67.七不思議
「すー……すー……」
ただいまの時間は正午。
アッシュは寝音を立てて眠っている。
もうお昼というのに自分の宿泊施設でぐっすりだ。
──コン、コン
ドアから控えめなノックがした。
アッシュはその音には気づかずスピスピと眠る。
──ギギィ…ガチャ
部屋の鍵を開けたのだろう。
なぜかキーを持っている。
返事がないため心配したのか、その人物が勝手に中に入ってきた。
「…………」
それはティゼットだった。
この日、ギルド長から何か連絡があるらしく、アッシュを連れて来いと頼まれたのだ。
「すー……すー……」
しかし、当のご本人はこの通りぐっすり。
じーっ……。
ティゼットは無言で先輩を見る。困っている。
「う、う~ん」
起こそうと身体をユサユサするも、アッシュがその手をパシッと払いのける。
「…………」
ティゼットは困り果て、しばらく顎に手を当てて何やら考えていたが、
ポンッ!
何か思いついたみたいだ。
手の平オーブをポッと出す。
それをアッシュの大切なふわふわにそっと当てた。
シュウウウウウ……
ふわふわが見る見る凍っていく。
「うっ、う~ん……ッ⁉ うわっ⁉」
アッシュはあわてて飛び起きた
すぐに大事なふわふわを確認すると、すでに三分の一ほど凍結している。
カッチコチだ。
「なにするのさ!」
寝起きのアッシュが声を張り上げた。
ふわふわに息をかけて、頑張って氷を溶かそうとする。ちょっと滑稽。
しかし、そのぐらいでは溶けるほどヤワなオーブではない。
ティゼットはオーブを出してふわふわに触れようとする。
ベッドから出てくるまで止めるつもりはない。
「待てティゼット! わかった! わかったさ!」
ふわふわを凍らせるとは人間のやることではない。
だが本当に凍らされたらとても困る。
なのでアッシュは従うしかない。
「…………」
観念したのを見てティゼットはとても嬉しそうだ。
無表情でコクコクと頷いている。
問答無用、さっそくアッシュを教会に連行した。
──2人は教会に到着した。
いつものようにギルド長室に入ると、中にプラスだけではなくゴーもいた。
ゴーを見たアッシュは怪訝な顔になる。
「どうしてゴーもいるのさ」
反抗期だ。
「こらアッシュ! そんな言い方ないでしょ!」
子供のいけない態度にお姉さんが注意する。
ティゼットもコクコクとうなづいている。
「気にしなくていいぞ、いつものことだ」
「アンタねえ、そんなんだからこの子がつけあがるんじゃない!」
「チッ」
「ほら、これを見なさい! また舌打ちしてるわよ、この子ったら!」
しばらくプラスが教育問題とやらについてワーワーワーワー。
しつこい、ふわふわを凍らされて不機嫌なアッシュが要件を確認する。
「それで、今日はなにさ?」
「うっさいわね! まだわたしの話は終わって──」
「おい、そこら辺にしとけギルド長さんよ。話が進まねえだろ」
「うぬ、うぬぬぬぬ……」
煮え切らないプラスの代わりにゴーが口を開く。
「手短に言うぞ。アッシュ、ティゼット、お前ら2人でクロスオーブを取りに行け」
「クロスオーブ⁉ それってあの」
「ああ、そうだ。あのクロスオーブだ」
2人は驚く。
今まで、ギルドの諜報員が極秘でクロスオーブの在処を調査しており、それが最近になってようやく特定したとの事だ。
場所は第一教区と第四教区のちょうど中間地点にあるラズライト遺跡。
非常に大きな遺跡ではある。
しかし、大昔に破壊されたらしく遺跡としての原型はほとんど留めていない。
昔、神様が住んでいたと言われる不思議な遺跡だ。
「見つけたのにまだ回収してないのか?」
「詳しい場所までは分かってねえんだ。それに問題があってな」
「問題? なにさ?」
プラスが2人の会話に割り込む。
「遺跡に入ると攻撃されるの」
「攻撃? 誰にさ?」
「それが、わからないのよ」
なんでも、遺跡に入ると突然脚部に穴が空いて動けなくなるそうだ。
傷口を確認した所、それはオーブでの攻撃で負傷したものと断定された。
また、負傷した調査員の報告によれば、高台付近で何か光る物が見えたという。
今までに何度か調査員を送りこんだ。
しかし、全員が何者かのオーブで攻撃されてしまい、ことごとく回収に失敗していた。
「えぇ……」
アッシュはそれ聞いて恐怖を覚えた。
お隣のティゼットも身体をガタガタと震わせている
「そ、それってさ、神様の呪いなんじゃ……」
ティゼットもコクコクとうなづく。
祟りだと言っている。
「そんなわけないじゃない、お化けじゃあるまいし。何よ、もしかして怖いの?」
「ほう、まだお化けが怖いのか? ハンターのくせして」
「こ、怖くないさ。それにイービルは別さ」
アッシュとティゼットは首を横に振る。
2人ともこんな歳にもなって、お化けが恐いなんて知られたくないのだ。
バレバレであるが。
「そこで! アンタたち2人で取って来て欲しいのよ」
「はっ⁉ そんな物騒な場所に送る気かよ!」
「なによ! これはわたしからアンタに送る初仕事よ! まさか嬉しくないって言うの⁉」
「嬉しいわけないさ! おい、ティゼットも黙ってないで何か言えよ!」
ティゼットはコクッとした。
行きたくないと言っている。
今日は珍しくアッシュと意見が合うようだ。
「フンッ、言っとくけどね。このためにアンタを呼んだのよ」
「そんなの知らないさ!」
「残念だったな。ここに来たってことはもう承諾したも同然だ」
「はあ⁉ オレはお前について来ただけさ!」
「こらアッシュ! お前だなんて口が悪いわよ!」
ワーワーワーワー、ワーワーワーワー。
ああでもない、こうでもない。
「ならお前が行けばいいだろ! 前から欲しがってたしさ!」
「ダメよ。コレは今度の防衛で使うから行かせられないわ!」
「まあそう言うこった、頑張れよアッシュ。ガハハハハ!」
クロスオーブを手に入れることが出来れば戦況はかなり有利になる。
逆も然り、相手の手に渡ればかなり不利になってしまう。
すでにザイコールが一つ所持しているため、なんとしてもこちらがもう一つを入手したい。
そのため、貴重な戦力であるティゼットと、Bランクのアッシュを向かわせることしたのだ。
「オレ達がいなくて大丈夫なのかよ、その間に攻めてきたらさ」
ティゼットもコクリ、心配そうだ。
しかし、プラスは無い胸を張って自信満々に言う。
「大丈夫よ! アンタはともかくティゼットがいなくても問題ないわ!」
「なんか引っかかる言い方さ……」
「数ではこっちの方が有利だし、なにより今回はコレがいるからね!」
「そうだ、だから安心してクロスオーブを取って来い。ガハハハハ!」
「わっはっはっはー!」
「…………」
プラスとゴー、大人2人が腕を組んで高笑いする。
確かにこの2人がいれば心配はないだろう。
むしろ過剰防衛なくらいだ。
アッシュは不覚にもそう思ってしまい、舌打ちしかできない。
「穴が空いたらすぐに帰るからな!」
「あん? 足の一本や二本なんて気にするんじゃねえよ」
「気にするさ! ほら、ティゼットも何か言えよ!」
ティゼットが首を縦に振った。
足に穴が空きたくないと言っている。
「そういうわけだから! 今から準備しなさい! さっそく出発よ!」
「えぇッ⁉ もう行くのかよ⁉」
準備した。




