63.新たな仲間
プラスが紹介したギルド最高の逸材というのは、とても不快なあの青年だった。
2度と会わないつもりだったアッシュ。
しかし、最悪の形で再会を果たしてしまう。
「知り合いなら話は早いわね!」
「違う! 誰さそいつ!」
「この子はティゼット、ティゼット=アールシー。アンタの一つ下、後輩ね」
「えぇっ⁉ コイツ、オレより年下なのか⁉」
年下と聞いてえらくビックリするアッシュ。
自分より背が高い、雰囲気からしてもてっきり年上だとばかり。
ティゼットは無言でコクッと頷く。
何を考えているのかさっぱり分からない。
「ちょっと無口だけど悪い子じゃないわよ、むしろかなりいい子ね」
「ホントかよ、昨日殺されかけたんだけど……」
アッシュはそう言って相手を睨みつけた。
昨日色々あったのだから当然だ。
ティゼットはいつものように顔をそらす。
プラスが言うに、ティゼットはギルドが育成したハンターの中で、最も優秀な成績を持っているそうだ。
今はBランクだが、いずれはAランク、支部長になれる秀才だという。
「フン、どうだか」
こんな奴が支部長の教区なんて絶対に嫌だ。
そんなのお断り。
アッシュは心底そう思う。
「とにかく! ティゼットはこれからアンタの部下よ!」
「はあ⁉ どうしてそうなるのさ⁉」
「そう言うことだから頼んだわよ」
「聞けよ!」
いきなり部下だと言われても納得できるわけがない
アッシュはお姉さんに食ってかかる。
ティゼットの方は相変わらずコクコクと黙ってうなづくだけだ。
まるで意思を感じられない。
「なんでオレがこんな奴の……それに部下とか欲しくない!」
「だってその方がアンタは力を発揮できるんでしょ? 知らないけど」
「マルトンでいいさ! 今回だって持ってきたし!」
「ダメよ! あれはハンターじゃないから認めないわ!」
「なにさ! じゃあ今から登録させに行くさ!」
多感な時期のアッシュは、なるべく一人で行動したいところ。
なので、部下はいらないと言い張っている。
ティゼットは向きを変え、2人を交互に確認している。
不思議と困ってるように見える。
「それにティゼットはアンタとタイプが似てるのよ」
「似てる? どこがさ?」
「ティゼットもアンタ同じで得意なオーブがないの」
「えっ?」
「苦手もないけどね」
「…………」
ティゼットはいわゆる、万能型と言われるタイプ。
基本的にどれも卒なくできるが、得意もなく苦手もない。
「はあ……」
アッシュはそれを聞いて、一瞬僅かな親近感が生まれるも、光撃が苦手な自分より性能が一つ上だと知りガックリ来る。
オーブのタイプは大体が、分離が得意な遠距離型、光撃が得意な近接型、そして、ティゼットのように苦手のない万能型に分けることが出来る。
逆にアッシュのように秀でた物がなく、尚且つ苦手があるのは大変珍しい。
滅多にお目にかかれない希少種だ。
見ての通り、アッシュはそのことをとても気にしていた。
「今までわたしが鍛えてあげてたんだけど、アンタと行動させた方がいいってゴーが言うのよ」
「アイツ……また余計な事を」
「こういうのだけは信用できるわ、だからこれから一緒に特訓しなさい!」
「はあ……」
コイツと特訓なんてしても怪我するだけだ。
何より集中できない。
昨日嫌と言うほどそれを味わったのだから。
「はい! と言う訳で仲良くしなさい!」
「断るさ」
「まずは宜しくの握手からね」
「聞けよ……ん?」
アッシュが隣を見ると、白っぽい手が。
ティゼットが手を差し伸べていた。
「…………」
よろしくお願いしますと言っている。
「…………」
アッシュはその手をじっと見るが、
「フンッ」
差し出された手をパシッと払いのけた。
「あっ、こらアッシュ! だめじゃない!」
プラスが注意するも、アッシュは効く耳を持たずそっぽを向く。
「…………」
ティゼットは払われた右手を見ている。
心なしか少し悲しそうだ。
「う~ん、どうしようかしら?」
そんな2人を見て困りものなお姉さん。
少し考えて、
ポンッ!
「そうだわ! 今から模擬戦なんてどうかしら?」
「は? 模擬戦?」
「そう! どうせならお互いの実力を確認した方がいいでしょ?」
プラスは考えた。
レクスの時も最初は仲が悪かったが、戦った後すっかり仲良しになっていた。
一度拳を交えればもうお友達。
なので2人を戦わせることにしたのだ。
アッシュは模擬戦と聞いて顔をしかめる。
対戦相手は自分より少し背が高い。
何より自分の上位互換なのでビビっていた。
しかも、見るからに強者の風格が漂っており、また秀才ということもあってか普通に強そうだ。
ティゼットの方も今度は頷かずに、焦った様子でギルド長を見ている。
同じく戦いたくないようだ。
「そうと決まればさっそく行くわよ! いざ! わたしの特訓施設に!」
「放せよ! って痛い痛い痛い⁉」
「……ッ⁉」
「ふんふ~ん」
プラスがアッシュの腕をガッチリ掴んで無理やり部屋を出た。
その腕力がとても強く、振り払うことができない。
ティゼットはそんな2人の後を黙ってついて行くが、少しアタフタしているように見える。
きっと新しい上司が心配なのだろう、よくわからない。
──3人はギルドの訓練施設にやって来た。
中にはまだ訓練中の者も多くいる。
しかし、ギルド部長であるプラスが権力を行使し、模擬戦を始めると言って貸切にした。
また、これからBランク同士の試合あると周囲に言いふらし、観客も集めて戦いのお膳立てもバッチリだ。
ギルドの者だけなく修道女や悩める子羊まで、軽く見世物状態であった。
「光撃の使用は禁止よ!」
「なんでさ?」
「光撃は危ないわ。でもそれ意外なら何をしてもいいわよ」
「ウィークオーブはいいのかよ?」
「う〜ん、いいんじゃない? ティゼットもそれで良いかしら?」
ティゼットはコクッと頷く。
OKだと言っている。
それ見たアッシュは、相手もやはりウィークオーブを持っているのかと無駄に警戒した。
「それに光撃がない方がアンタは良いでしょ?」
舌打ちをするアッシュ。
だがプラスの言う通り、これで持ち物は5部になる
これなら勝てるかもしれないと期待に胸を膨らませた。なので、
「オレが勝ったら部下になる話は無しだからな」
「……⁉︎」
その発言に驚いて、言葉の出ないティゼットの代わりに、プラスが、
「いいわよ、勝てるならね。まあ無理だと思うけど」
「フンッ、やってやるさ!」
昨日は散々な目に遭わされたアッシュ。
仕返しするには良い機会、やる気だ。
「じゃあティゼット! 手加減は無用よ! やっちゃいなさい!」
一方、話が勝手に進み、2人を交互に世話しなく見るティゼット。
明らかにオロオロしている。
「じゃあいくわよ! スタート!」
オーブを出した。




