44.魔王 対 大魔王
アッシュとベルル。
2人の統合により、謎の少年が爆誕する。
まずはこの空間が気に入らない。
手の平からボッと黒いオーブを出した。
巨大化させるにつれて、輝きも増加する。
ある程度大きくなると、今度は収縮させて密度を高めていく。
やがて、上空にバッと掲げ、
「──大魔王分離!」
黒い光線が放たれた。
一直線に伸びた閃光が、空間の天井をガラスのように突き破る。
「だっしゅーつ! とうッ!」
開いた穴めがけ、破裂で駆け上がる。
一気に空間の外に出た。
「うーん? どこさ、ここ」
新たなる空間が広がっている。
何もなかった先ほどとは違う。
周りにいくつかの柱が建っており、まるで古い遺跡みたいだ。
ジメジメしていてちょっと暗い。
これがアッシュの精神世界なのだろうか。
少年は暗いのが苦手なため怖がっている。
早くここから出たい。
出口はないのか。
考えていると、何か閃いたようで顔を上げた。
「なるほど、ここも破壊するのか! やっぱりオレって天才⁉」
顔の前で手を組み、目を輝かせる。
しばらくキラキラしていたが、再びオーブを上に掲げた。
「よし! 大魔王……」
「──よせ。自滅する気か」
何者かがシュッと現れた。
「うーん?」
それは自らを魔王と呼ぶ子ども。
アッシュと同じ顔の少年だった。
顔が同じ。
しかし髪色の違う2人の少年が、互いを見ている。
何とも奇妙な光景であった。
「貴様、何者だ」
魔王が聞いた。
「えっ、オレ? オレは……あれ?」
名乗ろうとしたが、ふと、ほっぺに手を当てた。
そう言えば考えていなかった。
「オレか? オレはベッシュ! いや違う……アルル! あっ、待った。今のは無し」
ピッタリのカッコいい名前を探る。
「いや、分かってる。分かってるさ。ただちょっと待ってほしい」
中々見つからないようだ。
少年は頭をグルグルさせている。
「……おっ!」
どうやら決まったらしい。
両手に腰を当て、自身の名を元気よく宣言した。
「いいかよく聞け! オレはアシュベル、大魔王アシュベルさ!」
と言って、シャキーンッ、変なポーズを取る。
これは最高に決まってしまった。
アシュベルは余韻に浸っている。
一方、魔王。
先ほどと違って相手を睨んでいる。
「貴様、魔王だと」
逆鱗に触れたみたいだ。
「うーん? そっちも魔王なのか。でも残念! オレの方が上位ッ!」
と言って、中指をビシッと立てた。
ちなみにどちらも魔王ではない。
ただ悪魔という生き物は、自らを魔王と名乗る傾向があるだけだ。
「いいだろう。先に始末してやる」
「おっ、やるか? 見せてやるさ! 大魔王の実力を!」
首をパキッと鳴らし、ポンポン飛び跳ねる。
二匹の自称魔王が、手の平から黒いオーブを出す。
片方は紫炎を禍々しく纏う。
もう片方は緑の輝きを放つ。
先手は魔王から。
破裂で急接近。
「うおっ⁉︎」
さっそく不意を突かれたアシュベル。
無抵抗に攻撃を受け、後方に飛ばされた。
「うわああああ!」
悪魔の戦いが始まった。
魔王が追撃し、壁まで叩きつける。
埋まったところをさらに殴りつけ、丁寧に埋めていく。
「ちょっ、ちょっと待って! こっちはまだ身体が!」
アシュベルは抵抗を見せる。
だが、相手の容赦のない猛攻により、ただ埋まり続けるだけだった。
「丸盾! アンド分離!」
殴られながらも、一瞬のスキを見極め盾を張る。
その間にオーブを放ち、対象を遠ざけ、脱出を図る。
十分に距離を置いたところで、オーブを連続で撃ちまくった。
魔王に全て弾かれた。
「無駄だ」
お返しとばかりに。
魔王が大量のオーブをお見舞いした。
「ぎゃあああ!!!」
アシュベルも同じように弾こうとした。
が、一つも返すことができず、全弾命中。
煙に埋もれた。
「ど、どこに行ったのさ⁉︎」
ひょっこり顔を出すと、敵の姿がない。
取り乱してオロオロしている。
すると、背後から魔王が現れ、その後ろ頭を殴り抜いた。
「うがっ⁉」
頭に激痛が走り、前方に飛ばされた。
魔王が追いかける。
アシュベルは体勢をくるりと変えて迎え撃つ。
そのまま接近戦に移行した。
「ぶはっ⁉︎ べぶっ⁉︎」
魔王が圧倒。
アシュベルは何度も被弾する。
はたから見ると、一方的に暴力を受けているだけに見える。
同じ顔の子どもが、同じ顔の子どもを苛めるといった不思議な光景だ。
完膚なきまでにボコボコにしていた。
突然、弱すぎる相手に呆れたのか、接近戦をやめて空高く飛び上がる。
巨大なオーブを出し、それを圧縮した。
「へっ、面白い!」
アシュベルはニヤッと笑う。
左腕を上空にかかげ、オーブを出す。
同じようにエネルギーを凝縮させていく。
やがて、発射する準備が完了した。
アシュベルの目が、キラーン☆
「──奥義! 大魔王分離!」
互いに発射した黒い光線が、凄まじい勢いで衝突。
衝撃の余波が飛散し、周りの石柱を破壊した。
「あれ?」
初めの3秒くらいは良い感じに競り合っていた。
「うわああああああ!!!」
が、一瞬でアシュベルが押し負け、そのまま光線に吞み込まれた。
オーブが消えると、こんがり焼けたアシュベルが。
プスプスと煙が上がっている。
仰向けで倒れ、もうピクリとも動かない。
魔王がゆっくり近づく。
念のためトドメを刺しておこう。
オーブを構えた。
が、
「かかったな!」
死んだふり。
アシュベルが、不意に起き上がり、
「秘技! 生ゴミアタック!」
手に握っていた瓦礫を代用して、思いっきり投げつけた。
魔王の視界が一瞬奪われた。
そのスキに、アシュベルが破裂で背後に取る。
拳にオーブを乗せ、後ろ頭を狙う。
「死ねえ! ロイヤルパンチ──ぶへっ⁉︎」
しかし、逆に振り返った魔王の光撃がカウンターで入る。
すごい勢いで回転し、壁まで吹っ飛んでいく。
激突したアシュベルはまたも動かなくなった。
魔王がそれを見下した。
「な、なに見てるのさ……」
見世物じゃないと訴える。
「貴様に魔王を名乗る資格はない」
戦い方が下品すぎるとの指摘が入る。
魔王なら魔王らしく、もっと高貴に戦わなければ。
「うるさい、大魔王だって言ってるだろ……そっちはいいさ、ちょっと強いくらいで図に乗れて……こっちがどれだけ必死にやってると──」
「ほざけ」
今度こそ、息の根を止めるべくオーブを出した。
「あ、足が……ひいぃ、来こないで!」
アシュベルが命乞いを始めた。
目には涙を流し、命の大切さを訴えている。
これは、わざと足を取られたフリをして、相手を油断させるという、アシュベルの天才的な作戦だ。
「ひええええ! 助けてえええ!」
しかし、近づいてこない。
無表情で見下ろしていた。
アシュベルの演技がバレバレであった。
バレてもなお続けようとする彼に対して、憐れみすら覚えようとしたが、
──バンッ!
「おっ?」
突然、辺りに衝撃が。
2人の立つ地面が大きく揺れた。
あまりに激しい揺れのため、魔王がバランスを崩す。
「今だ!」
アシュベルは瓦礫から抜け出し、相手の顎を蹴り上げた。
クリーンヒット。
魔王がグラつき膝をつく。
「へへんっ! どうよ!」
初めて攻撃が当たった。
大魔王も嬉しそうだ。
「おー、向こうもやっていますねえ。お隣さん」
上の方を見ながら、何やら感心な様子。
ニヤッとし、まっすぐ指を差して言い放つ。
「やっぱ同時に相手するのはキツイらしいな!」
激しく揺れた。




