでも思ってるのか! こっから、さらにブッこんでやるぜ!」


 吠えると同時に、首なしライダーはさらに加速した。こちらもまた、肉眼では捉えきれない速さだ。

 逃げる馬鹿娘、それを追う首なしライダー。両者のレースは、さらに激しさを増していく。


「クソがぁ! なめんじゃねえ! 俺こそが最速妖怪だ!」


 咆哮の直後、首なしライダーのバイクがさらなる加速をみせる。

 次の瞬間、首なしライダーと馬鹿娘は並んだ。両者は、激しいデッドヒートを繰り広げる。


「ヒ、ヒヒーン! お前なんかに負けないシカ!」


 叫びながら、なおも走り続ける馬鹿娘。その時、大介が動く。恐ろしい形相で馬鹿娘に飛び付いた──


「捕まえたぞ!」


 両腕で馬鹿娘をがっちりと捕らえたまま、大介は地面を転がった。常人なら重傷まちがいなしだが、大介は常人ではない。彼は最強の番長なのである。


「馬鹿娘、お前の負けだ! もう二度と悪さはするんじゃねえぞ!」


 馬鹿娘に向かい、勝ち誇った表情でいい放つ大介。だが、馬鹿娘も負けていない。


「ひ、卑怯だシカ! お前は、バイクの後ろに乗ってたシカ! ふたりがかりとは、お前は、卑怯者だシカ!」


 馬鹿娘は、凄まじい形相で怒鳴った。しかし、大介は表情を崩さない。


「卑怯者、か。確かに、俺のやったのは誉められるようなことじゃない。首なしライダーの力を借りたのだからな。しかし、お前の方はどうなんだ?」


「ひ、ヒヒン? わ、私は……私は、卑怯者ではないシカ!」


 その言葉を聞いたとたん、大介の表情が一変した。


「ふざけるなあぁ! 自分より遅いと分かっている者を相手にレースを挑み追い抜き、自身の速さを誇示する……それは、卑怯者のやることだ! 違うか!」


「ヒ、ヒヒン……」


 うつむく馬鹿娘。指摘されて、彼女も気づいたのだろう。自身の行動の愚かさに。

 そんな馬鹿娘に、大介はなおも言い続ける。


「お前は、走るのが好きなんだろうが! 自分の速さに、誇りと自信とを持ってるんだろうが! だったら、こんなところでウロチョロ走ってんじゃねえ!」


 そう言うと、大介は馬鹿娘の両肩を掴んだ。


「いいか、お前には相応しいステージがあるはずだ。だったら、そのステージに行け! そこで、思う存分走って来い! 人間相手に勝ったからって、何の自慢にもならないぞ!」


「わ、わかったシカ!」


 馬鹿娘は、力強く頷いた。すると、大介は何を思ったのか、不意に顔を上げ夜空を指差したのだ。


「空を見てみろ。あの星空のどこかに、ひときわ輝く星があるという。それこそが、妖怪の星だ。お前も、いつか昇るんだ……栄光の空に!」


「わかったシカ!」












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