40.プラス 対 ベルル
ほんの少し前。
プラスは、負傷したマリコを教会に預けて、ベルルの捜索を再開していた。
「どこに行ったのよ!」
話を聞くにベルルは今、ハリスに憑依している。
マリコから乗り移ったようだ。
不愛想な執事を探すも、そんな男は見つからない。
「ん? あれは……」
前からふと、大きな熊が見えた。
ゴーだ。
なぜここにいるかなど、知ったことではない。
だが、ハリスのことを聞くために、仕方なく足を止めた。
「そこのあなた! 止まりなさい! ちょっと、あなたよ!」
「あん?」
ゴーはゆっくり振り返る。
「誰かと思えばプラスじゃねえか。どうした、そんなに急いでよ」
「ひっ、雷神⁉」
横にいたマルトンが怯えた。
昔、プラスと何かあったのか。
すばやくゴーの後ろに身を隠した。
「ちょっと聞きたいことがあるの。ハリスを見なかったかしら?」
「あの変わった執事か? 見てねえが」
「もうっ、相変わらず使えないわね! 早く森に帰りなさい!」
やはり無駄だった。
プラスはまた走り出す。
「どうしたんだアイツ?」
「さあ? えらく急ぎのようで」
棒立ちで見ていた。
──街を駆け回るも、やはりベルルは見つからない。
プラスは焦っていた。
これだけ探していないとなると、すでにこの第一教区を出てしまったのか。
だとしたらかなりまずい。
他の教区はベルルが脱走したことをまだ知らない。
Aランクハンターも不在なため、被害が大きくなることは容易に想像できる。
「あーっ! もうっ!」
どうすればいい。
むしゃくしゃして辺りを見回す。
すると、
「──ヒャッハー!」
変な笑い方の男が登場した。
執事を着た男、ハリスだ。
スタッと降り立ち、おかしなポーズのまま動かない。
「ハリス⁉」
急に向こうからやってきた。
プラスは驚く。
「ヘイ、そこの可愛いお嬢さん! ちょっとオレ様と遊ばない?」
指パッチン。
「ありゃ? おかしいな。最高に決まったはずなんだが」
第一声を外してしまった。
ベルルは気恥ずかしそうに頭をさわる。
「あなたがベルルね」
「なに? オレのこと知ってんの?」
「やっと見つけたわ」
「こっちのセリフなんだが。まさか⁉ これは運め──」
「絶対に許さない!」
声が震える。
大事な親友、マリコを傷つけた本人が目の前にいる。
ハリスの姿をしているが、そんなことは関係ない。
プラスは怒りをあらわにした。
「えっ、なに急に怒ってんの? なんかあった? 良ければ話を聞くよ?」
まだ睨んでいる。
「怒ったところもまた……うおっ⁉」
突然、ベルルは腕がバチッとした。
プラスの拳からオーブが弾け、それが執事服の袖部分を焦がした。
「ふい〜、おっかねえ〜」
なぜこんなにもお怒りなのか、ベルルには分からない。
「ハリスから離れなさい」
「おっと、それは無理」
「なら力づくでやるわ」
「お嬢さんにはちょっと難しいかもな」
この少女とこの肉体はお知り合いのようだ。
ならちょうどいい。
さっさと戦ってボディを頂くだけだ。
と、ベルルが襲い掛かろうとしたが、
「場所を移すわよ」
「ああん? ここでやんねえのかよ」
「いいから来なさい!」
戦闘になると被害は避けられない。
相手の力が分からない以上、ここで戦うのは得策ではない。
それにプラス自身、余計なことは考えたくなかった。
「しょうがねえなあ。オレはなんたって執事だからな。特別だぜ」
お嬢様のご命令に背くワケにはいかない。
よってベルルは承諾した。
「ついて来なさい」
「ヘイ、了解!」
移動した。
──街から出て森を進むと、ひらけた場所に出た。
ここは最初にアッシュが特訓していた場所で、今はゴーによる地獄の修行場だ。
「結構離れたな」
ベルルは不満を漏らす。
辺りは平面で遮蔽物もなく、ゴミ一つ落ちていない。
これではテクニカルな戦術が行えない。
あのまま戦った方が良かった。
お嬢様に従ったことを後悔した。
プラスの方は怒りが限界に達していた。
今すぐにでも相手を消し炭にしたいところ。
ここなら我慢せず、思う存分この怒りをぶつけることができる。
「始めるわよ」
プラスはオーブを出した。
すでに雷を纏っている。
「ああ、早くやろうぜ」
ベルルも構えた
限界なのはこちらも同じだった。
これから始まるのは、自分が何よりも望んだモノ。
決闘だ。
「はあ!」
それが合図のように。
同時に放ったオーブが衝突し、火花を巻き上げた。
互いに破裂で離れ、オーブを連続で撃ちだす。
分離合戦を開始する。
まずは遠距離で様子見と言ったところだ。
両者はオーブで迎撃。
落とし損ねたものは、かわすか弾くかで対処する。
しばらく撃ち合っているが、どちらも攻防にスキがなく、一撃もヒットしない。
遠距離戦においては全く互角のようだ。
「これだよこれ! こう言うのがやりたかったんだよ! オレ様は!」
ベルルは戦いに高揚する。
力を試すことのできる絶好の相手。
待ちに待ったハンターとの戦いに、テンションマックスといった感じだ。
プラスは撃ち合いを中断。
これ以上は無駄と判断し、破裂で巧みに急接近した。
「おっ、いいねえいいねえ! おもしれえ!」
待ってました。
そう言わんばかりにベルルも中断し、同じく破裂で迎え撃つ。
「ヒャハッ! 光撃ォ!」
勢いの乗った両者の拳が衝突した。
2人の立つ地面が唸り、爆音が響き渡る。
ぶつけあったまま、その場に踏み留まり、地面が抉れた。
光撃のパワーも互角のようだ。
「はあああ、最高だぜ……」
その音に、感触に、ベルルはまたも高揚する。
今にも昇天しそうな勢いだ。
両拳をオーブで堅め、至近距離で撃ち合う。
ぶつかるたび、その音が衝撃波となり広がっていく。
近距離戦が始まった。
どちらも光撃で攻撃するため、命中すれば命取りとなる。
しかし、互いに得意な近接戦。
被弾を恐れずガンガン攻める。
ここで遅れを取ることは許されない。
プラスの勢いが上がってきた。
徐々にベルルが後退していく。
しかし、ベルルは喜んでいた。
先ほどの分離合戦で、てっきり遠距離タイプだと思っていた。
だが、この戦いぶりを見るに明らかに近接タイプだ。
同じタイプでここまで自分と張り合えるハンターは珍しい。
その肉体がますます欲しくなる。
ベルルが笑い出す。
すると流れが一変して、プラスが押され始めた。
ベルルは戦闘経験が豊富なため技術がある。
「くっ⁉」
力のぶつけ合いだけならプラスが優位であった。
だが、フェイントを混ぜだすと、途端について来られなくなる。
「オラッ!」
ベルルがオーブを纏い、蹴りあげた。
プラスはギリギリでガードするも、威力を殺せず、地面に打ち付けられた。
すぐさま立ち上がり、再び近接戦。
が、ベルルの巧みな攻撃を前に防戦気味になってしまう。
身体の使い方が分かってきたらしい。
動きのキレが増していた。
勢いにやられ、プラスが徐々に後退する。
「ヒャッハー!」
ふと、ベルルが腰を低くかがむ。
かがんだ体勢のまま、大きく足払いをした。
「なっ⁉」
引っ掛けられたプラスがひょいっと宙に浮く。
「スキだらけだぜ!」
ベルルがそこに渾身の光撃を放つ。
その刹那、空中にいるプラスが、ベルルの顔に向けて破裂を発射。
すばやく後方に回避した。
「うおっ⁉」
間近で破裂の噴射を浴びたため、ベルルの目が塞がった。
「うおおお! オレ様の目があああ!!!」
今だ。
スキだらけの相手に、プラスが雷を溜めて接近する。
先ほどの光撃とは桁違いのオーブ量だ。
「──雷電光撃!」
一瞬、雷のようにピカッと光る。
標的に向けて、全力で撃ち込んだ。
──しかし、当たる寸前、ベルルの目がギラッと開く。
少女の手首を掴み、ギリギリで止めた。
「なっ⁉」
プラスは目を見開く。
雷が行き場を失い、虚しく音が鳴るだけだった。
「ふぅ~、あぶねえ」
雷電光撃は、雷電分離が持つ大量のオーブを拳に乗せて放つ技。
言わば上記の光撃版。
拳に集中している分威力は高いが、通常の光撃より発動時間が遅い。
範囲も狭いため、ここぞという時にしか使えない。
ベルルは一目見ただけで、技の性質を理解し、瞬時に対応した。
光撃タイプの技なら、手首を掴んで止めることも可能。
例えそれが分かっていても、簡単にできる事ではない。
だが、ベルルにはそれができた。
「というワケだ。おしかったな、お嬢さん」
「くっ……」
プラスは手を振りほどき、距離を取る。
ベルルはニヤッと笑う。
──2人は撃ち合っていた。
ベルルの方が経験と技術が勝っており、プラスは苦戦を強いられていた。
決定打こそまだ貰っていない。
だが、ベルルは相手の癖を見ながら戦っているため、それも時間の問題だった。
「うぐっ⁉」
間一髪、プラスはガードするも、ズサーッと後ずさる。
「くっ……」
互いに動きを止めた。
「ハッ! どうやらオレ様の方がちょーっとばかし上のようだな!」
ベルルは笑う。
「諦めて身体くれたらもう許してやっからよ」
この後に大物が控えている。
なるべく綺麗な身体のまま憑依したい。
「嫌よ。あなたに差し出すくらいなら、死んだ方がマシよ」
酷い。
だが断られてしまっては仕方ない。
「そうかよ。じゃ、もうちょうい痛めつけてやっから覚悟しな」
首をゴキッと鳴らし、ピョンピョン跳ねる。
しかし、
「フフッ」
突然、プラスの口元がゆるむ。
「ああん? なに急に笑ってんだ?」
それをベルルは見逃さない。
「あなたこそ、降参するなら今のうちよ」
「なに言ってんだ? オレの方が強えんだぜ?」
「そうね、今はあなたの方が強いわね」
気でも触れたか。
この少女はずっと険しい顔で戦っていた。
ベルルは透視ができるため、相手が本気なことは知っている。
だというのに、なぜ今は不敵に笑っているのか。
プラスは依然として強気だった。
思ったほどではなく安心した。
少し小賢しいところもあるが、ただそれだけ。
これなら全然なんとかなる。
「まだ分からないのかしら? わたしの方が強いって言ってるのよ」
「なめやがって! こうなったら」
突然、プラスが目を閉じ、身体から大量の雷を放電した。
「なッ⁉ コイツ……っ⁉」
この時ベルルは、少女のオーブが変化するのが見えた。
内に秘めたオーブに雷を纏おうとしている。
その波が鋭く、さらに激しくなる。
やがて全てを取り込み、プラスが目を開けた。
その眼光には静かな雷が走る。
「──雷神電来」
雰囲気が変わった。




