56.楽しいお勉強②
話によれば、アッシュは光撃が下手くそなので接近戦には向いてない。
かと言って分離も上手ではないため遠距離も微妙だと言う。
幸いなことに悪魔の左腕がある。
それで相手に合わせて接近戦か、遠距離かを使い分けて戦えばいいとゴーが助言してあげた。
なので今後は分離と破裂に集中してもらい、問題の方はゴーが鍛えてあげるとの事だ。
またウィークオーブは必要ないと言う話だったが、ひょっとするとアッシュなら化けるかもしれないと、一応説明することになった。
「いいか? ウィークオーブってのはいわゆる遊びだ。だから戦闘にはほとんど使えねえ」
「プラスの雷は? すごく強いような……」
アッシュが疑問に思う。
あのお姉さんは雷で遊んでいるのか。
どう見ても本気で戦っているようにしか見えない。
容赦なくその鋭い拳を、相手にぶち込んでいる。
「そこなんだよ! そこが面白れえとこなんだ!」
「ん?」
ゴーが説明する。ウィークオーブとは、自分の好きなことやこだわりを、オーブで形にして表現したものだ。
戦闘に使えるものもあるし、反対に全く使えないものだってある。
しかし、何も戦闘だけに使う必要はなく、他の場面で大いに役立つ可能性もある
それはエリーがいい例だ。
彼女は、治癒のオーブで、傷や怪我をすぐ治すことができる。
そのおかげで教会に重宝され、お金もたくさん貰えて、自分の生活にしっかり役立てていた。
「プラスだってそうだ、アイツはガキの頃から雷を見るのが好きでな。雨の日になるといつも目をキラキラさせて窓を見てたそうだ」
「そうだ?」
「ああ、ナッシュの野郎がそう言ってやがった」
「へえ~、プラスが……そういえば」
確かに雨の日になるとプラスは少しテンションが高かったような、たまに窓も眺めていたような気もする。
その時窓に映された碧い瞳が印象的だ。
「おそらくアイツは雷を作って遊んでたんだろう、それが今ではあれだ。なっ? おもしれえだろ?」
「なるほど……」
化けると言った意味が少しわかってきた。
プラスも初めは遊びで雷を作っていた。
それを何度もやってるうちに実戦でも使えるものになり、気がつくと強力な武器に変わっていた。
ただ好きでやっていたことが、今では自分の強みとなって、戦闘で大いに奮っている。
「逆にマルトンの擬態迷彩はあれだ、全く使えねえだろ?」
「うん?」
「周りの色に合わせるだけのオーブなんて意味がねえ。それによく見たらうっすら見えるしな! ガハハハ!」
「…………」
アッシュはそうは思わない。
初めてマルトンのオーブを見たときは感動したし、正直言うとあれに一番興味があった。
ウィークオーブは人の好みと同じで、ゴーには使えないと感じるものでも他の人には魅力的に見える。
自分が面白いと思うことをオーブで表現すればいいらしい。
アッシュは段々わかってきたようだ。
「ちなみに俺の全身丸盾は、全身に光撃を纏ったものだ」
「ん?」
ゴーが勝手に自分の説明を始める。
「これはずっと光撃を維持するもんだから燃費がかなり悪い、自分で言うのあれだがかなり非効率だ。でも俺はこういうのがたまらなく好きなんだよ! なあアッシュ! お前にもわかるだろ?」
「いや、全然」
「あ?」
アッシュの心には全く響かず、くだらないと鼻で笑う。
「じゃあさ、どうしたらプラスみたいに使えるのさ?」
「んなこと俺は知らねえよ」
「は? もしかして怒ってるのか?」
自慢の全身丸盾を貶されて機嫌が悪いのだろうか。
ゴーが声を荒げて言う。
「誰かに教わってできることじゃねえんだよ! たまには自分で考えやがれ!」
「えぇ……」
どうすればいいのか、アッシュには見当もつかない。
そもそもウィークオーブは、習得したいと思ってするものではないため、考え方が根本から間違っているのだが、この少年はそれに気がついていない。
「あー、めんどくなってきたな」
それをどう伝えたらいいのかゴーは頭を悩ませる。
「そうだな。一つ助言してやるとしたら、何も考えるなってことだ」
「は?」
「考えれば考えるほどそれはウィークオーブから遠ざかっていくんだよ」
「は?」
「つまり自然に任せろってことだ、気がついたら使えてた。そんなもんだ」
「はい?」
アッシュは今日一番わからないと言った反応をする。
クマさんの言ってることがまるで理解できない。
「難しく考えるな。自分の好きなことや無意識にやってることでいいんだ。くせとかな! オーブで何か遊んでみるのもいいかもな。一人で遊ぶんだぞ!」
「くせ、か……」
「何かあんのか? それがお前のウィークオーブかもな!」
「う~ん……」
あれが何かの役に立つとは思えない。
いや、そういうものなのだろう。
アッシュはそう思うことにした。
「いいかアッシュ。初めは遊びでやってたとしても、続けるといつか大きな力になることだってあるんだ」
ゴーは腕を組んでニヤッとする。
「遊びが本気を超える」
「本気を……超える?」
「そうだ! それがウィークオーブだ。ガハハハッ!」
「なにさ、それ」
最後は何を言ってるのかわからなかった。
だけどなんとなく理解できた気がした。
ウィークオーブは強くなる事とは対極な存在で、その人の性格や個性で決まる。
だから強いか弱いかで判別するものでない。
本人が楽しいと思うものでないと、決して使うことができないのだから。
時にそれは全く役に立たないことも、また大きな力になることだってある。
それが誰にもわからないから面白いとゴーは言う。
「だから別に無理して使おうとする必要は全くねえ! それに何も無いなら、それがそいつのウィークオーブだ」
さすがにそれは滅茶苦茶だ。
アッシュは笑ってしまう。鼻で。
別に習得しなくても良いのか。
でも何か自分もできるようになりたい。
しかしそう思えば思うほどウィークオーブから遠ざかる。
考えるとややこしくなり、アッシュは頭が痛くなる。
「そいえばさ……」
長い説明も終わり、アッシュの質問タイムがやってきた。
ゴーのお話を聞いて気になったことがあるそうだ。
「あのさ、プラスってどんなタイプなのさ?」
「あん?」
「いや、プラスは接近戦が得意って言ってたけど、ホントにそうなのか?」
「そいつはどういうことだ?」
「実はオレと同じタイプだったりしないかなってさ」
アッシュは密かに期待していた。
もしかするとプラスも自分と同じく光撃が苦手で、ウィークオーブのおかげで強く前に出られるのではないかと思ったからだ。
しかし、そんな少年の淡い希望は、あっさりと断たれてしまう。
「何言ってんだ? アイツの光撃はかなり強えぞ」
「へっ?」
「あれは間違いなく近距離タイプだ」
以前プラスと戦ったゴーは、その身に何度も光撃を受けたため、その強さは痛いほどわかっている。
「えっ? じゃあ分離が苦手なのか?」
「それが分離もかなりできんだよな」
「…………」
あのお姉さんは光撃が得意だが、だからと言って他が苦手と言うわけではない。
むしろ他人から見るとどれも一級品だそうだ。
「おまけにウィークオーブもあれだろ? どうしようもねえぞアイツは」
「へ、へぇ……」
「全部お前より上だな! ガハハハハ!」
「……どうして笑うのさ?」
アッシュは聞いたことを後悔した。




