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~お姉さんと進むギルド王国~  作者: 二月ふなし
第2章 ヴァリアード強襲 編
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86.激突! 神 対 神

 アッシュの救出に無事成功した。


「お前らが何者で、アイツに何の用かは知らん。だがここを通りたければ俺を倒してからにしやがれ」


 ゴーは腕を組みながら前に立ちはだかる。

 通せんぼだ。


特典ヘルナと修行しに来たんだが、また厄介なことに巻き込まれたな」


 ゴーは今日も元気にクロスオーブの練習をするために、従者のヘルナを連れて特訓場に向かっていた。

 しかし、偶然にも道の途中で、戦闘が行われた痕跡を発見。

 それを辿っていくと、今にも転がされそうな瀕死のアッシュに遭遇した。

 というわけだ。


「チッ、よりにもよってコイツが出てくるのかよ。マジでツイてねえな」


 男がバツの悪そうに言った。

 

「あなたが早くしないからこうなるのよ、あの子にも逃げられた。なんとかしてよ」


 この落とし前、一体どうつけてくれる。

 隣にいる女にも焦りが見えた。


「ハッ、何で俺が。こっちから言わせてもらうとだな、責任なら欠員の2人が取るのが筋ってもんだ」


 動かなかったお前らよりは全然マシだ、と言い返す


「そうね……でもこれ以上騒ぎは起こせない。失敗よ、帰りましょう」


 無理な深追いは禁物。

 どうやら敵は撤退するようだ。


「あん? 逃げんのか? つまんねえな」


 ゴーが嘲笑する。

 散々弱い者いじめをしたあげく、自分より強い大人が来ると、すぐに尻尾を巻いて逃げだす。

 その辺のガキ大将の方がまだ根気がある。


「ああ? 相変わらずムカつく野郎だなてめー」

「耳を貸しちゃダメ、アレの相手をするのは危険よ」


 男が食ってかかろうとした所を、女は制止させた。


「残念だが逃すつもりはねえぞ、聞きてえことが山ほどあるしな」


 あれだけ仲間を傷つけられては黙っていられない。

 ゴーはオーブを構えた。


「らしいぜ、コイツはもうやるしかねえって。いやマジで」


 男も合わせて戦闘態勢に入る。


「…………」


 女は目を閉じて少しすると、


「分かったわ、でも私たちの目的を忘れないで。それと危なくなったら即撤退よ」

「了解、さあやんぞデカブツ」

「あん……? お前、なんか」


 ゴーはその呼び方に何か引っかかった。

 どこか懐かしいような、胸のざわつきを覚えた。

 おそらくいつもの気のせいだろう。


「手加減はしねえ、全身丸盾(フルアーマードゴー)!」


 胸騒ぎを消すかの如く、全身からオーブをひねり出す。

 巨体から放たれる凄まじいエネルギーに大地が震えあがる。


「おいおいおい、いきなりソレはねえだろ」

「な、なんてオーブなの……やっぱり危険よ」

「ハッ、大したことねえ、この程度ならまだ俺の範疇だ。邪魔するんじゃねえぞ」


 男が前に出た。無謀にも一人で戦う気だ。


「あん? 言ってくれるじゃねえか、面白れえ戦いになりそうだ」

「アホか、楽しむ余裕なんてあるわけねえだろ!」


 ピリピリしている。今にも始まりそうだ。


 そして、


「ッ! オラッ」


 ゴーお得意のタックルで、戦いの火蓋が切られた。


 男はそれを躱し、即座に相手の背中にオーブを撃ち込んだ。


「効かん!」


 しかし、鉄壁のゴーには通用せず、身体の前で掻き消された。


「こっち見んな!」


 男は分離(リーブ)で接近を阻止しようとする。


 しかし、ゴーは止まることを知らない。


「オラッ!」


 そのまま標的をタックルでぶっ飛ばす。


「ぐっ⁉」


 直撃を受けた男は、地面をズザザザーと踏ん張って堪えた。


「俺に分離(リーブ)は効かん!」

 

 全身が光撃(ハード)で覆われているため、並みの分離(リーブ)では容易く弾かれてしまう。

 ダメージを与えるには同じく光撃(ハード)をぶつけるか、それを超える威力の分離(リーブ)で攻撃しなければならない。

 だが、ゴーのそれはプラスに匹敵するほど強い。

 つまり全身丸盾(フルアーマードゴー)に打ち勝つには、接近戦を挑むしかない。


「うっせえよ! んなこと言われなくても知ってんだよ!」


 男は迷わず接近戦を選択した。

 破裂(バースト)で勢いをつけて相手に殴りかかる。


「フンッ!」


 ゴーが腕を組んでそれを待ち構えた。


 両者は拳に光を纏い、肉弾戦へと移行する。


「おう! 悪くねえ光撃(ハード)だ!」

「るせえ! 何様だてめえ!」


 互いの拳がぶつかる度、辺りに衝撃が伝わり、地面が浮き上がる。


「っ⁉」


 威力はゴーに分があるようだ。

 男の拳にあるオーブが四方に分散し、腕ごと大きく弾かれた。

 

「ハッ、この程度! 大した差じゃねえぜ!」


 しかし、男は臆することなく相手に挑み続ける。 

 出血が見られないこともそうだが、痛みなどまるでないといったご様子だ。


「ガハハハハ!」

 

 ゴーはいつもに増して高笑いする。

 自分とまともに撃ち合える奴は久々、というかギルド長以来だったためテンション爆上がりだ。


 両者はしばらく撃ち合う。


「オラッ!」


 相手が大きく仰け反ったところを、ゴーが殴り飛ばした。


「くっ⁉」


 男は間一髪、両腕でガード。

 

 またしても地面を後ずさる、ズザザザァー-!


「…………」

 

 両者は一度動きを止めた。


「思ったよりやるじゃねえか。なるほど、アッシュがああなるわけだ」


 全身丸盾(フルアーマードゴー)にここまでついて来られる相手は大変珍しい。

 目の前の敵は間違いなくAランク相当の実力者だ。

 仲間がやられた怒りなんてもうどこ吹く風。

 ゴーはたまらずニヤっとする。


「ハッ、こっちは拍子抜けだぜ。こんなもんだったか?」


 男がそう言った。

 とは言うものの、彼の腕は先ほどの接近戦で酷使したため、真っ黒に焦げてしまい痛々しい状態だ。


「──もう十分のはずよ! 満足したでしょう!」


 遠くで見ていた女が呼びかけたが、


「うるせえ、まだこれからだろうが!」


 男はまだやめるつもりはない。

 まだ帰りたくないと言って駄々をこねる。


「フッ」

「ああ? おいてめえ! 誰の許可があって笑ってんだおい!」

「この技はちと燃費が悪くてな、このままだとオーブを切らして俺が負けるだろうよ」


 ゴーがきっぱりと言い切った。

 おそらく負けた時の保険のつもりだろう。

 敗北宣言だ。


「なに言ってんだ? んなこと当たり前だろ」


 それを分かっていて、なぜおチャラけていられる。

 男はとても不審に思っていると、


「ガハハハ! これは笑うしかねえだろ!」

「ああ? なんだ諦めたのか?」

「ガハハハハ!!!」

「チッ、なんだコイツ」


 さっそく気でも触れてしまったか。

 単純に、ゴーは戦いになると、突然笑い出すという悪い癖がある。

 ただそれだけのことだ。


「あー、そうかい。心配すんな、オーブが切れる前にぶっ殺してやるからよ」


 そう言って男は構えるも、ゴーは笑ったまま続ける


「良い練習相手がいなくて困ってたんだ、それがいま目の前にいやがる。もう笑うしかねえだろうが!」


 目の前にいる男。

 おそらく自分の全力を持ってしても倒すことはできない。

 アレを試すには絶好の機会。

 願ってもみないチャンスだ。

 ゴーは笑いが溢れてしまう。


「ちょっと待ってろ」


 さっそく懐からガサガサして、丸い球を取り出した。

 神秘的な輝きを放つ手のひらサイズだ。


「っ⁉ 気を付けて! クロスオーブよ!」


 女がいち早く気づいて注意を促した。


「は? あれが例の……っておい! なんでアイツが持ってんだ⁉」


 一体どこに落ちていたのか。

 いくら謎の男といえど、流石に驚きを隠せない。


「行くぜ! うおおおおお!!!」


 ゴーがそれを胸に押し当て、溶かすように身体の中に浸透させていく。

 

 クロスオーブから銀色の光が大量に放出される。

 不思議と主を拒んでいるように見えた。


 拒否反応を見せるオーブを無理やり体内に取り込み


「っ⁉」


 ゴーの目が一瞬光ったかと思うと、瞬時に身体に神々しい光が纏わりついた。

 なぜか少しだけ宙に浮いている。

 その様はまるで神様のよう、つい拝みたくなる。


「まずいわ……ただでさえ厄介な相手なのにクロスオーブまで……逃げましょう!」


 女は恐れ多くなり、早々に立ち去ろうとする。


「バカ言ってんじゃねえ、それはこっち()同じだ。この程度で今さらビビるかよ」

 

 そう言って愚かな男は神に身構えた。大変不届きだ


「頼むから簡単にやられないでくれよ! 頼むからな!」


 ゴーが神聖な笑みを浮かべ、腕を組んで神の威厳を見せつける。


「なめんな!」


 男が飛びかかり、神に先制した。


「フンッ!」


 ゴーは微動だにせずに、相手の拳を片手で軽々と受け止めた。


 そのままグイッと引っ張り近くに寄せ、左腕を振り上げた。


「おっと!」


 ゴキッ、男は肩の骨を外し、身体をひねって回避する。


 空いた手からオーブを放ち、神の攻撃範囲から一度脱出した。


 今度は後方高く飛び上がり、木と木を高速で移動し、ゴーをかく乱する。


「食らえ!」


 そのまま神様にオーブを放つ。


「おっ! 良いもんが飛んで来んじゃねえか!」


 パシッ!


 神秘の光を纏うゴーがそれをキャッチする。


 オーブは爆発することなく、彼のゴツい手にすっぽりと収まった。


「ああ、やっぱいらん! 返すぜ! オラよ!」


 即座に相手にぶん投げて返却した。


「なっ⁉」


 男はとっさに隣の木に飛び移り、彼の元居た木が土へと帰っていく。


「オーブを投げ返しやがった⁉」


 ──相手のオーブだろうと、一度触れれば意のまま操ることできる。

 それが恵神ラズラの力。


「チッ、よくわかんねえがこれならどうだ!」


 男は高速で木々を飛び回る。


 瞬く間に四方八方からオーブを連射した。


「おもしれえ!」


 ゴーは躱しながら、いくつかを手掴みして、相手に投げ返す。


「うおっ⁉」


 自分の撃ったオーブが剛速球で戻ってくる。

 初めての体験に、男は高い所から落とされたみたいにヒュッとなる思いだ。


「ガハハハハ! たまんねえなおい!」


 相手のオーブを利用して戦う。

 こんなに愉快なことはない。

 ヘルナとの練習でやっていたが、実戦だとやはり気持ちがいい。

 まるで自分が分離(リーブ)を使ってるみたいだ。

 分離(リーブ)が出来ないゴーはとても楽しんでいた。


「オラオラーッ!」

「クソッ!」


 しばらくオーブによるキャッチボール大会が開催されたが、


「って俺しかオーブ消費してねえじゃねえか! やってられっかこんなこと!」


 男は急に馬鹿らしくなり早々に切り上げた。

 

 今度は木を蹴り、勢いをつけて急接近する。


「雪合戦は終わりか? 少し、いや、かなり残念だ」


 戯れご苦労、神様は大変ご満悦。

 そのまま腕を組んで相手を向かい撃つ。


「っ!」


 再び両者の光撃(ハード)が衝突し、接近戦に移行した。


 ガガッ! ガガガガッ! ガガッ!

 

 2人の拳がぶつかるたびにオーブの欠片が辺りに飛散する。


「くっ⁉」


 やはりゴーの方が優勢である。

 男は顔を歪めながらもなんとか食らつく。


 ──互いの光撃(ハード)を中和し、限りなく同等の威力に調整する。

 従って光撃(ハード)が弱い者でも、接近タイプとある程度対等に渡り合うことができる。

 それが恵神ラズラのもう一つの力。

 ちなみゴーにはあまり意味がないため、現在使用していない。オフだ。


「オラッ!」

「フンッ!」


 再び互いの拳が衝突し、2人の立つ地面が唸りをあげる。


「ッ⁉ その力……まさか、クロスオーブか⁉」


 撃ち合いながらゴーが目を見開く。

 初めからずっとあった違和感。

 その正体がやっと分かった気がした。

 相手から自分と似た力、神の力を感じ取っていた。


「ハッ、違うな。もっと()の力だ!」

「上だと⁉ ソイツはどういうことだ⁉」


 クロスオーブは2つしか存在しないはず。

 一つは今自分が所持している。

 もう一つはあの忌々しい老害が持っている。


 しかし、相手から放たれるこのオーブ。

 こちらの神とはまた違う神聖な力を感じる。

 まさか、ザイコールから奪ってきたのか、いつの間に……。

 

「違げえよ! コイツはガルスじゃねえ!」


 戦神ガルスではない、恵神ラズラでもない、しかしこれは明らかに神の力。

 考えられるとしたらもうアレしかない。


「まさか、女神──」


 ゴーが口を開こうとしたが、


「おっといけねえ! 今の話は無しだ、やべえわ絶対怒られるわ」


 男が攻撃して会話を遮った。

 これ以上聞かれると色々マズいらしい。


「チッ! 勿体ぶりやがって! まあそこんとも後でじっくり喋ってもらうがな!」


 しばらく接近戦に興じていたが、


「オラッ!」


 ゴーが相手の顔面に一発ぶち込んだ。


「ゴハッ⁉」


 男は後方に下がり、その威力を受け流す。

 

 しかし、風圧で彼の被っていたフードが取れてしまう。


「誰なのか気になって戦いに集中できやしねえ、見せてもらうぜ、お前の素顔!」


 ゴーは敵の正体がずっと気になっていた。

 なので狙ってフードを剥がしたのだ。


「…………」


 男は顔を下に向けたまま動かない。

 公衆の面前で素顔を晒したくないのか。

 それとも単純にシャイなだけか。


「──シルバ! 顔を上げちゃダメ!」


 戦いを観戦していた女が声を張り上げた。


「なにっ⁉ シルバだと⁉」


 ゴーが驚愕してとっさに女の方に目を向けた。

 

 あの男は死んだ。ここにいるはずがない。


「嘘だろ、死体だってちゃんと埋葬して──」


 男がゆっくり顔を上げた。


「っ⁉ シル、バ……お前、なのか」


 白髪で見るからに不健康そうな顔。

 子供相手にも容赦はしない、みたいなゴロツキのイメージがある。

 間違いない。

 それは、かつてザイコールに殺されたゴーの仲間、シルバー=バーシルだった。


 ゴーは目を丸くしたまま固まる。

 まるで心霊体験にでも遭遇したかの反応だ。

 

「…………」



 亡霊は無言でたたずんだ。

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