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~お姉さんと進むギルド王国~  作者: 二月ふなし
第2章 ヴァリアード強襲 編
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64.TZ×ティゼット

 模擬戦が始まった。

 ギルド長の合図でアッシュはオーブを構える。


 ティゼットは何もせず棒立ちのまま。

 おそらく昨日同様に挑発してるのだろう。


 アッシュは容赦なく分離(リーブ)で先制する。


「ッ⁉」


 いきなり撃ち込んで来た。

 ティゼットは一瞬目を開くが、すぐさま破裂(バースト)で躱す


 逃がさない。

 アッシュは次に両手でオーブを出して連続で放つ。


「っ!」


 ティゼットは軽い身のこなしで回避する。

 相変わらずオーブを出そうとせず、また反撃もしてこない。


 余裕のつもりなのか、消耗を待っているのか、使うまでもない相手なのか。

 とにかく舐められてることに違いはない。

 アッシュはさらに分離リーブの勢いをあげた。


「そこだ!」


 アッシュが動きを先読みしてオーブを放つ。


「っ!」


 ティゼットは躱すことが出来ずに直撃。


 しかし、寸前のところで丸盾(シェル)を出して身を守る。


 相手がやっとオーブを使った。

 アッシュがニヤッとし、そのまま連続でオーブをぶち込んだ。


 ピキッ!


 丸盾(シェル)にひびが入る音。


「ッ⁉」


 やがて、盾がパリンッと割れ、反動でティゼットは大きく仰け反った。


 スキができた。

 アッシュは破裂(バースト)で接近し、相手の目前まで迫る。


 本当はあのままオーブを撃ち込みたいところ。

 だが、盾を破るために使いすぎたため、これ以上はオーブ切れになってしまう。

 なので代わりにぶん殴ることに決めた。


「フンッ!」


 そのままアッシュが拳を打ち込む。

 喧嘩ではない、接近戦だ。


 ティゼットは身を固めてガッチリとガードした。

 腕がふさがって反撃することができない。

 いや、元からするつもりがないのか。

 

「ッ⁉」


 アッシュが相手の守りを崩し、顔面を捉えた。


 悲痛な表情を浮かべるティゼット。

 でも声は出さない。


 良い顔になった。

 アッシュの拳にキレがさらに上がる。悪人の顔だ。


 そのまま相手を蹴り飛ばし、壁に叩きつけた。


「っ⁉」


 壁にもたれ掛かったまま動かないティゼット。


 このままオーブを撃つか、また接近してボコボコにするか。

 アッシュはお悩み中だ。


 しかし、


「──こらー! ティゼット! なんで何もしないのよ!」


 プラスが声を張って激励した。


「…………」


 ティゼットは立てない。

 ダメージが大きい。もうダメだと言っている。


「このままじゃアッシュの部下になれないわよー!」

「ッ⁉」


 しかし、目をカッと見開き、生き返ったように立ち上がった。


「フンッ、無駄なことさ!」


 この期に及んで何を言っているんだ。

 アッシュはボコるために急接近した。


 そのまま容赦なく腕を振り抜く。

 

 がしかし、


 ガシッ!

 

「なに⁉」


 相手に拳を掴まれてしまう。


「ぶへっ⁉」


 そしてティゼットに顔面をぶん殴られた。


 これは痛い。

 怯んだところにさらに攻撃が襲いかかる。


 急に反撃してきたことに驚きを隠せないアッシュ。


 だが、このままではやられてしまうため、すぐに体勢を直して相手と撃ち合った。


「っ⁉」


 ようやく模擬戦らしくなってきた。


 アッシュが相手の攻撃を躱し、即座に反撃、拳を顔面にぶつける。


 そのままもう一撃お見舞いするも、今度は相手に右手で止められた。


 しかし、アッシュはその手を払いのけ、相手の顎を下から撃ち抜く。


 たまらずティゼットが反撃するも、拳は虚しく空を切る。


 またもアッシュの追撃を受けてしまう。


 アッシュの方が近接戦に手慣れているおり、動きに無駄がない。

 相手の攻撃を的確に対処し、反撃を繰り出している

 背が低い分、小回りが効いていた。

 

 ──アッシュはこの4年間、ずっとゴーと組み手を行っていた。

 そのため、素の格闘ならゴーとやり合っても、引けを取らないほどになっていた。

 なのでオーブを使わずして、アッシュと近接戦で優位に立つのは難しいモノがある。

 ……光撃ハードが弱いのが悔やまれるところだが。

 

 やがて、アッシュの一方的な展開になり、ティゼットの動作が鈍ってきた。

 もう気が済んだし十分だ。

 相手のお顔も酷くなったし、アッシュはそろそろ終わらせることにした。


 しかし、ティゼットは中々諦めない。

 なぜか必死だ。


 そんな中、


「──こらー! ティゼット! 何してんのよ!」


 またプラスの激励が。


「…………」


 そう言われたところで、もう無理なティゼット。

 この上司は強すぎる。

 もう降参したいと言っている。


「なーに勝手に諦めてるのよ! アンタの上司がガッカリしてるわよ!」

「ッ⁉」


 相手は今、プラスの方を向いてスキだらけ。

 悪いがこのまま眠ってもらう。

 アッシュは相手の死角に周りこんだ。


「これで終わりさ!」


 ガシッ、鈍い音が辺りに響く。


 しかし、


「なッ⁉」


 アッシュは目を見開いた。

 相手が自分の拳を右手で受け止めたからだ。

 しかもこっちを見ずに。

 後ろに目が付いているとでもいうのか。


「放せ! この!」


 すぐに右手を払おうとしたが、力が強く振りほどけない。

 

 フイッ、ティゼットがこちらに向きを変えた。


「っ⁉」


 冷徹な瞳、アッシュは寒気がした。


 次の瞬間、


 パキッ、パキパキパキッ パキッ


 急にアッシュの左拳が真っ白に。

 そのまま左腕を伝っていき、肘の部分まで凍ってしまう。

 

「ぐっ、あああああああ!!!」


 アッシュは左腕に激痛が走る。

 

 たまらずもう片方の手からオーブを出し、強引にぶつけて距離を取った。


「くっ……」


 拳を握り込んだまま動かすことができない。

 しかもこの耐えがたい痛み、芯から凍り付いている。

 これでは左手はもう使えない。


「あれは⁉」


 アッシュは左手を押さえたまま相手を見た。


 シュゥゥゥ……


 冷気だ、ティゼットのオーブが冷気を纏っている。

 

「──これがティゼットのウィークオーブよ!」


 横からプラスの解説が入る。 


「っ⁉」


 別に頼んでない。

  

「あのオーブに触れると何でも凍らせちゃうの」

「ッ⁉ そんなの反則だろ⁉」

「どう? 降参する? その手じゃもう戦えないんじゃない?」

「チッ、誰がするかよ!」


 お姉さんの得意げなお顔、一層ムキになるアッシュ

 そんな諦めの悪い少年にプラスはやれやれだ。


「そう、いいわ。ティゼット! 右手もやっちゃいなさい!」

「くっ」


 ティゼットがコクッとうなづき、相手に襲い掛かる

 

 両手に冷気を纏い、アッシュの右手を狙う。


「くッ⁉」

「っ⁉」


 アッシュはそれを回避し、相手の顎を蹴り上げた。


 ティゼットがグラつき体勢を崩す。

 迂闊に突っ込むからこうなるのだ。

 まだ色々と甘いところが見受けられた。


 アッシュは追撃はせず、破裂(バースト)で再び距離を取る。


「コイツはまずいさ」

 

 そして考えた。

 流石に右手まで凍らせたらもう戦えない。

 何より相手と近接戦はもうできない。

 次触れられたら終わりだ。

 右手だけしか使えないとなると、分離(リーブ)を出したところですぐ捕まってしまう。


「来い!」


 こうなったらこっちも使うしかない。

 アッシュが右手から少し大きなオーブを出す。


 それを前方に放すと、自分の周りにプカプカと漂わせた。


「──浮遊分離(ホーミングクラッシュ)!」


 こちらがアッシュのウィークオーブとなっている。

 初のお披露目だ。


「さあ、行って来い! オレのオーブ!」


 手をくるりとスナップさせ、前方へ指先を向けた。


 すると、漂っていたオーブが直ちに向きを変え、相手に目めがけて襲いかかる。


 ティゼットはそれを右に避け、相手に接近しようとしたが、


 クイッ!


 アッシュが2本の指を素早く上に向けた。

 それに応じてオーブが進行方向を変え、再び襲いかかる。


「っ⁉」


 ティゼットは間一髪で躱す。

 しかし、服にかすったようで中に着るオーブスーツが焦げてしまう。

 見る限り、かなりのオーブがあの浮遊分離(ホーミングクラッシュ)とやらに込められている。

 あれが直撃するとひとたまりもない。


「まださ! 行け!」

「っ⁉」


 アッシュが再び手動で指示を出すと、オーブが主人の命令通り相手に向かっていく。


 ヒョイッ、ティゼットは避ける。


 アッシュは右手の小さなオーブを使って遠隔操作し、オーブを追尾させる。


 ティゼットは何とか被弾せずにはいる。

 しかし、追尾するオーブのスピードが思ったより速く、また、操作精度も非常に高い。

 自由自在でかなり厄介だ。

 おまけにこちらの動きを読まれているのか大変避けづらい。

 

 やがて、アッシュが徐々に訓練施設の中央を独占していく。


 施設全体がオーブの射程距離に入り、ティゼットはどこに行っても逃げられなくなった。

 これでは避けるのだけで精一杯。

 接近など到底できそうにない。


「もう諦めろ!」


 でもティゼットは諦めない。

 何が一体そこまでこの男を突き動かしているのか。

 手加減はしているものの、浮遊分離(ホーミングクラッシュ)にはそれなりのオーブを込めているので当たると危険だ。

 アッシュは色々と心配になってくる。


 すると、そろそろアレが。


「──こらー! ティゼット!」

 

 そう、またまたプラスの声援が飛んできた。

 また何か吹き込むつもりだ。


「何やってるの! そんなんじゃ──」


 しかし、


「プラス! こっちさ!」


 もうその手には乗らない。

 アッシュはプラスの方に顔を向け、

 

 パチッ♡


 渾身のウィンクを放つ。

 瞳にオーブを込めたのか、閉じた目からハートが浮き出てきた。


 ウィークオーブならぬ、ウィンクオーブ。

 遊び心が満載だ。


「あっ……」


 キュン♡


 それを直視したプラスも目が一瞬ハートになる。


「~~~~ッ⁉︎」


 そのまま顔を真っ赤にして両手で隠した。

 兄の顔と重なってしまったのだ。

 さらに大好きなアッシュとでダブルパンチである。

 これは効いた、プラスは一人悶えている。


 また、観客席の女性陣からアッシュへの黄色の声援が飛び交う。

 流れ弾を食らったみたいだ。


「へっ」


 アッシュは鼻をシュッとした。

 そろそろプラスが口を挟むころだと思い、予め策を用意していたのだ。

 厄介なギルド長はもう落とした。

 アッシュは勝利を確信して前を向くと、


「うおっ⁉」


 急に、白く尖ったモノが顔の横を通り過ぎた。

 アッシュのほっぺにかすって血が浸る。


 氷刺分離アイスランチャー……。


 氷の槍だ。

 ティゼットがオーブを凍結させて氷柱を作っていた

 

 再び相手に発射する。


「なっ⁉ そんなのアリかよ!」


 アッシュは再度オーブを追従させた。


 だが、今度はティゼットも負け時と氷柱を撃ってくるため、操作に集中できずに精度が落ちてしまう。


 そのまま2人のウィークオーブでの撃ち合いが始まった。







 ──両者はしばらく撃ち合っていた。

 やはり、アッシュの方がオーブの扱いに長けており、徐々に優勢となっていた。

 片手でも損失なく使えるのが浮遊分離ホーミングクラッシュの良い所。らしい。


「はあー……」


 プラスは相変わらず一人でキュンキュンしている。

 放心状態で心ここにあらずといった様だ。

 彼女が戻ってくるまでに終わらせなければならない

 また変なことを吹き込まれたら面倒だ。


 アッシュは焦っていた。

 なので、まだ気が付いていない。

 周りの地面が落ちた氷柱で凍っていることに。


 そして、その時はやって来た。


「そこだ!」


 動きを見切ったアッシュが氷柱を回避し、オーブの向きを変えようとしたが、


 つるんっ!


「うわっ⁉」


 突然、すっ転んでしまう。

 凍った地面に足を取られたのだ。


 そのままオーブもあらぬ方向へと行ってしまい、壁に着弾するとボンッと爆発した。


「っ!」


 ティゼットが破裂(バースト)で距離を一気に詰めた。

 スキありだと言っている。


「っ⁉」


 氷のように冷たい目、アッシュの右手を強引に掴み上げ、


 パキッ、パキパキパキパキッ、パキッ


「ぐおっ⁉ あああああ!!!」


 アッシュの悲痛な声が会場に響く。

 ついに右腕まで凍らされてしまった。


「くっ……」


 痛みで悶えるアッシュ。


 ティゼットが拳を振り上げた。


「っ!」


 そのまま無言で振り下ろす。


「──はいっ! そこまで!」


 しかし、プラスが一瞬で割って入り、ティゼットの拳を抑えて試合を止めた。


 バチッ、自身の雷のオーブで凍結を抑えている。


「っ!……ッ⁉」


 ハッとし我に返るティゼット。

 自分のやったことに驚いているようだ。


 プラスが、痛みで片目をつむるアッシュを見上げ、


「ティゼットの勝ちね!」

「くっ」

「約束はちゃんと守ってもらうわよ……それとね」


 モジモジしている。どこか様子がおかしい。


「あのね、もう一度してくれないかしら、その……さっきの」


 火照った顔を両手で抑えている。


「イ、イヤだわ、ちょっと恥ずかしいわね……」



 アッシュに落とされていた。

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