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~お姉さんと進むギルド王国~  作者: 二月ふなし
第1章 敵の敵は敵 編
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6.教会

「プラス、教会はまだ?」

「大丈夫、もう少しだから」


 教会を退院してから2日くらい。

 2人はまた教会に向かっていた。


 今日は、2人でハリスのお見舞い──ではなく、教会のハンター支部に用がある。


 ちなみに今日のアッシュはムスッとしている。

 二度寝を叩き起こされて不機嫌だった。


「さっ、着いたわ」

「教会でなにするのさ」

「フフフ、今からあなたをハンターに登録するの」

「もう? オレまだ分離(リーブ)しかできないんだけど」

「あなたはもうイービルを撃退してるから十分よ。教会にも話は通してあるわ。大丈夫よ、何かあったらわたしが守ってあげるから」


 そんなこと言われてもと、アッシュは思う。

 またアレと戦うのかと思うと正直嫌であった。


 そんな少年を尻目に、プラスはウキウキで教会に入る。


「あっ、プラス」


 アッシュも追って立ち入った。


 教会はお屋敷のように広い。

 中は飾り気がなく質素な造りだ。

 まじめに仕事をしている修道女、お掃除に夢中な修道女、サボって雑談する修道女で賑わっている。

 その内の一人に尋ねた。


「ごめんなさい、ハンター支部はどちらかしら?」

「あちらです。よければ案内しましょうか?」

「いえ大丈夫よ。ありがとね」


 プラスが手を振りながら引き返してきた。


「お待たせ~」

「場所わからないのかよ。ハンターの癖に」

「広くて毎回忘れるのよね。テヘッ」


 お姉さんがウィンクしても効果はない。

 アッシュはムスッとしたままだ。







 ──ハンター支部に入るが、中は無人であった。


「誰もいない……」

「気にしないで。普段から人なんていないから」

「それでいいのかよ」

「さあ? いいんじゃない?」


 プラスが言うに、支部とは名ばかりで普段から誰も使っておらず、ほとんど物置のような状態になっているそう。

 それでも一応掃除はされているようで誇りは一つもない。

 

 そんな悲しい部屋でプラスが何かゴソゴソと探す。


「どこにあったかしら……あったわ」


 書類の山から一枚の紙を取り出した。

 

 ポカンとするアッシュの元に戻る。


「さっ、行きましょうか」

「もう?」

「用は済んだわ。二度と来ないかもね。さっ、受付に戻るわよ」 


 なんだか煮え切れらないが、教会の受付に向かう。


「すごい並んでる……」


 そこは悩める住民で賑わっていた。

 アッシュは人混みが苦手なようで気後れする。


「そう? 毎日こんな感じよ」


 宗教国家なので教会の力が強い。

 何をするにしても教会からの許可が必要だ。


 不便なところもある。

 しかし、教会側の病室の提供、貧しい者への支援、住民のお悩み相談など国民のために尽力しており、人々の不満はほとんどない。

 イービルさえ出なければとても平和な国である。


 子どもたちの教育も行っているため、休憩中の子どもも多く見える。

 アッシュはそれをジッと眺めている。


「はい、これに名前を書いて提出してきなさい」

「ん?」


 先ほど持ち出した用紙を渡された。

 何やら人の名前がたくさん書かれている。


「これに名前を書いて提出すれば晴れてイービルハンターよ」

「それだけ? 他になにか、試験とかさ」

「あとで説明するから、とりあえず出してきなさい」


 言われた通りに名前を書いて提出した。


「アッシュ=スターバード様ですね、お待ちしておりました。これをどうぞ」

「なにさ?」」

「記念に差し上げます」


 受付のお姉さんから変な形のバッジをもらう。

 それをコロコロさせながらプラスの元まで戻る。


「はい! 良かったわね。これであなたもハンターの仲間入りよ!」

「これで? あっさりすぎない?」

「人手不足だからね、仕方ないわ」


 そういうモノなのか。

 アッシュはため息をもらす。


「それよりランクについて説明するわ! 一度しか言わないからよく聞きなさい!」

 

 ランクについての説明が始まった。

 見習いハンターはCランク、一人前でBランク、さらに上のAランクがある。

 中でもAランクはこの国でたったの5人しかいない。


 Aランクになると教会から支部長に任命される。

 支部長とは教会で一番偉く、教区内で一番力のある人物だ。


 プラスは現在Bランクだが、このAランクに昇格して支部長の座を狙っている。

 その権限を行使してギルドを無理やり作るつもりだ。


 もちろん、中央教区にいるこの国で一番偉い、教王からお許しがもらえればの話ではある。

 ここは第一教区。

 全部で第四教区まである。


「Aランクにはどうやったらなれるのさ?」

「Aランクの試験官と戦って勝てばいいんだけど、その試験官がまた強いのよ。今のわたしじゃ歯が立たないわね」

「へえ~、大変そう」

「なに言ってるのよ。あなたがその試験官を倒すのよ」


 ギルドに賛成の者がAランクになればいいとプラスは考えている。


「えっ」


 なので素質があるアッシュに賭けている。

 もちろん自分自身もなるつもりではあるが。

 

「とにかく! あなたには早く強くなって貰わないと困るの。だからこのあと特訓よ!」

「今日はもう疲れたし帰りたいんだけど」

「ダメよ!」


 教会を後にした。

 アッシュは二度寝の続きをする予定であったが、ダメだそうだ。

 今から特訓かと思うと億劫になる。







 ──街を歩いていると、背後から声をかけられた。


「──見つけたぞ! 今日こそ決着をつけてやる!」


 振り向くと、そこにはアッシュと同い年くらいの女の子が立っていた。

 肩まで伸びた暗い水色の髪を一つに纏め、動きやすそうな格好をした少女。

 気が強そう。

 アッシュはその綺麗な紅色の瞳に目がいった。


 少女がプラスにグイグイ詰めよる。


「レクスじゃない。久しぶりね」

「勝負しろ!」

「残念だけど、今は遊んであげる暇はないのよね」

「なっ⁉ 年中暇している貴様が……まさかイービルが出たのか⁉」


 と、言い辺りを見回す。


「失礼ね。用事があるだけよ」

「そうか。そんなことはどうでもいい。ワタシと勝負しろ!」

「あなたも凝りないわね」


 この少女は、レクス=レオストレイト。

 ことあるごとにプラスに勝負を挑んでいるが、相手が一回り年上のお姉さんであるため、一度も勝てずに全敗を喫している10歳の少女だ。


 初めは真面目に相手をしていたプラス。

 だが、何度負かしても諦めない彼女を最近鬱陶しく思っている。


 そんな負けず嫌いの少女が、隣にいるアッシュの存在に気がつく。


「おい、このガキはなんだ」

「そっちだってガキだろ」

「なんだ! やるのか貴様!」


 レクスが生意気な子どもの胸倉を掴む。


「なにさ!」


 アッシュも負けじと胸倉を掴んだ。

 意外と喧嘩っ早いのか。

 初対面なのに2人は喧嘩を始めそうな勢いだ。


「こらっ! 2人とも喧嘩はダメよ!」

 

 プラスが間に割って入る。

 2人の首根っこを掴んで引き離した。


「お?」

「ん?」


 子ども2人。

 急に身体が宙に浮いたので、不思議そうに手足をバタバタさせる。


「まったくもうっ……」


 やんちゃな2人を地面に下ろす。


「この子はアッシュ。あなたと同い年なんだから仲良くしなさい」

「コイツもスターバードなのか?」

「まあそうだけど、ワケありなのよ」

「そうか。まあいい。それより勝負するのかハッキリしろ!」

「だから今は忙しいって……あっ! そうだわ!」


 隣の子どもを見て閃いた。


「ごめんなさい。今日は無理だけど、今度相手してあげるわ。アッシュがね!」

「えっ? プラス、なにを勝手に」

「コイツにワタシの相手が務まるのか?」


 レクスは不服なようで、自分より弱そうな少年に指をさす。

 指を向けられたアッシュはムカムカだ。


「あら、アッシュだってあなたと同じCランクよ。なったばかりだけど」

「なんだそれは」

「まあいいじゃない。それにアッシュに勝てたらわたしが相手してあげる」

「なに⁉ それは本当か!」


 プラスは相手をするのが面倒なので、隣の子どもに押し付けた。


 アッシュは当然嫌がるも、レクスが言い放つ。


「いいだろう! こんなヤツさっさと教会送りにしてやる! アッシュとやら、手を洗って待っていろ!」


 そう言って、フンスカと去っていった。


 その背中を見送る中、アッシュが口を開く。


「なに勝手に決めてるのさ」


 勝手な計らいに怒っている。


「あら、ちょうどいいじゃない。こういうのは競い相手がいた方がいいのよ。あの子Cランクだけどかなりやるわ。意地っ張りだし、今度捕まったら勝負は免れないわね」


 たしかに。

 あの様子だと次は見逃してくれそうにはない。

 もう顔と名前も覚えられてしまった。


「そうと決まれば、レクスに捕まるまで特訓よ! 行くわよアッシュ!」

「はあ……」



 特訓場に向かう。

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