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~お姉さんと進むギルド王国~  作者: 二月ふなし
第1.5章 覚醒アッシュ 編
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46.内側と外側

 引き続き、精神世界で戦う二匹。

 悪魔としての力なら相手の方がずっと強い。

 悲しいことに、統合して覆る差ではなかった。


 所詮は悪あがきに過ぎない。

 絶対的な力の前には無力に等しいモノであった。


 このままではやられる。

 

 と、思われたが、今はアシュベルが流れを掴んでいた。


「よっと!」


 攻撃がヒット。


 魔王が反撃するも、それを華麗に受け流す。

 

 拳に引っ張られる。

 そこにアシュベルが一撃入れた。


「ぐっ」


 魔王の顔がわずかに歪む。


 アシュベルは戦いの中で相手の癖を探り、利用していた。

 魔王も気づいていたが、早く倒してしまえばいいと高を括った。

 しかし、思ったより頑丈で長引いてしまい、解析を許してしまった。


「おっと!」


 緩急をつけたり、フェイントを交ぜたり。

 アシュベルの相手は非常にやりづらい。

 もう読み合いでは負けなしであった。


 ベルルとアッシュ。

 2人の戦闘センスが合わさったことで、足りない差を見事に埋めていた。

 真面目にやればできる悪魔だった。


 やがて、戦いは完全にアシュベルのモノとなる。


「フッ」


 一度大きくしゃがみ込むと、すばやく足払い。

 魔王が宙を浮く。


 仰向けのところを狙い、背中から蹴り上げた。


 天井に飛ばされた魔王。


「とう!」


 アシュベルは破裂(バースト)で追いかけ、さらに上に殴り飛ばした。


 頭から天井に、剣のようにつき刺さる。

 その小さな足を、グイッと掴んで引っこ抜く。


 そして、思いっきり地面にぶん投げた。


 バウンドしたところを横から突き飛ばし、今度は壁に叩きつける。


 次にマントを掴み、ブンブン振り回した。


「ハハハッ!」

 

 意外と楽しい。

 しばらくブンブンしていると、


 突然、マントがビリッと。

 その遠心力で魔王が地面に突っ込んだ。


「あっ……」


 アシュベルは自分の手元を見る。

 そこには無残に破れた布切れがあるだけだった。


 魔王が地面から顔を出した。


「あー、今のは悪気があったワケじゃなくてさ。不幸な事故みたいなモノで……ほらっ、やっぱりこういう事をやってると、職業がら避けられないと言うか」


 自分は悪くないと主張する。


「まっ、オレの方がカッコいいし。何なら今度同じヤツを──」


 魔王がオーブを放つ。

 それがアシュベルの大事なマントに直撃し、あっさり灰になる。


「えっ……」


 身軽になった。

 一瞬、起きたことに理解できなかったが、


「おおおお! オレの、オレのカッコいいマントがあああ!」


 アシュベルは絶望。

 その場に崩れ落ちて大声で泣き喚く。


「なんてことするのさあああ! うおおおおおおん!」


 ひどい。

 いくら何でもひどすぎる。

 ちゃんと謝ったではないか。


「うぅ……くそっ! もう許さないからな!」


 もうマントは戻ってこない。

 そう思うと涙が溢れて止まらない。


 悲しみが怒りに変わり、頂点に達した。


「しね!」


 怒りの破裂(バースト)で恨めしい相手に突撃。

 

 頭突きがの直撃。

 

 怯んだところを激高して殴りまくる。


 ある程度ボコボコにすると、蹴り飛ばして壁に叩きつけた。


 魔王は目の端で、相手が猛スピードで近づくのが見えた。

 すぐさまオーブで向かい撃つ。


 が、それはアシュベルが投げた瓦礫であった。


「──上だ! アイツは上にいるぞ!」


 左側から白々しい声が聞こえた。

 魔王は左にオーブを放つ。


「おっと!」


 間一髪、アシュベルが身体をひねってかわす。

 一撃叩き込む。

 さらに殴りまくり、満足するとまた蹴り飛ばす。


 魔王は飛ばされた流れで距離を取る。

 ある程度離すと、両手を広げ、オーブを大量放射。


「チッ」


 アシュベルは避けながら距離を詰める。


 対して、魔王はオーブを撃ちながらの移動。

 両者の距離は埋まらない。


 なおもアシュベルは接近を試みる。

 分離(リーブ)では威力の差で勝負にならない。 

 相手もそれを分かって遠距離に徹している。


 このままでは蜂の巣にされてしまう。

 何とか接近したいところ。 


「へっ、そういうの嫌いじゃないさ!」


 ニヤリとして、左を強く握り込む。

 オーブの輝きが一点に集まっていく。


 その間も、敵が拡散するように撃ってくる。


 弾丸を避けつつ、距離を詰めながら、さらに力を溜めていく。

 

 迫りくるオーブの嵐を、穴を縫うようにかわしていく。


 そして距離が縮まると、一気に破裂(バースト)で駆け抜けた。


「奥義! 大魔王(ロイヤルディモン)──」


 渾身の一撃。


 が、


 突如、魔王が右手を前へ。


「うおっ⁉」


 いつの間にチャージしていたのか。 


 その超至近距離。

 黒いビーム状のオーブが、アシュベルに向け発射された。


 が、


「ふんっ!」


 とっさに右手で振り払った。

 一瞬爆発したかのように広がり、オーブが消滅。


 その残骸が、魔王の瞳に映り込む。

 

 アシュベルはニヤッと笑い、


「──光撃(ハード)!」


 全力を叩き込んだ。

 

 その渾身の一撃が、腹部ど真ん中に突き刺さる。

 オーブが身体を貫通し、背中から勢いよく弾け飛ぶ。


「ぐああああああ!」


 これまでにない苦痛な声をあげ、魔王がぶっ飛んでいく。


 壁に衝突してずり落ちた。

 口から大量の血を吐き、グッタリとする。

 

「へんっ! どうよ!」


 アシュベルが胸を張る。

 やってやった。

 自分の方がロイヤルだと主張した。


「なにさ、まだ生きてるのかよ」


 腹部は焼け焦げ、大きく穴が空いている。

 普通のイービルならとうに生きていない。


「き、貴様……」


 さっきので終わった方が締まりがいい。

 だというのに、なぜまだ立ってくるのか。

 なぜそうやってこちらを睨んでくるのか。


「分かったさ。もう楽にしてやるよ」


 アシュベルは拳にオーブを乗せた。


 そのまま動けない相手に振り下ろした。


 が、ポンッ!

 

 瞬間、アシュベルが光に包まれ、2つに分かれた。

 片方は消滅し、もう片方からはアッシュが出てきた。


「ハア……ハア……」

 

 統合が解除されてしまった。

 力を使い果たし、その場に膝をつく。


「ベルル……」


 途切れた声で呼ぶも返事はない。

 彼の気配を感じない。


「はっ⁉︎」


 顔を上げると、そこには同じ顔の少年が立っていた。


 ひどく重症ではある。

 だが、表情からはそう感じない。

 まるで心がないような冷たい瞳。

 自分にこんな顔ができるのかと恐怖した。


「時間切れか」


 魔王が腕をあげた。


「あとは上だけだ」


 拳にオーブを纏う。


「消えろ」


 次の瞬間、


「かはっ⁉︎」


 突如、魔王の腹部から、青い光が放出された。

 耳ざわりな音が鳴り響く。

 

 身体から空間に広がり、瞬く間に全体を覆いつくした。

 







 ──少し前、外で戦うプラス。

 変わらず優勢である。

 しかし、やはり素手だけでは倒しきることができず、決定打に繋がらない。

 続ける中、次第に相手が衰弱していくのを感じていた。


「ハア……ハア……」


 固めた拳で殴りつける。

 もう何度もやっているが決して倒れない。

 無抵抗も同然で、すでに戦いにすらなっていなかった。


「くっ……」


 攻め続けるプラス。

 表情は歪んでいた。


「アッシュを返しなさい!」


 その瞳からは涙が流れているが、本人は気がついていない。


 これ以上はやりたくなかった。

 今までは非情にしていたが、もう限界だった。


 やはり手遅れなのかもしれない。

 何をやっても無駄なのかもしれない。

 少年を殴るたびに、その想いが強くなる。


 やがて、握る力が弱くなり、


 その腕が、止まる。


「お願い……もう、返してよ……」


 そのまま地面にへたり込んでしまう。


 戦意喪失。

 それを静かに見ていた魔王であった。


 すぐにオーブを出し、発射しようとした。


「がはッ⁉」


 突然、胴体からひびが。

 そこから凄まじい光が溢れ出した。

 魔王がこれまでにない悲痛な声をあげた。


「えっ……」


 光は綺麗な緑。

 多少黒も混ざっているが見覚えがある。


「アッシュ?」


 とtめお似たオーブを感じた。

 中でまだ戦っているのか、無事なのか。

 分からないことしかない。


 だが、確かなこともある。


「そこにいるのね」


 顔を引きしめ、涙を拭いて立ち上がる。


「待ってて、いま出してあげるから」 

 

 絶叫する少年の前でオーブをかき集めた。


 みるみる拳に光が溜まっていく。


 やがて、落雷のような音が鳴り響き、それを、


「──雷電光撃(プラズマブラスト)!」


 全力でぶつけた。


「うごあああああ!」


 渾身の光撃(ハード)が胸部を捉え、さらにまばゆい光が漏れる。


 辺りが一面が覆われ、何も見えなくなった。


 光の中、断末魔を聴く。


 ──コイツがいる限り、俺は何度でも復活する。


 光が消えると、そこには少年を抱きかかえたプラスが。


 そして、


「よかった」



 体温を感じて、涙を流した。

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