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~お姉さんと進むギルド王国~  作者: 二月ふなし
第2章 ヴァリアード強襲 編
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68.読書会

 一方その頃、場所変わって。

 ここは第四教区。

 4年前にヴァリアードが占拠したことで、すっかり独立国家へ変貌していた。


 ザイコールは以前のようにコソコソ隠れる必要はなく、今では堂々と教会に住み着いている。

 素っ気ない人が多い第一教区とは違って、この国では英雄視される。

 当の本人も居心地が良くて仕方ないといった感じだ


「…………」


 そんな教会の2階にある奥の部屋。

 中には片手に本を持ち、読書する一人の少女がいた

 

 ペラッ、ペラッ


 一纏めにした暗い水色の髪と、対照的に目立つ紅色の瞳をした少女。

 レクス=レオストレイトだ。

 服装は4年前とあまり変わっておらず、お年頃だというのにお洒落に興味がないのか、比較的動きやすい恰好をしている。

 

 彼女はただいま読書にご執心だ。


「──レクス、茶だ」


 ふとレクスの前にお茶が差し出された。

 父親のグレンが淹れてくれたお茶だ。


 現在、明日決行する中央教区攻撃の作戦会議が終わり、一息ついているところ。

 部屋にはレクスとグレン、そしてザイコールの3人が各自ゆっくりしていた。


「レクス、茶を用意──」

「いらん」


 父親がせっかく淹れてくれたというのに……。

 今は読書に集中したいようだ。


「…………」


 娘の冷たい態度に、グレンはお堅い表情。

 その姿からはどこか悲壮感が漂ってくる。

 

 そのまま娘の前に立ちすくんでいると、


「──レクスよ」


 同じく読書をしていたザイコールが口を挟む。


「父親にそんな態度はないじゃろうて」


 グレンを可哀そうに思ったザイコールが注意した。


「……気が散る。ワタシはもう帰る」


 お節介爺ほど鬱陶しいモノはない。

 レクスは本を閉じて部屋から出て行った。


 シーン……。


 部屋に残された2人の大人からまた悲壮感が漂う。


「思ったより大変じゃな。年頃の娘っ子というのは」


 ザイコールがお茶をすする。

 グレンが娘に淹れた奴だ。


「そう気を落とすでない、そういう時期なんじゃ。ソッと見守るのもまた親の役目というものよ」

「……ああ」


 レクスも反抗期だった。







 ──レクスは静かなる場所を求め、街の中を彷徨っていた。

 歩きながら読書しているため前がほとんど見えてない。非常に危険だ。


「あいてっ!」

「ん?」


 お腹に何かポンとぶつかった。

 前を見てないからだ。

 可愛らしい声がしたのでレクスが本を閉じて確認すると、それは小さな子供であった。


「っ!」


 子供はレクスを見るとパーと笑顔になる。


「あっ! レクスお姉ちゃんだ!」

「なんだ、この前のガキか。ちゃんと前を見て歩け、いいな?」


 と言ってレクスは頭をナデてあげた。


「わかった! 気をつける!」

「ああ、もう行け」

「うん! バイバイ! また遊ぼうね!」

 

 そう言って元気に手を振って走り去っていった。

 その小さな背中に、レクスは少しだけ笑みを浮かべた。

 

 レクスはたまに、教区内の子供たちの遊びに付き合っており、今ではレクスお姉ちゃんとして大人気になっていた。

 子供が好きなのか、まだ元気に遊びたいのか、本人にもよく分からない。


 ただ子供たちと遊んでいると、なにか懐かしい気持ちになる。

 昔よく遊んだ少年のことを思い出す。

 それは4年経った今でも忘れられず、たまにその少年のことを考えてしまう。

 今はどうしているのだろうかと。

 ここ最近は特にひどい、気を付けなくては。


 やがて、レクスはゆっくりできそうな場所を見つけ、そこに座ってまた読書を再開した。

 

 しばらく夢中になっていると、


「──あは! みーっけた!」


 声をかけられた。耳うるさい声だ。


「…………」


 レクスは無視して読書を続ける。


「もう! ファーマのこと無視しないでよ!」


 怒った少女が詰め寄り、ピョコピョコ騒いで妨害してきた。

 うざったく感じたレクスは本を閉じて少女を目を向ける。


 それはツインテールの赤めなピンク色の髪で、瞳の奥に小さなハートが映る少女

 また、レクスと違ってピンクと基調とした派手な服装をしており、今時の女の子にしては少し自己主張が激しい。


「うるさいぞファーマ」

「あは! やっと気づいてくれた! ファーマ嬉しい!」


 この少女の名はファーマ=ダストリラ、15歳。

 例のワイバーンの異名を持つ、Aランク相当と噂される少女だ。

 歳が近いせいか何かとレクス絡んでいる。

 

 レクスはそんな彼女を鬱陶しく感じることもある。

 しかし歳も近く、しかも同性のハンターは希少な存在なため、気はまったく合わないが一応相手はしてあげていた。


「ワタシはいま本を読んでいる、邪魔をするな」

「え~、本なんてつまんな~い。すっごい地味~」

 

 ファーマを舌を出して軽く拒絶反応を見せた。


「それよりファーマとお話しようよ~」


 中央教区の人間ではないのにおしゃべりが好きなようだ。

 いや、年頃の女の子だから普通のことか。


「静かにしろ、お前がいると集中できない」

「ふんっだ! 明日襲撃なのにのんきに絵本なんて読んじゃって!」


 相手をしてくれないためプンプンのファーマ。


「う〜ん……う〜ん……」


 なんとかレクスの気を引こうと、彼女が食いつきそうな話題を探す。


 そして、


「あっ! そういえば彼には会えた~?」

「……っ」


 レクスの目の動きがピタッと止まる。


「あは! その反応、やっぱり中央にはいなかったんだね! レクスったらわかりやっす~い!」

「……何のことだ」

「も~、とぼけちゃって~……スターバードのアッシュ君、でしょ?」


 耳元でボソッとそうつぶやき、息をフッ、


「っ⁉……貴様」

 

 耳が弱いレクスはブルっと身震いした。


「ごめんねえ~、お爺ちゃんから聞いちゃった! あは!」

「あの爺……」

「それにあなたが教会で居眠りしてる時に言ってたし、『う~ん、アッシュぅ~』って」

「っ⁉」

「あははは! 照れてる! かっわいいんだ~!」


 レクスの寝言が気になったファーマは、試しにザイコールに聞いてみた。

 すると、快くアッシュのことを教えてくれたそうだ


「あの爺、絶対殺す」


 レクスは勝手に話した老人に殺意が沸く。

 

 その反応を面白がるファーマがニマニマし、


「ムフフフ、なんならファーマが連れてきてあげよっか? 愛しのか・れ・を。きゃはっ! 言っちゃった~!」

「っ⁉」

「もちろん第一教区にいたらの話だけど、ね!」

「……余計なことをするな」


 ファーマが所属するゲリードマン一派は明日、第一教区を襲撃する予定だ。

 そこでもし、例の少年を見つけたら自分が連れてきてあげるとファーマが提案した。

 レクスはそれを馬鹿馬鹿しいと言って断る。


「大体、なぜ第一教区を襲う必要があるんだ」

「それはね、うちのリーダーは教王が恐いからだよ」

「くだらん」

「まあ、ファーマもなんだけど」


 ゲリードマン派と言えば聞こえはいいが、実の所、教王と戦うのが恐い臆病者たちで構成されていた。

 それでもどこかで暴れたい。

 なので、普段から何かと敵視している第一教区に白羽の矢を立てたということだった。

 前回、見事に返り討ちに合ってしまったが。


 ザイコールとしては、例の支部長2人に殺されかけてトラウマになっていたので、彼らを足止めしてくれると言うのは願ってもみないこと。

 2つの派閥はなんだかんだ利害が一致していた。


「ワタシは中央には行かん」

「そうなの? ならファーマのとこに来るの? レクスもやっぱり教王が恐くなった?」

「貴様らと一緒にするな、今回ワタシには別件がある」

「別件?」


 ファーマは可愛らしく首を傾げてみせた。

 ぶりっ子だ。


「ああ、これからラズライト遺跡に向かう」

「遺跡? 観光でもするの? それともファーマとデート?」

「違う、クロスオーブを取り行く」

「くろす、おーぶ?」


 今回はレクスは、中央教区襲撃には参加しない。

 それとは別に、単独でクロスオーブを入手する任務をザイコールから受けている


 すでにこちらが一つ所持している。

 しかし、教王を倒すためにはもう一つ必要らしく、何として手に入れたいところだ。

 なので貴重な戦力ではあるものの、レクスを遺跡に向かわせることにした。


「そろそろ行く、ついてくるな」

「えっ⁉ もう出発するの⁉ 明日でいいでしょ!」

「ここにいても気が散るだけだ、それに早いに越したことはない」

「え~! 今日はファーマとお泊りする約束でしょ⁉ レクスのお家で!」


 ファーマが周りをぴょんぴょん跳ねる。

 その矮小な姿、ワイバーンなどではなくピヨコと言った方が正しい。


「するわけないだろ、馬鹿なのか貴様は」

「うえ~ん! レクスの方が年下のくせにぃ~! 可愛いファーマをいじめる~!」



 準備した。

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