87.友との決別
アッシュを襲撃した敵の正体。
それはかつての仲間であった、シルバー=バーシルであった。
衝撃の事実に、ゴーは凍りつきを余儀なくされた。
「シルバ……お前なのか」
口調がおぼつかないゴー。
まるで悪夢を見ているかのような感覚に襲われた。
「ああ、懐かしいだろ? ゴー=ルドゴールド」
シルバーがそう答えた。
彼は当時第一教区支部長だったゴーの仲間だ。
また、子供の頃からの大親友でもある。
彼は、ザイコールが何やら不穏な動きをしていたため探っていた。
だが、本人に見つかってしまい、あえなく惨殺されてしまった悲劇の男だ。
「生きてやがったのか? お前はあの時死んだはずだ、お供え物だって毎日欠かさず……」
現場の第一発見者はゴーだった。
しかし、直後に教会から殺害の容疑が掛けられ、7年間の長い洞窟生活を強いられることになる。
まんまとザイコールに嵌められたのだ。
そのシルバーがなぜか生きている。
どうしてアッシュを殺そうとしたのか。
何も分からず、ゴーは頭の中が混乱する。
「フッ、さっきまでの威勢はどこいった? 人の顔を見るなり静かになりやがって」
「お前は……いやシルバ、お前は一体、なぜ生きてやがる……」
まさか、マジもんの幽霊……ッ⁉
「んなわけあるか、俺は立派な死人だ。もう生きちゃいねえ、この肉体だって俺の物じゃない」
「肉体? どういうことだ?」
「部外者には教えらんねえよ、固く禁じられてるからな。アイツに」
「アイツ、だと?」
何者かがシルバーを復活させた。
そんなことできる奴がこの世界にいると言うのか。
もしいるとしたら、それは──
「シルバ! これ以上は喋っちゃダメよ!」
女がまた横から口を挟む。
「言い過ぎよ、彼は知りすぎてしまった。もう生かしてはおけないわ」
「うるせえよ、んなことは言われなくても分かってる。それにもう顔までバレっちまった、どの道殺すしかねえ」
「やっぱり撤退するべきだった、こんな意味のない戦いなんてまっぴらよ」
「そう言うな、コイツからは逃げられねえ、コイツが出て来た時点で遅かれ早かれこうなってただろうよ」
「…………」
「もういいだろ、お前も取っちまえよ。カーラ」
シルバーがフードを取ることをお薦めした。
「なにっ⁉ カーラだと⁉」
女の名前を聞いて、ゴーはまたもや驚きを見せる。
「……そうね」
そう言って女はフードに手をかけ、その顔を拝見させた。
「っ⁉」
ゴーがまた目を大きく見開く。
それは、シルバー同様かつての仲間であった、カーラ=ミスティックだった。
不治の病で帰らぬ人となった女性であった。
「カーラ……お前まで……」
目の前に幽霊が二体もいる。
恐怖という名の二文字がゴーの頭を駆けめぐった。
「久しぶりね、ゴー。元気そうでなにより」
カーラが微笑みながら言った。
「どうなってやがる、お前らがなんで俺の前に……」
「ハッ、お前が勝手にシャシャッて来たんだろうが! 邪魔しやがって」
「悪い夢か、コイツは」
「フフッ、残念だけどこれは──いいえ、本当に夢かもしれないわね」
かつての仲間が、死んだはずの仲間が目の前にいる。しかも敵として。
ゴーはこの現実を受け入れることが出来ない。
「勝手に喚いてろよ、もうすぐお前も仲間入りだ。俺たち死人のな」
「ええ、だから大人しくして頂戴」
「カーラ、頼んだぞ」
「任せて」
カーラがオーブを出して、シルバーの背中に優しく触れた。
それが爆発することはなく、徐々に身体の中に入っていく。
まるでクロスオーブみたいだ。
「シルバの口が軽いっていうのもあるけど、ゴー=ルドゴールド、あなたは知りすぎた。悪気はないけど死んでもらうわ」
「ケッ、そこまで喋ってねえよ」
「…………」
ゴーは黙ったままであったが、
「そうか、なるほどな」
急に高笑いする。
「おいてめえ、何がおかしい。なんでそこで笑いやがる!」」
「死んだはずのお前らがどうして生きているのかは知らねえ、なぜアイツを殺そうとしたのかもな。だがな、それはお前らをぶちのめした後たっぷり尋問してやればいいだけだ」
疑問は色々と残る。
だが、それに昔の話、もう仲間でも何でもない。
「まさかお前らとまた戦えるとはな、しかも前より遥かに強くなってやがる」
戦闘狂であるゴーは、すでに戦闘モードに切り替えていた。
かつての同僚に対する情などゴミ箱にポイだ。
「ハッ、まだ筋肉馬鹿は治ってねえのかよ。呆れるぜ」
「ああ、だから精々楽しませてくれよ」
ゴーが身体からオーブを捻り出す。
「──全身丸盾!」
身体からさらにまばゆい光が溢れ、神々しさがより一層増した。
クロスオーブ状態から成る、ゴーの最強形態だ。
「完了よ、シルバ」
カーラもオーブを注ぎ込むのを止めた。
限界値まで入れた。
敵側の準備も整ったようだ。
「ああ、恩に着るぜカーラ」
「じゃあ私は隠れてるから、後は頼んだわよ」
と言ってカーラは森の中へ姿を消した。
「はあああああああ!!!」
そして、唸り声と共に、シルバーの身体が神聖な光が滲み出る。
こちらも負けてはいない。
「カーラのオーブか、久しぶりに見たがやっぱすげえなおい」
ゴーは何やら感心している。
──自身の力を相手に貸渡す。
それがカーラ=ミスティックのウィークオーブだ。
「ほざいてろ、すぐにその減らず口をへし折ってやっからよ」
シルバーがオーブを出して構えた。
カーラのそれと混ざり合い、2色の混濁のオーブとなる。
「ほーう、言うじゃねえか。面白れえ、やってみやがれ!」
ゴーもそれに合わせて腕を組む。
「行くぜ!」
「おう!」
合図と共に、2人が同時に動き出した。
互いに破裂で一気に距離を詰める。
「オラッ!」
神々がぶつかり、両者の間に白銀の光が蔓延する。
その衝撃によって辺りの木が騒々しく揺れ動いた。
両者はそのまま接近戦を開始した。
「やるじゃねえか!」
「クソッ、なめやがって!」
神々は対等に渡り合う。
「で、どっちを褒めらいい? お前か? それともカーラか!」
「うるせえ! どう考えても俺だろ! 俺を褒めやがれ!」
互いの拳が幾度となく交差する。
後方の木が神の光に当てられ、粉々に吹き飛んでいく。
神々の立つ大地には軋み、地響きと共に亀裂が入る
まるで神の怒りを体現したかのよう。
下界で荒れ狂う神々。
人間では決して踏み入ることの敵わない神域、それがこの場所に存在した(?)
「もう分離はやらねえのか! オラッ!」
またシルバーと一緒にキャッチボールをやりたいそうだ。
「うおっ⁉ チッ、撃っても無意味だろうが!」
迂闊に撃ってしまえば、物凄い威力に変換されて自分の元に戻ってくる。
なので撃たない。撃つわけがない。
シルバーはイライラしながら攻撃を躱す。
「っ⁉」
やがて敵が押され、徐々に後退していく。
「クソッ! これでもダメなのかよ⁉」
シルバーは嘆く。
いくら相手がクロスオーブを使用しているとはいえ、自分だって同様の力を所持している。
それに加えて仲間の力まで借りている。実質二体一だ。
だと言うのに、戦いはシルバーが押し込まれていた
「オラッ!」
「ボベラッ⁉」
そして遂に、神々の均衡が、あっさりと崩れ去った
ゴーがフルスイングで思いっきり殴り飛ばす。
直撃したシルバーが木に突っ込み、何本も貫通破壊しながらぶっ飛んでいく。
やがて、丈夫な大木に受け止められ、ようやく動きが止まる。
「なに寝てんだお前!」
「ブハッ⁉」
しかし、さらにゴーが破裂で追い打ちをかけた。
グッタリした所を蹴り飛ばし、敵を宙に浮かす。
「おう! 良いもんがあんじゃねえか⁉」
今度は近く生えていた木を引っこ抜き、
「オラッ!」
それをドリル回転させ、思いっきりぶん投げた。
「っ⁉ ぐおッ⁉ があああ!!!」
ドリルがシルバーに突き刺さり、そのまま高速回転して天に昇っていく。
身体と木の接触部位から、激しい火花を撒き散らす
死人のため痛みを感じることはない。
だが、これまで味わったことのない衝撃に、シルバーの脳内は謎に支配された。
「オラオラオラァッ!」
さらに大量の木を投げ込み、天に還る手助けをする
今度は投げた木にジャンプして乗っかり、敵を追うために自身も天に昇る。
「おう! 俺が上だ! 堕ちやがれ!」
「っ⁉ うおおおおお!!!」
あっという間にシルバーを抜き去り、頭上から渾身の全身丸盾を炸裂させた。
敵は物凄い勢いで垂直に叩きつけられた。
耳が砕けそうになる衝撃音。
10メートルはあろう砂しぶきが吹きあがり、大地が大きく揺れる。
これには周囲の鳥たちも一斉に森から飛び立っていく。
「ハア……ハア……、なんだアイツ、あり得ねえ……ぶっ飛んでやがる」
その圧倒的強さの前に、シルバーはただ膝を突くのみだ。
「──まだ生きてんのか、しぶてえ野郎だ」
ゴーがドスンッと降り立ち、のそりと近づいて来る
「フッ、懐かしいなシルバ」
「ああ? なに笑ってやがる!」
「いやすまねえ、昔よくこうやってお前と修行したこともんだってな! 懐かしくなっちまった! ガハハハハ!」
「っ⁉」
シルバーの表情が憎悪へと変わる。
「ッざけんな!!! アレはてめえに無理やり付き合わされただけだ!」
「あん? なんでブチ切れてんだ? 感動するところだろ、普通はよ」
「クソッ! 俺を散々フルアーマードなんとかって奴の実験台にしやがって!」
「違う、全身丸盾だ。何度も説明してやっただろ」
昔、ゴーのウィークオーブの練習を強制させられた。
生前のシルバーは精々Bランク程度だったため、練習相手としては当然役不足であった。
そのためカーラから泣く泣く力を借りていた。
料金もバカにならない。
だが、それでも全く太刀打ちできなかった。
という、とてもとても悲しい過去がある。
それが今の状況と非常に酷似していた。
元凶であるゴーに指摘され、生前の頃の怒りが蘇ってしまう。
「あの頃に比べたら大分マシになったな! ガハハハハ!」
「な、なめやがって……」
「さて、そろそろ終わらせてやるか。もう飽きたしよ」
「くっ……」
ゴーが戦いに終止符を打つべく次に行動に移る。
「おう! 良いもんがあんじゃねえか!」
まずは近くにあった木を引っこ抜き、
「オラッ!」
両腕に抱え、全力で敵に叩きつけた。
「ブヘラァッ⁉」
シルバーは木に押しつぶされ、下半身が地面に埋まって動けない。
モグラ叩きの容量で、一方的に叩きまくる。
「オラッ!」
そして、ゴーがフルスイングで木を振り、カキーンッとかっとばす。
さらに破裂で追撃し、上からはたき落とした。
このタイミングで武器が破損したため、また別の木を引っこ抜いて装備する。
再び何度ぶん殴った。
持ってる木が壊れたらまた別のを用意して再度振り回す。
物量にモノをいわせ、幾度となくブンブンした。
「コイツはおまけだ!」
最後に、突然どこから持ってきたのか分からない巨大な岩を持ち上げ、
「食らいやがれ!」
思いっきり相手に投げこんだ。
「っ⁉」
プチッ
木にボコボコにされて動けないシルバーは、無残にも大岩の下敷きとなる。
「死んだか」
絶命したかと思われた。
「あん?」
しかし、急に岩に亀裂が入ると真っ二つに割れ、シルバーが這い出てきた。
「ゲボッ、ゲボッ……ハア……ハア……」
すでにボロボロ、満身創痍だ。
「終わりだシルバ、もう戻って来るんじゃねえぞ」
最近はめっきり墓参りにも訪れていなかった。
今度お供え物を置いてやる。
だからもう成仏しろ。
トドメを差すべく、ゴーは腕を組む。
「クソッ! クソッ! あり得ねえ! 俺は選ばれたんじゃなかったのかよ⁉」
荒々しくも神聖な光を身体に纏わりついた。
神の力が急速に溜まっていく。
やがて、究極奥義を発動。
「うおおおお!!! 全身丸盾!!!」
しかし、
「っ⁉ ブハッ⁉」
突然ゴーのオーブが解除された。
そのままドサッと地面に手をついてしまう。
「っ⁉」
死を覚悟した死人のシルバーが目を見開く。
「ハア……ハア……もうちょい、だったのによ……」
ゴーが片目を閉じながら苦しそうにしている。
「ハア……ハア……やっぱ、足んなかったか……」
かなり疲弊しており、今まで相当無理をしていたことがうかがえた。
「…………」
シルバーは茫然としていたが、
「……なるほどぁ」
ニヤッとした。




