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~お姉さんと進むギルド王国~  作者: 二月ふなし
第1章 敵の敵は敵 編
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8.悪手と悪臭

 アッシュは街を駆け回っていた。

 レクスに先に行かれてしまい、現在一人で移動している。


 イービルは見つからない。

 ここに来てまだ日が浅いアッシュは、まだ街を把握しておらず、軽い迷子になっていた。

 どこに行っても同じような民家に出るばかりだ。


「どこにいるのさ」


 もう戦っているのだろうか。

 一度戦ってレクスが強いことは理解できた。

 だが、それはあくまで自分と比べてという意味。


 前回のイービルと比べると厳しいモノがある。

 Bランクのハリスが苦戦していたのに、Cランクの少女一人で大丈夫なのか。

 アッシュは不安だった。


「ん?」


 しばらく走っていると、遠方からバンッと爆発音がした。

 この音に既視感がある。


 そうか。

 この爆発は、レクスの謎のオーブ技、爆殺光撃(バーニングクラッシュ)によるものだ。 

 アッシュは音のする方向へと走り出した。






 

 ──場所が少し変わって。

 先に向かったレクスは、すでに戦闘を行っていた。


「コイツ⁉」


 アッシュの不安が的中し、案の定苦戦している。


 不気味なうめき声をあげる真っ黒な物体。

 身体が大きく、腐ったゴミ袋のような見た目で、その場を動かない。

 酷い臭いが辺り一面に立ち込めている。


 腕には何本も触手があり、その部分だけ異常に俊敏だ。

 レクスは近接攻撃が主体なのだが、接近することができない。


 あっけなく捕まってしまった。


 捕食するのだろうか、少女を口まで運ぶ。


「クソッ、離せ!」


 暴れるも、まるで意味がない。


 やがて、イービルが口をあんぐりと開き、そのまま食べようとした。


「うっ⁉」


 口から洩れる激臭が、少女の鼻をつく。


「──分離(リーブ)!」


 突然、どこからかオーブが放たれた。

 触手に命中し、ボンッと膨らみ爆発する。


 触手がシュルシュルと離れた。

 両手の空いたレクスが、下半身に巻き付く触手を、オーブを使って振りほどく。


「レクス!」


 アッシュが助けにきた。

 かなり急いだようでその息は荒い。


「ワタシだけで十分だと言ったはずだ」

「なにさ、食べられそうになってた癖に」

「少し油断しただけだ」


 相変わらずの意地っ張り。

 レクスは何もなかったかのように振舞う。


 間に合ったみたいだ。

 ホッとするアッシュだったが、前回と全く違う形をした生物に戸惑う。


「あれがイービル……」

「動きは鈍いがあの触手、かなり厄介だぞ」

「この臭い……うえっ、なにさ」

「ああ。ワタシも匂いがするタイプは初めてだ」


 ハンターは汚れ仕事なのか。

 2人は鼻を押さえるが、


「来るぞ!」


 イービルが触手を伸ばしてきた。


 せっかくの食事を邪魔されてしまい、かなり怒っている。

 

 2人は距離を取り、触手が届かない位置まで退避。


「なにか作戦とかあるのか?」


 作戦は大事だ。

 アッシュが不意に尋ねる。


「そんなものはない。近づいて一撃入れるだけだ」


 聞いたのが悪かったらしい。


「そう言う貴様は何かあるのか?」

「……ない」

「フンッ、なら聞くな」


 アッシュなりに考えた。

 このイービルもどうせ、分離(リーブ)では倒せないだろう。

 ならレクスの言う通り、近づいて光撃(ハード)を当てるしかない。


 しかし、その前にあの触手に捕まってしまう。

 自分より機動力の高いレクスがそうなるのだから、よけきれるはずがない。


 出来ることならアレに近づきたくはない。

 ここからでさえ、ひどい臭いがする。

 これ以上は無理だ。


 そんなことを考えていると、ふとある作戦を思いつく。

 同時に顔をしかめて言う。


「あのさ、近づけさえすればいいのか?」

「ああそうだ。何か思いついたのか?」

「はあ、じゃあ任せた」


 作戦、というよりこれしかない。

 アッシュは臭いを我慢し、イービルの元まで一直線に走りだす。


「なんだ、臭いにやられて血迷ったか」


 レクスも加勢した。

 






 ──2人は悪臭と戦う。

 接近を試みるも、素早い触手の動きに苦戦し、近づくことができない。


「あっ⁉︎」


 アッシュが捕まってしまう。


「クソッ!」


 気を取られてレクスも捕まった。


 そのまま仲良くイービルのお口まで運ばれていく。

 ゴミ袋も嬉しそうだ。


「おい! このまま喰われるのが貴様の作戦か⁉」

「そんなワケないさ。一発しかないからあとは任せた」

「なんだ、一体なにを……」


 イービルが先に捕まえたおいしそうなアッシュを食べるため、大きく口を開けた。


「えっ⁉ くっさ⁉」


 今までの比ではない激臭。


 吐きそうになるアッシュは左腕を黒く染めた。


 触手を力任せに千切り、標的の大きな口に向け、左腕を構えた。


「食らえ! 分離(リーブ)!」


 そう叫び、黒いオーブが直線状に発射される。


 口内に直接光線を流し込まれたイービルが悲痛な叫びをあげた。

 中のモノが色々飛び出して、たまらないといった様子。

 2人の拘束を解いてしまう。


「レクス!」

「ああ、任せろ!」


 グッタリするゴミ袋。

 レクスはすぐに接近し、手の甲がオーブで熱を帯びた。


「──爆殺光撃(バーニングクラッシュ)!」


 裏拳で一撃と言わず、何度も殴り滅多打ちにする。

 本当に手加減していたらしい。

 勢いがアッシュの時とは段違いだ。


 イービルの身体が爆発し、粉々に吹き飛んでいく。


 やがて、悪臭と共に跡形もなく消滅した。

 

「ハア……ハア……やった」


 やっと臭いから解放された。

 アッシュは地面に寝転んだ。


「なんだ、フラフラじゃないか」

「あれをやると、毎回こうなる」


 弱々しく返答する。


「なぜワタシと戦ったときは使わなかった?」

「そっちと違って、手加減できないからさ」


 お互いに手加減していたらしい。


「まあいい。今回は助けられたな。一応、礼を言う」

「いいさ。困ったときはお互いさまって」

「フッ、そうだったな」



 2人は笑った。

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