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妖怪ウォーズ~泣き虫番長の一年戦争~  作者: 赤井"CRUX"錠之介


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変奇! 浦井真太郎!

 その日、彩佳市にある中学校・友人(ゆうじん)学園にひとりの転入生が来た。


「今日から、このクラスに転校してきた浦井真太郎(ウライ シンタロウ)くんだ。みんな、仲良くしてあげてくれ」


 担任教師のおざなりなセリフの後、真太郎はペコリと挨拶する。だが、生徒たちの反応は冷ややかなものだった。

 それも仕方ないことだった。真太郎は、誰が見てもパッとしない少年である。小柄で痩せた体つきと覇気のない雰囲気、さらに地味で気弱そうな雰囲気の持ち主である。眼鏡をかけた陰気な顔立ちも相まって、人気者になるようなタイプには見えない。

 やがて、真太郎は席に着いた。だが、その表情は暗い。


 この友人学園に転入してくる前、真太郎は都内の中学校に通っていた。しかし、もともと引っ込み思案で気弱な真太郎は、いじめの標的になっていたのである。

 いじめは、しばらく続いたが……ある日、唐突に終わった。いじめていた者たちが、原因不明の病や事故などで、次々と入院していったからである。中には、瀕死の重傷を負った者までいた。




 やがて全ての授業が終わり、真太郎は真っ直ぐ帰ろうとした。だが、何者かに呼び止められる。


「浦井くん、ちょっと来てくれよ。一緒に遊ぼうぜ」


 浦井が恐る恐る振り返ると、そこには予想通りの者がいた。一昔前の学園マンガに登場しそうなヤンキーそのまんまの格好をした少年たちが数人、こちらをじっと見つめている。

 その目には、見慣れた感情があった。弱い者をいたぶる喜びだ。


「なあ浦井くんよう、仲良くしようぜ。それとも、俺たちのこと嫌いなの?」


 ひとりの少年が、そう言いながら近づいて来た。髪が金色で、痩せてはいるが凶暴そうな顔つきをしている。

 少年は、馴れ馴れしい態度で真太郎の肩に腕を回した。


「浦井くんさあ、転校してきたばっかで、この彩佳市のこと知らねえだろ? 案内してやるよ」


「い、いや、僕はすぐに帰らないといけない──」


 言ったとたん、真太郎の腹に硬いものがめり込む。拳だろうか。彼は息のつまりそうな衝撃を感じ、崩れ落ちて膝を着く。

 直後、無理やり引きずり起こされた。


「なあ、そう言わないでさあ……一緒に遊ぼうぜ」


 耳元で囁く声。それに対し、真太郎は頷くことしか出来なかった。どうやら、また以前と同じことになりそうだ。

 それだけは、避けたかったのに……。




 その日の夜、真太郎はリュックを背負い自転車に乗っていた。目指す場所は、このあたりでもっとも呪いの力を強く発揮できる場所である。

 やがて、真太郎はとある場所に到着した。自転車を止め、そっと石段を上がって行く。手には藁人形と五寸釘、さらに金槌を持っていた。呪いの儀式に必要な物ばかりだ。

 また、力を使うことになるとは。


 真太郎には、昔から不思議な力があった。呪力の高い場所を察知できるのも、彼の力のひとつである。さらに、他人を不運な事故に巻き込ませることも出来るのだ。

 自身の力をはっきりと自覚したのは、とある怪談話を読んだ時である。そこには、呪いをかける方法が書かれていた。藁人形に釘を打ち込む……という、今どき幼稚園児でも信じないやり方だ。

 しかし、もともと気弱であり、いじめの標的になりやすい少年だった真太郎。文字通り藁にもすがる思いで、藁人形に釘を打ち込んでみた。

 すると翌日、いじめっ子のひとりが急病で入院したのだ。さらに続けて、いじめっ子たちが次々と不運な事態に巻き込まれていく。車の事故に遭ったり、チンピラに絡まれたり……。

 初めは単純に嬉しかったが、だんだん怖くなってきた。己の得体の知れない力に、恐怖すら抱くようになっていたのだ。

 出来ることなら、この力は使いたくない。転校を機に、封印してしまいたかった。

 しかし、あの手の連中に一度でも目を付けられると、そこから抜け出すのは非常に困難である。

 だからこそ、力を使うしかないのだ。




 石段を上がって行き、神社に着く。だが妙な声が聞こえてきて、真太郎は立ち止まった。


「シャケ弁当、美味しいニャ!」


「美味しいワン!」


 夜の神社に似つかわしくない、楽しそうな声だ。真太郎は、反射的に大木の陰に身を隠した。そこから、恐る恐る覗いてみる。

 すると目の前では、異様な光景が繰り広げられていた。小さな男の子と大きな白い犬が、嬉しそうな様子で弁当を食べている。

 さらに百八十センチを超える大男が、気合いと共に手刀の練習をしているのだ。リーゼントの髪型、プエルトリカンのような濃い顔つき、シャツがはち切れんばかりの筋肉……どこをどう見ても、異様な風体である。


「な、何あれ……」


 真太郎は、藁人形と五寸釘を握りしめた状態で呟く。高い霊能力を持つはずの彼ですら、目の前にいる者たちには怯んでいた。そう、強い霊力を持つ真太郎にはわかったのだ。あの少年と犬は、妖怪なのだと──

 だが、驚くのはまだ早かった。不意に、後ろから何者かに肩を叩かれる。

 慌てて振り向く真太郎だが、直後に恐怖のあまり後ずさっていた。

 そこには、背の高い女が立っていた。赤い革のコートを着て、黒く長い髪と美しい顔の持ち主である。

 ただし、その口は耳元まで裂けていた。


 ・・・


「大介、こいつは知り合いなのかい?」


 不意に聞こえてきた声に、大介はパッと振り返る。そこには、口裂け女が立っていた。いつもと同じ赤い革のコートを着ており、マスクは着けていない。

 さらに、小柄な少年の首根っこを掴んでいる。バラのプリントの付いたシャツを着て、気弱そうな顔に眼鏡をかけた少年だ。


「あ、クチサケさん。ど、どうしたんですか?」


 その異様な組み合わせに、大介はきょとんとなる。すると、口裂け女の表情が険しくなる。


「聞いてんのはこっちだよ! このガキは、あんたの知り合いなのかい!?」


 凄まれた大介は、慌てて少年を見つめる。だが、全く見覚えがない。


「いや、見たこともないですね……お前、誰だ?」


 真顔で、少年に尋ねる。猫耳小僧や送り犬も、物珍しそうに少年を見ている。

 三匹の妖怪とひとりの番長に囲まれ、少年は今にも泣きそうな顔である。震えながらも、かろうじて声を出した。


「……です」


 声を震わせながら、少年は答える。だが、声が小さすぎて聞こえない。


「お前、何を言ってるニャ? ぜんぜん聞こえないニャよ。もっと大きな声で喋れニャ」


 言いながら、猫耳小僧が顔を近づける。彼の顔は、お世辞にも怖いとは言えない。むしろ可愛いはずなのだが、少年は両手で顔をふさいだ。


「た、助けて! お願いだから食べないで!」


 怯える少年を見て、猫耳小僧は困った顔になった。


「あのニャ、俺はお前なんか食べないニャ。まずは落ち着いて、大きな声で名前を名乗るニャよ」


 猫耳小僧の言葉に、少年はようやく声を出した。


「う、浦井真太郎、です……」


「ウライシンタロウ? 大介、知ってるかニャ?」


 猫耳小僧の問いに、大介は首を振る。


「いや、ぜんぜん知らない奴だ。つーか、こんな時間に何しに来た?」


 言いながら、大介は顔を近づけて行く。リーゼントの髪型、いかつく暑苦しい顔、はち切れんばかりの筋肉……真太郎は、恐ろしさのあまり下を向いた。


「あ、あのう……ちょっと遊びに来ただけで──」


「嘘をつくんじゃないよ。このガキは、呪いをかけるために来たのさ」


 口裂け女の言葉に、真太郎は顔を引きつらせながら頷いた。


「は、はい……」


「のろい、だあ? なんだそりゃあ?」


 首を傾げる大介に、猫耳小僧が五寸釘と藁人形を取り上げた。


「これは、呪いに使う道具だニャ。真太郎は誰かを呪うために、ここに来たんだニャ」


「ほう……お前、すげえなあ。わざわざ、こんな夜遅くに呪いをかけるために来たのか。お前、ハンパじゃねえよ」


 大介は、本気で感心していた。こんな小さな少年が、たったひとりで呪いをかけるためだけに来たのか……彼は、素直に凄いと思っていた。

 言うまでもなく、大介は番長である。少なくとも、本人は自身を番長であると認識している。大介にとって、番長とはすなわち弱き者を助ける存在なのだ。

 さすれば、目の前の少年を放っておくわけにもいかない。


「よし……真太郎、俺も手伝うぞ!」


「は、はい?」


 びっくりして聞き返す真太郎の肩を、大介はガシッと掴んだ。


「決まってるだろうが。俺も、一緒に呪いをやるぞ! どうすればいいか教えてくれ!」


「えええ……」


 唖然となる真太郎。そばで聞いている猫耳小僧も、さすがに頭を抱えた。


「あ、あのニャ……大介、それはいくらなんでも無茶苦茶だニャ。お前は、霊力が米粒ほどもないニャ」


 猫耳小僧が小さな声で言ったが、大介は聞く耳を持たない。藁人形を握りしめ、真太郎に向かい吠える。


「俺も今から、呪いをかける! さあ、どうすればいいのか教えてくれ!」


「えっ? わ、藁人形に釘を刺します……」


 真太郎は、大介の勢いに完全に呑まれていた。その肉体の持つ迫力の前に反論できず、聞かれたことを素直に答える。

 すると、大介は大きく頷いた。


「そうか! じゃあ、俺がやってやる!」


 言うと同時に、大介は藁人形の胸に釘を突き刺した。次いで、金槌を振り上げる──

 その瞬間、金槌はすっぽ抜けてしまった。あらぬ方向へと飛んでいき、草むらの中へと消えた……。


「う、うおぉ!? か、金槌がああぁ!?」


 吠える大介。だが、彼はこの程度の失敗で諦めたり落ち込んだりするような男ではない。

 次の瞬間、大介は藁人形を掴む。そして気合いと共に、藁人形に正拳突きを叩き込む──


「な、何やってるニャ大介……」


 頭を抱えながら呟く猫耳小僧。だが、大介は聞く耳を持たない。藁人形をさらに殴りながら、真太郎の方を向いた。


「釘を打つより、こうした方が手っ取り早いだろうが!」


 そう言って、ドヤ顔で真太郎を見つめる大介。だが、真太郎はただただ唖然となるばかりだ。

 横で見ていた猫耳小僧も、さすがにマズイと感じたらしい。横で見ている口裂け女を、そっとつついた。


「な、なんとか言ってやれニャ。あれじゃあ、呪いの意味ないニャよ」


 だが、口裂け女は首を振った。


「あたしには、あいつを止められないよ。ただ、黙って見守るだけさ……」


 彼女の顔には、亭主のバカさ加減に呆れながらも暖かく見守る恋女房のごとき表情が浮かんでいる。さらに、横では送り犬もニコニコしている。猫耳小僧は、思わず頭を抱えた。


「何を言ってるニャ。みんな、どうかしてるニャ」


 そんな妖怪たちを尻目に、大介はガシッと真太郎の肩を叩いた。


「真太郎、もし呪いがダメだったら、またここに来い。その時は、俺が何とかしてやる」


「えっ……また来てもいいんですか?」


 唖然となりながら尋ねる真太郎に、大介は力強く頷いた。


「ああ、もちろんだ」




 翌日、真太郎は友人学園へと登校した。当然ながら、昨日に呪うはずだった連中は無傷のままである。

 しかし、真太郎はさほど気にも留めていなかった。


 やがて授業が終わり、真太郎はとある場所へと向かう。

 石段を上がり、たどり着いた場所は『役満神社』である。そこには、猫耳小僧と送り犬が待っていた。猫耳小僧はバンダナで猫の耳を隠しており、尻尾も器用にしまいこんでいる。送り犬も、普通の犬と何ら変わらない姿だ。

 彼らは真太郎を見るや、いそいそと近づいて来た。


「真太郎、また来たのかニャ……しようがない奴だニャ」


 呆れたような表情の猫耳小僧。一方、送り犬は嬉しそうだ。


「真太郎、よく来たワン。お前のような霊力の強い人間なら、大歓迎だワン」


 そう言われて、真太郎はにっこり笑った。まさか、この彩佳市に来て妖怪の友だちが出来るとは……。


「ありがとう。じゃあ、大介さんを迎えに行こうか」






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