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~お姉さんと進むギルド王国~  作者: 二月ふなし
第2章 ヴァリアード強襲 編
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78.偽り再び

 本気を出したプラスの前に、ゲリードマンは為す術なくやられていた。

 パワーとスピードが急激に上がった。

 こうなったら誰にも手が付けられない。


 ちなみに雷神電来(ライデン)は完成してるため、もう身体から雷が漏れることはない。

 よって、継続時間が大幅に延長された。

 派手さは抑えらたがその分、眼光に威圧感が増していた。


「がはっ⁉」


 ゲリードマンが後方に大きくぶっ飛ばされた。


 分離(リーブ)で迎撃しようにも、相手が一瞬で懐まで潜り込み、見えない速度で拳を撃ちつけてくる。

 

 プラスに接触する地面と、ゲリードマンからは雷が放出された。


「おそい」

「っ⁉」


 敵の放つ分離(リーブ)を光速で駆け抜け、蒼い残像を残したまま、瞬時にその背後を取る


「ぐはっ⁉」


 そのまま地面に叩きつけられ、ゲリードマンは顔を歪めた。

 いくら自分専用のスーツで防御力を底上げしてるといえ、流石にダメージを隠せないようだ。

 

 おまけに攻撃が全く当たらない。

 速すぎて相手を捕捉できない。

 ゲリードマンは遠距離タイプのため、相手を遠ざて戦わなければならない。

 だが、いとも容易く侵入を許してしまう。


「くっ⁉ 丸盾(シェル)!」


 ゲリードマンがとっさに盾で身を守る。


 しかし、プラスの雷を放つ光撃(ハード)がそれを容易に突き破り、相手の醜い顔面を容赦なく捉えた。


「うぐっ⁉」


 ぶっ飛ばされ、近くの木に激突した。


「こっ、こんなはずでは……」


 ゲリードマンはその身を震わせた。


 第一教区支部長、プラス=スターバード。

 自称ギルド長。

 ザイコールから予め彼女のことは聞いていた。

 あの伝説と呼ばれるゴー=ルドゴールドと互角に渡り合った、教王に次ぐ危険人物だと。 


 しかし、その予想を遥かに超えていた。

 今の自分では全く歯が立ちそうにない。

 この時ゲリードマンは、第一教区にケンカを売ったことを初めて後悔した。


「ち、ちくしょう……」


 同時に、天才科学者である自分が、こんな小娘相手にここまで好き放題やられてしまい、激しい憤りを覚えていた。

 弟のロドリーより芸術性が足りてない。

 だが、その分プライドが高いようだ。


 なんとか立ち上がり、


「なめるなよ! この!! 貧乳支部長がああああ!!!」


 紳士さに欠ける下品な声をあげ、無数のオーブを発射した。

 

 しかし、


「──誰がまな板ですって?」


 プラスが至近距離で全て消し飛ばし、


「フンッ!」


 ゲリードマンのグローブを粉々に破壊した。


「ひっ……」


 自慢の装備を失った科学者は、恐れをなしてその場に尻もちをつく。


「誰が胸部Aランクよ」


 これでも一応Bはある、失礼ではないか。


「そ、そこまでは言って……」

「だれが断崖絶壁百年山よ!」

「ひぃぃいいい!」


 ゲリードマンは縮こまる。

 目の前にいるのはスレンダーでとても綺麗な女性。

 しかし、目から鋭い雷光を放っている。

 その恐ろしい視線が突き刺さり、身体の自由が利かなくなってしまう。


「言ったわよね、アンタたち全員丸焦げしてあげるって」


 プラスが拳を堅め、光を集中させた。


「まずはアンタ。次はグレン、最後はあのクソ爺」


 拳から雷が放出され、その轟音が鳴り渡る。


 これにはゲリードマンは顔を青ざめる。真っ青だ。


「消えなさい! 超・雷電光撃(レイジングブラスト)!」


 渾身の一撃を相手にぶつけようとした。


 激しく鳴る雷の拳が、ゲリードマンへ差し迫る。


「ひっ⁉」


 とその時、


「──偽りの聖剣(エックスカリバー)


 突如、頭上から何者かの影が、


「はっ⁉」


 そのまま巨大な光の柱を強引に叩きつけた。


「くっ!」


 直前、プラスは間一髪で後退。


 そして、ゲリードマン擦れ擦れで、その衝撃が地面にほとばしる。


「っ⁉ あなたは⁉」


 立ち昇る煙の中、その人物がゆっくり姿を出した。


「グレン、レオストレイト……っ⁉」


 濃い青色の髪、同様の色をした冷ややかな瞳。

 レクスの父親、グレンだ。また邪魔された。


「久しぶりだな、スターバード」


 グレンが宿敵の兄妹にあいさつした。

 ちなみに彼の今の標的はこのプラスだ。


「どうしてアンタがここにいるのよ」


 まさかザイコールが援軍を寄越してきたのか、先にこっちから潰す気なのか。

 だとしたらかなり不味い。

 流石にヴァリアード全軍を相手にする力はうちのギルドにない。

 プラスは結構焦っている。


 しかし、どうやらそれは違うみたいだ。

 グレンは、地面に座りこむ科学者に冷徹な目をして言う。


「撤退だ、ゲリードマン」

「ほう、そうですか。私もそろそろお暇しようと思っていた所です」


 あの世へ。


「くだらん冗談はよせ。あとはお前だけだ、早くしろ」

「ええ、あなたに従います」


 ヴァリアード参謀、グレンの撤退命令。

 そのために中央教区からわざわざ出向いて来た。


「それと、ダストリラがやられた」

「っ⁉ ファーマがですか⁉ そんなバカな⁉」


 ゲリードマンは信じられないと言った様子で眼鏡をクイッとした。


「それはあり得ませんよ、あの子を倒せる者などいるわけがない」

「俺に心当たりがある」

「し、信じられません……あのファーマが……」

 

 ゲリードマンは言葉が詰まる。

 自分が与えたブーツを装備したファーマは、まさに無敵の存在だ。

 その彼女が撃墜されたことがにわかに信じられない。

 教王ならともかく、あれをどうにか出来るハンターがこの第一教区にいるとは考えられないのだ。

 

「やるじゃない、あのクマさん」


 プラスがそう言った。

 どうやら作戦通りゴーがやってくれたようだ。

 一番厄介な相手が片付いて強気になる。


「また逃げる気ね! ゲリードマンは置いて行きなさい!」


 なのでいつも通りグレンを脅迫した。

 そこの無能な科学者をこちらに差し出せば、命だけは助けてやると。


 しかし、このグレンは冷静に答えて見せる。


「やめておけ、今は貴様と戦うつもりはない」

「なによ、さっき私を殺そうとしてたじゃない!」

「フンッ、あの程度死ぬような相手なら、はなっから俺の敵ではない」

「はあ……だったらいつ戦うのよ……」


 予想通り答えでプラスはガックリ肩を落とす。


「ふう……恩に着ります、レオストレイトさん」


 仲間の返答にゲリードマンはホッとした。

 彼とは一応同僚ではあるが、正直あまり話したことはない。

 でも冷酷で有名なグレンのことだ。

 弱い奴は用済み、切り捨てて来るとばかり思っていた。

 だがらそう聞いて、ゲリードマンは助かったと思い安心した。

 

「消耗してる貴様とやっても意味がない、命拾いしたな」

「同じことしか言えないの? アンタって」

「…………」


 グレンは黙り込む。

 その佇まいからは、なんとも言えない哀愁が。


「とにかく!」


 ビシッ!


 プラスが指を差して言い放つ。


「今回は逃がさないわよ! アンタたちをここで始末すればこの戦い、終わったも同然じゃない!」


 ここでAランク2人を片付けたら、残すはザイコールだけだ。

 これは絶好の機会。

 プラスは戦闘態勢に入る。


「……すみませんレオストレイトさん、実は私、その」

「なんだ?」


 ゲリードマンがグズグズしながら言う。


「……破裂(バースト)が使えないんですよ、私」

「それがどうした」

「い、いえ、あれから逃げるのは難しいかと……」


 とビクビクしながら指を向けた。

 この支部長はAランクの癖して破裂(バースト)が使えないと言う。

 そんな情けない味方に、グレンは顔を一瞬しかめるも、すぐ真顔に戻した。


「心配ない。俺がお前を担いで逃げる」

「くっ、少々お間抜けですが仕方ありませんね。お願いします」


 どうやらまた担いで逃亡するようだ。


「待ちなさい! このわたしから逃げられると思ってるの!」


 プラスが雷神電来(ライデン)を発動した。

 絶対に逃がさない気だ。


「レ、レオストレイトさん……」

「見るな、俺を見るな」


 前回と違ってプラスはこの通りピンピンしてる。

 いかにグレンと言えど、お荷物を担いで逃れられる程甘い相手ではない。


「…………」


 もうこの科学者を置いて行こうか、差し出してしまおうか。

 グレンは一瞬迷ったが、


「──ギルド長! 大変です! 街に大量のイービルが!」


 ギルドの者がやって来た。


「えっ⁉ どういうこと⁉」


 ギルド長であるプラスはビックリして振り返る。


「それが……」


 部下がボソボソと耳打ちした。


「……えっ⁉ なんで今なのよ⁉」


 街に大量のイービルが発生したそうだ。

 すでに敵は撤退しており、一息ついた直後の出来ごとだった。


「今忙しいんだけど! 状況見て分からないかしら⁉ アンタたちで何とかできないの⁉」


 部下を怒鳴る。パワハラだ。


「それが、戦いで皆さん疲弊していまして……」

「あーー! もうっ! なんでこんな時に!」


 プラスが頭を触り、綺麗な髪をクシャクシャした。


「ギ、ギルド長……」

「分かったわよ! わたしが行くから! アンタは先に行ってなさい!」

「は、はい! 了解です! で、では!」


 と言って部下がそそくさと去る。

 まるで上官から逃げるように。


 プラスが振り返り、また敵に言い放つ。


「良かったわねアンタたち! 今回は見逃してあげる! でもゲリードマン! 今度会ったら覚悟しなさい!」


 と捨て台詞を吐き、超特急で街に戻っていった。


「…………」


 あまりに急な出来ごと。

 おじさん2人は固まってしまう。


「……助かりましたね、レオストレイトさん」

「……ああ、そのようだ」



 撤退した。

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