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~お姉さんと進むギルド王国~  作者: 二月ふなし
第1.5章 覚醒アッシュ 編
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56.楽しいお勉強②

 話によれば、アッシュは光撃(ハード)が下手くそなので接近戦には向いてない。

 かと言って分離(リーブ)も上手ではないため遠距離も微妙だと言う。

 幸いなことに悪魔の左腕(デーモンハンド)がある。

 それで相手に合わせて接近戦か、遠距離かを使い分けて戦えばいいとゴーが助言してあげた。


 なので今後は分離(リーブ)破裂(バースト)に集中してもらい、問題の方はゴーが鍛えてあげるとの事だ。

 またウィークオーブは必要ないと言う話だったが、ひょっとするとアッシュなら化けるかもしれないと、一応説明することになった。



「いいか? ウィークオーブってのはいわゆる遊びだ。だから戦闘にはほとんど使えねえ」

「プラスの雷は? すごく強いような……」


 アッシュが疑問に思う。

 あのお姉さんは雷で遊んでいるのか。

 どう見ても本気で戦っているようにしか見えない。

 容赦なくその鋭い拳を、相手にぶち込んでいる。


「そこなんだよ! そこが面白れえとこなんだ!」

「ん?」


 ゴーが説明する。ウィークオーブとは、自分の好きなことやこだわりを、オーブで形にして表現したものだ。

 戦闘に使えるものもあるし、反対に全く使えないものだってある。

 しかし、何も戦闘だけに使う必要はなく、他の場面で大いに役立つ可能性もある


 それはエリーがいい例だ。

 彼女は、治癒のオーブで、傷や怪我をすぐ治すことができる。

 そのおかげで教会に重宝され、お金もたくさん貰えて、自分の生活にしっかり役立てていた。


「プラスだってそうだ、アイツはガキの頃から雷を見るのが好きでな。雨の日になるといつも目をキラキラさせて窓を見てたそうだ」

「そうだ?」

「ああ、ナッシュの野郎がそう言ってやがった」

「へえ~、プラスが……そういえば」


 確かに雨の日になるとプラスは少しテンションが高かったような、たまに窓も眺めていたような気もする。

 その時窓に映された碧い瞳が印象的だ。


「おそらくアイツは雷を作って遊んでたんだろう、それが今ではあれだ。なっ? おもしれえだろ?」

「なるほど……」


 化けると言った意味が少しわかってきた。

 プラスも初めは遊びで雷を作っていた。

 それを何度もやってるうちに実戦でも使えるものになり、気がつくと強力な武器に変わっていた。

 ただ好きでやっていたことが、今では自分の強みとなって、戦闘で大いに奮っている。


「逆にマルトンの擬態迷彩(ザ☆ミミック)はあれだ、全く使えねえだろ?」

「うん?」

「周りの色に合わせるだけのオーブなんて意味がねえ。それによく見たらうっすら見えるしな! ガハハハ!」

「…………」


 アッシュはそうは思わない。

 初めてマルトンのオーブを見たときは感動したし、正直言うとあれに一番興味があった。


 ウィークオーブは人の好みと同じで、ゴーには使えないと感じるものでも他の人には魅力的に見える。

 自分が面白いと思うことをオーブで表現すればいいらしい。

 アッシュは段々わかってきたようだ。


「ちなみに俺の全身丸盾(フルアーマード・ゴー)は、全身に光撃(ハード)を纏ったものだ」

「ん?」


 ゴーが勝手に自分の説明を始める。


「これはずっと光撃(ハード)を維持するもんだから燃費がかなり悪い、自分で言うのあれだがかなり非効率だ。でも俺はこういうのがたまらなく好きなんだよ! なあアッシュ! お前にもわかるだろ?」

「いや、全然」

「あ?」


 アッシュの心には全く響かず、くだらないと鼻で笑う。


「じゃあさ、どうしたらプラスみたいに使えるのさ?」

「んなこと俺は知らねえよ」

「は? もしかして怒ってるのか?」


 自慢の全身丸盾(フルアーマード・ゴー)を貶されて機嫌が悪いのだろうか。

 ゴーが声を荒げて言う。


「誰かに教わってできることじゃねえんだよ! たまには自分で考えやがれ!」

「えぇ……」


 どうすればいいのか、アッシュには見当もつかない。

 そもそもウィークオーブは、習得したいと思ってするものではないため、考え方が根本から間違っているのだが、この少年はそれに気がついていない。


「あー、めんどくなってきたな」


 それをどう伝えたらいいのかゴーは頭を悩ませる。


「そうだな。一つ助言してやるとしたら、何も考えるなってことだ」

「は?」

「考えれば考えるほどそれはウィークオーブから遠ざかっていくんだよ」

「は?」

「つまり自然に任せろってことだ、気がついたら使えてた。そんなもんだ」

「はい?」


 アッシュは今日一番わからないと言った反応をする。

 クマさんの言ってることがまるで理解できない。


「難しく考えるな。自分の好きなことや無意識にやってることでいいんだ。くせとかな! オーブで何か遊んでみるのもいいかもな。一人で遊ぶんだぞ!」

「くせ、か……」

「何かあんのか? それがお前のウィークオーブかもな!」

「う~ん……」


 あれが何かの役に立つとは思えない。

 いや、そういうものなのだろう。

 アッシュはそう思うことにした。


「いいかアッシュ。初めは遊びでやってたとしても、続けるといつか大きな力になることだってあるんだ」


 ゴーは腕を組んでニヤッとする。


「遊びが本気を超える」

「本気を……超える?」

「そうだ! それがウィークオーブだ。ガハハハッ!」

「なにさ、それ」


 最後は何を言ってるのかわからなかった。

 だけどなんとなく理解できた気がした。


 ウィークオーブは強くなる事とは対極な存在で、その人の性格や個性で決まる。

 だから強いか弱いかで判別するものでない。

 本人が楽しいと思うものでないと、決して使うことができないのだから。


 時にそれは全く役に立たないことも、また大きな力になることだってある。

 それが誰にもわからないから面白いとゴーは言う。


「だから別に無理して使おうとする必要は全くねえ! それに何も無いなら、それがそいつのウィークオーブだ」


 さすがにそれは滅茶苦茶だ。

 アッシュは笑ってしまう。鼻で。


 別に習得しなくても良いのか。

 でも何か自分もできるようになりたい。

 しかしそう思えば思うほどウィークオーブから遠ざかる。

 考えるとややこしくなり、アッシュは頭が痛くなる。


「そいえばさ……」


 長い説明も終わり、アッシュの質問タイムがやってきた。

 ゴーのお話を聞いて気になったことがあるそうだ。


「あのさ、プラスってどんなタイプなのさ?」

「あん?」

「いや、プラスは接近戦が得意って言ってたけど、ホントにそうなのか?」

「そいつはどういうことだ?」

「実はオレと同じタイプだったりしないかなってさ」


 アッシュは密かに期待していた。

 もしかするとプラスも自分と同じく光撃(ハード)が苦手で、ウィークオーブのおかげで強く前に出られるのではないかと思ったからだ。


 しかし、そんな少年の淡い希望は、あっさりと断たれてしまう。


「何言ってんだ? アイツの光撃(ハード)はかなり強えぞ」

「へっ?」

「あれは間違いなく近距離タイプだ」


 以前プラスと戦ったゴーは、その身に何度も光撃(ハード)を受けたため、その強さは痛いほどわかっている。

 

「えっ? じゃあ分離(リーブ)が苦手なのか?」

「それが分離(リーブ)もかなりできんだよな」

「…………」


 あのお姉さんは光撃(ハード)が得意だが、だからと言って他が苦手と言うわけではない。

 むしろ他人から見るとどれも一級品だそうだ。


「おまけにウィークオーブもあれだろ? どうしようもねえぞアイツは」

「へ、へぇ……」

「全部お前より()だな! ガハハハハ!」

「……どうして笑うのさ?」



 アッシュは聞いたことを後悔した。

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