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~お姉さんと進むギルド王国~  作者: 二月ふなし
第1章 敵の敵は敵 編
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7.おつかい

 アッシュは街をブラブラしていた。

 その小さな肩には、買い物袋をぶら下げている。


 この日はプラスが、両親のいる中央教区に帰省している。

 暇を持て余すアッシュは、メイドのステラにおつかいを頼まれたのだ。

 

 プラスがいないから寝放題だったのに。

 だが、余った分はおこずかいとして貰えるのでいいか。

 そう気持ちを改め、買い物へとのぞむ。


 すると、背後から嫌な声が、


「──見つけたぞ! さあ、ワタシと勝負しろ!」


 レクスと出会ってしまった。

 外出するときは細心の注意を払い、見つからないようにしていた。

 だがこの日はおこずかいを渡されたことで油断していたようだ。


「あっ……」


 指を差されるアッシュ。

 この場を切り抜けるために何とか誤魔化そうとする。


「どちら様でしたっけ?」

「とぼけるな! どれだけ探したと思っている! まる3日だぞ、3日!」


 アッシュは呆れてしまう。

 しかし、今はステラのおつかいを完遂しなければならない。


「ごめん、今ちょっとおつかいしてて」

「おつかいだと?」

「そう。だから今日は見逃してほしいんだけど」


 レクスは少し目を閉じたかと思うと、


「待ってやる」

「えっ?」

「待ってやると言ったんだ。早くしろ」


 意外と話がわかるのだろうか。

 

 そして、2人でおつかいをするという奇妙な現象に見舞われた。


「今夜はシチューだな」

 

 ふと、おつかいリストを勝手に見たらしい。

 レクスが言った。


「材料でわかる。貴様が作るのか?」

「いや、ステラさんが」

「ステラ? ああ、スターバードのメイドか。アイツのところにいるんだったな」

「そうだけど。レクスは親と暮らしてるのか?」

「ワタシは一人暮らしで使用人が……ってワタシのことはどうでもいい!」

「急になにさ」

「だまれ。ほら、行くぞ」


 ガシッと、アッシュの手を引き、お店の中へ入っていった。







 ──おつかいを済ませると、一度モノを置くため家に戻る。


「ありがとう。今度お礼するさ」

「礼には及ばん。困ったらお互い様だ」

「そっか、じゃあ」

「ああ」


 2人は仲良く握手を交わす。

 アッシュは家に入ろうとしたが、


「待て」


 あと一歩のところでレクスに肩を掴まれた。


「なに終わらせようとしている。ワタシの用事がまだだ」

「ダメか」

「当たり前だ。ここまでしてやったんだ。諦めろ」

「でもオレ、今からステラさんのお手伝いしないと……」


 ちなみにアッシュはお手伝いなどしたことがない。

 ウソをついて乗り切ろうとしたが、玄関からステラがひょこっと顔を出す。


「アッシュさん! 夕飯までまだ時間ありますから、お外で遊んでていいですよ!」


 気を利かせたつもりだろう。

 だがそれが逆効果になる。


「だそうだ、アッシュ」

「まあ、アッシュさんのお友だちですか?」

「ああ。悪いが少しコイツを借りる。行くぞ」


 ズルズルと引きずられるアッシュが助けを求める。

 ステラはニコニコで見送った。


 





 ──2人は教会の運動施設にやってきた。

 ここは公共施設、


「ここなら存分に戦える」

「でもさ、他の人に迷惑が……」

「ハンター権限で貸し切りだ。それより自分の心配をしたらどうだ」


 わざわざ貸し切りまでするとは、本気になりすぎでは。

 

「始めるぞ」


 レクスは軽く跳ねたりして身体を慣らす。


「ちょっと待って。ほらっ、準備体操しないとさ」


 いっちに、さんしと。

 往生際の悪い少年がなんとか引き延ばそうと粘るが、


「覚悟しろ!」


 無情にも、戦闘が始まってしまう。


 レクスが足の裏からオーブを出し、それを破裂させ、一気に距離を詰めた。


「なっ⁉」


 速い。

 プラスたちがやっていたヤツだ。

 あまりの速さにアッシュは反応が遅れてしまう。


 急接近したレクスが拳を放つ。


 アッシュはかわすも、レクスがすかさず右、左、と次の拳を打ち込む。


 それをよけたり、手でさばいたりして対処するが、

 

「甘いぞ!」


 突然、レクスが足を出して蹴り上げた。


「うがっ⁉」


 蹴りが綺麗に直撃したアッシュ、大きく後ろに飛ばされる。

 受けた頬を抑えて涙目だ。

 

「こんなものか!」


 レクスが再びオーブを破裂させ急接近。

 あまりに激しい猛攻に、アッシュはオーブを出すことができない。


 おまけに足技も混ぜてくるため非常に厄介。 

 しばらくレクスの一方的な攻撃が続いた。

 


 




 ──防戦一方のアッシュであったが、慣れてきたのか徐々に反撃を始める。

 プラスとの特訓の成果か。

 まだ不慣れではあるが、一応戦いにはなっている。


「思ったよりやるな」


 この時アッシュは、奇妙な感覚に襲われていた。

 特に格闘経験はないはずなのだが、不思議と目の前の少女の攻撃にどう対応したらいいのかわかる。

 これが才能というヤツなのか。

 はたまた記憶喪失前の自分と関係があるのかはわからない。


 互角に打ち合っていたが、やがてアッシュの攻撃にキレが出てきた。

 

「うっ⁉」


 アッシュの拳が頬をかすめた。


 危険を感じ、レクスは距離を取る。


「やるな。今度は少し本気で行くぞ」

「えっ、本気?」


 レクスはそう言うと、手の平から──ではなく、手の甲から中心に真っ赤なオーブを出した。

 それを手全体に包み込むように広げる。


 やがて少女の手が熱を帯びたように赤い輝きを放つ。


「──爆殺光撃バーニングクラッシュ

「なにさ、それ……」


 両腕をクロスさせ、アッシュまで一気に突っ切った。

 腕からは赤い光が後方に流れている。


 そして、目の前まで来ると身体をくるりと回し、勢いを乗せた裏拳を叩き込んだ。

 

丸盾(シェル)!」


 でたらめな攻撃ではあるが、スピードが乗っている。

 アッシュがとっさに丸盾(シェル)を出す。


「うわっ⁉」


 しかし、爆発音とともにあっさり破られてしまう。

 その爆風で壁に叩きつけられた。


「とっさにガードしたか。悪くない判断だ」


 ぶつかった痛みで悶えるアッシュ。


 目を開けると、レクスがまた裏拳で突っ込んでくる。


 ギリギリその場を離れるも、代わりに後ろの壁は粉々になってしまう。


「殺す気かよ!」

「安心しろ、手加減はしている。教会行きは免れんがな」

「そんなのって……」

「いくぞ!」


 加減しているようにはとても思えない。

 こんなの怖すぎだ。

 アッシュは死に物狂いでよけ続けた。







 ──ひたすらかわし続けるアッシュだが、慣れない裏拳の軌道に大苦戦していた。

 あの攻撃をかい潜って反撃するのは難しい。

 しかも、一発でも当たると即教会の病室送り。

 すでに教会の運動施設は至るところに穴が開いていた。


「そろそろ終わりにしてやる!」


 ──カーン、カーン


 その時、教会から大きな音が鳴り響く。


「これは……」


 この音に聞き覚えがあった。

 これはイービルが出現した時に教会が鳴らす鐘の音だ。


「レクス! この音!」

「ああ、イービルか。だが今は関係ない、早く続きを」


 レクスは拳を振り上げるも、


「プラスは今いない。オレたちの他に戦える人は」

「何を言っている。そんなのいるに決まって……いないな」

「ならこんなことしてる場合じゃないはずさ」

「……チッ、勝負は持ち越しだ。命拾いしたな」


 例の巨大イービル襲撃により、ほとんどのハンターがやられてしまっている。

 動ける者は極少数に限られる。

 アッシュはふぅと一息つく。


「イービルなどワタシ一人で十分だ。貴様はもう帰れ」

「いや、オレも」

「足手まといはいらん」


 そう言い切り、レクスがオーブを破裂させ、急スピードで現場へ向かった。


 

 アッシュは呆然と立ち尽くしていた。

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