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~お姉さんと進むギルド王国~  作者: 二月ふなし
第1.5章 覚醒アッシュ 編
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41.覚醒

 プラスが雷神電来(ライデン)を発動。

 流れが一変する。

 力の差が劇的に広がり、戦いは一方的なモノとなっていた。 

 

 ちなみに、まだ未完成であるため、たまに身体からバチッと雷が漏れる。


 ベルルはやられる。

 全く対応できていない。

 反撃どころか、ガードすらままならない。

 雷を纏う攻撃により、体力がみるみると削れていく。


 速すぎる。

 目で捉えることができず、映るのは地面を走る雷と、その残像のみ。

 そこにプラスはいない。

 凄まじい連撃が止まることはない。


 これでは憑依できない。

 仮にできたとしても、プラスのオーブをもってして身体が消滅する。

 憑依できる限界値をとうに超えていた。

 

 相手を間違ったことに気づかされた。

 勝ち目はない。

 憑依もできない。

 何もできない。

 ベルルの状況は絶望的だった。


 そしてこの時、奇妙な感覚を覚えた。

 少女の攻撃を受けるたびに、全身が喜びに打ち震える。

 次々と、怒涛に放たれる雷が、痛みから快感へ変わっていく。


 新たな扉が開かれようとしていた。


 姿は全く見えないが、魅入っていた。

 好みに合っていると言うのもあるが、それ以上に強さに惹かれていた。

 ベルルはすでに満足だった。


「がはっ⁉」


 ベルルを後方に飛ばし、一瞬で背後を取る。


 蹴り上げて追撃。


 空中に打ち上げ、さらに叩き落とし、その衝撃で大地が揺れる。

 

 地面に埋まったところに大量のオーブを畳み掛けた。


「ぶばッ⁉ ばばばばッ⁉」


 まるで磔にされたよう。

 全弾を受け、執事の身体が雷光に呑まれた。


 そして、


「──超・雷電分離(レイジングボルト)


 巨大なオーブを作り出した。

 それは天を差し、鋭い光を交わせ、轟音が鳴り響く。


「すげえ……」


 これから自分に向けて放たれるというのに、ベルルは見惚れていた。


 プラスが全力で叩き落した。


「ぎゃあああああ!!!」


 悲痛な叫びと共に、巨大なプラズマに吞まれ消えていく。

 この場所はおろか、近くの森に広がっていく。


 のどかな特訓場が焼け野原へと変貌した。


 プラスは無言で見ていた。


 やがて余波も消え、プスプスと。

 焼け焦げた執事が出てきた。

 大の字で倒れており、一ミリも動いていない。


 プラスはゆっくり近づく。

 踏み出すたびに雷が地面を走る。


「ハア……ハア……」


 プラスが冷たい眼で見下ろした。


 もう感覚とか色々麻痺している。

 ベルルにとってその視線はこれまた最高だった。


「さっさとやれよ」


 抵抗の意思は見せない。


 身体を離れ、赤黒い人型のイービルが現れた。

 主に服従するように頭を垂れ、自身の封印を待つ。


「ふぅ……」


 プラスが雷神電来(ライデン)を解除した。

 上の状態では儀式ができないからだ。


「いくわよ」


 一度息を整える。

 目を閉じて精神を落ち着かせる。


 目を開け、いざ儀式に臨む。


「ふぅー」

 

 まずは壺を地面に置く。


 そして、両手を万歳して、真顔で腰を横に振り始めた。


「ふういん、ふういん、お前をふう──」


「──あっ、いた。こんなところで何してるのさ」


 アッシュが出現。


「アッシュ⁉︎」

「受かったさ! 試験!」

「えっ⁉︎」

 

 鎧なしのカールを見事うち倒し、Bランクに昇格した。

 よほど嬉しいのだろう。

 保護者にいち早く伝えたくて探し回っていた。

 そして、ようやく見つけたところだった。


「なんかバッチもらった!」


 と言って、満面の笑みで見せびらかした。

 教会のお姉さんから貰ったモノだ。

 特に意味はない。


「あなた、こんな時に……」


 が、今はそれどころではない。

 最悪のタイミングでやってきた子どもに、プラスは唖然とした。


「あれ? そこにいるのは……ハリスさん⁉」


 こうなってしまう。

 ズタボロに焼け焦げたハリスがいる。


「あっ……」

「ど、どうしたのさ⁉︎」


 このお姉さんがやったことは一目瞭然だ。

 ついに日頃の鬱憤をぶちまけたか。

 アッシュは執事にかけよる。


「早く教会に連れて行かないと!」 

「ち、違うのよ! ハリスは取り憑かれてて」

「うわっ!? 煙が出てる!」

「いや、これは……」

 

 どう弁明したモノかと、プラスはアタフタする。


「なんだ、アイツ……」


 一方、ベルルは静観していた。

 突然現れた少年に置いて行かれてしまった。 


「チッ」


 やるなら早くやって欲しいのだが。


 試しに少年を透視してみると、


「なッ⁉」


 驚愕した。

 少年の身体からオーブが2つ見えたからだ。

 穏やかな緑のオーブと、どす黒い紫炎のオーブ。

 まるで正反対のオーブが漂っていた。


 あれに憑依したら、一体どうなるのか。


 途端に好奇心が駆られる。

 何が起こるのか、自分でもわからない。


 抗えそうにはなかった。

 先ほどまでは、間抜けな封印術を受け入れていた。

 だが、今は少年に憑依することで頭が支配された。


「悪いな。気が変わっちまった」


 にやりと笑う。


「はっ⁉」

「オラッ!」


 再びハリスに入り、無理やり動かした。


「食らえ!」


 地面の土を握り締め、投げつけた。


 プラスは不意を突かれ、視界が絶たれてしまった。


「ヒャハッ! 今だぜ!」


 そのスキを突き、ベルルが破裂(バースト)でアッシュに迫る。


「えっ⁉」

 

 ハリスが突然元気になり、こちらに向かって来た。

 アッシュも不意を突かれてしまう。


「ヒャッハー!」


 そして、少年の元に辿り着くと、すぐハリスを脱ぎ捨て、


「うぐっ⁉」


 胸をグサッと突き刺した。

 

 全身が真っ黒で目と口だけが異様に白い。

 少し赤みがかっているが間違いない。


 これは、


「イービル⁉」


 アッシュはギョッとした。

 腕が刺さっているのに痛みを全く感じない。

 それどころか、身体によく馴染んでくる。


「ヒャヒャヒャヒャ……」


 ベルルが吸い込まれるように入っていく。


 が、


「ヒャヒャヒャ……ッ⁉ うおおっ⁉」


 様子が変だ。

 本来ならこのまま身体に入るはずだが、様子がおかしい。


「なにさ、これ⁉」


 急に2人が宙に浮き、螺旋状に混ざり始めた。

 渦に高速で飲まれていく。

 まるで溶け合うように。


「うわあああああ!」


 大きく広がり、暗黒の深淵が誕生した。


「アッシュ⁉」


 プラスが目を開けた時には、すでに2人の姿はなかった。

 宙に黒く染まる何かが浮いていて、中を不気味に覗かせるだけだ。


「な、なによ、これ……」


 内部から光線を放射し、辺りは光に包まれた。


「きゃあ⁉」


 その眩しさに再び目を覆う。


 憑依とはこんなに派手な演出なのか。

 これなら街にいた時にわかるはずだ。

 アッシュの時だけ違うのか。

 この尋常じゃないエネルギーは一体なんだ。

 プラスは酷く困惑する。


 やがて光が消えると、もう深淵はない。


 しかし、一人の少年が宙を浮いていた。


「アッシュ?」


 それはアッシュの顔をしている。

 暗い瞳に漆黒の髪色をした、禍々しいオーラを放つ。

 服装は変わっており、黒を基調とした大きなマントを羽織っている。

 

 アッシュではない。


 静寂の中、少年が答える。



「我は魔王。世界を支配し、君臨する者」

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