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~お姉さんと進むギルド王国~  作者: 二月ふなし
第2章 ヴァリアード強襲 編
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82.お昼帰り

 急いでマルトンたちの元へ戻ると、そこにグレンはいなかった。

 何ごともなかったみたいで、アッシュはホッと一息つく。


 なぜあのタイミングで親子が撤退したのか。

 どうしてクロスオーブを諦めたのか。

 色々と疑問は残る。


 とりあえず、アッシュたちは第一教区へと帰還。

 現在、その戦果を報告するためにギルド長の部屋にいた。


 しかし、


「誰よその女! 答えなさい!」


 プラスの怒鳴り声が響く。

 大事なアッシュがやっと帰って来たと思ったら、知らない女と一緒だったのだ。

 こうなるのも無理はない。


「勝手について来ただけさ! 何度も言ってるだろ!」


 アッシュがそう弁明する。

 部屋にはプラス、アッシュ、そしてヘルナの3人だけ。

 ティゼットを入会させた後、マルトンはギルド長に会いたくないとのことで、先に一人で帰っていた。


「女遊びなんてどこで覚えたのかしら? 言っとくけどね! アンタみたいなお子ちゃまにはまだ早いんだから!」

「だから違うって言ってるだろ! それに子供扱いするなよ! このお節介ギルド長!」

「なによその言い方! ぜ〜ん然可愛くないっ! このエロアッシュ!」


 ちなみにヘルナは今、キチンとした格好をしており、先ほどのような肌の露出は控えていた。

 あのまま街に入れるのは非常にまずい。

 なので、アッシュがわざわざ女性専用服屋でお洋服を買い、無理やり着替えさせたのだ。


 当のヘルナは服の着心地が悪いようで、時おり身体をモゾモゾさせている。

 だが、愛しのご主人様に我慢しろと言われた。

 そういうプレイと思っているのか意外に楽しそうだ


「ホント信じらんない! こんな女一人に手こずっていたっていうの⁉︎」


 アッシュの話では、この女、ヘルナ=ラズラールがずっと妨害していたそうだ。

 たった一人相手に、部下たちが何度も返り討ちにあったことがにわかに信じ難い。


「しかもお持ち帰りまでしちゃって……はっ! もしかしてお昼帰りなの⁉」

「誤解を招く言い方はよせよ! オレがどれだけ苦労したと思ってるのさ!」

「うるさいわね! 大変なのはこっちの方よ、なのにアンタと来たら!」

「フンッ、そんなの知ったことないさ!」

「なによ!」

「なにさ!」


 2人はぐぬぬと睨み合う。


「『フンッ!』」


 まるで仲のいい姉弟みたいだ。

 どちらもあと少しという所でグレンに登場されてしまい、大変気が立っていた。


 あの後、プラスは一度街に戻り、現れたイービルを瞬く間に殲滅。

 ゴーの協力もあって、被害は最小限に抑えられた。

 また、ヴァリアードも無事撃退できたため、ギルドの者は一安心だ。


「あなたも黙ってないで何か言いなさいよ!」


 モゾモゾする女に矛先を変えた。

 

「この人、恐い」


 ヘルナは怖がるフリをして、ちゃっかりご主人様の肩に寄りかかる。


「なっ⁉ あなた何してるの⁉ なんで勝手にくっついているのよ⁉」

「フフフ、彼はご主人様。私の王子様」


 と言って身体をスリスリする。


「なんでそうなるのよ⁉︎ それにご主人様って……アッシュ! アンタそんな趣味があったの⁉」

「はあ……」


 アッシュは深くため息を吐く。

 早く宿舎に帰って休みたい。

 でも、何を言っても話がややこしくなる一方。

 もう疲れた、トホホである。

 

「こっちに寄越しなさい!」

「やめて、触らないで」

「アンタなんかにアッシュは任せらんない、グギギギ……早く離れなさいよ!」


 そのまま少年に腕を絡めて取り合う。

 保護者として、こんなはしたない女をアッシュに渡すわけにはいかないと躍起になっている。


「アッシュはわたしのアッシュなの!」

「ううん、私のご主人様」


 2人が争っていると、

 

 急にドアがドンッと開く。


「──おう! 戻ったかアッシュ! 聞いたぞ、クロスオーブ取って……あん?」


 ゴーが中に入って来た。

 しかし、2人の女性がアッシュを取り合っているのを見て、動きが止まる。


「何やってんだお前ら……それよりマルトンから聞いたぞ! すげえなお前!」

「あっ、ゴー! ちょうどよかった! 助けてさ!」

「放しなさい!」

「それはあなた」

「あん?」


 アッシュは第二教区でもこうやって、女性ハンターに引っ張りだこだ。

 ゴーにとってはいつもの光景に過ぎない。

 なので、気にもくれず話を続ける。


「ダメ元だったがマジで取って来やがった! 流石俺が鍛えただけはあるな!」


 アッシュがクロスオーブを手に入れたことをマルトンから聞いたゴーは、いち早く飛んできた。

 また、ファーマをわからせたこともあり、いつもに増して上機嫌だ。

 腕を組んで一人高笑いする。


「ガハハハハハハハ!」

「いい加減にしなさいよアンタ!」

「あなたこそ、しつこい」

「なんですって!」

「だ、誰か、助けてさ……」


 アッシュは助けを求めつづけた。

 しかし、救いの手を差し伸べる者は、最後まで現れなかった……。


 しばらくして、アッシュは戦利品を取り出した。


「おお、コイツが例のクロスオーブか……すげえエネルギーだ」

「ホントね、それにとても綺麗だわ」

 

 大人2人は食い入るように見ている。

 このブツを4年間ずっと捜索していたのだ。

 その苦労がやっと報われていた。


「で、これはどっちなんだ? ラズラか? ガルスか?」


 どちらなのか。これが一番重要。

 ゴーが興味津々に尋ねた。


「ラズラさ、そうだよな?」

「うん、ラズラ様」


 アッシュが確認を取り、ヘルナは相づちを打つ。

 すると、

 

「はあ~、なんだ。ラズラかよ……クソがッ」


 ゴーがガックリと肩を落とした。


「ムッ……」


 ヘルナはあからさまに顔をしかめた。

 ゴーの態度がお気に召さないのか。

 まるで自分が乏されたみたいな反応だ。

 

「仕方ないわよ、それにあっちがガルスを持ってるって分かっただけでも十分じゃない」


 珍しくクマさんを慰めるプラス。


「チッ、やっぱあの時ザイコールの野郎を抹殺するべきだったじゃねえか……なあ、そうだろアッシュ!」

「どうしてオレに振るのさ」

「フッ、まあいい。お前がせっかく取って来たんだ。敵に渡らなかっただけでも良しとするか」

「そうね、よくやったわ。わたしからも礼を言うわね」

「…………」


 アッシュはなんだか煮え切らなかった。

 このお通やみたいな雰囲気は一体なんだ。

 種類なんてどっちでもいいだろうと心の中で嘆いていた。


「うっ……」


 それに隣にいるヘルナもなんか怖い。


「で、誰がこれを使うのさ? これ」


 空気を戻すべくアッシュが尋ねた。


「えっ?」


 ヘルナがバッとご主人様に顔を向ける。

 君が使わないのかとでも言いたげだ。


「そうね、わたしはもう必要ないし、ゴーでいいんじゃない?」

「そうだな、ガルスじゃねえのがちと残念だが、無いよりはマシだ。とりあえず俺が持っておこう」


 と言ってゴーがクロスオーブを懐にしまう。


「あっ……」


 ヘルナは氷のように固まった。


「というわけでヘルナ、これからゴーが新しい主さ」


 アッシュがニッコニコで言う。

 解放感に満ち溢れていた。


「主ってなんだ? そういえばこのお嬢ちゃんは誰だ?」


 今更ながらヘルナの存在に気づく。


「それがさ……」

「っ、ダメ、言わないで」


 アッシュがお構いなくヘルナのことを教えてあげた


「そんな特典があんのか! 流石クロスオーブだな! ガハハハハ!」


 もれなく従者までついてくるそうだ。

 ゴーはそれを聞いて大層気分が良くなった。


「なるほど、確かに見てくれは悪くねえ女だ。それに見込みもありそうだ」


 そのまま品定めするようにヘルナを見た。主に胸を


「うっ……っ⁉」


 横からヘルナの強烈な視線を感じる。

 アッシュはとっさに目を逸らした。


「よし! それならついて来い! 今からお前の実力を確かめてやる! ガハハハハ!」

「くっ……」

 

 ゴーは上機嫌に部屋から退室した。

 主の命令は絶対。

 従者のヘルナもイヤイヤながら後をついて行く。

 アッシュを睨みながら。


 バタンッ、シーン……。


「行ったわね、ホントに良かったの?」


 静まり返った部屋の中、プラスが尋ねた。


「なにがさ?」

「決まってるじゃない。ヘルナよ、あの子すごく嫌そうだった」


 ゴーの従者なんて同情する。

 何をされるか分かったものではない。

 プラスはとても心配そうにしている。


「そう思うならさ、プラスが持ち主になれば」

「いやよ、たださえうざったい執事を抱えてるのに。その上従者だなんて、ゴメンだわ」

「まあ、大丈夫さ。ゴーなら心配ない、そういうのは特にさ」

「ん? どういう意味よそれ?」


 

 プラスは首を傾げた。

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