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~お姉さんと進むギルド王国~  作者: 二月ふなし
第2章 ヴァリアード強襲 編
82/142

77.センスの差

 普通のお縄に捕えられてしまい、あえなく絶対絶命のマリコ。

 これは好機。

 ロドリーはとても気持ち悪い笑みを浮かべている。


「ヒッヒッヒッ、これで終わりですねえ。終焉です」


 オーブのムチで地面をパシパシさせる。


「うぐ……っ!」


 マリコは苦しそうだ。

 縄がキツく縛られて身体に食い込んでいた。

 これではオーブを使えそうにない。


「苦しそうですねえ、良いお顔ですよ……そうですね、『ロドリー様は天才です』と言うのなら少し緩くしてあげてもいいですよ」

「だ、誰がそんなこと、言うのかな」


 マリコは片目を瞑りながらそう言った。


「この期に及んでまだそんな態度を……よろしい、アーティストは多忙なのです。あなた如きに構ってる暇はありませんから、もう楽にしてあげます」


 ロドリーが鞭を振り上げた。芸術の時間だ。


「……フフン」

 

 しかし、マリコが小さく笑った。

 それを見てロドリーの眉毛が吊り上がる。


「……何がおかしいのですか? 芸術を前に気でも狂われましたか?」


 この状況でなぜ笑うことができるのか。

 これからなぶり殺されると言うのに。

 ロドリーは目の前の女を不信に思う。


「私の攻撃は、まだ、終わってないよ」

「何を言いますか? あなたオーブは上空に……はっ⁉」


 ロドリーは自分と女の間に映る、巨大な影の存在に気づいた。

 それは丸い形をしており、ユラユラと漂っている。


「ま、まさか……」


 すぐに顔を空に向けると、


「っ⁉」


 そこには巨大なオーブが存在していた。

 ピンクの球体がフワフワしながら静止していた。

 

「う、美しい……これは、げ、芸術……」

「そう、だよ。私の取って置きの、オーブちゃんなんだな」


 ロドリーの額に汗が流れた。


「ほう、これを私にぶつける気ですか?」


 おそらく彼女が注ぎ込める最大量の分離リーブだ。

 なるほど、確かにこの質量のオーブを受けたら一溜りもない。


 だがしかし、


「……つまり私の元に落ちる前に、あなたをヤレばいいというわけですね?」


 ロドリーが右手に握る縄を瞬時に引っ張り上げた。


「うっ⁉」


 マリコは体勢を崩し、引っ張られた方向へ倒れそうになる。

 縄の締め付けが強くなり、さらに顔を歪めた。


「今です慈愛の鞭(ネイルッショ)! あの女をズタズタにしてあげなさい!」

 

 ロドリーがそこに鞭をシュルッと伸ばす。


「っ⁉ 落ちて! 可愛いお星様(ミラクルスター)!」


 マリコのとっさの合図で、空中のオーブが両者の中間に落下する。


「っ⁉」


 それが慈愛の鞭(ネイルッショ)と、マリコを縛る縄を巻き込んだ。

 マリコの狙いはロドリーではなく、初めからこの忌々しい縄だった。


 そのまま地面に衝突、オーブの爆音が耳に広がる。

 

 辺りに砂埃が舞い上がり、2人は飲まれていく。


「イテテ……キツく縛りすぎだよ、もう」


 砂埃が舞う中、マリコは縄を振り解いて脱出した。

 

 姿の見えない敵に、杖をグッと握って備える。


 下手に撃つとこちらの居場所がバレてしまう。

 相手もそう考えているのか、なかなか攻撃してこない。


「っ!」


 一瞬の空気が乱れ、マリコはピクッと反応した。


「──創造光撃(クリエイトハード)! ヒヒッ!」


 煙の中から、ロドリーが拳に光を乗せて襲い掛かる

 

「っ⁉」


 マリコは瞬時に身体を逸らし、ギリギリでかわす。


 ロドリーがそのまま接近戦を仕掛けてきた。


 光撃(ハード)が使えないマリコは、無理に撃ち合わずひたすら躱し続ける。


「接近戦は苦手でしょう!」


 ロドリーが撃ち込む。

 この女は遠距離タイプ、つまり接近戦に持ち込こめばこちらが有利。

 予想通り相手は光撃(ハード)を出してこない。

 接近戦なら自分の方に分があるみたいだ。

 だが、ロドリー自身も光撃(ハード)が苦手なためこれは苦肉の策。最後の手段だ。


「ヒッヒッヒッ! 芸術面ではあなたが上だ! ですがここからは関係ない!」


 確かに相手の方がセンスは高い。

 そこは素直に認めよう。

 芸術とは、勝ち負けだけで判断するといった浅はさかなモノではなく、互いに称賛して切磋琢磨していくもモノ。

 ここまでされては、一芸術家として彼女を賞賛しないわけにはいかない。

 

 しかし、遠距離タイプは一度接近されたら、再び距離を取るのは難しい。

 自分で言ってちょっと悲しくなるが、センスなど無意味である。

 従って、ロドリーは勝利を確信したが、


「ブヘッ⁉」


 急に頭にガンッと衝撃が走る。

 マリコが可愛い杖(マジカルステッキ)で殴ったのだ。


「えいっ!」


 今度は両手で杖を握り、横から思いっきり振り抜いた。


「ブハッ⁉」


 ロドリーはとっさに反撃するも、マリコが軽快な動きでそれを躱す。


 杖をクルクル回し、勢いを乗せて頭部を殴りぬく。


 ロドリーは果敢に挑むがどれも空を切り、マリコを捉えることが出来ない。


 彼女の芸術的な動きを前に手も足も出ない。


「おそいよ!」

「がはっ⁉」


 怯んだところをさらにボコボコに殴っていく。


「なっ、なぜですか⁉ あなたは遠距離のはずでは……」


 歯がボロボロに欠けたキモいおじさんが言う。

 すでに顔が膨れ上がっていた。


「フフンッ! アシュ君と特訓したからね!」

「っ⁉」


 マリコから小さな笑みが零れる。

 この4年間、アッシュに分離(リーブ)を教える代わりに接近戦を教わっていた。


 Bランク試験の時に、カールの接近を恐れたせいで無理をしてしまい、それが不合格に繋がった。

 あの時、少しでも接近戦が出来ていれば、結果はまた違ったかもしれない。


 遠距離タイプは近づかれると何もできなくなる。

 ならば、この杖を武器にしてなんとか戦うことはできないか。

 マリコはそういう結論に至っていた。


「な、なんということだ……」


 この勝負、芸術を捨てた時点でロドリーは敗北していたのだった。


 真のアーティスト、それはマリコであった。


「終わりだよ、おじさん!」


 ガン! ガン! ガン!


 ロドリーの意識が途切れるまで何度も杖を叩きつけた。


「えいっ! えいっ!……あれ?」


 気づいた時には敵はグッタリしており、ピクリともしない。


「ふう……終わった~」


 戦いを制してホッと息をついた。

 結構危ない所もあったが、なんとか勝てたようだ。


「…………」


 マリコはふと横たわる中年に目をやった。


「っ!……そうだ!」


 そして、おもむろに落ちていた黒い縄を拾い、


「う、う~ん……よいしょっと!」


 ロドリーをキツーく縛りあげた。


「これで安心かな! 芸術だよ! フフンッ!」


 ズルズル引きずって仲間の元へと戻る。







 ──少し進むと、カールとその仲間たちを発見した。

 どうやら彼らも戦いに勝利したみたいだ。

 そばにはヴァリアードが数人倒れている。

 それを見たマリコはホッとし、その大きな胸をなで下ろす。


「おや? 無事でしたかお嬢さん」


 気づいたカールが振り向く。


「うん! 私は大丈夫だよ!」


 マリコは元気よく返事をした。

 敵を倒して上機嫌なのか、いつに間にか指揮官相手にもため口だ。

 

 懐の広いカールは気にせず、部下の無事に安堵した

 

「はえ~、みんな倒れてる」


 マリコが手で口を押さえている。


「はい、皆さんのおかげで助かりました」


 カールはそう言って、他のハンターたちを見てニッコリした。

 みんなヘナヘナして地面にへたり込んでいる。

 ほとんどカール一人で倒してしまい、その戦いぶりに腰を抜かしていた。


「おや? ところでお嬢さん、それは?」


 カールが、マリコの持つ縄を指さす。


「フフンッ! ほら見て! 捕まえたんだよ!」


 すると、嬉しそうに無残な姿のロドリーを見せた。

 まるで獲物をゲットした狩り人のようだ。


「おや? 凄いお嬢さんですね。我々も向かおうとしたんですが不要な心配でしたか」

「そうなんだ、あっ! 他の人もこれで縛っておいた方がいいかも!」


 そう言ってマリコがもう一つ縄を取り出した。

 ロドリーはスペアを持っていたのだ。


「おや? 確かにそうですね、そうしておきますか」


 カールは倒れている敵を全員縄で縛り上げた。

 ちょっと楽しそうだ。


「これでヨシ!」

「よしなんだよ!」

「それでは戻りましょうか、教王に加勢します」

「うん!」


 新たな戦場へ向かう。








 ──場所は変わって。

 ここは第一教区付近の戦場。森の中。

 戦況は依然としてギルド優勢であり、統率の取れていないヴァリアード軍の中には、逃げ出す者もチラホラ出ていた。


 バン! バンバンバンバン!

 

 戦場の中心では一際大きな爆音が響き渡る。


 ただいま、第一教区支部長兼ギルド長のプラス=スターバードと、敵の主導者であるゲイリー=ゲリードマンによる激戦が繰り広げられていた。


 これはいわゆる大将戦、リーダー同時の戦いだ。

 ここで勝つことが出来れば戦況は一気に有利になる。

 それは逆も然り、よって大将が負けることは許されない。

 部下たちに示しがつかない。


「くっ⁉」


 プラスが敵のオーブを避ける。


 破裂(バースト)で接近を試みるも、敵の攻撃で阻まれ、近づくことが出来ない。


「ハハハハハ! どうしました! この程度ですか!」


 ゲリードマンは嘲笑し、さらに無数のオーブを放つ


 科学者を意識してるのか綺麗な白衣を羽織っており、如何にも弱そうな研究者。

 少しだけ弟のロドリーの面影が見える。


 自身が独自に開発したという専用のグローブを装着しており、それにより分離(リーブ)の威力、発射速度を大幅に上げていた。

 本人の実力は精々Bランクがいいところ。

 だが、研究者という長所を生かし、支部長の座を手に入れた異色のハンターだ。


 プラスは、そのゲリードマンが放つ分離(リーブ)に苦戦し、立ち往生していた。

 

「あーー! もうっ!」


 そして、かなりイラついていた。


「ハハハ、噂ほどではなくて安心しました。大した事ありませんね」


 ゲリードマンが爽やかに笑う。

 でも弟と同じく顔が気持ち悪い。


「なによそれ! 外しなさい!」


 プラスが敵の装備に悪態をついた。


「ハッ、何を言いますか、これは私が開発したものです。負け惜しみとはみっともない、支部長とあろうものが聞いて呆れてしまいます」

「なんですって!」

「それに私から言わせてみれば、今あなたが着ているそのオーブスーツはこの私が発明したものだ。よってあなたが脱ぐべきでは?」

「ぐ、ぐぬぬぬ……」


 プラスは言い返せずに悔しがる。

 ファーマ=ダストリラといい、この研究者といい、クマさんといい、どうして自分の相手はいつもムカつく奴ばかりなのか。

 というかヴァリアードのAランクは全員こうなのか

 考えるとさらにムシャクシャしてしまう。


「もうあったまに来た! ホントはもう少し様子見したかったんだけどもうプッチンよ!」

「様子見? まだ言いますか、見苦しい」

「うっさい! アンタたち全員、わたしが黒こげにしてやるわよ!」

「フッ、何を世迷言を。あなたには不可能です。現に私すら相手に出来てないではありませんか。大体、オーブスーツ開発者であるこの私に対してなんです、その思い上がった態度は──」

「──雷神電来(ライデン)


 プラスが拳を握り込み、全身から雷を放電する。


「なっ⁉ なんですかそれは⁉」


 相手の雰囲気が変わり、ゲリードマンは驚愕した。


「覚悟しなさい、ゲリードマン」



 静かな闘志を放つ。

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