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~お姉さんと進むギルド王国~  作者: 二月ふなし
第2章 ヴァリアード強襲 編
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62.無言なる男

 翌日、宿泊施設にいても暇を持て余すアッシュ。

 彼は現在、森の外れにある特訓場に向かっていた。

 一人で特訓するためだ。


 本当は、ギルドにある訓練施設とやらで特訓をしようと思っていた。

 しかし、中に入ると他のCランクハンターで埋め尽くされており、どうにも落ち着かない。

 なので、静かに特訓できる場所に移動することにしたのだ。


 やがて、森を切り開いたところにある、いつもの特訓場に到着した。


「懐かしいさ」


 アッシュは深く深呼吸する。

 4年前と何も変わらない特訓場に、懐かしさでいっぱいだ。

 ここでプラスと特訓した日々を思い出す。

 同時にゴーと修行した嫌な記憶も蘇ってしまう。


 初めてイービルに襲われたのもこの場所だ。

 プラスが自分を助けるために悪魔のウィリーと戦ったこともある。

 ここはアッシュにとっては特別な場所だ。


「さっそく始めるか……ん?」


 特訓を始めようとした時、先客の男が目に映る。


 その男はクセっ気のない銀色の髪、同じく銀色の瞳をした色白いお肌。

 アッシュより年上っぽい青年だ。

 彼もハンターなのだろう、ギルドから支給された制服を着ている。


 青年は拳に光を集中させて、光撃(ハード)の調子を確かめていた。


「えぇ、誰かいる……」


 どうしてここに自分意外の人間がいるのか。

 静かに特訓したかったのに。

 でも訓練施設よりはマシかと思い、気にせずに特訓を始めた。


「よし!」


 アッシュは人間の頭部より一回り大きいくらいオーブを出し、プカプカさせて操作し始めた。

 それを木々を縫うように移動させたり、自分の周りに浮遊させたりしていた。

 はたから見ると、オーブで遊んでいるだけのようにも見える。


 しばらくそんなことをやっていると、


「ん?」


 アッシュは背後から視線を感じた。


「…………」

 

 振り向いてみると、あの青年がこちらを見ていた。


 青年はすぐに顔をそらす。


 アッシュが不思議に思うが、再びオーブを出して操作する。


「ん?」


 しばらくすると、また背後から視線を感じたので振り向く。

 青年はまた顔をそらす。


 なぜかさっきからチラチラと見てくる。

 人見知りのアッシュにとっては、あまり良い気分ではない。


「…………」


 これでは特訓に集中できない。

 やがて、精が入らないままお昼の時間となってしまい、昼食を取るためにその場を去ることにした。


 ふと青年の方を見る。

 またしてもこちらを見たまま、じっとつっ立っていた。

 アッシュはなんだか恐くなり、早々にこの場を立ち去った。







 ──そして、


「クソッ、なにさアイツ」


 アッシュは良さげなお店を見つけて入店した。

 現在、第一教区では有名な蕎麦をすすりながら、特訓を邪魔した青年に悪態をついている。


 自分とプラスだけの特訓場に人がいたのもそうだ。

 しかも、あの青年がこちらをチラチラ見てくるため、集中できずにイライラだ。


 これではせっかくの昼食も不味く感じてしまう。

 さっきのことは頭の隅に追いやり、食事を楽しむことにしたが、


 コトンッ


「ん?」


 相席に同じ蕎麦が置かれた。

 誰かが許可もなく相席に座ってきたのだ。

 人見知りのアッシュは嫌な気持ちで顔を上げると、


「げっ⁉︎」


 それは先程の青年だった。

 特訓場で別れたはずなのに、今度は蕎麦を一緒に食べようとしていた。

 店内には他に座る場所はいくらでもある。

 だが、なぜかアッシュの所に座ってきた。


「……ズズッ」


 アッシュは面食らってお箸が止まるが、青年は黙々と蕎麦をすする。


「…………」


 まさかつけて来たのか。

 疑うアッシュだったが、蕎麦が冷めてしまってはいけない。

 なので青年を無視して早く食べることに。

 

「……ん?」


 案の定、またまた視線を感じたアッシュが顔を上げる。

 青年はまたまた顔をそらす。


 じーっ……。


 再び蕎麦をすすろうするも、視線が、


「……さっきからなにさ?」


 流石にどうかしている。

 アッシュがついに声をかけた。


「…………」


 青年は何も答えない。


 ズズズ、


 しばらくしてまた蕎麦をすすり始める。


「なにさ、全く」


 お店の中で騒ぐのは、大人としてのマナーに欠ける

 呆れたアッシュはさっさと食べてお店から出ようとした。


「………」


 その間もずっと視線を向けられ、散々なお昼を過ごすアッシュであった。







 ──最悪な昼食を済ませたアッシュ。

 気分を変えるべく、一旦お昼寝をするために宿泊施設に戻った。


 しばらく仮眠した後に、特訓の続きをするためにまた例の場所へと向かうも、


「はあ、やっぱりいる。なんなのさ……」


 アッシュは深くため息を吐いた。

 特訓場に行くと、あの青年がいたからだ。


 しかも、今度はオーブをゆっくり前に放して、何やら操ろうとしている。

 昼間のアッシュの真似ごとだ。


 アッシュの様に上手くはいかない。

 青年のオーブは真っ直ぐ飛んでいき、三十メートル付近でスッと消える。

 もはやただの遅い分離リーブだ。


 一体何のつもりなのか、喧嘩を売っているのか、アッシュは怒りが込みあがる。

 だが、自分は4年前と違って大人になったのだ。

 安い挑発には乗らない。

 アッシュは、気味の悪い青年から距離を置いて、また特訓を始めた。


 しばらく2人はオーブを出して、それを操作していた。

 片方は自由自在にオーブを操っている。

 しかし、もう1人の方は何もできず、ただ前方にプカプカと進むだけだ。


「…………」


 青年は遠目でずっとチラチラ見ている。

 どうやって操作してるのか気になるようだ。

 アッシュは特訓に集中するために完全無視を決め込む。


 すると、


「うわっ⁉」


 背後からいきなりオーブが飛んできた。


 アッシュはそれを間一髪でかわし、


「おい! いきなり何するのさ!」


 あわてて青年に向けてオーブを構えた。

 いきなり攻撃してきたと思い警戒する。


 やはり、この男はヴァリアードからの刺客。

 そのまま戦闘になるかと思いきや、


「…………」


 青年はペコッと頭下げた。

 どうやら操作に失敗して、オーブがあらぬ方向へと行ってしまったようだ。

 頭を上げると、またオーブをプカプカさせた。


「気をつけろよ、全く……」


 アッシュはもう大人である。

 今回だけ見逃してあげることにした。

 特訓を再開するためにオーブをプカプカさせるが、


「うおっ⁉」


 またもやオーブが目の前に飛んできた。


 アッシュは慌てて丸盾シェルを張って身を守る。


 ペコリ……。


 青年は味を占めたようにまた頭を下げて謝罪した。

 

 だが、仏のアッシュは一度まで。もう許さない。


「もういいさ! 帰る! しね!」


 こんな奴と一緒にいられない。

 アッシュは早めに切り上げることにした。

 そのままフンスカしながら森の中に入っていく。


「…………」


 青年はその背中をじーっ、不思議と少し悲しそうにも見えた。







 ──翌日、アッシュはいつもに増して不機嫌だった。

 昨日のことが頭が離れないのだ。

 

 今日はプラスから何やら話があるそうなので、今は教会の支部長室にいる。

 しかし、前回と同じで長い時間待たされているため、大変イライラしていた。



「まだかよ……」


 昨日は満足に特訓も出来なかった。

 今日はどこでするのか考えている。

 ギルドの訓練施設を使わせて貰うか、だけど他のハンターに見られたくない。

 だが、あの男には二度と会いたくない。

 アッシュは頭を悩ませる。


 そして、


「じゃじゃーん! わたしの登場よ! また会ったわね!」


 ようやくプラスがやって来た。

 悪びれもない様子で元気よく入ってくる。


「遅いさ!」


 今回もかなり待たされ、アッシュはプンプンだ。


「あら、やれやれね」


 これだから反抗期は嫌なんだ。

 プラスは肩をくすめた。


「それよりアンタに紹介したい人がいるの!」

「ん? 紹介したい人?」

「そう! ギルドが育成した最高の逸材よ!」

「逸材?」


 アッシュは首を傾げる。


「ええ、そうよ! さあ入って来なさい、ティゼット!」

「…………」


 この時、強烈に嫌な予感がした。

 アッシュの予感はよく当たる、悪いことは特に。


 やがて、扉がギギィーとゆっくり開き、誰かが部屋に入ってくる。


「はあ、もう勘弁してくれよ……」


 アッシュはこれまでにないくらい大きなため息を吐いた。

 それもそうだ、あの青年だ。

 中に入って来たのは、昨日、散々嫌がらせを受けたあの青年だったからだ。


「2人とも挨拶しなさい……ってあれ?」


 ティゼットと呼ばれた青年は、昨日と同じくジーッと少年を見る。

 アッシュは顔を押さえたまま深く絶望していた。


「……もしかしてアンタたちって知り合いだったりする?」

「違う、こんなやつ知らないさ」


 全力で否定するアッシュ。

 早くも帰りたくなっていた。


「…………」



 ティゼットはコクッとうなづいた。

 知り合いだと言っている。

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