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~お姉さんと進むギルド王国~  作者: 二月ふなし
第1.5章 覚醒アッシュ 編
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51.二匹の小鳥

 それから三日が経ち、アッシュは今も塞ぎ込んだまま部屋から出てこない。

 プラスとステラは、そんな顔を見せない子供をとても心配していた。

 ハリスはまだ入会中なので、何も、知らない。



「今日も下りてきませんね、アッシュさん」

「……そうね」


 二人は天井を見ながらお茶を飲んでいる。


「ご飯もほとんど食べてくれませんし、大丈夫でしょうか」


 度々アッシュの部屋にご飯を運んでいたが、どれもあまり手をつけていなかった。

 そんな状態がもう三日も続いているため、二人はとても心配している。


「ホントに大丈夫かしら、わたしが作ったのなんて一口も食べてないし」

「それは……」


 なんとか食べてもらおうと、アッシュの好きな食べ物や、プラスの手料理を与えたのだが、どれもあまり効果はなかった。

 不思議なことにプリンやケーキ、フルーツなどの甘い物は残さず食べていた。

 しかし、それでは栄養が偏ってしまうため、大変よろしくない。


「私があの時、もっとしっかりしていれば……」

「あーもう、すぐそうやって自分を責める」

「だって、だって……うぅ……っ」

「ステラまで泣かないでよ」

「すいません……でも……っ」

「わたしが泣かしたみたいになってるじゃない!」


 今回のことはステラもかなり参っていた。

 表面上は笑顔で振る舞っていたが、やはり無理をしているらしく、こうやってたまに涙を堪えれない時がやってくる。

 あの日レクスを寝かせるはずだったのに、逆に自分が寝かしつけられしまい、すごく責任を感じていた。

 

「ちょっと! わたしの前で泣かないでよ!」


 なぜか引け目を感じるため、プラスがなぐさめようとする。


「よしよし、ステラはいい子だね」


 頭をナデナデしてあげるも、


「や、やめてください!」

「えぇっ⁉︎」

「……グスッ」

「……ちょっとあの子を見てくるわね」


 プラスはとりあえず様子を見に行くことにした。





 


 ──プラスがドアをバンバン叩くも、返事は一切なかった。

 だがそんなことは関係ない。 


「アッシュ、入るわね……ん?」


 ふと下の方に目をやると、


「っ⁉」


 そこにはプラスの手料理が置いてあったが、一切手をつけていなかった。

 しかし、隣に置いたプリンはきれいに食べられていた。

 プラスはプリンに敗北したのだった。


「あの子ったら! またわたしのだけ食べてないじゃない!」


 プラスがプッチンして、ドアを思いっきり蹴り飛ばした。

 そのまま部屋の中を襲撃する。


「こらアッシュ! いい加減にしなさいよ!」


 中に入ると、そこにはふわふわにくるまったままの何かが、ベッドにいた。


「アンタいつまでそうやって引きこもってるの!」

「…………」

「たまには外に出なさい!」

「…………」

「またわたしのご飯食べないで」

「……食べられるものがいい」

「は?」


 ステラの時は、ふわふわから顔を出して食べ物を奪い去っていく。

 だが、プラスの時は逆に、ふわふわにくるまったまま絶対に出ようとしない。


「落ち込んでるのわかるけど、ちゃんと食べてよ」

「……食欲ない」

「プリンは全部食べたじゃない! 本当はわたしのおやつだったのに!」


 プリンは、落ち込むアッシュのために、ステラが作ってあげたものだ。

 すでに一つ食べたお姉さんが、もう一個食べようとしたところをメイドさんに押さえられ、泣く泣く子供に与えた。


「少しは顔を見せなさい!」

「…………」

「ステラが寂しがってたわ、もちろんわたしもよ!」

「…………」

「気が向いたらでいいから、たまにはご飯食べに来てね」

「……わかった」

「下りてこないならまた作ってあげるから」

「それはもうやめて、お願い」


 プラスはそう言って、丸まったふわふわをポンポン叩いて部屋を出た。


「はあ……」


 そして部屋の前に背中からもたれかかると、大きく溜息を吐く。


「どうしてあげたらいいの……」


 なんて声をかけたらいいのか分からなかった。

 自分だってレクスがいなくなったことは悲しい。

 でもこれは二人の問題だ。

 蚊帳の外である自分がとやかく言うことはできない

 

 だから今はこうしてそっとしてあげるしかない。

 そんなことは分かっている。

 だけどアッシュの保護者としてできることが、あまりにも少なかった。

 そんな自分にプラスは情けなくなる。


「……やっぱりダメね、わたし」


 そうつぶやいて、一階へ下りた。







 ──プラスが部屋から出ていくと、アッシュがふわふわからヒョコッと顔を出した。


「……っ!」


 そのまま届けてくれたおやつを発見して手を伸ばす。

 お菓子をモグモグと食べ、一瞬で食べ終わると、お茶を飲んで一息つく。


「ふぅ……」


 あれから三日が経ち、アッシュは大分落ち着いていた。

 これ以上二人に心配をかけてはいけない。

 そんなことは分かっている。

 でもまだ部屋から出る勇気がない。

 いっそのこと、プラスに引っ張り出して欲しいとさえ思っていた。


「はあ……」


 窓の外にいる二匹の鳥を眺めた。

 まだ小鳥だろうか、互いに寄りそってチュンチュンしている。


「…………」


 はじめはずっとふわふわの中で泣いていた。

 目が覚めるたびに、悲しさと後悔で気持ちが押しつぶされそうになる。

 

 一緒に過ごした色々な日々を思い出していた。

 初めて会った時のことやケンカをふっかけられたこと、一緒に遊んだこと、デートしたこと、寝たこと。

 もうあの日が戻って来ないと思うと、また切なくなる。


「なんでこんな物、オレに……」


 レクスが置いていったペンダントを見た。

 確かにあの時欲しいとは言ったが、まさかこんな形で貰えるとは思いもしなかった。

 もっと違う形で受け取りたかった。

 人の気も知らないで。いや、知っててあえて渡したのだろう。

 

 今更こんな物を貰ったら、忘れるなんて到底できそうにない。

 レクスはそのためにこれを渡したのではないか。

 自分のことを忘れさせないために。

 アッシュはそんなことばかり考えてしまう。

 

 これは呪いのペンダントだ。

 自分にだけ効果があるレクスの呪いがかかったペンダント。

 アッシュはそう見えて仕方がなかった。


「…………」


 どうしたら止めることができたのか、あれから色々考えていた。

 もっと話し合うべきだったのか、この気持ちを言葉で伝えるべきだったのか、はたまた頭を地面に擦りつけて懇願するべきったのか。


 やがてアッシュの中で一つの答えが出ていた。


「戦う、しかない」


 本当は戦いたくない。それは今だってそうだ。

 だがレクスはあの時、戦うことを望んでいた。


 自分はそれに応えることが出来なかった。

 レクスを傷つけたくないというのもあったが、本当は戦うのが怖かった。

 戦う勇気がなかったのだ。


 レクスは止めて欲しかったのかもしれない。

 本当は自分に止めてもらいたかったのかではないか。

 それは考えすぎか。色々な思いが巡っていた。


「…………」


 だがアッシュの中にある疑問があった。

 果たして自分はあの時レクスと戦って、勝つことができたのだろうか。

 残念なことにレクスの方が強いことは明らかだ。

 あの場で戦っていたとしても、コテンパンにやられてまた気を失っていただけかもしれない。

 

 ただの喧嘩なら自分の方が少し強い。

 だがオーブを使うとなると話は変わってくる。

 あの爆殺光撃(バーニングクラッシュ)を使われたら何もできない。

 

 というかあれはどうやって出しているのだろうか。

 考えれば考えるほど勝てる気がしなかった。


「足りない」


 アッシュはこの時初めて強くなりたいと思った。

 今まではプラスやゴーに言われるがままに特訓していたが、やっとその理由を見つけたようだ。


 今度レクスに会ったら無理矢理でも連れて帰る。

 そのためにはレクスよりも強くならなければならない。

 あんなに痛い思いをして殴られたんだ。

 多少動けなくしても文句は言われないはずだ。

 

 アッシュの決意が固まった。


「フッ、まるでレクスみたいだ」



 小さく笑う。

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