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~お姉さんと進むギルド王国~  作者: 二月ふなし
第1.5章 覚醒アッシュ 編
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プラス家のとある一日

 これはアッシュとレクスのデート……の前日のお話


「──あ~~~っ! プラス! なんてことをしてくれたのさ!」

「──うるさいわね! 元はと言えばアンタがわるいんでしょうが!」


 今日も今日とて、プラス家から大きな怒鳴り声が響いてくる。

 すごい近所迷惑だ。


 食卓を覗いてみると、ふわふわを大事そうに抱えるアッシュと、彼を怒鳴り散らす家主のプラスがいた。

 そばにはコップが倒れおり、床にポタポタとコーヒーミルクが滴っている。


 状況から察するに、プラスが誤ってコップを倒してしまい、ふわふわに掛かってしまったようだ。

 これはつらい、アッシュはガチ泣きである。


「酷いっ! こんなの酷すぎるさ!」

「だから毛布は一階に持ち込まないでってあれほど言ったじゃない! いつかこうなると思ってたのよ!」


 プラスが悪い、いやアッシュが悪い、いやプラスが、いやいやアッシュが、とか何とか言い争う2人。


「うわああああん!!! もういい、外で遊んで来るさっ! プラスの百年バカ!」


 パタンッ! シーン……。


 アッシュは玄関を飛び出した。


「良いんですかプラス様? 出て行っちゃいましたけど……」

 

 横で見ていたメイドのステラが心配する。


「はあ~……まったく」


 プラスは大きなため息をついた。







 ──ここはレクスの家。


「レ〜クス! あーそぼっ!」


 ピンポーン! ガチャッ


「──なんだ、アッシュか」


 家主のレクスが出て来た。

 使用人はお買い物に行っている、俗に言うお留守番というやつである。


「レクス! 遊ぼう!」


 アッシュがニッコニコでそう言った。


「何を言っている? 明日はデートのはずだ。それにワタシはいま読書をしている、悪いがお前に構ってやる時間は──」

「…………」

「はあ、わかった。入れ」


 アッシュは家の中にお邪魔させてもらった。


 とりあえずレクスの部屋にあがる。


「…………」


 ペラッ、ペラッ


 レクスは読書に夢中だ。


「……暇なんだけど」

「知らん、本でも読んでろ」

「…………」


 アッシュも読書をすることにした。

 本棚から読めそうな奴を探す。


 良さげな本を見つけると、レクスのベッドにゴロンっと転がった。


 ペラッ、ペラッ、


 クシュンッ! ペラッ、ペラペラッ


 しばらくして、


 パタンッ──。 本を閉じる音。


「よし、外に出るか」

「ん?」


 せっかく遊びに来てくれたというのに、このまま読書とは如何なものか。

 なので、レクスは外で遊んであげる事にした。


「っ!」


 アッシュはパアっ!


 2人は外に出た。







「──はあ~……」


 同時刻、プラスは自室のソファでゆったりしていた

 

「ちょっと言い過ぎたかしら……」


 まだ昼間の出来事を気にしているようだ。

 どこかおぼつかない様子で窓の外を眺めている。


「アッシュさんが心配ですか? でしたらあとで謝ったらどうでしょうか?」


 コトッ、メイドのステラがお茶を差し入れた。


 ズズズ……。お茶を飲む音。


「……そうね、そうする」

「お悩みなら私に良い案がありますよ」

「へっ、良い案?」

「はい!」


 メイドさんはニッコニコだ。







 ──それから時間が経ち、辺りもすっかり日が暮れた。


「そろそろ帰るか」


 良い子はもうおうちに帰る時間、レクスは分かれを告げて帰ろうとしたが、


「……帰りたくない」


 アッシュに手を握られてしまった。


「ん? なんだ、手を放せ」


 グイッ、グイグイッ


 男の子は首を横に振り、決して放そうとはしない。

 ちょっとめんどくさい。


「…………」


 2人は一度、市民公園のベンチに腰を掛けた。


 そして、アッシュはここに来る前にプラスと喧嘩したことを打ち明けた。

 当然ふわふわのことは伏せておく。


「なるほど、それでワタシの家に来たのか」


 アッシュは無言で頷いた。


 まだプラスが悪いと言い張っている。

 おまけに今夜は泊めて欲しいと言ってくる始末。

 図々しいにもほどがある。


「詳しい話は知らないし興味もない、だがお前にも悪いところはあったはずだ」

「…………」

「心当たりがあるなら謝って来い」


 相変わらずレクスは手厳しい。

 でもお説教を受けるために愚痴ったわけではない。

 本当は慰めて欲しかった。


「でもさ──」


 パチンッ!


 突然、レクスが両手でアッシュの頬を板挟みした。


「しっかりしろ。このままずっと百年いるつもりか」

「いや、でも──」


 パチンッ!


「明日はワタシとデートだろ、そんな心持ちでどうする気だ」

「…………」


 家族は大事にしろ。

 耳にタコができるほどレクスが言い聞かせてくる。


「……もうわかったさ」


 ついにはアッシュの気持ちが折れてしまう。

 だが、まだどこか煮え切らない様子だ。


「はあ、仕方ない」

「ん?」


 呆れたレクスは、男の子の肩をぎゅっと掴み、


 チュッ


 無理やり頬にキスをした。


「っ⁉」

「今日は特別だ、分かったら早く行け」

「っ! ああ、わかったさ!」


 ちょ、ちょろい……。

 アッシュがお返しのチューを迫るが、


 グイッ


「ダメだ、仲直り先だ」


 レクスに顔を掴まれて阻止された。


「はあ、またそうやって避ける……」

「フッ、続きは明日だ。それに報告次第ではもっと良いことをしてやる」

 

 アッシュがピコン!


「わかったさ! 謝って来るさ!」

「ああ、行ってこい」


 ちょろい、あまりにもちょろい……。

 アッシュは立ち上がり、颯爽と帰っていった。


「……フンッ」


 今日は良いことをした。

 レクスも闇の中に紛れていった。







 ──アッシュは現在、プラスの部屋の前にいる。


 ドキドキだ。


 コンコン、ドアをノックする音。


 意を決して部屋に入る。


「あのさプラス! さっきは悪か──あっ」


 アッシュは言葉に詰まってしまった。

 目の前にメイドさんが2人いたからだ。


「……あっ」


 一人はいつものステラ。そして、もう一人は家主のプラス。

 プラスがメイド服を着ていた。

 ステラと同様、肌の露出を最低限に控えた清楚でロングなデザインだ。


「見つかってしまいました。すぐ夕飯にしますね、私はこれで。フフフッ」

 

 パタン、本物のメイドさんが出ていった音。


 シーン……。


 急に2人っきり、本番、気まずい。


「プラス、さ、さっきは……」


 先に口を開いたのはアッシュだ。百年えらい。


「その、悪かったさ……バカとか言って」

 

 良い子に謝罪した。ペコリンチョだ。


「ううん、もういいの。わたしこそ怒鳴ったりしてごめんなさい」


 プラスも同じく頭を下げた。もう怒ってないそうだ

 

「アレね、ちょっと気まずいわね」

「ハハ、ハハハ……」


 昼間にあんなに大声をあげて喧嘩したのが途端に馬鹿らしくなる。

 お互いに心のつっかかりが取れた気がした。


「で、それはなんなのさ?」


 なぜメイド服なるものをお召しになっているのか。

 お給料は一体誰が払うのか。

 当たり前の疑問を投げかけた。


「フフッ、アンタのためよ! 昼間はちょっと言い過ぎちゃったから、そのお詫び!」


 今日限定でアッシュ専属メイドになってくれるそうだ。

 お姉さんは鏡の前でくるりと回って見せた。

 当の本人が一番楽しそうである。


「ふう~ん、良く分からないけど似合ってるさ」

「そう? ありがとう。それでメイドさんになったのは良いんだけど……何をしようかしら?」

「そんな、別にいいさ」

「わたし料理なんてできないし、ていうかもうステラが用意しちゃってるし。う~ん、困りものね」


 しばらく考え、


「っ!」


 ポンと手を叩く。


「そうだわ! 食べさせてあげるのなんてどうかしら? よくレクスとやってるでしょ? あ~んって!」

「うっ……」

「良いわね、そうしましょう!」


 如何にもメイドっぽい、というかそれくらいしか出来ることが残されてない。


「アンタの毛布は今洗濯してるから、今日はわたしの部屋でステラと3人で寝ましょう!」


 アッシュを真ん中にしてあげるそうだ。


「そっか、ならオレも食べさせてあげるさ!」

「えっ、それだとメイドさんになった意味がないじゃない……」

「──ご飯出来ましたよ~!」


 夕食の支度が終わった。


「は~い!」


 2人は食卓へ向かった。


 そして、夕飯にて。


「ほらアッシュ、あ~ん!」

「あ~ん」


 パクリッ!


「どう? 美味しい?」

「ああ、うまいさ!」


 アッシュはおいしそうにモグモグと頬張る。

 ステラの料理を。


「お返しさ、あ~ん」

「あ~ん」


 パクリッ!


「あら! 美味しいじゃない⁉ 美味しいわアッシュ!」

「そっか、良かったさ!」


 プラスもお口を押させてお上品に食べる。

 ステラの料理を。


「フフフッ、無事に仲直りできたみたいですね」

「あ~ん!」



 仲良く食べた。

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