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~お姉さんと進むギルド王国~  作者: 二月ふなし
第2章 ヴァリアード強襲 編
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88.答え合わせ

 薄暗い森の中。


 何か殴打するいびつな音だけが周囲に鳴り響く。


 辺りはその鮮血が撒き散り、男の視界が痛みと共に赤黒く歪んでいく。


 やがて立つことが出来なくなり、背後の木にずり落ちた。


「やっとくたばったか、煩わせやがって」


 シルバーがボロ雑巾と化した男を見下ろす。


「……終わったのね」


 カーラは直視できず目を背けた。


「ったくよ、お前にソイツは合わねえよ。おかげでこっちは助かったけどな」


 コレとラズラは相性が非常に悪い。

 最悪と言っても過言ではない。

 もし違う方だったらどうなってたことか。

 シルバーは内心ホッとするも同時に恐怖を覚えた。

 

「まだ息があるわ、もう殺してあげて」

「そのつもりだ。そうしたいんだがコイツ、全然死にやしねえ」

「早くしないとまた仲間が来る、これ以上誰かに見られるのまずい。あなただって分かってるはずよ」

「…………」


 シルバーは無言のまま、木に身体を預けるゴーに目をやった。

 オーブ切れのため守る手段がなく、光撃(ハード)を生身で何度も受けた。

 全身の骨が無残にも砕かれ、その破片の一部が内臓に突き刺さっていた。

 既にオーブは回復している。

 だが、肉体の損傷が極めてひどく、腕一本動かすことすらままならない。


「ゴハッ……⁉」


 何度も吐いたであろう血で、上半身が赤く染まっていた。


「……放っといても死ぬだろ、これ」

「っ⁉ 何言ってるの⁉ だからよ! 早く殺しなさい!」


 かつての同僚の悲惨な姿にこれ以上は耐えられない。

 カーラは声を震わせてそう言った。


「分かった分かった。チッ、後始末はいつも俺だ。少しはこっちの身にもなって欲しいもんだ」


 シルバーはオーブを出し、それをゴーに向けた。


「……お、お前、ら」


 ゴーが弱々しく口を開く。


「っ⁉」

「んだよ、まだ意識があったのか? しぶと過ぎだぜ」


 このまま大人しく眠って入ればよかったものを。

 クマ並みの生命力に、シルバーは呆れ返る。


「さ、最後に、聞かせてくれ……」

「なんだよ?」

「もう時間が無いのよ、悪いけど聞いてあげられないわ」


 切羽詰まっているためカーラが拒否する。

 しかし、


「いいぜ、言ってみろ。昔のよしみで特別に聞いてやる」

「シルバ! あなたまた!」

「良いじゃねえか。コイツはもう助からねえ、少しくらい喋っても問題ねえだろ、まあ、場合によっては答えられないがな」


 最後の情けでシルバーが特別に許可した。

 

 ゴーは少しせき込み、


「……アイツを、アッシュを、どうして狙った」


 なぜ執拗までにアッシュを殺そうとしたのか。

 それが一番気がかかりだった。


「なんでだ、アイツはただの、14のガキだ」

「ああ? マジにそう思ってんのか? どう考えてもアイツは化け物だろ」

「……化け物、だと」


 ゴーの反応に、シルバーはとぼけるなと声を張る。


「あのな、イービルならともかく、悪魔が憑りついてるってのに平然と生きてやがる、そのうえ力まで使えると来た。んなこと絶対あり得ねえ、異常もたいがいにしろってんだ」

「あく、ま?」


 悪魔という単語を聞いて、ゴーは疑問になる。


「なんだお前、悪魔を知らねのかよ? 悪魔だよ悪魔、アイツから聞かなかったか? アイツの身体には宿ってんのは悪魔だ。マジでなんも知らねえんだな、ケッ!」

「…………」


 本人が黙っていたからあえて聞かなかっただけだ。

 そう言い返したかった。

 でもゴーは言葉を出せない。


「アイツを、どうする気だ」


 自分を殺した後もまたアッシュを狙うつもりなのか

 

「ああ、そうだな」


 シルバーは冷たく言い放つ。


「殺す、次は絶対逃がさねえ」

「そうね、可哀そうだけどそうするしかないわ」


 横にいたカーラも続いて言った。

 今回は撤退する、だが次は確実に殺すと。


「……そうか」


 それを聞いたゴーは、


「じゃ、このまま逃がすわけにいかねえな」


 不敵に笑ってみせた。


「っ⁉」


 突然流れが変わり、2人は驚いてしまう。


「てめえ、なにいきなり元気になってやがる⁉」


 風前の灯火だった男の目に光が宿っている。


「お、お前らに、何が分かるってんだ……アイツの何が分かんだよ」

「おいおいおい、ちょっと待てよ! なんで立ち上がってんだ⁉」

「アイツが今まで何をして、どこで誰と過ごしていたか……好きな女のことだってよ、何一つ知らねえだろうが!」

「シルバ! 何かおかしいわ! この人なんだか変よ!」

「知ったような口聞くんじゃねえ!」

「っ⁉」


 やがて、完全に立ち上がった。

 すでに動かせるような身体ではなかったはずだ。


「何があなたをそこまでさせているの⁉」


 カーラは目を丸くする。

 以前のゴーならこんな行動を取ることはなかった。

 自分の知ってるこの男は、他人(強い相手は除く)に興味がなく身勝手な悪人だったはずだ。

 まして誰かのために動く人間ではなかった。


 そのゴーは声を震わせる。


「別に俺は、アイツの親代わりになったつもりは微塵もねえ。保護者ならすでに足りてるからな」


 本人がどう思っているかなんて知らないし、知ったことでもない。


「ああ見えて手のかかるガキでよ、食い物の好き嫌いはないが代わりにすげえ生意気だ」


 おまけに最近反抗期。

 まともに口すら聞いてもらえない始末。


「この俺としたことが、情けえねえよなあ。フッ、洞窟で暮らしてた頃の俺が今の自分を見たらなんて思うだろうな」


 たかだか一人の子供にここまで入れ込むとは考えもしなかった。

 すっかり牙が抜け落ちてしまった今の自分を、昔の自分は一体どう思うだろうか

 もう歳だと言って笑い飛ばしてくれるだろうか。


「アイツにしてやれるのはもうこれだけだからな、悪いがここで阻止させてもらう」


 絶対に殺させはしない。

 例えこの命に代えたとしても。

 ゴーは腕を組み、再び全身に光を纏う。


「ぶったまげたな、おい……」


 まだこれだけの力が残っていたとは。

 シルバーは驚きを通り越し、逆にあきれ果てた。


「ゴー、あなた……」


 別人のように変わった彼を見て、カーラも言葉を失う。


「分かってんのか? アイツはいずれ世界を破滅させるかもしんねえんだぞ、いま殺しておくが世界のためにベストってもんだろが」


 あの少年に住まう悪魔を決して野放しにはできない


「シルバの言う通りよ。それにあなたは知らないでしょう、あの子が何者で、誰の子供なのか」


 ゴーの話を聞く限りでは、2人は師弟関係ではない。

 ましてや家族的な関係でもない。

 仮に友だちというのなら、別に命を懸けて守るほどの相手ではないはずだ。


「チッ、くだらねえ」


 その質問に、ゴーは小さく笑い、


「俺はアイツのことを弟子だとか、ダチだと思ったことは一度もねえ」


 家族のつもりだって欠片もない。


「ああ? ハッキリしねえな、じゃあなんなんだよ?」

「あん? 言われてみればそうだな、なんなんだろうな。あー……」


 ゴーは少し考える素振りをみせ、


「おっ!」


 やがて答えを見つけたようだ。


 そして、


「まあアレだ。”ダチのガキ”か何かの子守をしてやっている。そんなトコだろうな」

「っ!」

「どうだ、合ってるだろ?」

 

 ゴーの目は確信に満ちていた。


「俺は元々戦って死ぬならそれでも良かったんだ。この世に未練があるほど女々しくねえからな」


 だから別に守りたいわけじゃない。

 さらに言わせてもらえばそんな理由で命を張ったりしない。


「俺には正義の味方なんぞ性に合わねえし、さらさら興味もねえ」


 やはりどこまで行っても彼の精神は極悪人。

 

「でもよ、何だろうな……ガキはガキらしく生意気に笑ってるもんだ。そうだろ?」


 記憶を失くすほど辛い目に会ったのか。

 そんなことはどうでもいいし、毛ほども知りたくない。


 何が言いたいのか自分でもよく分からない。

 でもただ一つ、ハッキリと心の中で言えることがある。


「アイツには……」


 ただ笑顔でいて欲しい。

 せっかく生まれてきて、みんなにも会えた。

 幸せになってくれればそれでいい。


「それだけだ!」


 ゴーは自分の胸に手を当てた。


「恵神ラズラ、嫌だと思うがもう一度だけ力を貸してくれ、これで最後だからよ」


 すると、持ち主に応えるようにクロスオーブが白銀の輝きを放つ。

 ゴーの身体を透してハッキリ見えるほど豪華な光だ


「っ⁉ なんだこの光⁉」

「一体何する気⁉」


 そのあまりの眩しさに2人は目を塞ぐ。


 光が徐々に圧縮され、ゴーの周りに集中していく。


(マルトン、お前には苦労をかけた。それと、世話になったな、エリー)


 光がどんどん濃くなり、ゴーの肉体が銀色に輝く。


(楽しかったぜ)


 身体にパキッとひびが入り、


(……アッシュ)


 目を大きく開けた。


 そして、


「うおおおおお!!! 絶・全身丸盾フルアーマードゴー・ファイナル!!!」


 全てのオーブを全身から解き放つ。


 ゴーを中心にして、白銀の光が一斉に広がっていく


「コイツ自爆⁉ 逃げろカーラ──ッ⁉」

「シルバ⁉ ──っ⁉」


 2人も一瞬で呑まれ消えていく。


 森全体に拡大し、少し離れた第一教区まで爆音とオーブの光が届く。


 昼間というのにハッキリと街の中を照らし出す。


 やがて、少しずつ範囲が狭まっていき、


 完全に、消滅した。


 そこには何もない。ただ、


「…………」


 

 静寂が残るだけだった。

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