クラスメイトがプロゲーマーだったお話
初めての短編小説です。
今回は、無料FPSゲーム「VALORANT」をモチーフに書かせていただきました。
少しでもEスポーツの魅力を知ってもらえたらと思います。
クラスメイトがプロゲーマーだった話
俺のクラスにはプロゲーマーがいる。
そういう噂が流れていた。インターネットでたまたま見た動画と、声がめちゃくちゃ似ているということで、一時期話題になった。
そいつは、クラスでは別に大して目立つやつじゃなかった。
授業は寝ることもあるが普通に受けてるし、学校にもギリギリだけどちゃんと時間に間に合ってる。めちゃくちゃ明るいわけじゃないけど、暗いわけでもない。
強いて言うなら落ち着いたやつだ。
だが、ある時そいつが一週間ほど学校を休むと、担任から伝えられた。
どうやら、世界大会に出るため、海外に行くらしい。
ゲームのために海外行くんだなあと、という少しの尊敬と、
たかがゲームが上手いだけでクラスの女子がいつもより騒いでいる。
そんな雰囲気に俺は少しイラッとした。
世界大会の放送が、今日の夜の2時から始まるらしい。
現地時間に合わせた時間なので、こんなふざけた時間から始まるらしい。
どんなもんだいと、俺は眠たい目をこすりながら、
暗くなった部屋、布団の中で、スマホの小さな画面を見る。
幸い、実況解説の人がゲームについて軽く説明してくれたので、
なんとなくのゲームの理解できた。
えーと、あいつのプレイヤーネームは、「Kaito」だっけ、
クラスメイトが言っていた名前を思い出す。
「注目はKaito選手の動きですね」
「ええ、最近現れた期待の新星ですからね!」
実況解説の二人のおじさんが、目をガンガンと輝かせながら、解説していた。
ってかKaito注目選手なのか、あんな普通のやつが。
心の中に、黒いモヤモヤみたいなのがある。
ゲームなのに、実況や解説もいるのか。
ゲームに詳しいクラスの友達が、Youtubeのコメント欄はあんまり開かない方が良いといっていた。
どうやら、こういった公式の配信は決まって、コメント欄の暴言がひどいらしい。
ほんのみたさで少し覗いてみる。
そこは、カオスだった。
「Kaito頑張れー!」
「日本に初勝利を!」
と応援している人もいれば、
「日本はまだヨーロッパには勝てない」
「Kaito雑魚」
みたいな非難するコメントもある。
いろんな言葉があるこの場所は本当にカオスだった。
あいつはいつもこんな所で戦っているのかな。
インターネット怖ええ!
どうやら試合が始まるらしい。
最初は入場からだ。ゲームの大会は入場式みたいなのもあるのか。
アメリカの選手が入場してくる。
とんでもないヒゲオヤジのやつもいれば、めちゃくちゃイケメンの人もいる。
非常に多種多聴なアメリカンって感じのチームだ。
次に日本のチームが入場してくる。
先頭を「Kaito」が歩いてくる。
クラスにいる時なんか日にならないくらい自身に満ち溢れている。
胸を張って、地震をもって歩いている。
たかがゲームなのに…
ただ、Kaitoが椅子に座り、ヘッドフォンをかぶり、マウスを握っている姿はとても様になっていた。ヘッドフォンやっぱ良いな。
相手のチームのあんなにガタイの良いやつが、椅子に座ってゲームしている姿はとてもシュールだった。
めちゃくちゃガタイのいいヤツ、眼鏡の細いやつ、太ったやつ、とんでもなく姿勢が悪いやつ、真面目そうなやつ、
そんな色々な人たちが、小さなマウスと、キーボードへの入力だけで戦っている。
発展したスポーツみたいに、何個も大会があるわけじゃない、トーナメント式だから本当に一回負けたら終わり、そんな厳しい世界でクラスメイトが戦っている。
画面を見てると、日本のチームのプレイヤーの一人が女性だった。
なんというか華のある感じだった。男だらけのゲーマーの世界に一人紅一点。
「最近は女性ゲーマーも増えてますからねー」
「キイは、本当に上手いですからね」
キイと言われたプレイヤーは、今はチームメイトと笑って会話してる。
「ゲームの実力は、男女関係ないですからね」
試合が始まった。
最初のラウンドは日本がどうやら奇策に出たらしい。
実況も驚いている。
「round win」
その文字が出た瞬間、ものすごい歓声が湧き上がる。
選手の叫び、キャスターの叫び、観客の叫び、コメントの叫び全てが一体となって反響する。
日本が一ラウンド勝利すると、選手が雄叫びを上げながらハイタッチをして、喜びをわかちあい、敗北すると、お互いに励まし合い、次に向けて対策を考える。
俺が一番惹かれたのは、とにかく真剣なのだ。
ゲームのプロ、いわゆるEスポーツの世界はまだまだ制度が整ってない。
全ての選手が人生を賭けて戦っている。
リーグ戦?そんなお金はない。
一回、一回だけでも負けたら、その大会はおしまいなのだ。
だからこそ、こんなに真剣だし、熱くなれる。
行け、頑張れ!
柄にもなく、携帯を握りしめ応援する。
試合は接戦で、こっちまで緊張する。
体が震える、緊張か、興奮かわからない。
喉が渇く、
ナイス、頑張れと自然に声が出る。
脳は熱く、手足は震えるほど寒い。
今、今この時だけは全てを忘れて俺は全力応援した。
そして、マッチポイント、
「最後はKaitoが決めたー!」
「日本代表black cats、13対11で勝利」
「日本が…日本が、世界相手に初めての勝利を収めました!」
うおおお、
選手はお互いに抱き付き合い、勝利を分かち合っている。
Kaitoは泣いていた。
きっとここまで来るのに、とんでもない努力があったのだろう。
たまたま、クラスで話題になったから見た俺には絶対にわからない世界。
自分の人生を賭けて、世界で勝負する人間にしかわからない場所。
「良いなあ」
自然と言葉が漏れ出す。
久しぶりに思い出した。
自分はゲームが好きだった。
でも、大人になるに連れて、「時間の無駄」という言葉でどんどんやらなくなってしまった。
自分の好きなことを極めて、お金を稼いで、色んな人から応援してもらえる。
そんなあいつに俺は嫉妬してるんだ。
そう理解した瞬間身体がフッと軽くなる。
さっきまでいた黒い気持ちは、晴れたようだ。
きっと自分のことを、自分が認めてあげられたんだろう。
実況の人が熱く語っている。
「もし今この試合を見て、自分もやってみたいと思ったら、やりましょう。
ゲームに早いも遅いもありません!Kaito選手はこのFPSが初めてのPCゲームです。
もし今やらずにあとで後悔するなら、やって後悔しましょう。
僕の持論ですが、そっちのほうが幸せだと僕は思います」
まるでこちらを見透かすようなキャスターの熱い言葉に、
僕の心が、血が、身体が熱くなる。
夜中だが関係ない、俺は急いで携帯でアルバイト先を探し始める。
PCを買おう、マウスも少し良いのを買おう。
そう期待と覚悟と、ほんの少しの憧れを持って、
俺は高校1年生の夏、インターネットの世界に飛び込んだ。
これは後の日本を代表するゲーマーkaitoとlingの始まりの物語。
今度「VALORANT」というゲームの世界大会が4月11日にあります。日本代表は、世界でもトップレベルのチームの韓国代表とあたります。
もしよければ、見てみてください。
きっとあなたはEスポーツの虜になると思います笑