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~お姉さんと進むギルド王国~  作者: 二月ふなし
第2章 ヴァリアード強襲 編
86/142

81.激突! アッシュ 対 レクス

 アッシュを自らの手で殺したいレクス。

 レクスを監禁して所有物にしたいアッシュ。 


 この2人はスターバードとレオストレイト。

 これだけでも戦う理由には十分過ぎる。

 因縁の戦いが、遂に、始まる。


「行くぞ! アッシュ!」


 まずはレクスが破裂(バースト)で、一気に距離を詰める。


「っ⁉」


 速度が格段に上がっている。


 アッシュは4年前と同様に不意を突かれてしまう。

 

 そのまま2人は接近戦を始める。


「どうした! 何もしないのか!」

「くっ! 分かってるくせに!」


 レクスは拳にオーブを乗せ、至近距離で撃ち合う。

 

 しかし、アッシュは反撃せず、ひたすら相手の攻撃を避けるだけだ。


「フンッ! 前の方がマシだったぞ!」


 レクスが勢いを上げて襲いかかる。


「っ⁉」


 アッシュは相手の拳には一切触れず、器用に躱し続けた。


 ──4年前と違い、今はオーブを乗せて撃ち合っている。

 レクスは生粋の接近タイプで、光撃(ハード)の威力が随一。

 それは、アッシュの光撃(ハード)では触れるだけでもダメージを受けてしまう程だ。


 そのため、いくら喧嘩の得意なアッシュと言えど、これでは撃ち合うことはできない。

 仮に拳を奮おうものなら、レクスの強烈な光撃(ハード)で叩き落とされ、痛手をくらうことだろう。


「早く死ね!」

「っ⁉」


 当然アッシュが押されていた。

 そもそも土俵にすら立っていない。


 ちなみに、レオストレイトの者は光撃(ハード)が得意な傾向があり、レクスも例に埋もれずそれに該当する。

 反対に、スターバードは分離(リーブ)の優れている者が多い。

 プラスとアッシュも一応はその恩恵を受けており、遠距離が得意とはいかないが決して苦手ではない。


 スターバードは分離リーブ、レオストレイトは光撃ハード主体で戦う。

 彼らの祖先も、毎度こういった感じで争っていた。


「いつまで逃げ回っている!」


 アッシュはなんとか距離を取ろうとするも、レクスが張り付いて逃さない。

 光撃(ハード)が弱いことがバレている。


「なに言ってるのさ! 撃ち合うわけないだろ!」


 あのレクスが何度も自分の懐に飛び込んでくる。

 アッシュは戦っている最中なのに、心が自動的に舞い上がってしまう。

 しかし、集中しないとすぐ切り崩されてしまう。

 困った身体ではあるが、邪念を払おうと努力する。


「チッ! 話にならん! 本気で行くぞ!」


 相手はまともに撃ち合ってこない。

 呆れたレクスは、攻撃の手を休まずに、オーブを手の甲に移していく。


 そして、熱を帯びたような真紅の輝きを纏う。


「──爆殺光撃(バーニングクラッシュ)!」


 そのままグルグルと急速回転し、勢いを乗せた裏拳を放つ。


「ッ⁉」


 アッシュは身体を屈んで避けた。


 頭上で強烈な風圧がかかる。


 すぐにまた次の攻撃が、軌道を変えてやってくる。


「死ね!」

「うっ⁉」


 なんとか紙一重でかわす。


 見ての通り、アッシュはこのウィークオーブがすごく苦手だ。

 レクスの放つ裏拳の軌道が全く読めず、どうしても対処に遅れてしまう。

 おまけに4年前より回転速度があり、その威力も計り知れない。

 

 この圧倒的ごり押し戦法。

 アッシュはまるで生きた心地がしない。

 もし直撃を受けた場合、教会送りでは済まされないだろう。


 このままでは本当に殺される。

 レクスを監禁できない。それはとても困る。


「くそっ!」


 アッシュはとっさにオーブを出し、


分離(リーブ)!」


 それを真下の地面に放つ。


「なっ⁉」


 2人はオーブの爆風に呑まれていく。


「ゲホッ、ゲホッ」


 アッシュが爆風から飛び出した。

 距離を取るためにわざと地面に撃って、無理やりスキを作ったのだ。

 だが、至近距離で放ったためアッシュ自身もダメージを受けている。

 

 そのまま森の中に姿をくらました。


「くっ⁉ バカなのかアイツは⁉」


 レクスも脱出した。

 反応が遅れたためモロに爆風を受けてしまい、衣服が少し焼け焦げている。


「チッ」


 まさか至近距離でオーブをぶっ放してくるとは。

 変なことばかりする奴だったが、この4年でさらにおかしくなったようだ。

 やはり生かしておけない。レクスはそう思う。


「おいアッシュ! どこに行った!」


 大声で相手の名を叫ぶも、森に響くだけですぐに静まり返る。


「なにをコソコソ隠れている! 姿を見せてみろ!」


 そんなことを言っても、そう易々とアッシュが出てくるわけがない。


「とんだ腑抜けだな! まあいい、出てこないなら仲間を殺し行くぞ!」


 こう言えば出て来るしかないだろう。

 レクスは小さく笑ったが、


「っ⁉」


 突然、背後から緑色のオーブが飛び込んできた

 アッシュの浮遊分離(ホーミングクラッシュ)だ。


「くっ⁉」


 レクスはギリギリで身体を逸らす。


 しかし、向きを変えて再び襲いかかる。


「なんだこれは⁉」


 周りの木を縫うように避けて、まるで生き物ように的確に追いかけてくる。


 さらに木を遮蔽物にしようものなら、グルッと裏周りして突っ込んでくる。


 まさか自動で追尾するというのか。

 残念ながらウィークーオーブでそういった事はできない。

 つまりアッシュ自身が操作しているということだ。


「どこで見ている⁉」


 レクスは辺りを見渡すも、周りには何も変哲ない木が立つだけ。


 だが、相手はこちらの位置を完全に把握している。

 オーブの動きが正確すぎる。

 まるで上から見られているかのようだ。


「──悪魔の左眼(ベルルサーチ)


 一方、アッシュは木の上で身を隠したまま、目の前の木をジッと見ていた。

 その左目は真っ白。

 まるでイービルみたいだ。

 木を挟んでレクスの様子をうかがっていた。


 これはベルル固有の能力、”透視”

 悪魔であるベルルは、人の体内にあるオーブを覗くことが出来る。

 アッシュは以前憑依されたことで、その力を使用できるようになっていた。


 これはオーブ意外が透けて見える。

 つまり、遮蔽物からでも相手のオーブを確認できるようになる。

 アッシュはこの性質を利用して、敵の位置を探っていた。

 これにより、相手がどこに隠れようとも、射程距離にいるかぎり追撃が可能となる。


 これは、当の本人も全く想定してなかったこと。

 偶然にも、アッシュのウィークオーブとベルルの力が絶妙に噛み合っていた。


 しかし、デメリット、弊害はちゃんとある。

 それはウィリーの悪魔の力、悪魔の左腕(デーモンハンド)は出せなくなること。

 そう都合よく、悪魔の力を両刀できる程甘くはない


 現在の力関係はベルルがやや強いようで、それが身体に現れていた。

 アッシュとしては、ウィリーの力は大変おっかないためこちらの方が断然良い。

 オーブ切れも起きないし、何より自分に合っている


「……フッ」


 それに、悪魔の左目……なぜか心を揺さぶられる。

 不意に目に手を当ててキラーン☆

 

 ……アッシュはそういう時期だった。


 やがて、ジリジリと相手を追い詰めていく。

 

「クソッ! いつまでついて来る⁉」


 レクスは息が上がり、背中から汗を流す。


 かなりオーブを込められているようで、当たると一溜まりもない。

 さらに、こちらの動きが読まれているのか、徐々に躱しづらくなっていく。

 避けるだけで精一杯。

 アッシュを探す余裕はなく、まさに手詰まりであった。


「チッ」


 このままでは本当にやられて、アッシュに監禁されてしまう。

 考えるとなぜか熱くなってくる。

 こちらも困った身体であった。


「どこにいる! アッシュ!」


 だがその時、


「っ⁉ 誰か来る⁉」


 アッシュが悪魔の左眼(ベルルサーチ)でこちらに接近するオーブを捉えた。


「このオーブ……まさか⁉」


 色は違うがレクスとよく似ている。

 威圧的でプラスに匹敵する強大なオーブ。

 これほどのオーブを持つ者はそうはいない。

 どう考えてもアイツだ。

 

「グレン、レオストレイト……でもどうして」


 クロスオーブを取りにグレンまで寄越したのか。

 流石にあのオーブとやり合ってはダメだ。

 アッシュでは瞬殺される。


「くそっ! 良いところだったのに!」

 

 あと少しでレクスを物にできたというのに。

 やはりグレンは嫌いだ。

 アッシュは舌打ちするも、とっさにオーブを引っ込めて身を潜めた。


 やがて、グレンが娘の前に降り立つ。


「こんな所で何を、している、レクス」


 かなり急いでいたらしく、彼の息は上がっている。

 ここに来る前に第一教区にも寄ったので、流石に疲れているようだ。


「…………」


 レクスは無視する。

 良いところで邪魔が入ったため苛立っていた。

 しかも、やってきたのが目障りな父親。

 娘は一気に不機嫌になる。


「クロスオーブはどうした、手に入れたか」

「…………」

「レクス──」

「うるさい、まだだ」


 慣れない娘の反抗期に、父親の顔から何とも言えない悲壮感が漂ってくる。


「そうか、もういい。帰るぞ」

「…………」


 わざわざ父親が迎えに来てくれた。 

 だが、年頃の娘にそれは逆効果でしかない。


 無視されたグレンは本題を切り出す。


「ファーマがやられた」

「なに、ファーマだと⁉︎ 死んだのか⁉」

「まだ息はある、だがかなり重症だ。もう戦うことは不可能だろう」


 グレンが発見した時、すでにファーマの意識はなかった。

 衣服が無残にも剥がされており、ボロ雑巾のような悲惨な姿で横たわっていた。

 さらに「変態、おじさんが……」とか何とか言ってひどく唸っていたそうだ。


 ユースタント教信者の所業とはとても思えないが、おそらくハンターにやられたのだろう。

 翼をもがれたワイバーンは、鮮烈なトラウマを刻まれ、二度と戦場を飛び回ることはできない。


「陣形を立て直す、だからお前も戻れ」

「チッ……」


 レクスが舌打ちした。


「──何を話してるのさ……」


 一方、木の上で隠れているアッシュは、2人の会話を聞き耳しようとしても、遠すぎて聞こえない。

 自分のことをチクっているのか。

 それともクロスオーブのことを話しているのか。


 だとしたらかなりまずい。

 マルトンたちではグレンにとても敵わないし、仮に自分がいても勝てるかどうか難しい。

 せっかく苦労して入手したクロスオーブが奪われてしまう。


「……やるしかない」


 ここは少しでも時間を稼ぐしかない。

 アッシュは手の平からオーブを出した。


 しかし、

 

「っ! 誰だ」


 グレンがその気配をいち早く察知し、瞬時にアッシュのいる方向に目を向ける。


「いっ⁉」


 アッシュは慌ててオーブを引っ込めた。

 思ったよりグレンの索敵範囲が広い。

 これでは不意打ちも出来そうにない。


「敵と戦っていたのか? レクス」


 グレンが娘に問いただす。

 万事休すか、アッシュは覚悟を決めるも、


「いや、逃げられた」


 レクスがそう言った。


「そうか、仕方がない。もう帰るぞレクス」

「…………」

「……レクス」

「うるさい、一人で戻る。先に行け」


 冷たい娘の態度に、父親からまたしても哀愁が漂ってくる。


「そうか、なら先に行く」 


 グレンがその場を去って行った。


「まずいさ」


 やはりクロスオーブを取りに行ったのか。

 アッシュは勘違いし、急いで追いかけてようとしたが、


「聞いたか! ワタシはこれで撤退する!」


 レクスが声を張り上げた。


「っ⁉」


 アッシュは驚く。

 グレンがクロスオーブを取りに行く間、自分を足止めするのではないのか

 なぜこのタイミングで撤退するのか困惑した。


「命拾いしたな! だがこれだけは覚えておけ! お前を殺していいのはワタシだけだ! だから次に会う時まで元気でいろ!」


 と言ってレクスも去って行った。


「…………」


 一体どういう事なのか分からない。

 だけど皆が心配だ。


「クソッ! なにさこれ!」



 仲間の元へ戻る。

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