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~お姉さんと進むギルド王国~  作者: 二月ふなし
第1.5章 覚醒アッシュ 編
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47.姉弟

 ベルル脱走事件から一週間。

 負傷者であるアッシュ、ハリス、マリコ。

 3人は意識を取り戻したのだが、まだ怪我が治っていない。

 現在は教会に入会中だ。


「ふんふんふ~ん」


 この日、プラスは教会を訪れていた。

 理由はもちろん、アッシュのお見舞いだ。


「アッシュ~!」


 ハリスのいる病室をスルー。

 目的の部屋へ向かう


「ん?」


 ノックしようとしたが、中から声が聞こえた。

 ドアに耳を当て、こっそり聞いて見ると、


 ──口を開けろ


 ──あーん


 ──どうだ、うまいか?


 ──ああ、うまいさ


 ──フッ、そうか。口についてるぞ?


 ──えっ、どこさ?

 

 ──ここだ。ほら、次だ

 

 バンッ!


 勢いよくドアが。


「あーん……あっ」


 そこにはカットしたリンゴをアッシュに与える、レクスがいた。


「チッ」


 レクスが舌打ち。

 邪魔が入ったと言わんばかりの態度である。


 お見舞いに来たレクスとイチャついていた。

 近頃、2人はこうやって仲良くしている。

 大人の前では恥ずかしいのか、まるで隠れるようにやっていた。


 プラスの顔が引きつっている。

 

「じゃあ、ワタシは失礼する。またな」


 と言って、レクスはその場を後にした。

 

 空いた椅子にプラスが座る。


「ずいぶんとお楽しみだったみたいね」

「まだ手が痛くて」

「なによ、わたしの時は自分で食べてたくせに」

「なにさ、別に食べさせてもらうくらい」


 この所、レクスが毎日教会を訪れていた。

 まだ歩けないアッシュを車椅子に乗せては、色々な所に連れ回していた。

 はたから見ると、デートしているみたいでとても微笑ましい。

 修道女たちの間で話題になっている。


「それならもう退院できそうね」

「まだ体中が痛いんだけど」

「し、仕方ないじゃない。わたしだって嫌だったの!」

「知ってる。おかげで助かったさ」

「フンッ、ホントにそう思ってるのかしら?」


 アッシュが意識を取り戻した時に、ベルルが助けてくれたことを説明した。

 話を聞いたプラスは驚くも、教会にはベルルが消滅したとだけ伝えて、この件は一件落着となった。


 ベルルがまだ身体の中にいるのを感じていた。

 だが、プラスには伝えなかった。

 助けてくれたので、ゆっくり眠らせてあげることにしたのだ。


 また目覚めたとしても、次は悪さはしないと思う。

 なぜかは分からないが、そんな気がするアッシュだった。


「はい、これに乗りなさい」

「またお散歩?」

「違うわ。紹介したい人がいるの」

「だれさ?」

「フフッ、内緒」


 車いすに乗せた。







 ──部屋を出ると、すぐ隣の病室で止まった。

 ノックをすると、中から柔らかな女の声がした。

 

「じゃーん! お見舞いに来たわよ、マリー!」

「あっ、プラちゃんだ!」


 マリコがいた。

 プラスの親友のマリコだ。


「プ、プラちゃん……プププッ」

「なに笑ってるのかしら?」


 なんとアッシュのお隣さんだった。

 親友であるマリコを紹介したくて連れてきたのだ。


「紹介するわ。この子はアッシュ」

「マリコだよ。プラちゃんのお友だちなんだ、よろしくね」


 アッシュの返事はない。


「ごめんなさい。この子ちょっと人見知りなのよ」

 

 軽いあいさつも済ませてお話が始まった。


「この子が前に言っていた、プラちゃんが引き取ったって言う?」

「そう、アッシュよ。可愛いでしょ」

「へえ~」


 マリコがじーっと、少年の顔を見た。

 ちょっと距離が近い。


「な、なにさ……」


 初対面の相手によく顔を見られるが、相変わらず慣れない。


「あっ、ごめんね。そっくりだったからつい」

「はあ……」


 また例のお兄ちゃんとやらか。

 アッシュはうんざりとしたが、


「やっぱりプラちゃんに似てるね」


 全く予想外の答えが返ってきた。

 2人は同時に「えっ」となる。


「初めて見た時は弟さんかと思っちゃった」

「おとうと?」

「うん! 雰囲気とか可愛いところがそっくりだよ!」


 満面の笑みでそう言う。


「わたしとアッシュが……」

「似てる?」


 2人はうぬぬとお顔を見合う。

 だが、どこがどう似てるのかさっぱりだ。

 マリコがそんな2人を見て「ほらっ、そっくり!」と笑う。


「たしか記憶喪失なんだよね? 大変だね」

「まあ……」

「困ったことがあったら何でも言っていいからね」

「なんでも?」

「うん! 何でも頼ってほしいな。私のこともお姉さんだと思っていいから」


 そう言って、大きな胸を張る。


「こらアッシュ! どこ見てるの⁉ ダメじゃない!」


 ここで保護者が急に子どもの目をふさいだ。


「なにするのさ!」

「この子ったら、目を離すとすぐこれよ」

「はなせよ! 見えない! 暗い!」


 目線の高さ的にそうなってしまうだけ。

 顔を見ようとすると、自動的に視界に入るだけだ。

 注意される言われはなかった。


 そんな2人を姉弟みたいだと、マリコはまた笑う。


「もうBランクなんだよね? すごいよ」

「フフンッ、わたしのおかげよ!」


 ゴーのおかげだ。

 だと言うのに、なぜかプラスがいばり出す。


「来年こそは絶対に合格して2人に追いつくからね!」


 マリコは両手をギュッとして意気込む。


「あれ? プラス、まだ試験のこと言ってない?」


 アッシュの疑問。

 マリコはニコニコしたまま固まる。


「試験って、どういうことかな?」

「ちょっとアッシュ、空気を読みなさい!」

「どうしてさ?」

「プラちゃん、どう言うことかな?」


 今度プラスのAランク試験があることを、アッシュが教えてあげた。


「えー! プラちゃんAランクになっちゃうの⁉︎」

「まだ決まったワケじゃないわ」

「そんなあ~、Aランクはさすがに追いつけないよ〜」


 嬉しい反面、またも差が開いてしまったと残念な気持ちになる。

 どんどん雲の上の存在になっていく。

 手が届かなくなっていく。

 『プラちゃん待って~』みたいな感じだった。


「でもそっか~。もうすぐ夢が叶うんだね」

「いいえ、まだまだこれからよ」

「ギルドを作りたいって、小さい頃から言ってたもんね」

「小さい頃ってどのくらいさ?」

「ちょうどアッシュくんと同じくらいかな。そうだ、昔のプラちゃんのお話、聞かせてあげよっか?」


 プラスがギョッとした。


「ちょっとマリー⁉︎ あなた、なに言ってるの⁉︎」

「聞きたい」

「アッシュ⁉ ダメよ!」

「フフッ、じゃあ最初は……」

「ねえってば!」


 昔の話を始めた。


「いつも近所の男の子たちとケンカしてたんだよ」

「お、覚えてないわね……」


「2人でこっそり教区から抜け出した時は、誘ったプラちゃんの方が泣き出して」

「そ、そんなことあったかしら……」


「ジャックおじさんの靴に毒ヘビを入れた時なんか」

「いけない。その話はいけないわマリー」


 色々話しを聞いて、アッシュはすっかり打ち解けた。

 話を聞くうちに良い人だと判定したようだ。

 

 そして、あっという間に時間が過ぎていった。


「それでね〜、あっ! もうこんな時間だ」


 もうすぐ教会の門限だ。


「プラスはもう帰らないと」

「はあ、やっと終わるのね。戻るわよ」

「オレはまだここにいるけど」


 マリコともう少しお話しする。


「ダメ! もうお話はおしまい!」

「ざんねん。じゃあ続きは明日聞かせてあげるから、またおいで」

「わかった。また来るさ」

「まだ話す気なのね……」


 2人はマリコの病室を後にする。


 部屋に戻ると、アッシュをベッドに寝かせてあげた。


「じゃあわたしは帰るから、いい子にしてなさい」


 お別れの時間がやってきた。

 素っ気ない子どもに、保護者が少し間をおいて、


「アッシュの大好きなプラスお姉ちゃんが明日も来るからね」


 アッシュも少し間をおいて、


「フッ、わかったさ。プラちゃん」

「もうっ!」



 病室を後にした。

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