表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
~お姉さんと進むギルド王国~  作者: 二月ふなし
第2章 ヴァリアード強襲 編
70/142

65.合否

 前回、両腕を凍結させられたアッシュ。

 ただいま教会の医務室でお湯につけて温めていた。


 そんな彼を可哀そうに思う、とても優しい綺麗なお姉さん。

 彼女はアッシュのために温かいお茶を運んでいた。


「ふんふんふ~ん」


 いつも通りハリスの部屋をスルー、アッシュのいる医務室に向かう。

 こうなったのはほぼプラスが原因なのだが、当の本人は全然気にしていない。

 それどころか、自分のことを気の利くお姉さんだと思っている始末。

 本当にどうしようもない。


 そんな身勝手なギルド長はノックもせずに、医務室のドアに手を伸ばす。


「ん?」


 部屋の中から甲高い声がした。

 中にはアッシュ以外いないはずだ。

 不審に思い、耳を澄ませてよく聞いてみると、


「──ねえ~、このあとお姉さんとお食事しない? 勿論2人だけでね!」

「──あっ! 抜け駆けは許さないんだから!」

「──ねえ〜、それよりも私と遊ぼうよ~。こんなお・ば・さ・ん達なんかはほっといてさ〜!」

「──なんですって! この淫乱女!」

「──あんたこそ何よ! 胸なんか押しつけちゃって!」

「──ちょっと! 私のことも忘れないでよ!」


 バンッ!


 プラスが勢いよくドアを開けた。


「っ⁉」


 衝撃の光景が広がる。

 そこには、3人の女性が一人の少年に群がっていた。

 プラス同様、ウィンクオーブで落ちた女たちが、アッシュに言い寄っていたのだ


「さ、寒いさ……」


 一方、当の本人はそれどころではなく、バケツに両腕を突っ込んで一人ガクガク震えている。

 まるで生まれたての小鹿のよう、見るからに不憫な姿だ。


「ア、アンタたち……」

「ひぃ、ギ、ギルド長っ⁉」

「こ、これは……そのですね……」

「今すぐ出て行きなさい、さもないと……」


 バチッ、バチバチバチッ、バチッ


 プラスのお茶を置くお盆が震え出す。


「し、失礼しました~! きゃあー-!!」

 

 ギルド長には適わない。

 3人とも急いで医務室から出て行った。


「全く! 目を離すとすぐこれよ!」


 女狐共を追い払ったプラスが医務室のドアをバンッと閉める。


 アッシュは相変わらずガクガク震えている。

 なんて可愛そうに、プラスが隣に座った。


「よいしょっと! フフッ、わたしだけの特等席〜」


 そのままアッシュの腕に絡みついて独占する。

 やってることがあの女狐たちとなんら変わりない。


「大丈夫? お茶持って来たわ」

「……手が凍って飲めないんだけど」

「そう、ならわたしが飲ませてあげる!」

「誰のせいだと思ってるのさ」


 アッシュは思う。

 ティゼット=アールシー。

 初めは自分のちょっと上位互換だと思っていた。

 でも全然違う。

 接近戦と遠距離のどちらもそこそこできる上にウィークオーブまで強い。


 あれはプラスと同じ天才タイプだ。

 そして自分の一番嫌いなタイプ、とても妬ましい。

 あんな強烈なオーブだとわかっていたら戦わなかった。


 そんなふうに考えていると、


「……あつッ⁉」


 口元に何か熱いものが当たる。


「あっ、ごめんなさい」

「何するのさ!」

「寒そうだったから……」

「いいさ、べつに」


 アッシュは模擬戦に負けて不機嫌だ。


 そんな少年を気の毒に思ったのか、


「ん」


 ピトッ


 プラスが急に肩にもたれかかってきた。

 

 おかげでアッシュの体温が上がる。

 しかし、今度はそれどころではなくなった。


「……何してるのさ」

「温めてあげてるの、わたしで」

「いい、必要ないさ」

「さすがにやりすぎたかも。わたし」

「……今更かよ」

「うん、ごめんねアッシュ」


 プラスがようやく謝罪した。

 アッシュの腕の惨状を見て、罪悪感が生まれたのだ。

 2人が嫌がってたのに無理やり戦わせたことを深く反省した。

 

「……もういいさ」


 こんな状態で謝れたら許すしかない。

 このお姉さんは卑怯である。


「上司の件はあなたが決めていいから」

「いいのか?」

「ええ、あなた達に任せるわ」

「わかったさ」

 

 しばらく2人は肩を寄せ合っていたが、プラスがスッと立ち上がる。


「もう行くわね」

「えっ……」

「こう見えて忙しいのよ……まだいて欲しかった?」

「ッ⁉ そんなわけないさ」

「フフッ、可愛くないわね」


 プラスは医務室を後にした。

 アッシュもお湯を追加し、氷を溶かすことに集中した。







 ──取り残されたアッシュ。

 しばらくボーっとして腕を温めていたが、

 

「ん?」


 ドアから視線を感じた。

 目をやると、ドアの小さな隙間からティゼットが覗いていた。


「…………」


 ドア越しでじっと見ている。無言だ。

 なぜ入ってこないのか疑問に思うアッシュだったが、このままだとすごく気味が悪い。


「そこで何してるのさ」


 なので声をかけた。


「…………」


 無言のティゼット。

 相手を警戒しているかのように見ている。


 警戒したいのはこっちの方だ。


「はあ、まあいいさ。入れよ」


 許可が下りたことでティゼットが部屋の中に入る。

 その手にはお茶を持っていた。

 アッシュのためにわざわざ淹れてきたのだ。


「なにさ?」

「…………」


 何も言わずお茶をアッシュに差し出す。

 腕を凍らせた謝罪のつもりだ。


「フンッ、良い心がけさ」


 さっきも飲んだ。

 でも、自分のためにせっかく淹れてくれたんだ。

 アッシュはありがたく頂くことにした。

 お礼は言わないが。なんか偉そう。


「……冷たい、しかも不味いさ」

「っ⁉︎」

 

 しかし、すでにお茶はぬるくなっていた。

 これでは身体が温まらない、どうしてくれる。


 また嫌がらせか、と思ったが相手の慌てる様子からして違うみたいだ。


「フッ」


 こんなに冷たくなるまでずっと部屋の前にいたのだろうか。

 そう思うとアッシュは笑ってしまう。


 それに無口だが意外と分かりやすい。

 プラスの言う通り、悪い奴ではないのかもしれない

 ……気に入らないことには変わりないが。

 

 ふとティゼットの顔を見た。

 ひどく腫れ上がっている。


 そして、


「……悪かったさ」

「っ⁉︎」

「顔、やりすぎたさ」


 アッシュは謝罪した。


 ティゼットもアタフタしかと思うと、すぐに頭を下げてペコペコする。

 自分も悪かったと謝っている。

 非常に分かりやすい。

 アッシュは彼の言いたいことがまた分かってしまう


 どうやら仲直りできたみたいだ。

 なので、アッシュは本題に移ることにした。


「それで、上司の件だけどさ」

「ッ⁉︎」


 ティゼットが目を見開く。

 自分の合否が気になって仕方がないと言っている。

 

 そんな様子にアッシュはニコッとし、


「無しで」


 自分より優秀な部下など必要ない。だから却下。

 誠に残念な話ではあるが、今回はお見送りとさせてもらう。

 貴殿の今後のご活躍に期待したいところだ。


「…………」

 

 ティゼットは固まる。絶望していた。

 何がダメだったの分からないのだ。


 そんな落ち込む様子に、憐れんだアッシュが口を開く。


「上司は無理だけどさ、とりあえず同僚ってことで」

「…………」

「年も近いし、同じBランクだしさ。それでいいだろ?」

「…………」

「なにさ、年上の言うことが聞けないのかよ!」


 バンッ! お盆を叩く音。


 ティゼットは腕を組み頭をひねっている。

 どうするか考えているようだ。


 やがて、


「ん? なにさ?」


 ティゼットが手を差し出した。


「…………」


 よろしくお願いしますと言っている。

 どうやらこれで納得してくれたみたいだ。

 それは良かった、アッシュも一安心。


「フンッ」


 パシッ!



 手を払いのけた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ