49.告白
夕暮れまで遊んだ。
その後、レクスは夕食に及ばれしていたのでプラス宅へ。
現在、メイドのステラを入れた3人で晩御飯を食べている。
「やはりうまいな」
「フフフ、ありがとうございます」
レクスの素直な感想。
ステラも嬉しそうに返す。
「お前はいいな。毎日食えて」
レクスの横に座ってアッシュは食べている。
それに向かい合う形でステラがいる。
おいしそうに食べる子どもを見て、ニコニコしていた。
「最近はアッシュさんも手伝ってくれるんですよ」
「ほう、コイツがか?」
「なにさ、その反応」
子どもだってお手伝いくらいする。
別に驚くべきことでもなんでもない。
「そうか。なら今度なにか作ってくれ」
「そういうのって普通逆な気がするんだけど」
「どういうことだ?」
分からないならいい。
アッシュは食べ進めた。
そんな話をしながら進めていると、ふとステラがニコニコして言った。
「あっ、そういえば、お二人ともお昼のようにはされないんですか?」
アッシュが少しむせる。
「昼? なんのことだ」
「仲良くお食べになっていましたよね? あーんって」
レクスもむせた。
昼間のこと思い出したのか、2人は同時に顔をそらす。
「フフフ、すいません。可愛らしかったのでつい」
知り合いに見られると恥ずかしいようだ。
2人は顔を上げられない。
「どうぞ、私のことはお気になさらず」
メイドさんはニコニコしていた。
──食事を終えて。
あと片付けを終え、その他もろもろも済ませ、寝る時間となった。
「そろそろ寝る時間ですよ」
ステラが本を閉じた。
「そうだな。行くぞアッシュ」
レクスも本を閉じた。
「わかったさ」
2人は寝室へと向かおうとしたが、
「あっ、レクスさん。すみません。今日は私と寝てください」
「なんだ、一人じゃ寝れないのか?」
レクスはいつも使用人と寝るという。
よって、この日も当たり前のようにアッシュと寝るつもりであった。
「いえ、プラス様にキツく言われまして、すみません」
前回の反省を踏まえ、プラスは策を用意していた。
ドヤ顔をするプラスの顔が浮かんできて、レクスは少々ムッとなる。
「なら仕方がない。今日はステラと寝る」
「なんかあっさりだな」
「悪いな。今日はステラと寝る」
「なんで2回言うのさ」
班分けは決まったようだ。
レクスはメイドさんの後ろをついて行く。
「はあ、寝るか」
少しの残念そうなアッシュの背中であったが、
「おいアッシュ」
レクスが部屋に入ろうした時、軽くウィンクを。
そのまま上機嫌に部屋の中へと入っていく。
アッシュはしばらく部屋の前で立ちすくんでいたが、
「……なにさ」
布団の中に入る。
──時間が経ち、ここはアッシュの部屋。
カーテンから月明かりがうっすら照らされる。
アッシュはドアに背を向ける形で横になっている。
しかし、部屋の中にはもう一人。
丸くなったその背中をじっと見る少女が立っていた。
なにやら腕に枕を抱えている。
「少しずれろ。ワタシの場所がないぞ」
レクスだ。
部屋からこっそり抜け出したレクスが、枕を持ってきてアッシュのところにやって来た。
ベッドはただいまアッシュが占拠していて、自分の入るスペースがないと訴えている。
アッシュが無言のまま横にズレてあげた。
「フンッ、初めからそうしておけ」
レクスが枕をボンッと投げ込みベッドに入り込む。
相手に背を向ける形で寝ているアッシュ。
レクスはその背中に身体をよせた。
「……音がするな」
「寝ずらいんだけど」
「いや、このままでいい」
アッシュの背中に顔を埋めて、心臓の音を聞いてる。
その音から察するに、冷静を装っているだけのようだ。
「話があるんだろ」
「そうだったな」
昼間に言っていた話、というのがずっと気になっていた。
もちろんレクスはそれを言うためにここに来た。
だが今はこのままでいたいのか、口を開こうとしない。
そうしている間にも、背中に深く顔を埋めようとする。
しばらく身体をよせ合っていたが、
「こっちを向け」
「……むり」
アッシュの拒否。
「誰も見てないぞ。ワタシとお前だけだ」
そうレクスが耳元でささやいた。
「フッ、正直なやつだ」
ベッドが月明かりで照らされた。
お互いの顔はよく見えない。
だが見つめ合っている、ということは分かる。
暗いと言えど、アッシュはこうやって見つめられるのが苦手だ。
その紅色の瞳が自分の目を釘付けにするからだ。
今だってそうだ。
秘めた思いが強くなり、少女のことしか見れなくなってしまう。
分かっていてわざとやっているのか。
それとも同じような心情なのか。
レクスも相手を目を見て離さない。
「案外、可愛い顔をしているな」
レクスが小さく笑った。
「プラスに似てるって言われた」
「全然似てないぞ」
「レクスは目が綺麗だ」
「そうか」
また無言になる。
しかし、それはさっきとは違う。
次が分かっているかのような、何かの前触れのような。
お互いに、顔をゆっくり近づける。
かすかな息がかかるほどに、そして目を閉じた。
すると、
「おりゃ!」
突然、レクスがほっぺをつねった。
「ふぇ⁉」
アッシュから変な声が出る。
「おお、思ったより柔らかいな」
「はひふんふぁ」
「前から触ってみたかったんだ」
レクスは両手で柔らかいほっぺをつねり、伸ばしたりぐるぐるしたりしてその感触に関心している。
「ほう、これは癖になるな」
「はふぁへ!」
早くやめて欲しい。
だが上手く言葉が使えない。
なにより、良い雰囲気をぶち壊されたことにアッシュはとても怒っている。
「どうした? 何言ってるか分からないぞ?」
レクスが煽る。
「怒ってるのか? 全然恐くないな」
怒りが届かない。
「悪いのはお前だ。こんな──」
「ふぁい!?」
耐えかねたアッシュがやり返し、レクスからも変な声がもれた。
思ったより柔らかい。
確かにクセになるかもしれない。
アッシュも夢中になって触っている。
その扱いに、当然レクスも怒り出す。
「へふふゅふぁはふぁへ!」
何を言っているのか分からない。
何を言っているの分からないが、しばらく2人はお互いのほっぺを仲良くつねっていた。
やがて、
「……もういい?」
「ああ」
バカらしくなった。
2人は手を離した。
「いてて……」
ほっぺがヒリヒリする。
アッシュは涙を浮かべながらさすっている。
やり返されるとは思わなかったらしい。
レクスも頬の無事を確認している。
どうしてこうなってしまったのか。
おかげでムードもすっかり冷めてしまった。
「話がある。外に出るぞ」
レクスが提案した。
「えっ、別にここでも」
「それでは意味がない。さっさと着替えろ」
「どういう意味さ」
今は深夜真っ只中。
当然外は真っ暗で、子どもが出て良いような時間ではない。
「怖いのか?」
2人は着替え始めた。
──外に出ると、レクスに連れられる。
「ここでいい」
やがて第一教区の入り口までやってきた。
あまり閉まることのない見せかけの門が2人を出迎える。
「うっ、寒い。どうしてこんなところまで……」
アッシュは肌寒さに愚痴をもらす。
別に部屋でもよかったのではないか。
どうしてこんな所まで連れて来たのか疑問に思う。
レクスの方はと言えば、どこか凛々しい顔つきで遠くを見据えている。
その風で揺れる青髪が、アッシュには少し恐く感じた。
「で、話ってなにさ?」
ここまで来てどうでもいい話だったら怒る。
と言うか、すでに怒っている。
「一度しか言わん」
レクスが振り返り、右手を前に広げた。
「これから父さんの元へ向かう。アッシュ、お前も来い」
「えっ……」
耳を疑った。




