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~お姉さんと進むギルド王国~  作者: 二月ふなし
第1.5章 覚醒アッシュ 編
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59.世界の悪魔

 老い先短い百年仙人は、クリアオーブの後継者をずっと探していた。

 何度か街にも下りたのだが、怪しい老人の相手をする者など誰もいなかった。


 頭を抱えていた所にちょうどプラスが現れ、適当に救世主と祭り上げて、その流れで伝授させようとしたのだが、それも失敗に終わってしまう。


 しかし、このまま引き下がる百年仙人ではなかった



「頼む! このとおりじゃ!」

「いやよ! 使えないからいらない」

「お主にはろまんと言うのが分からんのか!」

「知らないわ、じゃあね。おじいちゃん」

「うぬぬぬ……」


 付き合い切れない。

 プラスは山を下りようと老人に背を向けた。


「まっ、待つんじゃ!」


 百年仙人はなんとか引き留めようと、少女の興味を引けそうな話題を考える。


「むむ〜、そうじゃのお〜」


 自分の少ない知識の中から必死に探し出す。

 そのうちにも少女はどんどん遠ざかっていく。

 焦った老人が苦し紛れに言葉を出す。


「そうじゃ! お主、悪魔は知っておるか⁉」

「悪魔……っ⁉」


 スタタタタタタッ


 悪魔と聞いた途端、プラスがすぐに引き返してきた。


「ホッ?」

「悪魔を知ってるの⁉」

 

 これには百年仙人も驚いてしまうが、再び自分が優位になり心に余裕が生まれる


「ホウ、まさかこんなに食いつくとは」

「いいから教えなさい!」

「これこれ、そう慌てるでない。順を追って説明してやるかの」


 百年仙人が悪魔について説明した。

 悪魔とはイービルよりも上位の存在。

 そのためオーブでの攻撃が一切効果がなく、普通の方法では倒すことができない


「……知ってるわ」

「ホッ? なんじゃ、知っておるか」


 すでアッシュからそのことは聞いていた。

 それなら早いと百年仙人は話を続ける。


「ならばこれはどうじゃ。悪魔は全部で六体、この世界のどこかにおる」

「えっ⁉ あれが六体もいるの⁉」

「ホウ、すでに悪魔と会ったとな」

「ええ、それが……」


 なるべくアッシュのことをぼかしてウィリーのことを話した。

 それを聞いた百年仙人は、宙に浮きながら難しい顔をする。

 

「わしも詳しくは分からんが悪魔にも個体差があっての。おそらくそのウィリーとやらは相当な力を持っておるな」


 この老人はプラスのオーブを見たときに、その実力を大体は見抜いていた。

 そのプラスが全く歯が立たなかったことを聞き、ウィリーは悪魔の中でもかなり強い力を持っていると断定した。


「どうしてアッシュに……」


 悪魔のうち一体がなぜアッシュの中にいるのか。

 プラスは疑問に思う。


 しかし、ウィリーだけでなくベルルもいるため、実は二体の悪魔が少年に取り憑いていることを、この少女は知らない。


「その少年、死んでしもうたじゃろ。まだ幼い子供というのに悲しいことよの」

「へっ? 普通に元気だけど?」

「ホウ? それはおかしいの。イービルならともかく悪魔に支配されて助かるなどまずありえん」

「そうなの? でもあの子何ともないって」


 それを聞いた老人の顔が曇る。

 

「……その少年、本当に人の子か?」

「なんですって⁉ アンタまでそんなこと言うの⁉」


 プラスは声を荒げた。

 以前ザイコールにアッシュがイービルと言われ、とても腹が立ったので、今回も同様に怒りがこみ上げる


「おお、気を悪くしたか、すまんかった。じゃからそれを引っ込めてくれ」


 そんなつもりはない百年仙人がすぐに謝罪し、なんとかプラスを落ち着かせた。


「それで、どうしたら倒せるのよ」

「悪魔を倒す方法は二つあっての、一つはクロスオーブじゃ」

「クロスオーブ……どこかで聞いたかしら?」


 百年仙人は説明した。

 クロスオーブとは、神さまの力が宿ったオーブでこの世界にたった二つしか存在しない。

 また、それを体内に取り込むことで強大な力を得ることが出来る。

 さらに神さまの力ということもあり、悪魔にも攻撃が通るようになるそうだ。


「一つは戦神ガルスのオーブ。こちら少々気性が荒くての、扱いづらい分得られる力も大きい」


 そして、現在ザイコールがその内の一つを所有している。

 どちらのオーブを持っているかは不明だ。


「もう一つが恵神ラズラのオーブ。こちら逆に穏やかな神さまでの、持ち主となった者を守ってくれるそうじゃ」

「どっちの神さまがいいのかしら?」

「それは使う人の性格次第じゃ。お主はガルスのオーブがいいかもしれんの。ホッホッホ」

「どういう意味よそれ!」


 そのままの意味で、気性の荒いプラスはおそらくガルスの方が力を発揮できる。

 逆に穏やかな性格の者はラズラが応えてくれるそうだ。


「あっ、確かザイコールが一個持ってたわ! ならあと一つしかないじゃない!」

「っ⁉ ザ、ザザザイコール⁉」

「ん? どうかしたの?」

「あっ、い、いやなんでもない、ホッホホホ……」

「なんだか怪しいわね」


 すでにザイコールが一つ持っていることに気がつき、プラスは焦り出す。

 なぜか百年仙人も同様に反応する。


「もう一つはどこにあるのよ!」

「そんなことわしが知るわけなかろう」

「知らないなら意味ないじゃない!」


 やはりあの時ザイコールを逃がすべきではなかった。

 抹殺するべきだった。

 あの老人の憎たらしい顔が浮かび、プラスはイラっとする。


「そう慌てるでない。方法は二つあると言ったじゃろうが」

「他にもあるの⁉」

「少しは人の話を聞いたらどうかの」

「アンタに言われたくないわ!」


 このおじいちゃんにもイラっとしてしまう。


 悪魔を倒す方法の一つはクロスオーブを使うこと。

 だがこの手段は今のところ現実的ではない。

 ならもう一つの方法に頼るしかなかった。


「早く言いなさい!」


 そして百年仙人は、なぜか嬉しそうに話しだした。


「別の方法とは、そう! わしのクリアオーブじゃ!」

「…………は?」

「ホーーッホッホッホッホ!」


 そう言って透明のオーブをドヤ顔で見せつける。

 プラスの方は固まっていたが、みるみる身体が震え出した。


「そういうのはもっと早く言いなさいよ!」

「驚いた? わしすごいじゃろ? ええ?」

「アンタねぇ……」

「どうじゃ? わしのクリアオーブを受け取る気になったかの?」

「…………」


 クロスオーブを持ってない以上、今はクリアオーブに頼るしかない。

 本当に本当に嫌だが仕方ないとプラスは観念した。


「わかったわよ! ホントはイヤだけどね!」

「ホッホッホッ! 決まりじゃな!」

「さっさと教えなさい」

「教えて簡単にできるものではない、まずクリアオーブの説明からじゃ」

「説明?」

「そうじゃ、一度しか言わんからの」


 百年仙人の説明が始まった。

 クリアオーブとは、オーブの色を抜いて透明にしたもの。

 これで攻撃すればなぜか悪魔にダメージを与えることが出来る。


 しかしオーブの色を抜くためには、同じくオーブを使わなくてはいけない。

 そのためクリアオーブ使用中は、その分自分の使えるオーブの量が減ってしまうという重大な欠点がある。


「ちなみにわしは5割のオーブを使うの」

「えぇ⁉ 5割も使うの⁉」

「愚か者! ここまでなるのにどれほど時間をかけたと思うておる!」

「クリアオーブ全然使えないじゃない!」


 5割も制限されるのでは使い物にならない。

 そう思ったプラスはガックリと肩を落とす。

 だが、百年仙人はまだ終わってないと話を続けた。


「わしはもう歳じゃ、いくら頑張っても5割が限界での」

「もうやめたら? この仙人」

「しかしお主はまだ若い、ぴちぴちじゃ! だから完成できるはずじゃ!」

「また古臭い言い方ね……」


 クリアオーブの練度を上げれば制限されるオーブも減っていき、やがて完全な状態でも使用できるようになる。

 それが百年仙人の長年の夢であった。

 でも老い先の短い自分は果たせなかったので、代わりにプラスに夢を託すことにした。


 そんなこと心底どうでもいいプラスは、さっさとクリアオーブを習得して帰るつもりだ。


「それで、どのくらいで使えるようになるのよ?」

「わしは開発期間も合わせて15年、残り5年でここまで仕上げたが」

「はあ……ダメね、そんな時間ないわ」

「なあに心配はいらん。お主ならすぐ出来るようになる。なんせこのわしが教えるからの!」

「ホント? どのくらいでできそう?」

「それはお主の頑張り次第じゃ。3年、あるいは5年か」

「はあ……仕方ないわね」


 ここまで来るのはとても疲れる。

 何年もこんな所に通いたくないのだが、頑固な老人は絶対に山から下りないと言い張っており、終いにはプラスの方が折れてここに通うことになった。


 そして長い話も終わり、無事後継者も見つかり一安心。

 老人が言う。


「さて、色々話して腹が減ったじゃろう。そろそろ飯にするかの」

「あっ……」

「少し待っておれ、あそこにお肉が……ホッ⁉ ない⁉」

「…………」

「確かにここにあったはず⁉ どこじゃ⁉」


 百年仙人は食べる予定だったはずのお肉がなくて辺りを探し回っている。

 プラスは正座してその目をオロオロと泳がせる。


「は⁉ まさかお主……」

「な、なんのことかしら……」

「もしや、あれを一人で全部食うたのか?」

「……ケプゥ、あっ、オホホホ」

「なんと……ホホホ……」


 こうして百年仙人の三日分の食料がなくなった。








 ──少しだけ時間がさかのぼり。

 ここは第四教区の端っこにあるザイコールの寂れた隠れ家。


 父親の元に無事たどり着いたレクスは、グレンの淹れたお茶を飲んでいると、ザイコールから衝撃的な話を聞かされた。


 ガシャンッ!


「……スターバード……だと……⁉︎」

「さよう、イーナス=スターバード。それがやつの本当の名だ」

「どういうことだそれは!」

「フッフッフ」


 レクスは驚愕して、お茶を床に落としてしまった。

 割れた破片が床に飛散してとても危ない。


「…………」


 グレンは一瞬もの悲しそうな顔をしたが、バレないようすぐ真顔に戻した。

 そのまま続けて口を開く。


「そうだ、アイツは俺たちの宿敵。スターバードだ」

「アッシュが……敵」

「奴はお前に任せる。俺はもう一人を始末する」


 そう言って床に散らばる破片を丁寧に拾い上げた。

 大切な娘が踏んでしまってはいけない。

 なので残さず回収する。


「フッフッフ」


 俯いた少女を見て、ザイコールは不敵に笑う。


「全く、運命とは、面白いものじゃな!」

 

 するとレクスが、全身包帯姿の老人を睨む。

 お前は黙っていろ。そう目で訴える。


「……ッ⁉︎」


 ザイコールはビクッとしたが、バレないようすぐ真顔に戻した。


「フッ、まぁ良い。ともかくお主には期待しておるぞ。わっはっはっは!」

「……チッ」

「ッ⁉︎……わっはっはっは!」



 ザイコールの笑い声が、第四教区中に響き渡る。

これで第1.5章は終わりです。

ここまで見てくれてありがとうございました。

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