~第2章:未知との遭遇~
扉を潜り抜けると、動く歩道?エスカレーター?のような、段差のない自動で動くレーンがずぅっと下に続いていた。まあ、地上はこの世界で目が覚めてしばらく歩いたし、何もなかったから、目の前のレーンに乗るしか、俺に残された選択肢はないわけなんだけど・・・でも、もやがかかってるのか、先が見えないんだ。
「まあ、エスカレーター的なものがあるなら、この先にだれかいるんだろう・・・」
と割り切り、とりあえずレーンに足を乗せることにした。しばらくは変わり映えのしない風景だったから、最初は立っていたんだけど、疲れてきてそこに座り込んだんだ。気温も快適だったし、気が付いたらまた俺は寝てしまっていたみたいだった・・・
気が付くと、ずいぶん大きな空間に俺は寝ていたんだ。あたりを見回しても別に何かあるわけではないんだけど、地表にあった扉をくぐって下に向かって進んでいた割には明るいし、明らかに人工的な空間だということだけはわかったんだ。
と、その時、
「驚かないでください」
という声が響いた。「響いた」というのは間違いかもしれない。声が聞こえたんじゃなくて、頭の中に誰かの声が「流れ込んで」来たっていうのが正しいとしか言えない、何とも不思議な経験だった。
俺は、声に出すべきかどうか悩んだが、まあ、声に出してみようと思い
「誰かいるんですか??いたら、出てきてもらえると嬉しいんですが」
って、言ったんだ。その瞬間、目の前に影が現れた。「人影」って言わなかったのは、おそらく人とか、人に近い生物なんだろうけど、前の世界で見かける人とは少し違っていたからだ。頭はやたらでかくて体も腕も足もものすごく細い・・・なんか、めちゃくちゃ違和感があったんだよね。顔を見てみたら、目は大きいんだけど、鼻も口も異様なほど小さいし、でも、どこかで見たような感じ・・・宇宙人・・・いや、でも、なんか見たことがあるがなんだっけ・・・って感じで、少しフリーズしていたんだ。
声を掛けたら出てきてくれたってことは、たぶん、俺の話している言葉を理解しているんだろうと思ったが、悩んでいた時にまた声が頭に響いてきた。
「私は人ですよ。しかも地球の・・・あなたが悩んでいるようなので、ちょっと記憶をのぞかせてもらいますね」
『え??』と思ったが、その瞬間、何もない空間に映像が浮かんだ。それは俺がたぶん小学生の頃の風景で、俺は自宅で有名ネコ型ロボットの出てくるマンガを読んでいるところだった。
「これだ!!」
俺は思わず声に出してしまっていた。そうだ!あのマンガの中で主人公が間違って父親を深化させたときの姿に似ていたんだ!
これで、彼(彼女?)が自分のことを「人」って言ったのにも納得がいった。少し安心した俺は、目の前の「人」に話しかけることにした。
「あなたは人だと言ってますが、未来から来た人なんですか?」
「その表現は半分正解で半分不正解です。私たちはあなたから見たら未来の地球人に間違いありませんが、未来から来たわけではありません。原理は究明できていないのですが、あなたが過去から私たちの時代に飛んできたのです」
なるほどね・・・と俺は納得しかけてふと思いとどまった。さっき目覚めたところが未来の日本だとしたら、なんで何もないんだろう。そして、この人はなんで地下のこんなところにいるんだろう・・・
「その質問にお答えしましょう。あ、そうそう、別に口に出していただかなくても、私たちはあなたの時代で言うところの『テレパシー』でコミュニケーションをとることができますので、私に向かって思いをぶつけていただければ意思疎通は問題ないですよ」
と前置きがあり、俺の疑問に答え始めたんだ。
まあ、ほぼほぼ映像だったんだけど、文字にするとこんな感じだった。
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ある日、未知のウイルスが世界に蔓延した。強力な感染力を持ったウイルスは、ワクチンが出てきても変異を繰り返し、相当な期間、人々の活動を抑え込むことになったんだ。当然、経済が疲弊していったんだけど、そこに世界規模の干ばつが起き、各国で食料の奪い合いが始まったんだ。
最初は経済的に力のある国が穀物を大量に輸入するとか、そんなことで持ちこたえていたらしいけど、貧しい国の一つが食料を他の国から奪うために戦争を始めたそうだ。そして、どこかの国が核ミサイルのボタンを押したことをきっかけに、世界のいろんなところで「きのこ雲」がいくつも見られたみたい・・・
ただ、そこからは「世紀末覇者」のマンガに書かれているのとは違っていたんだ。どっかの偉い学者が「今世界にある核兵器の量は、地球を何十回も破壊できる」って言ってたけど、結局のところ各国が狙うのってほとんどが「敵国」の主要都市だったから、日本も基地がある地区にはミサイルが落とされたし、多くの人がなくなったけど、いわゆる「いなか」はどの国でも大きな被害は出なかったらしい。
日本の場合は、東京・大阪・名古屋あたりにもミサイルが降り注ぎ、たまたま富士山に昭和のころからあった天然の防空壕に逃げた人たちは被爆もせず生き残ったみたいだったけど、やっぱり多くの人がなくなったみたいだった。
世界各地に核が落とされたおかげで、それぞれの地域を移動することができなくなり、人類は、自分たちが住んでいる場所での自給自足を余儀なくされる期間が100年くらい続いたみたい。
僕に映像を見せてくれている人によれば、核戦争が起きてから今は1500年くらい経っているらしいけど、富士山に逃れた人たちが幸いだったのは、自然の恵みがそれなりにあったことと、あのあたりには工場が多かったから、電気を何とかすれば、一応普通の暮らしは続けられたってことだった。
ただ、そうはいっても風向きによっては放射能を含んだチリが飛んできたりするという過酷な環境で世代がすすんだのと、俺のいた時代では解明されていなかったが、どうやら富士山の地下には本当の意味でのパワースポットがあったらしく、そこで世代を重ねるうちに、通常では考えられないほど人間が「進化」したんだということだった。
放射能を含んだチリを体内になるべく入れないように口や鼻は小さくなり、薄暗い中でも見えるように目が大きくなった。
自然の恵みはあるといっても、そこまで十分ではなかったから、少ない食料で生存できるように運動を極力しないような生活をした結果、手足は極端に細くなった。そして、生き延びるために全員で頭脳をフル回転し続けた結果、脳が大きくなったんだということらしい。
彼らも最初はよくわからなかったらしいが、そんなこんなで戦争から1000年くらいたって放射能が落ち着いたものの、彼らは食料を調達するとき以外は、基本的に地下に住むという生活スタイルになったんだとか・・・
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