76.激突! 魔法使い 対 芸術家
突如、ヴァリアードの襲撃を受けた見張り部隊。
リーダー格のロドリー=ゲリードマンの作戦により、マリコがはぐれてしまった
ロドリーは、あの第四教区支部長、ゲイリー=ゲリードマンの実の弟だ。
しかし、あまり仲が良くないのか、兄の方ではなくザイコール側についている。
また、これは彼が独断でやっていること。
なので、ザイコールたちはこの事を知りもしない。
どうやらプラスの言った通り敵は、あまり統率が取れていないようだ。
「裏門から来るなんて良い性格だね」
マリコが皮肉を込めてそう言った。
「ヒッヒッヒッ、私はアーティストです。当然、勝つためなら手段は選びません」
ロドリーがそう答えた。ナルシストだ。
何がアーティストだ、マリコは呆れかえる。
だが、まさかホントに敵が来るなんて思いもしなかった。
しかもこんなに気持ち悪いおじさんの相手とは、今日はあまりツイていない。
だが、今は自分が何とかするしかない。
「街には入れないよ! 私がやっつけるから!」
「ほーう、できますかねえ。あなたに」
マリコがオーブを出したのに合わせて、ロドリーも特殊なポーズで構える。
マリコの戦闘が今、始まる。
「さっそく殺してあげます、見るがいい。私の芸術的なオーブを!」
「っ!」
ロドリーが手の平のオーブをゴムのように引っ張り始めた。
それを徐々に伸ばしていく。
やがて、ムチのような姿へと変形した。
長さは2メートルくらい。
「──慈愛の鞭、さあ、相手に挨拶をしなさい」
オーブ製のムチをしなやかに振り、地面をバチンバチンと叩く。
「うっ……」
ウネウネしていて気持ち悪い。
マリコは身を引いた。
「私のアートをその身で味わいなさい!」
ロドリーが標的に向け、ムチを急速に伸ばしてきた
芸術的な軌道を描き、マリコに襲いかかる。
「っ⁉ 丸盾!」
マリコはとっさに盾を張る。
ムチと接触した部位がボンッと音を立て爆発した。
「っ!」
が、盾が破られてはいない。
ムチが主人の元へシュルシュルと戻っていく。
「ヒヒッ! 防ぎましたか、ではもう一度行きますよ!」
再び敵がムチをしなやかに伸ばす。
「くっ! 丸盾!」
マリコも再度、盾を展開して身を守る。
「ホレ! ホレ! ホレ!」
ロドリーがシュッ、シュッと振り回し、連続で攻撃を仕掛けた。
マリコは攻撃の軌道が見えにくいため、とりあえず盾を出して防御する。
決して余裕があるわけではないが、なんとかムチの連撃をガードする。
「ぐぬぬぬ……意外とやりますねえ」
ロドリーは顔を歪めた。
背後から襲った時もそうだが、この女は丸盾の発動が異様に速い。
一番弱そうな奴を選んだつもりが裏目に出てしまったか。
しかし、芸術に困難は付き物。
それらを乗り越えてこそ、自身のセンスもランクアップして──
「──いまだ! えい!」
マリコが一瞬のスキを突き、分離で反撃した。
「くっ⁉ 守りなさい! 慈愛の鞭!」
ロドリーがムチを振り、それをバチンと弾く。
マリコがさらにオーブを連射する。
ロドリーはムチをシュンシュン振り、全てはたき落とした。
「芸術の前ではあなたのオーブなど無意味! アートの錆にしてくれます」
「なに言ってるのかな!」
マリコは分離、ロドリーはムチを奮い、激しい中距離戦となっていく。
どちらの攻撃も全くヒットしない。
一方は丸盾、もう片方は慈愛の鞭で身を守る。
間に合わない時は、マリコは身体をよじって躱し、ロドリーは破裂を使う。
しばらく互角にやり合っていたが、
「…………」
2人の動きが止まる。ピタッと。
両者に訪れた静寂がアートをかもちだしている。
「ほう、まさか私の慈愛の鞭と対等に渡り合うとは」
ロドリーは相手を称賛した。
まさかここまで戦えるとは思わなかった。
どうやら相手を少し甘く見ていたようだ。
「…………」
それに、こちらが褒めたのだから、礼儀として相手も褒めてくれるはず。
いや、褒め称えるべきだ。
ロドリーは目の前にいる女性の返事に期待する。
「フフンッ!」
しかし、
「おじさんは、まあまあだね!」
色々とセンスがない。マリコはそう言い切った。
「なんですと⁉ 流れからして褒め返すべきではないですか⁉」
ロドリーが目を大きくして訴える。
心なしか慈愛の鞭も不憫そうにしている。
「なに言ってるのかな? 事実を言ったまでだよ!」
「つ、強がりはよしなさい、そちらだって攻撃が当たらないではありませんか!」
慈愛の鞭も首らしき部位を縦にふる。
「強がってないよ! それに今までは様子見、これから本番だよ!」
「本番ですって⁉ 私の芸術を侮辱しているのですか⁉」
「フフンッ! 何かなおじさん、焦ってるのかな?」
「なっ⁉ この天才アーティストであるロドリーがそんなわけ……ッ⁉」
突然マリコがオーブを横に伸ばし始めた。相手と同じく。
ロドリーの時とは違って棒状になっていく。
「なるほど、特殊オーブですか」
相手もウィークーオーブを使うつもりか。
しかし、我が芸術の結晶、慈愛の鞭を打ち破るオーブなど存在するはずがない。
ロドリーは気を持ち直した。
やがてマリコのウィークオーブが完成する。
「──来て! 私の可愛い杖!」
ポンッという音と一緒に、右手からピンクの杖が出現した。
見た目は4年前とほとんど同じだが、若干先端のハート部分が大きくなっている
「ヒヒッ、ハハハハ! 何をするかと思えば、なんですかそれは!」
ロドリーが相手の杖を見て下品に笑う。
慈愛の鞭の芸術性には遥か遠く及ばない。
「ムッ、何か文句あるのかな!」
「ヒヒッ、いえ、これは失礼。私としたことが、つい笑ってしまいました」
他人の作品を嘲笑うなどアーティストとしてあるまじき行為。
ロドリーは頭を下げ、丁寧に謝罪した。
「それなら見せてもらいましょうか、肩たたき棒の力を!」
「可愛い杖だよ! 勝手に変なあだ名を付けないで欲しいな!」
マリコが杖を横に振った。
すると、5つのオーブが彼女の周りに出現する。
修行の末、3つだったのが5つに進化していた。
「さあ私の可愛いオーブちゃんたち! あの気持ち悪い人をやっつけて!」
主人の命令を受けた光の玉たちが、標的を向けて一斉に襲いかかる。
「なんですか! ただの分離ではありませんか!」
ロドリーがムチを奮い、迎撃しようとしたが、
フワッ
うちの一つが緩やかに軌道を変え、ムチを避けた。
「なんと⁉」
オーブがそのまま向かって行く。
ロドリーは瞬時に破裂を出して躱す。
「もう一度攻撃して! えいっ!」
間髪入れず、マリコが再度オーブを発射した。
「行きなさい! 慈愛の鞭!」
ロドリーがまたはたき落とそうとしたが、
「ッ⁉」
やはりそれは独特な軌道を描きながら、ムチをフワッと避ける。
今度は2つほど弾き損ねてしまう。
「まずいですよ⁉ 素敵丸盾!」
なんだこの芸術的な動きは……⁉
ロドリーはとっさにムチを引っ込め、盾を張って防ぐ。
「くっ……」
あのオーブたちは、自分の慈愛の鞭を自発的にかわした。
まるで意思があるかのようだ。
厄介な相手に、ロドリーは顔を渋らせた。
「まさかあなたが操っているのですか⁉ アートなのですか⁉」
「フフンッ! さあ? どうだろうね!」
敵の戸惑う様子を見て、マリコは調子づく。
実際は意思があるわけでも操作してるわけでもなく、単純にフワフワしているだけで、通常の分離より捉えづらいだけだ。
だが、どこか芸術に通ずるものがある。
シックスセンス。
アーティストであるロドリーにとってかなり厄介であった。
「さあオーブちゃんたち! もう一度攻撃して!」
杖を前に振りかざし、5つの光玉を放つ。
「くっ⁉」
ロドリーが顔を歪めながら、破裂でそれをかわす。
しかし、あまり得意ではないのか、上手く移動出来ていない。
芸術とはほど遠い動きだ。
「ヒッ⁉ 素敵丸盾!」
あっという間に捕まってしまい、慌てて盾を張って防御する。
「ぐはっ⁉」
バリンッ、やがて盾が割れ、そのまま後方に吹っ飛んでいく。
「えいっ!」
そこを狙い、マリコはすかさず追い打ちを掛ける。
「守りなさい! 素敵丸盾!」
ロドリーはすぐ体勢を直し、なんとかガードした。
だが、険しい顔で守っており、今にも破られそうだ
「っ⁉」
そして、パリンッとビューティフルに弾け、ロドリーは大きく仰け反った。
「フフンッ! これでおしまい!」
トドメを差すべく、マリコが杖を真上に掲げた。
先端から光を収集するように大きくしていく。
やがて一つの巨大なオーブを作り上げた。
「──奥義! 私の可愛い……」
必殺技を放とうとした時、ロドリーが懐に手を入れ
「今です!」
黒い縄を取り出し、相手に向けてシュルっと、
「あっ⁉」
マリコは上半身に、縄がパシッと巻きついた。
おかげで巨大なオーブはあさっての方向へ発射されてしまう。
「ヒッヒッヒッ! 油断しましたねえ、これは」
「ッ⁉……な、なにかな⁉︎」
身体に巻き付いた縄で、彼女の巨大な胸がさらに強調されている。
「奥の手ですよ、如何なる場合も備えておく。これが戦いの芸術です」
「放しておじさん! 苦しいよ!」
「いえいえ、放しませんとも。ヒヒヒ」
マリコが身体をグイグイするが、ガッチリ縛られて振りほどくことが出来ない
「うぅ……しまったよ」
マリコは油断してしまった。
ロドリーが丸盾を使った時に、一度ウィークオーブを引っ込めた。
つまり、慈愛の鞭使用時は、破裂以外使えないと言うことだ。
丸盾の使用中は一切攻撃できない。
マリコはその弱点を突き、必殺技でトドメをさそうとした。
しかし、ロドリーはその事態を見越しており、このように普通の縄を常備していたのだ。
これはつまり、センスの差。
相手の芸術的戦法にまんまとやられてしまったというわけだ。
「ヒッヒッヒッ! あとは慈愛の鞭で可愛がってあげるだけ。まもなくジ・エンドです!」
ロドリーが慈愛の鞭を出した。
「っ⁉」
マリコはグイグイする。




