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~お姉さんと進むギルド王国~  作者: 二月ふなし
第2章 ヴァリアード強襲 編
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72.一目惚れ

 アッシュはウィークオーブで女の注意を引きながら、こっそり高台に登っていた

 そして、ようやくたどり着いた。

 

「両手を頭に乗せろ、でゆっくり伏せるのさ」

「…………」

「おい、聞いてるのか」

「……子供」

「なに勝手に口を開いてるのさ。んっ、早くしろよ」

「いや」


 女は言う通りにしない。

 それもそうだ。

 今まで苦戦させられていた敵が、あろうことかまだ子供だったからだ。

 こんな青臭い少年に背中を取られてしまうとは一生の不覚。

 なので、女は微動だにしない。


「いいから言う通りにしろ」

「ううん、降伏するのは君」

「なに言ってるのさ、自分の状況を見てから言えよ」


 そうは言っても、アッシュは内心焦ってしまう。

 自分が必死にここまで来たというのに、この女は全く動揺していない。

 それどころかこの冷静ぶりは一体。

 本で読んだことがある。

 これが大人の駆け引きという奴なのか。


「もういい、クロスオーブはどこさ。言わないと撃つからな」

「君は撃てない」

「撃つさ」


 アッシュが手の平のオーブを、女の背中に近づけた。スレスレだ。


「…………」


 ところが、


「おい、なに見てるのさ」


 女が目の端でじーっとアッシュを見ている。

 前を向けと言っても、言うことを聞かずに見てくる

 なんだか不気味、不穏な空気が漂ってきた。


「私の身体、さっきから見てる」

「……っ」


 そして、


「うん、触っていい」


 ここで女は思う。

 この少年、近くで見ると中々良い顔をしている。

 まだ幼さはあるが、お顔が整っていて全体的に悪くない。

 なにより顔が好み。

 女は使命も忘れて相手を誘惑しようとした。


「さ、触るって何をさ」

「うん、君の好きにしていい」

「す、するわけないだろ。お生憎その手には乗らないさ」


 アッシュはこの4年間、胸の大きなお姉さんと一緒に暮らしてきたのだ。

 この程度のお誘いに乗ってしまうほど愚かではない


 大人の本によると、こういうシチュエーションは大体罠だ。

 引っかからない。

 それに今は戦いの最中、オンオフはしっかり切り替えている。


「ちょっと好み」


 いや、かなりタイプかもしれない。

 女は両手をあげたままの状態で、少し顔を赤くしてそう言った。

 軽く一目惚れしていた。


「もうしゃべるな。次に変なこと言ったら撃つさ」

「…………」


 女が遠くの方に目を向けた。

 フラれてしまった。

 とても残念だが仕方ない。

 なら、もうこの少年に用はないといった顔をしている。

 

「クロスオーブ」

「っ!」

「あれは神様の力。君にはまだその資格がない」

「知らないさ、オレは取って来いって言われただけさ」

「……人間の命令」

「なにさ、お前だって人間だろ」


 アッシュは不信に思う。

 この女は自分がまるで人間ではないかのような口ぶりだ。

 良く見ると、髪の毛から突き出た尖った耳がある。

 それに見かけない肌の色。

 もしかして本当にそうなのではないか。

 そう考えていると、


「君には、あげない」

「ッ⁉」


 突如、女が背中を向けたままの体勢で、足を後ろに蹴り上げ、アッシュの構える腕を弾いた。

 とても柔軟な身体だ。


「くっ⁉」

 

 突然の不意打ち。

 アッシュのオーブがあさっての方向に飛んでいく。


 そして、女が一度距離を取り、両手にオーブを纏う


「まだ戦う気かよ」

「うん、探す手間が省けた」


 あのオーブからして、この少年は明らかに遠距離タイプだ。

 つまり、接近戦に持ち込めばこちらが有利。

 あのまま隠れて遠くから攻撃していれば良かったものの。

 バカ。女はそう考えて拳に光を込めた。


「チッ、悪あがきかよ。いいさ、やってやるさ!」


 アッシュも両手にオーブを乗せた。受けて立つ気だ


「こうなったら力づくで吐かせてやるさ」

「嫌いじゃない、そういうの……好き」

「うっ……」


 2人は破裂(バースト)を出して急接近した。


 そのまま至近距離で光撃(ハード)を撃ち合う。


 ガッ!

 

 女が相手の拳を同じく手で受け止めた。


「くっ!」


 アッシュにはそれができず、敵の攻撃を避けることしかできない。

 これは、女の光撃(ハード)の方が強いというのを端的に表している。


「私の方が強い、君が不利」

「誤差だろ! どうってことないさ!」


 アッシュは負けまいと器用に撃ち合っている。


 一方、女は身体を逸らすさずとも、直接拳で叩き落とせば良い分、かなり余裕がある。


 当然アッシュが押されていた。

 とういうか圧倒的に不利だった。


「君、それ、苦手」

「なにさ! お前だって苦手だろ!」

「うん、でも君ほどじゃない」

「くっ⁉」


 接近戦、つまり光撃(ハード)で戦う場合は、その威力が高い方が断然有利である。

 余程戦闘技術がない限り、その差は埋まることはない。


 女はそれを分かっていた。

 だからこの少年が愚かに見える。

 あのまま隠れていれば良かったのに、自分から姿を出すとはとんだ自殺行為だ。

 しかも、真っ向から撃ち合おうとするなんて、まさしく愚の骨頂。

 

 しかし、


「っ!」


 女はある異変に気づく。


「くっ⁉」


 自分が押されていた。

 というより、少年の動きがどんどん機敏になっている。


「はあ!」

「くっ⁉」


 アッシュの拳が敵の頬をかすめた。


 女はすかさず反撃するも、アッシュが紙一重で避ける。

 動きに一切の無駄がない。


 そのままもう一撃加えるも、女は間一髪ガードした


 すると、アッシュから小さな笑みをこぼれる。


「フンッ、もう慣れたさ!」

「ッ⁉ うっ⁉」


 再びアッシュの攻撃がヒットするも、女がギリギリで防いだ。


 この少年は今慣れたと言ったのか。

 まだそんなに撃ち合っていないはずだ。


「なッ⁉」


 どうやらそれは本当らしい。

 現にこちらの攻撃は一切届かない。

 ほとんど動きが読まれていた。

 だが、あまりにも早すぎる。


「くっ⁉」


 女は知らなかった。

 確かにアッシュは光撃(ハード)が苦手で、接近戦には向いていない。

 でも、その分学習能力が無駄に高かった。


 プラスとの初特訓ですぐにオーブを出したこと、一週間で基本技を習得したこと、初めての格闘戦にも関わらず、レクスと互角以上に渡り合ったこと。

 一日で破裂(バースト)習得。

 すべてがアッシュの物覚えの早さが成せる技だった


 それは戦いの中でも遺憾なく発揮され、敵の行動を無意識に分析していた。

 一度見た動きは大体対応できるのだ。

 言い換えるなら、どこかのお姉さんと同じく喧嘩の才能があったというわけだ。

 

 多少オーブに差があったところで全く問題はない。

 これで光撃(ハード)が強ければ申し分なかったのだが……。


 やがて、戦いは終わりを迎えようとしていた。


「うぐっ⁉」


 ついにアッシュの光撃(ハード)が直撃。


 その勢いで女が吹き飛ばされた。


 しかし、低品質なため致命傷には至らず、少し膝をつく程度だ。


「終わりさ!」


 アッシュはすぐさま接近し、敵に殴りかかる。


 しかし、


「待って」


 女が右手を前に出してストップをかけた。


「降参、私の負け」


 アッシュは拳を振り上げたままだったが、


「わかったさ」


 と言って腕を下げた。


「…………」


 嘘かもしれない、さっきみたいにまた不意打ちするかも。

 女はさも意外そうな顔をしている。


「信じるさ。それに初めからオレたちを殺す気はなかっただろ」

「…………」

「遺跡の侵入者は足に飾穴が空くだけ、誰も死んじゃいない」


 殺すことだって出来たはず。

 むしろ、今後のことを考えるとそうした方が建設的だ。

 でもこの女は命まで取ろうとはしなかった。


「つまりお前は良い奴! だから信じるさ!」


 だそうだ。アッシュはニッコニコでそう言った。

 対人戦での初勝利なため素直に喜んでいる。


「でもオレが勝ったからには頂くけどさ、クロスオーブ!」


 それを聞いた女も静かに笑う。


「うん、君は私に勝った。君にあげる」


 というか君に貰って欲しい。

 女はまたしても顔を赤らめた。


「うっ……そ、それで、どこにあるのさ?」

「うん、でも……」

「ん?」


 その前にやるべきことがある。


 ゴソゴソゴソ……。

 

 そう言って、女が急に服を脱ぎだした。


「なっ⁉ なにしてるのさ⁉」


 アッシュは目をギョッさせる。


「フフフ、君の好きにしていい。勝者の特権」

「違うさ! それはヴァリアードだろ! オレはユースタントさ!」


 この国の信仰する宗教、ユースタント教には、一度拳を交えた者はもうお友達。

 という変な教えがある。

 なので、ここで手を出したらヴァリアードになってしまう。


「私は気にしない。これは合意の上、問題ない」

「大アリさ! いいから服着ろよ!」



 アッシュは目を隠した。チラッ……。

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