81.激突! アッシュ 対 レクス
アッシュを自らの手で殺したいレクス。
レクスを監禁して所有物にしたいアッシュ。
この2人はスターバードとレオストレイト。
これだけでも戦う理由には十分過ぎる。
因縁の戦いが、遂に、始まる。
「行くぞ! アッシュ!」
まずはレクスが破裂で、一気に距離を詰める。
「っ⁉」
速度が格段に上がっている。
アッシュは4年前と同様に不意を突かれてしまう。
そのまま2人は接近戦を始める。
「どうした! 何もしないのか!」
「くっ! 分かってるくせに!」
レクスは拳にオーブを乗せ、至近距離で撃ち合う。
しかし、アッシュは反撃せず、ひたすら相手の攻撃を避けるだけだ。
「フンッ! 前の方がマシだったぞ!」
レクスが勢いを上げて襲いかかる。
「っ⁉」
アッシュは相手の拳には一切触れず、器用に躱し続けた。
──4年前と違い、今はオーブを乗せて撃ち合っている。
レクスは生粋の接近タイプで、光撃の威力が随一。
それは、アッシュの光撃では触れるだけでもダメージを受けてしまう程だ。
そのため、いくら喧嘩の得意なアッシュと言えど、これでは撃ち合うことはできない。
仮に拳を奮おうものなら、レクスの強烈な光撃で叩き落とされ、痛手をくらうことだろう。
「早く死ね!」
「っ⁉」
当然アッシュが押されていた。
そもそも土俵にすら立っていない。
ちなみに、レオストレイトの者は光撃が得意な傾向があり、レクスも例に埋もれずそれに該当する。
反対に、スターバードは分離の優れている者が多い。
プラスとアッシュも一応はその恩恵を受けており、遠距離が得意とはいかないが決して苦手ではない。
スターバードは分離、レオストレイトは光撃主体で戦う。
彼らの祖先も、毎度こういった感じで争っていた。
「いつまで逃げ回っている!」
アッシュはなんとか距離を取ろうとするも、レクスが張り付いて逃さない。
光撃が弱いことがバレている。
「なに言ってるのさ! 撃ち合うわけないだろ!」
あのレクスが何度も自分の懐に飛び込んでくる。
アッシュは戦っている最中なのに、心が自動的に舞い上がってしまう。
しかし、集中しないとすぐ切り崩されてしまう。
困った身体ではあるが、邪念を払おうと努力する。
「チッ! 話にならん! 本気で行くぞ!」
相手はまともに撃ち合ってこない。
呆れたレクスは、攻撃の手を休まずに、オーブを手の甲に移していく。
そして、熱を帯びたような真紅の輝きを纏う。
「──爆殺光撃!」
そのままグルグルと急速回転し、勢いを乗せた裏拳を放つ。
「ッ⁉」
アッシュは身体を屈んで避けた。
頭上で強烈な風圧がかかる。
すぐにまた次の攻撃が、軌道を変えてやってくる。
「死ね!」
「うっ⁉」
なんとか紙一重でかわす。
見ての通り、アッシュはこのウィークオーブがすごく苦手だ。
レクスの放つ裏拳の軌道が全く読めず、どうしても対処に遅れてしまう。
おまけに4年前より回転速度があり、その威力も計り知れない。
この圧倒的ごり押し戦法。
アッシュはまるで生きた心地がしない。
もし直撃を受けた場合、教会送りでは済まされないだろう。
このままでは本当に殺される。
レクスを監禁できない。それはとても困る。
「くそっ!」
アッシュはとっさにオーブを出し、
「分離!」
それを真下の地面に放つ。
「なっ⁉」
2人はオーブの爆風に呑まれていく。
「ゲホッ、ゲホッ」
アッシュが爆風から飛び出した。
距離を取るためにわざと地面に撃って、無理やりスキを作ったのだ。
だが、至近距離で放ったためアッシュ自身もダメージを受けている。
そのまま森の中に姿をくらました。
「くっ⁉ バカなのかアイツは⁉」
レクスも脱出した。
反応が遅れたためモロに爆風を受けてしまい、衣服が少し焼け焦げている。
「チッ」
まさか至近距離でオーブをぶっ放してくるとは。
変なことばかりする奴だったが、この4年でさらにおかしくなったようだ。
やはり生かしておけない。レクスはそう思う。
「おいアッシュ! どこに行った!」
大声で相手の名を叫ぶも、森に響くだけですぐに静まり返る。
「なにをコソコソ隠れている! 姿を見せてみろ!」
そんなことを言っても、そう易々とアッシュが出てくるわけがない。
「とんだ腑抜けだな! まあいい、出てこないなら仲間を殺し行くぞ!」
こう言えば出て来るしかないだろう。
レクスは小さく笑ったが、
「っ⁉」
突然、背後から緑色のオーブが飛び込んできた
アッシュの浮遊分離だ。
「くっ⁉」
レクスはギリギリで身体を逸らす。
しかし、向きを変えて再び襲いかかる。
「なんだこれは⁉」
周りの木を縫うように避けて、まるで生き物ように的確に追いかけてくる。
さらに木を遮蔽物にしようものなら、グルッと裏周りして突っ込んでくる。
まさか自動で追尾するというのか。
残念ながらウィークーオーブでそういった事はできない。
つまりアッシュ自身が操作しているということだ。
「どこで見ている⁉」
レクスは辺りを見渡すも、周りには何も変哲ない木が立つだけ。
だが、相手はこちらの位置を完全に把握している。
オーブの動きが正確すぎる。
まるで上から見られているかのようだ。
「──悪魔の左眼」
一方、アッシュは木の上で身を隠したまま、目の前の木をジッと見ていた。
その左目は真っ白。
まるでイービルみたいだ。
木を挟んでレクスの様子をうかがっていた。
これはベルル固有の能力、”透視”
悪魔であるベルルは、人の体内にあるオーブを覗くことが出来る。
アッシュは以前憑依されたことで、その力を使用できるようになっていた。
これはオーブ意外が透けて見える。
つまり、遮蔽物からでも相手のオーブを確認できるようになる。
アッシュはこの性質を利用して、敵の位置を探っていた。
これにより、相手がどこに隠れようとも、射程距離にいるかぎり追撃が可能となる。
これは、当の本人も全く想定してなかったこと。
偶然にも、アッシュのウィークオーブとベルルの力が絶妙に噛み合っていた。
しかし、デメリット、弊害はちゃんとある。
それはウィリーの悪魔の力、悪魔の左腕は出せなくなること。
そう都合よく、悪魔の力を両刀できる程甘くはない
現在の力関係はベルルがやや強いようで、それが身体に現れていた。
アッシュとしては、ウィリーの力は大変おっかないためこちらの方が断然良い。
オーブ切れも起きないし、何より自分に合っている
「……フッ」
それに、悪魔の左目……なぜか心を揺さぶられる。
不意に目に手を当ててキラーン☆
……アッシュはそういう時期だった。
やがて、ジリジリと相手を追い詰めていく。
「クソッ! いつまでついて来る⁉」
レクスは息が上がり、背中から汗を流す。
かなりオーブを込められているようで、当たると一溜まりもない。
さらに、こちらの動きが読まれているのか、徐々に躱しづらくなっていく。
避けるだけで精一杯。
アッシュを探す余裕はなく、まさに手詰まりであった。
「チッ」
このままでは本当にやられて、アッシュに監禁されてしまう。
考えるとなぜか熱くなってくる。
こちらも困った身体であった。
「どこにいる! アッシュ!」
だがその時、
「っ⁉ 誰か来る⁉」
アッシュが悪魔の左眼でこちらに接近するオーブを捉えた。
「このオーブ……まさか⁉」
色は違うがレクスとよく似ている。
威圧的でプラスに匹敵する強大なオーブ。
これほどのオーブを持つ者はそうはいない。
どう考えてもアイツだ。
「グレン、レオストレイト……でもどうして」
クロスオーブを取りにグレンまで寄越したのか。
流石にあのオーブとやり合ってはダメだ。
アッシュでは瞬殺される。
「くそっ! 良いところだったのに!」
あと少しでレクスを物にできたというのに。
やはりグレンは嫌いだ。
アッシュは舌打ちするも、とっさにオーブを引っ込めて身を潜めた。
やがて、グレンが娘の前に降り立つ。
「こんな所で何を、している、レクス」
かなり急いでいたらしく、彼の息は上がっている。
ここに来る前に第一教区にも寄ったので、流石に疲れているようだ。
「…………」
レクスは無視する。
良いところで邪魔が入ったため苛立っていた。
しかも、やってきたのが目障りな父親。
娘は一気に不機嫌になる。
「クロスオーブはどうした、手に入れたか」
「…………」
「レクス──」
「うるさい、まだだ」
慣れない娘の反抗期に、父親の顔から何とも言えない悲壮感が漂ってくる。
「そうか、もういい。帰るぞ」
「…………」
わざわざ父親が迎えに来てくれた。
だが、年頃の娘にそれは逆効果でしかない。
無視されたグレンは本題を切り出す。
「ファーマがやられた」
「なに、ファーマだと⁉︎ 死んだのか⁉」
「まだ息はある、だがかなり重症だ。もう戦うことは不可能だろう」
グレンが発見した時、すでにファーマの意識はなかった。
衣服が無残にも剥がされており、ボロ雑巾のような悲惨な姿で横たわっていた。
さらに「変態、おじさんが……」とか何とか言ってひどく唸っていたそうだ。
ユースタント教信者の所業とはとても思えないが、おそらくハンターにやられたのだろう。
翼をもがれたワイバーンは、鮮烈なトラウマを刻まれ、二度と戦場を飛び回ることはできない。
「陣形を立て直す、だからお前も戻れ」
「チッ……」
レクスが舌打ちした。
「──何を話してるのさ……」
一方、木の上で隠れているアッシュは、2人の会話を聞き耳しようとしても、遠すぎて聞こえない。
自分のことをチクっているのか。
それともクロスオーブのことを話しているのか。
だとしたらかなりまずい。
マルトンたちではグレンにとても敵わないし、仮に自分がいても勝てるかどうか難しい。
せっかく苦労して入手したクロスオーブが奪われてしまう。
「……やるしかない」
ここは少しでも時間を稼ぐしかない。
アッシュは手の平からオーブを出した。
しかし、
「っ! 誰だ」
グレンがその気配をいち早く察知し、瞬時にアッシュのいる方向に目を向ける。
「いっ⁉」
アッシュは慌ててオーブを引っ込めた。
思ったよりグレンの索敵範囲が広い。
これでは不意打ちも出来そうにない。
「敵と戦っていたのか? レクス」
グレンが娘に問いただす。
万事休すか、アッシュは覚悟を決めるも、
「いや、逃げられた」
レクスがそう言った。
「そうか、仕方がない。もう帰るぞレクス」
「…………」
「……レクス」
「うるさい、一人で戻る。先に行け」
冷たい娘の態度に、父親からまたしても哀愁が漂ってくる。
「そうか、なら先に行く」
グレンがその場を去って行った。
「まずいさ」
やはりクロスオーブを取りに行ったのか。
アッシュは勘違いし、急いで追いかけてようとしたが、
「聞いたか! ワタシはこれで撤退する!」
レクスが声を張り上げた。
「っ⁉」
アッシュは驚く。
グレンがクロスオーブを取りに行く間、自分を足止めするのではないのか
なぜこのタイミングで撤退するのか困惑した。
「命拾いしたな! だがこれだけは覚えておけ! お前を殺していいのはワタシだけだ! だから次に会う時まで元気でいろ!」
と言ってレクスも去って行った。
「…………」
一体どういう事なのか分からない。
だけど皆が心配だ。
「クソッ! なにさこれ!」
仲間の元へ戻る。




