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~お姉さんと進むギルド王国~  作者: 二月ふなし
第1章 敵の敵は敵 編
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5.お見舞い

「う、うん……」 


 アッシュは目を覚ました。

 いつもより天井が高い。

 いつもの布団、あのふわふわがない。

 

「はっ! オレの腕⁉︎」


 いきなりバッと起き上がる。

 すぐに自分の腕を確認するも、元に戻っている。


 あの黒い腕はなんだったのだろうか。

 自分は人間なのか。

 アレではまるで……


 それに最後、プラスに見られた。

 アッシュの頭の中で色々なことが回る。


「……ん?」


 そう考えていると、横から何か聞こえる。

 見てみると、


 そこにはプラスがいた。

 ベッドに顔を預けて眠っていた。

 アッシュの看病に疲れたようで眠っている。


「プラス……」


 起こすかどうか悩ましい。


「う~ん……あれ、寝ちゃった?」


 すぐにプラスが目を覚ました。


「おはよう、プラス」

「ふわあ~、おはようアッシュ……アッシュ⁉︎」


 急にガバッと抱きつく。


「わっ!? なにさ急に」

「もうっ! ホントに心配したんだから! 戻ったら2人はいないし、ハリスは倒れてるし、あなたはボロボロだし、とにかく無事でよかったわ!」

「プラス、苦しい……」


 よほど心配だったのだろう。

 しばらく抱き着いたままだ。

 アッシュはそれを察する余裕はなく、ただ身体を預けるだけだった。



 




 ──しばらくして落ち着いたプラス。

 改めてここは教会の病室だということを説明した。


「で、何があったのかしら? わたしが戻ったらイービルはいないし、それにあなたの腕……」

「それが……」


 アッシュはことの成り行きを説明した。

 急にお空からイービルが落ちてきたこと。

 助けに来てくれたハリスが自分を庇い重症になったこと。

 突然左腕が黒くなり、それを使ってイービルを倒したことを必死に伝えた。


「……そうねえ」


 話を聞いたプラスは唇に手を当て考える。


「やっぱりオレってイービル?」

「いいえ、それは違うわ。あなたがイービルならそもそも襲われないはずよ」

 

 イービルは人にのみ危害を加える魔物だ。

 街中だろうと家の中だろうと容赦なく現れる恐ろしい存在。


 ただし人間以外は襲わない。

 襲われたという事は立派な人間である。

 アッシュはそれを聞いて安心した。

 

「ねえ、昨日みたいに黒い腕は出せないの?」

「う~ん、どうだろう」

「もちろん、あなたが嫌ならいいけど」

「……わかったさ」


 あまり気が乗らない。

 だが、プラスが見たがっている。

 

 アッシュは目を閉じる。

 左腕が黒くなった時のことを思い出す。

 身体にある不思議な力を中心に集めて一気に左腕に送るイメージ。

 オーブを出す時と少し似ている。 


 すると、ボワッと黒く染まる。


「で、出た……」

「出たわね」


 意外とすんなり出せた。

 改めて見ると禍々しい姿をしており、自身にこんなものがあることがおぞましくなる。


「近くで見るとすごい。とてつもないエネルギーの塊だわ」


 プラスもマジマジと見る。


「もういい?」


 そんなに見られても良い気はしない。


「あっ、もういいわ。ごめんなさい」


 さっさと引っ込めると、プラスが説明を始めた。


「多分アレね、それはあなたに憑依したイービルの力よ。聞いたことがあるわ」


 プラスは言う。 

 稀にイービルに憑依された人間がその力を使えるようになるという。

 だが、そんなのはレア中のレアだと。


「どこか痛いところはないの? 出してる間はすごく疲れたり」

「いや、特には」


 むしろ力がみなぎっていた。


「そう。見たところコントロールは出来てるみたいだし、身体に異常がないならいいのかもしれないわね」


 うなづくも、アッシュの顔は沈んでいる。


「そうね、あまり良いことではないのかも知れないわ。でも……」

「ん?」

「わたしの判断は間違ってなかったわ! やっぱりわたしってすごいのかしら⁉︎」


 またそれか。

 プラスがまたもお星様を浮かべて目を輝かせる。

 それを見たアッシュはもうお手上げだ。


「はあ、そう言えばハリスさんは?」


 生きているか心配だったので聞いた。


「ハリスなら病室よ。まだ寝てるんじゃない?」


 無事なようで、アッシュは一安心する。


「大丈夫よ、あの執事は頑丈さだけが取り柄なんだもの。心配なら見に行ってあげたら?」


 しばらく色々話して時間も経ち、プラスが立ち上がる。


「今日はここで休んでなさい。明日向かいに来るからちゃんと朝起きなさいよ。わかった?」

「わかったさ」

「そう、良い子ね。それじゃまたね」


 プラスは病室を後にした。


 





 ──しばらくしてアッシュは隣の病室へと向かう。

 ハリスのお見舞いだ。


 少し恐いが助けてくれたことも事実。

 何も言わないのは良くない。

 

 すでにハリスは起きていた。

 窓から外の景色を眺めている。


「おや、珍しい来客だ」


 アッシュは少しだけ頭を下げる。


「お嬢様は来られましたか?」

「えっ、さっきこっちに来たけど」

「それはおかしいですね。私のところには来ていませんが」


 プラスは自分の執事のお見舞いをサボったようだ。

 伝えるべきなのか、アッシュは迷う。


 少しの沈黙、


 先に口を開いたのはアッシュだった。


「あの、助けてくれて、ありがとう」

「ふむ」


 お礼を言うアッシュの顔が少し赤い。 

 それを見てハリスは微笑した。

 この少年はそんなことを言うためにわざわざ来たのかと。


「有難く受け取っておきます。あなたが怪我するとお嬢様が悲しみますからね。それに……」


 また小さく笑う。


「子どもは大人に守られるものですよ、フッ」


 良い人だった。

 

「しかしこの怪我ではさすがに動けません。その間、お嬢様をお願いしますよ」

「わかったさ」


 お礼の言葉も伝えたことだし、アッシュは自分の部屋に戻ろうとするも、


「それと」


 一言、口を挟まれる。


「私がいないからと言って、お勉強はサボらないように」

「げっ……」

「その反応、まさかアッシュさん」


 執事の目がキラーンと光る。

 日頃のアッシュのお勉強を見ていたハリス。

 自分が教会に入院している間、ちゃんと勉強するかが気がかりだった。


 予想通り、アッシュは勉強する気など微塵もない。

 しばらく厄介な執事が来ないと浮わついていたのだが、それは読まれていた。

 一瞬で打ち砕かれた。


「代わりにステラさんが見てくれます。良かったですね」

「えぇ、そんな……」


 この悪い子がしっかり勉強するように、しっかりと策を打っていた。


「ああ、あと私からも。これとあれとそれに」


 さらに大量の宿題をプレゼントしてあげた。


 

 こんなに……。

 アッシュは青ざめた。真っ青だ。

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